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メッセージ  作者: K
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2 ぼーっとしてるよね

榊恭平が、教師を務める城南高校は、公立普通科の高等学校だった。

普通科と言っても、とりたてて高いレベルの進学校ではない。

東大に入学できる生徒が、何年かに一人でもいれば、校長が泣いて喜ぶレベルの学校だった。

クラスは学年で6クラス。


1年時では、入学時の成績上位40人が、特別進学クラスに入る。

校内でも、優秀な教師が、学年担任問わず、このクラスに担当される。教師期待のクラスだ。


2年時では、1組の特別進学クラスのほかに、2組以下の上位80人が、理系クラス、文系クラスに分かれて2組と3組に入る。残りの3クラスは成績が片寄らないように、公平に成績で分けられる。


3年時では、クラスは全て成績で分けられる。

1組は、特別進学クラス。2、3組は、国立進学クラス。4、5組は私立進学クラス。


もちろん、きちんと分けられるはずはない。2、3組は、センター試験を重視するクラスになるので、そのクラスに入り切れなかった生徒は、不利なスタートになってしまう。

スタート時の成績が悪く、受験に不利なクラスに編入されてしまった生徒に対しては、朝課外、夕課外の授業で、センター試験や、個別試験等の需要にあわせた補習授業が受けられることになっていた。


そして、新人の恭平が、副担任を任された3年6組は、もうひとつの特別クラス、成績の最下位層と、本人の希望で編入される就職、専門学校、短大志望クラスだった。


毎年、そのクラスには、ベテランの教師が担任となり、新人が副担任として補佐することが多い。

今年も、その例にもれず、50代のベテラン国語教師片桐百合子が、担任となった。

赤ら顔で、瓦のようなと、表現される顔立ちをしているが、鬼のような性格では決してない。

やや太めの、決して美人とは言えない容姿だが、公平で、常識的な性格から、先生たちの信頼は厚い。


今年、教師になったばかりの恭平は、3年の4、5、6組と1年の生物を担当していた。

4、5組は私立進学組と言っても、有名私立を狙うものは、上位3組に編入されているので、学校が、総力をそそぐクラスではない。

教師の配置は、校長の一任でなされ、新人教師には、比較的受験へのプレッシャーの少ないクラスがあてがわれるのだ。


副担任の責任が少ないとはいえ、6組が簡単なクラスではないことは、毎年、ベテランの教師が担任になることでも証明されている。

毎年、教師間で、6組の存在を存続するべきかどうかの議論が、少なからずある。

なぜなら、6組は、いわば、落ちこぼれのクラスだからだ。

2学年までは、まだ見えない、成績の落ちこぼれた子供たちが、自分は、完全な落ちこぼれだと、明確に自覚するのが、この3年6組の名簿に名前を確認した時なのだ。


家庭の都合で、やむなく進学を断念した子供達もいるが、そのほとんどは、中学の時は、そこそこの成績をとっていながら、高校になって授業についていけなくなり、上を目指したくてもできなくなった、そんな複雑な心境を抱えた生徒たちのクラスなのだ。


そんな生徒達は、他のクラスに対する劣等感、落ちこぼれた焦燥感、頑張っても上にいけない諦めがごっちゃになって、勉強意欲どころか、全ての意欲を失ってしまいがちになる。

何をやっても駄目なクラスというレッテルを、回りからも、自分自身にも貼ってしまうのだ

さらに、勉強に向かなくなったエネルギーを、他のことに向けたいと感じはじめるのだが、劣等感が根底にあるので、負のエネルギーにかわりやすい。

それで、毎年、少数だが、何かしらの問題を起こす。

表面化してはいないが、いじめ、自殺、妊娠、暴力行為。

これらは、毎年3年6組で起こりうる懸念材料だ。

その為、6組は、ベテラン教師が、責任をもって担任となる。

教師生活28年、この学校に赴任して9年めの片桐百合子は、適任の人事といえた。


季節は、本格的な夏に入る少し手前。

3年は、部活動から引退し、校長からも、目標を失った子ども達のエネルギーが変な方向に向かわないよう注意してくださいと、直接指摘されたばかりだった。

実際、今日から、ひとりずつ進路指導の個人面談が入る。

進学組とは違い、多岐にわたる6組の進路について、夏休みの三者面談の前の、確認のための個人面談だった。

恭平は、研修目的で、片桐の面談につきあう予定だった。、

新人の恭平の役割は、片桐の傍に座り、片桐が話すこと、片桐の示す資料を一緒に見ることに終始するはずだったのだが。


「先生、相変わらず、ぼーっとしてるよね。」

2階の理科準備室の窓から、ぼんやりと外を見ながら、面談の時間を待っていた恭平に声をかけたのは、6組の生徒、里村凛だった。




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