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メッセージ  作者: K
14/30

14 でたらめです

恭平と片桐は、事故以来、話が途切れていた防衛大学について、話をしようという名目で、榛名渉を進路指導室に呼び出した。

三角巾で、右手を吊った渉は、やはり、少し面倒くさそうに部屋に入ってきて、片桐が勧める椅子に座った。

「確認したいことがあります。」

恭平と片桐は、何度も話し合った。

片桐が、学年主任の島と、階段の事故について、聞きだした時、渉は、岳の言葉をそっくりそのまま肯定した。

ふざけて、岳が渉を押してしまったという。

岳が、渉を突き落とした事実は変わらない。

けれども、動機が問題だった。

岳は、ふざけてだと説明した。

渉は、その岳の言葉を否定しなかっただけなのだ。

校内で見る渉は、恭平が見る限り、ふざけることをするような生徒ではない。

今は、笑うことすら忘れているようなのに。

けれども、毎日、一緒に登下校しているときいた従妹同士の仲だから、そんなこともあるだろうと、言葉通りに解釈してしまったのだ。

渉は、さすがに、従妹の岳には心を開いていて、ふざけることもあるのだと。

教師たちは、皆、思ってしまった。

恭平も、片桐も、全くそれを疑わなかった。

埜々下の言葉を聞くまでは。


「その怪我のことですが…。」

渉は、胡散臭げに、恭平と片桐の二人を見た。

「階段から落ちたのは、二階堂君が、榛名君をふざけて押したということでしたが、本当に、二人はふざけていたのですか?」

片桐は、片桐で、渉の複雑な背景をよく理解していた。

回りくどい言い方をしても、らちがあかないと考えていたのだろう。

渉にほおったのは、いきなりの直球だった。

「どういう意味ですか?」

渉は、強い警戒心をあらわにしたが、片桐は、単刀直入に切り込んだ。

「その時の状況を見ていた生徒がいます。」

「?」

「その生徒は、二階堂君は、ふざけてではなく、貴方を、わざと階段から突き落としたように見えたと言っています。」

渉は、視線を泳がし、不快そうに眉をしかめた。

「誰が、そんなことを言ってるんです?」

「事実は、どうなんですか?」

片桐は、渉の様子を観察しながら、冷静に質問を続けた。

渉は、自分の態度がじっと見られているということに気づいている。

迷っているようではなかった。

適切な言葉を探しているようだったが、やがて、渉からは

「でたらめです。」

恭平が、どこか、想像していた通りの言葉が帰ってきた。

埜々下が、でたらめを言う男じゃないことは、恭平も片桐もよく理解している。

だとしたら、渉が嘘をついていることになる。

何のために?

探るように、じっと見つめる片桐と恭平の視線をとらえても、渉は動じない。

はね返すように強い視線で、二人を見返す。

この強さを見る限り、この渉が、ただ、いじめられている存在には思えない。

恭平だけではない。

誰も、渉が、ただ、いじめを受けるようなタイプだとは思っていない。

では、何故、岳に、好きなようにされて、黙っている?

何故、岳をかばってるんだ?

そして、何故、岳は、渉を傷つける?

渉が、岳をかばうのは、凛が思っているように、居候の身だから、岳や岳と両親と気まずくなることを避けるためなのか?

彼らに遠慮して、岳の暴力に耐えているのか?

それにしては、渉は、岳を嫌っているようには見えない。

そして、岳も渉を憎んでいるようには見えない。

岳の母親は、岳と渉の仲の良さをアピールしていた。

二人の間に、緊張感は、見られない。

それとも、それは、上手く隠された演技なのか?

「私達は、貴方の複雑な事情を知っています。貴方が、私達に心を開いてくれたら、私達は、すぐにでも、行動をうつすつもりです。」

「行動?」

渉は、露骨に迷惑そうな顔をした。

「貴方が言いにくいことを聞く耳を、私達は、持っています。貴方は困ってるんじゃないんですか?」

「僕が?」

渉は、口だけで笑って首を振った。

「僕は、今、困っていません。」

「え?」

寧ろ、驚いたのは、恭平と片桐の方だった。

何で、こいつはこんなことが言えるんだ?

恭平は、渉から、何かを探ろうとするが、渉の目はそれを拒否していた。

渉から、これ以上のことを言わせるのは、不可能だと、恭平も片桐も悟った。

「そうですか?」

「はい。僕達はふざけていただけです。」

恭平と片桐は、顔を見合わせ、仕方なく片桐がこたえる。

「わかりました。」

「じゃ、これで、失礼します。」

渉は、一方的に話を終わらせ、さっさと帰ろうとする。

「榛名、どうして?」

思わず、恭平から出た言葉に、渉は、答えようとせず、目をそらした。

帰ろうとする渉に、片桐が、防衛大学のパンフレットをつかませた。

「榛名君、時間はまだあります。この件についても、もう少し考えてみてください。」

渉は、片桐に押し付けられたパンフレットを暫く見ていたが、やがて、黙って、そのまま受け取り、帰っていった。

恭平が、その後ろ姿を見ながら、

「榛名を、二階堂の家から、出すべきじゃないでしょうか。」

と言うと、

「私もそう思いますが、榛名君自身の意思がないと…。」

片桐が、少し悔しそうに答える。

「そうですね。彼は、何を考えているんでしょうか?」

「わかりません。」

恭平と片桐には、今のとこ、なす術がなかった。



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