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メッセージ  作者: K
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個人面談の一番手は、牧嶋梨花だった。

梨花は、この春、過去世で恭平を殺したというリアルな感情に振り回された。

今世の梨花は、もちろん、この世界で人を殺したことなどない。

けれども、大事な人を殺してしまったという感情の蘇りは、梨花に大きなショックを与えていた。

「先生。」

その梨花のショッキングな前世の記憶は、どんどん薄れていたが、今の人生に少なからず影響を与えていたらしい。

「私、去年、自分が就職しないといけないってなっちゃったとき、成績も悪かったんだけど、すごいショックで、ちょっと、やけくそになってたんだよね。」

恭平は、うなづいた。

梨花の家が経営する店が、経営不振で、自転車操業の状態になったのは、ほぼ1年前の話らしい。

「凛が、私に同情してくれて、6組を希望してくれたのは、凛には、悪かったけど、本当に嬉しかった。凛が、いなかったら、私、もっと、荒れてたと思うもん。」

親友の凛が、梨花に先駆けて、6組を希望し、先生たちの説得を頑としてきかなかったと言う。

「で、春には、あんなこともあったじゃない?」

あんなこととは、梨花の前世の記憶が、一時的に蘇ってきたことだ。

「お騒がせな前世のリカは、目的果たして、成仏しちゃったけど、私には、あの時の気持ちが、少しは、残ってるんだよね。」

「あの時の気持ち?」

「もう、ほとんどの記憶は、忘れちゃったけど、先生殺して、泣いてた時の、あの恐ろしく悲しかった時の気持ち。」

「…。」

梨花は、ちょっと、笑って吐息をついた。

「今まで、就職しなきゃならなくなった自分を、何か、哀れんでたのかな。就職に対しても、就職されられるんだって、前向きになれなかったんだけど、なんか、前世で先生の死体を前にした時の感情は、もう二度と味わいたくないと思ったの。」

俺の死体?

すこし複雑な気持ちで、恭平は、うなづく。

「だからね。私、考えたんだ。今世では、人を救う仕事をしようって。」

梨花の顔は明るかった。

もう、すでに心は、決まっていたのだ。

「私、看護師になる。」

前世で人を殺した記憶を持ち、その後悔を今世までひきずった。

数年もしないうちに、その記憶は全て消えてしまうかもしれないけど、今の梨花に、明らかな痕跡を残したのだ。

「そうか。」

恭平は微笑んだ。

「前世のリカは馬鹿だったけど、今世の梨花は、あんな後悔しないよう、頑張る。」

「おう。働きながら行けるとこ、探そうな。」

「はーい。勉強もしなくちゃね。」

梨花は、にっこり笑ってうなづいた。


面接の二番手は、埜々下祐人だった。

凛からは、最近できた、梨花の彼氏だと聞いている。

埜々下は、凛が、言っていた通り、小柄だが、はきはきした気持ちのいい生徒だった。

「僕は、消防士になりたいと思います。」

はっきりと、自分の意志を告げるその目に好感が持てる。

人を助ける仕事をしたいという梨花の、新たな夢は、この埜々下の影響によるものかもしれなかった。

消防士は、小さい頃からの夢だったと言う。

進学するにしろ、しないにしろ、いずれは、そっちに向かうつもりでいたらしい。

梨花と同じように、家庭の事情で、高校からの就職を決めたようだが、成績は、あまり芳しくない。

「試験があるぞ。」

「はい。死にもの狂いで勉強します。」

「応援する。」

埜々下は、笑って拳を見せた。


そして、三人目。

今日、最後の面談が、榛名渉だった。



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