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真・恋姫†無双 星巴伝  作者: 桜惡夢
三章 紡絆育繋
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二話 若肉共食


元々は意味合いが違ったのだが、人々が使う内に異なった意味で用いられる言葉というのは珍しくはない。

“砂上の楼閣”という諺は、本来は砂の様に不安定な場所に建物を建てても長持ちはしない、という意味で、其処から長続きしない事に対して用いられていた。


だが、砂を盛り、山等を作って遊んだ経験が有るのなら、判るとは思うのだが。

砂は盛っただけでも脆く、崩れ易い。

その為、“一粒の砂が欠け落ちるだけで崩れてしまう”との意味合いが含まれる様に思われる事も有る。


其処まで極端ではないが、間違いという訳でもない。

言葉や諺、比喩表現というのは人によって変わる。

そして、時代や社会を映す鏡だとも言えるだろう。


──と、書き終えた自分の字を見詰める周瑜。

「……私は何が言いたいのだ?」と。

小さく眉間に皺を寄せる。


周瑜が書いていたのは私的な詩や書の類いではない。

だからと言って、創作の類いでもない。

それは周瑜が曹晧に教わった記録(・・)の重要性。

その価値を理解すればこそ、後の世の為に記し、残す。

勝者が綴る御都合主義集(歴史)ではない。

この時代を生きる一人の人としての視点と見解による物。

主観だけではなく、客観性も含めてだ。


だからまあ、こういった表現が混ざってしまう。

……悪い事ではない。

「初見が大事だから、書き直すのは違うからね」と。

曹晧の厳しくも優しい笑顔が脳裏に浮かぶ。

周瑜は深く溜め息を吐き、筆を置いた。


周瑜が書いていたのは、この一年の纏めの様な物。

御二人を失ってからの一年。

何も無かったという事は無い。

ただ……そう、ただ短く纏めるのだとすれば。

まるで、砂が欠け落ちるかの様に変わった。

そう言いたくなるというだけの話。


黄巾の乱の後、腐敗傾向が強かった政治は骨子から改善。

多くの官吏が処断されたが、自業自得。

子供の周瑜から見ても漢王朝は明らかに変わった。

勿論、誰の功績であり、努力なのか。

そんな事は聞くまでもない。


──が、だからこそ周瑜には見えてしまう。

これは単純な改善ではない。

これは備え(・・)なのだと。


曹丕という次代の旗頭の為ではない。

いや、それはそれで勿論、含まれているのだが。


その為だけ(・・・・・)にしては、念入りだからだ。

特に曹晧の後任となった韓浩達が。


客観的に見たなら、曹晧達を失った事。

それを繰り返さない為に、と。

そういう風にも思える。

いや、大多数が、そう思うだろう。

しかし、血と環境、才器に恵まれた稀代の女傑の雛の眼は更に()を見てしまう。



「……この先も世は乱れる、か」



別に何も可笑しな事ではない。

確かに黄巾の乱は歴史を繙いても稀な事だろう。

しかし、規模や要因、或いは目的という意味で見たなら、それは然程珍しいという事でもない。

頻発する事ではないが、特異な事ではない。

そう周瑜は考える。


実際には他に類を見ない様な事なのだが。

周瑜は勿論、孫策や曹丕にも真実は伏せられている。

勿論、孰れは話す事ではあるのだが。

今はまだ知る必要の無い事なのだから。




そんなこんなではあるが、時は流れる。

一年が経ったという事は、曹丕達は一つ歳を重ねた。

子供の一年──年齢という意味でも一歳の違いは大きい。

去年は出来無かった事が出来る様になる。

去年は届かなかった場所に手が届く様になる。

例えば、棚の上の御菓子の入った箱。

以前なら、見ているしか無かった。

椅子を置いても届かなかった。

近くて遠い、遥かな頂きに思えていた。

そんな場所にも手が届く様になる。

身体の成長だけではなく、知恵と経験も重ねている。

……悪知恵の事が多い?

否定はしないわ!



「反省をしろ、馬鹿者!」


「ぎゃいんっ!」



周瑜の容赦の無い拳骨が孫策の頭に落とされる。

正座をしている状態で、登頂部に。

衝撃が綺麗に縦に走り抜ける。

だから、叩かれた頭よりも足首と御尻に痛みが出る。

直接叩かれた訳ではない為、内側に残る鈍痛。

ある意味、芯に響く(・・・・)一撃だった。


そんな二人の様子を見ながら、馬超は苦笑する。

「昔の私も雪蓮(他人)の事は言えなかったが、流石に雪蓮よりは学習はしてたよなぁ……」と。

誰に似たのか、悪知恵ばかり身に付ける孫策に呆れる。


しかし、皮肉な事だが、そんな悪知恵が戦場では生存率を上げるという事を知ってもいる。

勿論、推奨したり、褒めたりは出来無いのだが。

「天性の戦上手、か」と。

曹晧達の孫策への評価を思い出す。

実際、遊びでも勝負事には強い孫策。

……まあ、盤上で駒等を使った遊びでは負けが多いが。

鬼ごっこや隠れんぼ等、身体を動かす遊びには強い。

馬超達でさえ、真面目に遣らないと負けそうになる。

つい、「いや、可笑しいだろ」と言いたくなる。

その位には、だ。

だから、武の鍛練は嬉々として取り組む。

しかし、座学は…………正直、御世辞も言えない有り様だ。

「御前、獅琅の正妻になるんだろ?」と。

思わず、そう言いたくなってしまう位に心配になる。

今のままだと、此処四代の曹家の本家当主夫妻の在り方と立ち位置が逆になってしまう。

「それでいいのか?」と言いたい。

言いたいが──言ったら言ったで開き直るのだろうな、と孫策の事を知っているから、想像も出来てしまう。

「先代達は先代達、私達は私達よ」と。

自分に都合の良い様に言い換える。

間違い無く黄蓋が激怒する言い種だ。

そして、それを胸を張って言い切る強者(バカ)だ。

……心配するのが馬鹿らしくなってきたな。

そう思いながら、馬超は何度目かの溜め息を吐く。




一年という月日が経ち、曹丕達の日常にも変化が有った。

三歳に成った事で夏侯雲と馬岱が加わったのだ。

──とは言え、幼子の一歳の差は大きな違い。

特に曹丕と呂布にとっては、それまでは周りが自分に色々合わせてくれていた事が無くなり、合わせる側に。

勿論、それを不満に思う様な二人ではない。

皆がそうしてくれていた様に。

今度は自分達が夏侯雲と馬岱に返す。

そうして助け合い、受け継ぎ、繋いで行く。


人の、社会の、国の在り方を示す素晴らしい事だ。


──が、それはそれ、これはこれ。

二人──と言うよりも曹丕が夏侯雲達ばかりを気に掛ける状況に苛立ちや不満を覚えるのは仕方が無い。

それが特に顕著なのが韓羽。


曹丕達が見えない所での韓羽の不機嫌さは母親譲り。

表に出る夏侯惇(母親)の方が、まだ気遣うのも楽。

真面目で、でも意地っ張りで頑張り屋だから溜め込む。


しかし、韓浩達も対応に悩む。

まだ子供だからこそ、我慢させる真似は避けたい。

だが、だからと言って……と。

この手の問題は本当に難しいな、と改めて思う。

頭では判っていても、心が伴うのかは別なのだから。

そして、その辺りが自然に出来ていた曹晧の凄さもだ。

今になって如何に自分達が思う儘にさせて貰えていたのかという事を考えさせられる。


……まあ、曹晧の事だ。

きっと、コレさえも折り込み済みなのだろう。

そう思うと、まだまだ背中が遠いと感じる。



「おめでとうございます」


「ああ、有難う、獅琅」



屈託の無い笑顔で祝福する曹丕。

それに代表して(・・・・)答えるのは夏侯淵。

この場には夏侯惇・甘寧・馬超も居る。

そして、曹丕に続き孫策達からも祝福される。


ただ、当の夏侯淵達は言葉数は少ない。

勿論、微笑み、表には微塵も出さないのだが。

嬉しくない訳ではないのだが……胸中は複雑。


夏侯淵達は揃って(・・・)第二子を身籠った。

吉報であり、目出度い事だ。

素直に授かった事は嬉しい。


複雑なのは、曹丕や呂布の事を思って、ではない。

いや、そういう気持ちが全く無いという訳ではないが。

「もう少し我が儘を言ってもいいんだけどな」と。

親に似てか、本人の置かれた状況が故なのか。

それは定かではないが、理解が良過ぎて困る。

もっと感情を露にし、打付けて欲しいと思う。


特に韓浩達にとっては曹丕は長男に等しい存在だから。

息子との(・・・・)打付かり合いには憧れる。

勿論、父親として立ち塞がる壁となるが。


話を戻して──こればかりは仕方が無い事。

気にし過ぎて子を成さない、という訳にはいかない。

夏侯淵達の長子は全て娘だったのだから。

曹丕に嫁ぐ事を考えれば、家の後継ぎは必要不可欠。

つまり、嫡男を産む必要が有る。


だからまあ、その結果なのだから何も可笑しくはない。

寧ろ、当然の結果であり、確かな成果だと言える。


その過程というか、予定(・・)が見事過ぎなければ。


そう。

曹晧が残していた一冊には第二子以降(・・)に関しての記述が。

曹晧の字で、韓浩達の趣味嗜好や反応の分析が。

曹操の字で、夏侯淵達に自身の(・・・)経験に基づいた手練手管の指南と、各々の魅力の活かし方が。

各々の氣に反応する為、他の者には判らないが。

そういう事である事は御互いに判っている。

だから、どうしても恥ずかしさを伴う。


因みに、二人──曹操が示した第二子の最適期は今。

「決めるのは貴女達よ」と。

そう言われている様に思ってはいたのだが。

こうして示し合わせたかの様に重なった。

それ故に、二人の掌の上、という感じが強くなる。






「駄目だ、あまりにも素直過ぎて不安になる……」


「だよなぁ……」



曹丕達の反応を見た後、夏侯淵が頭を抱えた。

それを見ながら、馬超が苦笑。

甘寧も大きく頷く。

……夏侯惇? 今、悪阻で嘔吐(えづ)いている。

そっとして置いてあげて欲しい。



「──とは言え、獅琅に「弟妹が欲しいか?」なんて聞く真似は出来無いしな」


「当然だ……が、抑として言えぬだろう?」


「まあなぁ……」



流石に、そんな無神経な真似が出来る馬鹿は居ない。

人の生死が関わらない事であれば、韓浩達が遣る所だが。

気を遣うとかの以前の問題。

触れる事自体が憚られる。


尤も、それが普通──常識的な思考なのだが。

子供であれば、そこまで思考が及ばないもの。

勿論、年長組の孫策達は兎も角、韓羽達は、だ。


曹丕に気を遣って反応が薄い、というのであれば判る。

だが、四人共に素直に喜んでくれている。

夏侯雲と馬岱に関しては判っているのかは微妙だが。

本人達を見ている限り、判っていないとも思えない。

つまり、理解した上での反応だという事になる。


判るだろうか?

曹丕が無理をしている訳でもない。

孫策達が気を遣っている訳でもない。

韓羽達が理解していない訳でもない。

その上で、自分達の懐妊を喜び、祝福してくれている。


寧ろ、「自分達が考え過ぎなのか?」と。

そんな疑問を懐かせる位に誰一人として曇りが無い。

果たして、こんな事が有るのだろうか?


「いや、こんな風に考える私達が可笑しいのか?」と。

負の思考の迷路に迷い込んでいる様な気になる。



「……はぁ……これも天の采配(・・・・)か?」


「そうなのかもしれませんね」



深い溜め息と共に顔を上げた夏侯淵に甘寧が答える。

あの曹丕達の反応の要因。

それは恐らく、孫権の存在だろう。

そう、夏侯淵達は考えている。


孫策の弟である孫権は曹丕から見れば将来の義弟。

そうでなくとも、生まれた頃から知っている存在。

周りに歳の近い男の子が少ない曹丕にとっては、数少ない同性という事も大きいのだろう。

曹丕の孫権に対する接し方は兄弟その物の様なのだから。

ある意味、孫策よりも孫権との距離感の方が近い。

そう見ていて思えてしまう位なのだから。


孫権が生まれている事。

それが、曹丕にとっても、他にとっても良い形に思える。

歪な繋がり方をしそうな所に、孫権という楔が入る。

それによって、安定している、と。

そういう見方をする事も出来るのだから。


──が、流石に孫権の事には曹晧達は絡んではいない。

ただ、孫権が生まれている切っ掛けは曹晧達だ。

その事を甘寧だけは目の当たりにしている。


偶然だと言えば偶然だろう。

しかし、必然だったと言えば必然に思える。


曹晧達の旅は、それだけ多くを結んでいる。

他でもない、夏侯淵自身もそうであり、子供達もだ。

あの旅の先に、現在(いま)が在るのだから。



「……まだ出来たばかっで言うのも変なんだけどな

この子達って絶対に息子な気がするんだよな」


「……心配するな翠、それは私も同じだ」


「私もです」


「だよなぁ~」



そう言って、揃って苦笑する。

しかし、不思議なもので先程までの雰囲気が変わった。


「そんなもの、成る様にしかならないわよ」と。

曹操の呆れている様な声が聞こえた気がした。


悩む事が、考える事が悪い訳ではない。

ただ、それだけに囚われたり、見えなくなると危ない。

そういう時には視点を変えよう。


空を見上げるのもいいし、海を眺めてもいい。

森に入り木々に包まれたり、山に登り麓や遠くを見たり、草原や平野を馬と駆けてみるのもいい。

悩み迷う中では、思考的な視点を変えるのは難しい。

だから、物理的な──肉体的な意味で視点を変える。

それによって、狭まっていた思考が広がる。

“気分転換”というのは、その為の方法なのだから。






「──ちょっ!? それ私が育ててた奴よっ!」


此処は戦場(早い者勝ち)なのだろう?」


「──ぅぐっ……」



網の上の食べ頃になった肉を目の前で拐われ、憤る孫策。

だが、先程、周瑜の肉を自分が奪い、そう宣った。

それを遣り返されたのだから何も言えない。

しかも、自分の箸が届く範囲に周瑜の肉は無い。

見事なまでの鶴翼陣に野菜が並んでいる。

別に野菜嫌いという訳ではない。

しかし、今は肉が食べたい。

肉が主役の気分だ。


──が、だからと言って移動は出来無い。

子供達は動き回ると騒ぐだろうから、と。

火の有る所では予め自分達に席が割り振られている。

その為、孫策も勝手には移動が出来無い。

年長者であり、曹丕の婚約者でもあるのだから。

身内しかない場でも示さなくてはならない。


──等と考えて自分自身を誤魔化す孫策。

周瑜の「自業自得だ、馬鹿者め」と言わんばかりの冷たい視線には気付かない振りをする。

だが、視線の先に有る自分の皿の肉は無くなっている。

野菜は嫌いではない。

野菜も美味しい。

だけど、今は肉がぁぁぁぁ……



「雪蓮ちゃん、はい、あ~ん」


「獅琅ーっ、愛してるわーっ!」



そんな悲しそうな孫策を見て、向かいに座っている曹丕が自分の肉を箸で掴んで差し出す。

行儀の悪い行為。

だが、孫策達は知っている。

夫婦や恋人の男女が食べさせ合う神聖な行為。

“はい、あ~ん”は最高に美味しい食べ方なのだと。


曹丕の箸をしっかりと唇で挟み、拭う様に食み取る。

同じ肉、同じ味付けの筈なのに自分で食べた時よりも甘く深みを感じるのだから不思議だ。

何より、幸せ過ぎて浸ってしまう。


そんな孫策の姿に苛っとするのが周瑜。

婚約者という立場だから可笑しくはないが……腹が立つ。

生焼けの玉葱か人参を口に押し込んで遣りたい。


──と思っていた視界の端に影が差す。



「冥琳ちゃんも、はい、あ~ん」



空気を読める曹丕に隙は無い。

ちゃんと、一回自分が食べてから、周瑜へ。

曹晧()から、そうしなさいと教わっている。

「それが一番、味が丸くなるから」と。

その言葉を信じて疑いはしない。


周瑜は驚きながらも──考えるより先に食べる。

孫策に横取りされては堪らないからだ。

そして、周瑜もまた味の違いに浸る。


曹丕に隙は無い。

韓羽に曹忠、呂布に楽進、夏侯雲と馬岱にも忘れずに。



「……玲生の奴、何を教えてんだか……」


夫婦(・・)円満の秘訣じゃない?」


「それなら、アレ(・・)をさせない方が楽だろ?」


アレ(・・)を雪蓮達が知る事が無ければな」


「知ってしまえば催促されますからね……」


「あー……そう考えると、ああいう遣り方を教えてた方が面倒な事は避けられるか……」



チラッと隣の別卓を囲む夏侯惇達を見ながら納得する。

曹晧と曹操が遣っているのを見て、妻達が憧れた。

その結果、交際中は旅の最中という事も有って隠していた訳だが、結婚してしまえば我慢などしない。

そして、愛妻に強請られては拒む事も断る事も不可能。

韓浩が曹晧に「何で平然と出来るんだよ……」と。

憔悴した顔で訊いたのは男達にとっては懐かしい話だ。


今でこそ、ある程度の耐性は出来たが……

正直な気持ちを言えば、出来れば避けたい。

妻が喜ぶから夫としては否は無いのだが。


ただ、曹晧にしろ、自分達にしろ、一対一の話だ。

それに比べて、曹丕は一対八。

同じ男としては尊敬すら覚える。


まあ、それも曹晧の教えが有っての事だが。

「何だかんだ言ってても、気にはしてたんだな」と。

自主性尊重型放任主義ではなかったんだなと思う。

「教えたとしても、結局は本人次第だけどね」と。

否定も肯定もしない曹晧の声が聞こえる気がする。


「まあ、そうなんだけどな……」と。

曹丕達を見て、静かに空を仰ぐ。


曹丕や自分達に限った事ではない。

誰かが、誰かに、何かを教えたとしても。

それが身に付くか、それを活かせるかは本人次第。

真面目・不真面目、向き・不向きという事ではない。

その意識が有るか無いか。

たったそれだけの違いであり、大きな差である。



「……教える・教わるは姿勢から、か……」



昔、曹晧が言っていた言葉。

それは身嗜みや礼儀作法といった事を指す訳ではない。

勿論、きちんとしている方が良いのだが。

それが全てではない。

寧ろ、其処を気にし過ぎて本懐を見失っては無意味。

形にばかり拘ると、そういう事に為り易い。

大切なのは、心構えであり、意欲(・・)

それが無ければ、教える事も、教わる事も時間の無駄。

遣らない方が御互いの為だと言える。


その事を曹操も理解していたから、一緒に旅をしていた頃から口煩くは言わなかった。

甘寧が加わってからは自然と韓浩達も意識していた為だ。

それ以前は……まあ、余裕も無かった。

甘寧が加わった辺りで漸く余裕が出来た。

曹晧の鍛練も曹操の座学も厳しいものだったのだから。



「…………今考えると、よく付いて行ってたよな~」


「玲生様は匙加減(・・・)が上手かったからな」


「遣る気を失わず、寧ろ、遣る気にさせる

その見極めが滅茶苦茶巧みだったからね……

此方の性格とか、「前から知ってたのっ!?」って思う位に的確に見抜いてたしね」


見る眼(・・・)という意味では華琳様でも及ばないしな」


「まあ、その玲生様を見初めた眼は確かなんだけどね」


「鉄板の惚気ネタですね」



その手の話題になると必ず曹操が言っていた事。

負けず嫌いな性格と、胸を張って堂々と惚気る胆力。

夏侯惇達も憧れながらも、その境地には到れていない。

まだ恥ずかしさが邪魔をするから。



「寧ろ、最初の頃の華琳は容赦の無い全力主義だったな」


「義兄さんは例の試験(・・)を受けたんでしたっけ?」


「受けた──と言うか、俺が玲生を誘ったからな

その縁も含めて今に繋がってるって思うと不思議なもんだ

あの当時は今の自分の姿なんて想像も出来無かったしな」


「あの試験も今では逸話になってるもんなぁ……」


「因みに、玲生様以外の筆記の合格者は、あれから程無く落ちぶれて死んだらしいがな」


「え? マジで?」


消された(・・・・)んじゃなくて?」


「そうする価値(・・)が有ると思うか?」


「「いいや、全く、これっぽちも」」


「──という事だ」



準備していたかの様に声を揃えた韓浩と馬洪の反応に少々呆れながらも曹仁は話を終わらせる。


だが、そう遠い昔の事ではないのに。

懐かしく思う程には、自分達も変わったのだと思う。


それでも、共にした時が長く、深く、濃いのなら。

思い出話をしているだけでも鮮明に甦る。

今は夫婦となり、親となり、立場も出来たが。

こうして容易く当時の自分達に戻れるのだから。


出逢い、紡ぎ、結い、育み、繋がっている。

過去から現在へ、現在から未来へ。

自分達も繋いでいかなくてはならない。

そう思いながら、曹仁は手にした酒杯の残りを飲み干す。

まだまだ過去を懐かしむには早過ぎるのだから。



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