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メッセージ  作者: K
13/30

13 聞いたよ

凛が、目の前にいる。

真剣な顔だ。

「梨花から、埜々下の話を聞いたよ。」

まあ、こうなるだろうなと予測はついていた。

「このままでいいわけ?」

凛の目は怒ってる。

理由はわかるが、かなりデリケートな問題だ。

下手に扱うと、誰かが火傷する。

「二階堂の母親の評判も聞いたよ。」

「なんで?」

純粋に驚いた。

何で、母親の評判まで知ってるんだ、こいつは?

「二階堂のママ友の有村の母親から聞いた話を、有村から聞いた。」

有村とは、1組の生徒だが、3年で1組になった成績上昇株で、2年の時は、凛と同じクラスだった女生徒だ。

小学校から柔道をはじめ、女ながらに、渉や岳と同じ柔道場に通い、岳と一緒に、高校まで柔道を続けていた大柄で逞しい有村は、凛に増しておしゃべりな生徒だった。

「二階堂の母親は、やっぱ、榛名のこと、煙たがってたみたいだよ。親戚にいつも、二階堂と比べられてて、勉強でも柔道でも榛名に勝てなかったから、すごく悔しがってたんだって。」

しかも、えらく、辛辣な情報だ。

「おまけに、二階堂の父親は、若い頃、自分が柔道やってたんで、身体はでかいのに、榛名には、一回も勝てないのが悔しかったらしくて、家を建てる時、地下に柔道場つくったらしいわ。一つ上だから、仕方ないのにね。」

「それは、榛名から聞いた。」

「二階堂の母親は、今だったら、榛名は敵じゃないってな言い方してるんだって。榛名は、小学校との時は、全国大会まで行ったらしいんだけど、柔道は、とっくにやめてるし、身体が違うから当たり前じゃんと思うけどね。」

経歴の差、体格差を考えたら、今、対等な柔道ができるとは思えなかった。

本人は、無理につきあったわけじゃないと言っていたが。

居候という、立場のハンデもある。

少なくとも、凛は、それを疑っている。ぷりぷりと頬を膨らませていた。

更に、凛の情報網は、亡くなった榛名の家族についても、聞きこんでいた。

「榛名の親は、成功者なのに、スローライフに憧れてた、ちょっと変わった夫婦だったらしいよ。」

「スローライフ?」

「榛名は、昔から頭が良かったんだけど、私立の小中学には、両親が行かせなかったんだって。受験戦争とかが、いいとは思わない両親だったらしいよ。」

「そういう考えもあるだろうな。」

「でもね、榛名の地区の公立中学は、結構荒れた中学だったから、榛名は、勉強が大変だったらしいよ。」

「大変っていうと?」

「学級崩壊もあったし、父兄もモンスターが多いし、先生のレベルも低すぎる中学だったらしくて、中学の中でもこのあたりじゃ、最低レベルの偏差値だったらしいもん。」

「ふうん。」

「何ていうか、榛名の両親って、地元の人間じゃないせいもあるけど、本人たちは、私立のいい学校に入った純粋培養のお坊ちゃま、お嬢様だったらしくて、ちまたの中学がそんな状態んとこもあるってことを、理解できなかったらしいよ。なもんで、スポーツ以外の塾には行かせなかったし、勉強は、自力で頑張ったらしいね。榛名家の中では、榛名が異端だったみたい。」

「そうか…。」

「インフルエンザも、榛名の家では、予防接種をさせなかったんだって。」

「どうして?」

「注射の弊害のインフルエンザ脳症の方が心配で、インフルエンザは、風邪の一種だから、これで死ぬことはないって、いつも、家族全員受けていなかったんだって。」

「それで…。」

「受験の数日前に、妹が高熱だして、すぐに隔離したんだけど、多分、潜伏期間にうつっちゃったんだね。本命の私立受験当日に、榛名が高熱だしちゃって、ここに入学してきたらしいよ。」

「ああ、そう言ってた…。」

「あいつ、何も言わない奴だけど、叔母さんからは嫉妬されるし、両親からは、理解されてなかったみたいだし、何か…。」

凛が絶句してる。

「可哀想なんだけど、可哀想だとレッテルつけるのが、可哀想。」

「何だ? それは…。」

自然に育てたいという両親の希望は、榛名渉の現実とはマッチしていなかったらしい。

渉の環境は、両親の理想とは、かけ離れていた。

高校に入ってから、家族とぎくしゃくしていたというのは、現実を間のあたりにしてきた渉の自我の表れだったかもしれない。

そして、和解されないまま、事故が起きて、話すこともできなくなった。

いずれにしても、渉にとって、今が、いい環境であるとは思えなかった。

「どうするの?」

凛が、睨む。

岳が、どうして、渉を突き落としたのか、考える必要がある。

激しく体を痛めるほどの柔道を、させられていたとしたら、これも考える必要がある。

そして、渉がどうして何も言わないのか、これも考える必要がある。

「いろいろ、想像はできるが…。」

凛は、大きな目を更に大きくして、恭平を見あげている。

「妄想はするな。」

と、恭平は、釘をさした。

「妄想って、何?」

「どう考えても複雑な事情がある。勝手に話をつくるなよ。」

「二階堂が、榛名をいじめてるんじゃないの? 今まで、ずっと勝てなかった榛名に対して、何でもできる立場だから、調子にのって、榛名を傷つけてるんじゃないの? 榛名は、家族もいないし、居候の立場だから、何も言えないんじゃないの?」

「だから、それを止めろ。」

「やめろって、何?」

「不確実なことを、断定するな。」

凛は、呆れたように目を見開いた。

「先生、それ以外に、考えられないじゃないの? 埜々下は、信頼できる男だよ。」

「わかってる。」

恭平は、軽く凛を睨んだ。

「これは、本当にデリケートな問題なんだ。下手な触り方はできない。それはわかるな?」

うんと、凛はうなづく。

「片桐先生と、相談して…。」

「相談して?」

「…考える。」

凛は、ぷくっと頬を膨らませた。

「階段から突き落とされたんだよ。これ以上のことが起こらないって言える? 骨折ですんだのは幸いかもしれないんだよ。死んじゃったら、どうするの?」

「わかってる。」

ふくれている凛を前に、恭平も、それ以外の理由を考えられないのも確かだった。




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