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真・恋姫†無双 星巴伝  作者: 桜惡夢
二章  天命継志
21/38

序話 厭離穢土


世に溢れている詩や物語等は、時代を反映している事が多く、それを読み解けば当時の事が判る。

人が想像し、創作する物であるからこそ。

其処には確かに人の思考が介在し、刻まれている。

歴史学者が書物を繙き研究するのは、その為。

その時代の空気が、世相が、息遣いが。

宿っているのだから。


ただ、時の権力者達は都合の悪い事実を捩曲げて、改竄し、隠蔽し、真実を闇へと葬り去る。

その為に、後世で研究しても事実へと辿り着けない歴史の出来事というのは少なくはない。

そして、一度闇に葬り去られた真実は失われたまま知られる事は殆んど無いに等しい。


時代を築くのは権力者である。

だが、歴史を破壊するのも権力者だろう。



「ほぉ~らぁ、これが最近評判の“杵屋”の新作の御菓子ですよぉ~、美味しそうですねぇ~」


「じぃ~じぃ、ちょぉ~だぁぃ」


「うんっ、良いともっ!」


「………はぁ~……これが現実よね…」


「甘やかしまくってるね、義父上」



初孫である曹操が産んだ長子・長男の“曹丕”。

その孫が可愛過ぎて顔が若気っ放しの曹嵩は今日も孫の気を引き、喜ばせる為に頑張っている。

朝一で出掛け、確実に手に入れる為に件の甘味処の開店前から店先に並び、購入している。

曹家の権威・権力を使えば簡単に手に入れられる。

だが、それを遣れば愛する劉懿()は勿論として。

曹操(愛娘)からも批難され、孫へ接近禁止を言い渡されてしまう可能性が高い。

その為、自らが並び、自腹で購入している。

勿論、妻や娘夫婦への分も忘れずにだ。


そんな曹嵩(祖父)に上手く強請る曹丕(息子)の強かさ。


その二人の様子を見ながら曹操は溜め息を吐く。

ただ、その一方では「あれ位に強かに私も甘えたり出来ていればね…」とも思う。

勿論、今は曹晧()という甘える相手が居る。

それで十分だし、他に望みはしないのだが。

幼少期の自身の不器用さや無愛想さ等を考えると、我が子の強かさが逞しく、素直に見えてしまう。


また曹晧も曹操同様に感じる部分は有る。

違うとすれば「母さんの血だろうな~…」と。

我が子の強かさに亡き田静()を見る事だろう。

だから、ついつい苦笑してしまう。


──とは言え、曹操も曹晧も二人の様子を見ても、嫌な気持ちになったり、不満を懐きもしない。

曹嵩という人物が如何に家族愛に溢れているか。

それを知っているのだから。


まだ二年と経っていないのだが。

振り返ると随分と昔の様に思える。

曹操が曹丕を出産した日。


落ち着いてから愛娘と初孫の顔を見た曹嵩が笑顔で曹晧に「有難う」と言いながら号泣した事。

其処に込められているのは言葉に出来無い感情で。

彼自身が抱えていた様々な想いが故だった。


それを一部とは言え理解している曹操達(娘夫婦)

一緒に居た劉懿の眼にも涙が浮かんでいた事も有り我が子の誕生が如何に大きな意味を持つのか。

それを改めて理解させたられた瞬間だった。

勿論、それを口にする程、素直ではないが。


ただ、祖父と孫の様子を見ながら。

「平和な一時だ」と二人は思う。

そんな沛に有る曹家の屋敷、その一室での光景を。



「ふむ、相変わらずの様じゃな、准也は」


「そう言う曾祖父様の御持ちの物は?」


「土産じゃよ」



部屋に顔を覗かせたのは曹騰。

今では完全に表舞台からは隠居している身である。

──とは言え、その発言力・影響力は健在。

息子達・孫達に後を任せながらも、今も尚、裏から睨みを利かせている事は言うまでも無い。


そんな曹騰なのだが、家族としては大祖父。

曹嵩の様子に「やれやれ…」という態度をしながら自身は平然と曾孫達へと御土産を手渡す曹騰。

何だかんだで、子煩悩なのは血筋だと言える。


曹操達も慣れてはいるので追及はしない。

曹騰から受け取った御土産に罪は無いのだから。

後で美味しく頂くだけなのだから。



「それで兌州の方は如何でしたか?」


「ふぅ…正直に言って芳しくはないのぉ…」


「それはつまり、収穫時(・・・)な訳ですね?」


「……まあ、有り体に言えばのぉ」



自分の言葉で直ぐに状況を正しく(・・)把握する曹操(曾孫)

浮かべる不敵な笑みに亡き妻の面影が重なる曹騰。

「血は争えんのぉ…」と胸中で苦笑する。

そんな曾孫()に負けず劣らず平然とする曹晧。

元より心配などしてはいないが。

ある意味、判り易い曹操よりも懐く畏怖は強い。

勿論、信頼している事には間違い無いのだが。

「客観的に見たなら…」というだけの話。


その曹操は曹晧と顔を見合せ、頷き合う。

彼是言わずとも、その意思は通じ合う。



「──ぁ、おじぃ~じぃ」


「お~、元気にしとったか、丕よぉ」



曹嵩に抱き抱えられている曹丕が曹騰に気付いて、手を振れば曹騰は誘われる様に歩み寄る。

その表情を表すには、好好爺の一言で十分。

曹嵩ではないが、基本的に子供好きな曹騰。

単に曹操達が特殊なだけで、本当は構いたかったし甘やかしたかったのだが。

その分、曹丕には甘々だったりする。

だから、曹嵩の事は言えないのだが。


曹操達も余計な事を言って水を差す真似はしない。

それで機嫌を損ねられても面倒臭いだけだから。


曹嵩と曹騰に曹丕を任せ、曹操達は部屋を出る。

二手に分かれると寄り道する事も無く、目的の所を回り、必要な者を拾ってから合流する。

「何事だ?」と思っていた者達も集う面子を見れば何と無く「あー…」と予想が出来てしまう。

それだけ曹操達とは深い信頼関係に有る。


日々の鍛練で使用している裏庭に揃ったのは韓浩・夏侯惇・夏侯丹・夏侯淵・曹仁・甘寧・馬洪・馬超という曹操達の腹心と呼べる面々。

それ以上に実際には強い繋がりが有るのだが。

それは関係無いので割愛。

適当に岩に腰掛けたり、柱等に寄り掛かったりして自然に曹操達に注目する形で円陣を作る。


そんな面々の聞く姿勢が出来た所で、曹操が一歩、前へと出てから口を開く。



「先程、曾祖父様が御戻りに為られたわ

曾祖父様の言葉で今が好機だと私達は判断するわ」


「──っ、つまり、いよいよ動くって訳か…」


「ええ、その通りよ

曹家による新たな王朝(・・・・・)への第一歩

先ずは、兌州を獲りに行くわよ」



不敵に笑む曹操の言葉に、話を聞いていた馬超達の表情には驚きは見えない。

当然と言えば当然だが、此の場に居る面子は非常に親い立場に有る訳で。

文字通り、曹操達を支え、共に歩む友臣(・・)である。

既に、その未来図(展望)は聞かされている。

そして、その為の準備は二年以上前から始まる。

そう、あの旅も、その為の一環に過ぎない。

それを知り、覚悟し、望むからこそ。

二人と共に歩むと決めた時から。

目指す未来は一つだけ。


だから、馬超や夏侯惇は自然と口角を浮かべる。

自らの未熟さと非力さを痛感し。

憂う事しか出来無い、もどかしさに懊悩し。

それ故に、目指す未来が定まったのだから。

それを、漸く始められる(・・・・・)のだ。

高揚しない訳が無かった。


そんな二人──否、曹操を含めた三人の様子に他の面々は小さく苦笑を浮かべる。

だが、勿論、気持ちとしては同じだ。

間違っている世の中を、暗愚な施政者・権力者を。

正す事が出来るのだから。

遣り甲斐(・・・・)が無い訳が無かった。



「華琳様、兌州には何時攻め込みますか?、先陣は私達(・・)に御任せ頂けますか?」


「落ち着けって春蘭──って、私達って俺もか?!」


「当然だろう!、華琳様と玲生様、その先鋒を私達夫婦の他の誰が担うと言うんだ!」



以前は赤面していただろう、台詞だが。

夏侯惇は躊躇無く堂々と胸を張って口にする。

その姿は客観的に見ても様に為っている。

…まあ、私的な場では揶揄われて赤面していたり、女同士で話す時や韓浩との営みでは未だに初だが。

それは今は関係無い事だろう。


一方、夏侯惇()の発言に驚いている韓浩だが。

決して、それが嫌な訳ではない。

寧ろ、自分達の立場という物は理解している。

夏侯惇の言う通り、それは自分達の役目だ、と。

ただ、だからこそ猪突猛進な妻を宥める意味でも、こうして一旦は慎重論を出さなくては為らない。

その必要性と加減(・・)を学んでいる。

決して、義母から丸投げされた訳ではない。



「いやまあ、それはそうなんだけどな…

まだ攻め込むとは言ってないだろ?」


「それは────むぅ~…確かに、そうだな」



韓浩()の一言で素直に引き下がる夏侯惇。

だが、それは可笑しな事ではない。

元々、曹操や曹晧に対して忠実だった様に。

彼女は本質的に“尽くす女”である。

ただ、その相手を決める基準に保身や野心が絡まず純粋に彼女自身が「此の人に私は尽くす」と決める以外には要素を持たないだけ。

だから、曹家の他の面々に対しては敬意は有れど、忠実に従う気は無いとも言える。

勿論、状況に因っては指示等には従うが。

優先順位は低い、というだけ。


その点、最愛の夫には意外と従順。

普段は相変わらずの口喧嘩も多いが、それはそれで二人の睦み合いの一環の様なもの。

御互いに引き摺る事は無いし言い過ぎれば謝る。

変に我慢しない事が夫婦関係を深め、良くする。

皆が皆、そういう訳ではないのだが。

二人の場合には、そういう形が良いのは確か。

その為、今では夏侯惇の手綱は韓浩が握る。

曹操も夏侯淵も一安心、という訳だ。

…尤も、韓浩の苦労が無いとは言わないが。

韓浩にしても最愛の妻の事である。

受け入れられない理由の方が見当たらない位だ。


──と、夏侯惇が落ち着いた所で曹操が咳払い。

韓浩に任せてはいても放って置くと口喧嘩に発展し話の進行を邪魔される事も珍しくはない。

雑談している時なら放置して眺めるのだが。

今は大事な話の途中なので意識を向けさせる。

これは夏侯惇だけでなく、韓浩に対してもだ。



「兌州を獲りに行くとは言っても武力に物を言わせ侵略する様な真似は蛮行でしかないわ

そんな者が新たに治めても民は信頼しない…

──では、どうするのか?

答えは単純よ、今の州牧達が如何に無能で害悪かを民に理解させ、その悪事と怠慢を曝すのよ

そう遣って無駄な血を流す事無く、兌州を手にする

それが私達の遣り方よ」


「はい!、その通りです!」



曹操の言葉に疑心の欠片も無く賛同する夏侯惇。

「いや、さっきの発言を忘れたの?」と思う一同。

勿論、口にはしないし「春蘭だもんなぁ…」と。

慣れ親しんだ展開に大きな反応はしない。


──とは言え、まだ全員が十代である。

空気感としては悪巫山戯、悪乗りしている年頃。

そういった一面は当然ながら曹操や曹晧にも有り、この面子が相手の時だけに見せる表情。

それだけに周囲も曹操達だけの時間を尊重する。



「方針は判ったけどさ、具体的にはどうするんだ?

流石に幽州の時みたいな事は無理だろ?」


「遣ろうと思えば出来無い事は無いわよ

ただ、幽州と兌州とでは状況も違うから、全く同じ様には出来無いし、遣っても意味が無いわね」


「それじゃあ………やっぱり、攻め込むのか?」


「翠、それでは姉者と同じだぞ…」


「そうです、華琳様が否定されたばかりですよ」


「ぐっ…わ、判ってるって、冗談だよ!、冗談!」


「いや、翠だから本気だよな」


「うん、本気だね」


「ふふん、やはり翠だな」


「いや、お前もだろ春蘭!」



──と、少し気を抜けば瞬く間に話は脱線。

夏侯淵・甘寧の言葉に続き韓浩・馬洪からも言われ夏侯惇の一言で馬超が反論。

曹仁や夏侯丹も巻き込み一気に騒がしくなる状況に曹操は静かに溜め息を吐く。

しかし、その空気を嫌だとは思わないから困る。


そんな曹操と視線が合えば小さく苦笑する曹晧。

「まあ、少し息抜きしようか?」と言外に提案。

無理矢理引き締めず、落ち着くのを待つ様に。

それは単純に周りの為だけでなく、曹操自身が少し肩の力を抜き落ち着く為の時間作りでもある。

勿論、本人には悟らせない様に然り気無く。




話し合いが終われば、後は和気藹々と。

子供達を交えた団欒風景へと変わる。



「ひーくん♪」


「あ、おねえちゃん」



曹丕を見ると駆け寄り、抱き付いたのは“曹忠”。

曹仁と甘寧の長子長女で母親似の紫の髪が特徴。

また生真面目で堅物な印象の強い両親とは対象的に温厚で明るく柔らかい雰囲気をしている。

血縁者で見れば、父方の祖母となる黄倫似である。

それは雰囲気だけではなく、本質的にも、で。

然り気無く曹丕の視界を塞ぎながら、出遅れている韓羽を見て挑発する様に微笑む。


同い年の韓羽とは仲が良く、実の姉妹の様である。

一つ違いの曹丕とも実の姉弟の様に仲が良い。

しかし、如何に幼くても女は女、という事だ。


真面目で聡く空気の読める良い子な韓羽。

だが、両親に似て負けず嫌いな一面も有る。

そんな韓羽にとって曹丕は弟の様であり、将来的な自身の主君であり──密かな想い人。

それを奪おうとする曹忠は恋敵でしかない。

勿論、普段は仲が良いのだが。

それはそれ、これはこれ。

まだ幼かろうが、譲れないものは譲れない。

故に、二人の様子に韓羽の機嫌が一気に悪くなる。

ただ、それを曹丕に気取られる様な事は無い。

その辺りの二面性も幼くとも女なのだと言える。

…まあ、女性に限った話ではないのだが。


そんな“女の闘い”を遣っている娘達を見ながら、父親である曹仁と韓浩は苦笑。

二人共に子煩悩ではあるが、親馬鹿ではない。

結婚に際し、色々有ったが故に。

「まだ御前達には早い」みたいな事は言わない。

寧ろ、「丕が二人共貰ってくれたらなぁ…」と。

その辺りは前向きだったりする。

──とは言え、それは自分の娘だけでなく、親友の娘にも幸せに成って貰いたいからで。

一番、丸く収まる方法が、それだというだけの事。


何だかんだで男の度量次第だと言えるが。

それは、ある意味では自分達の経験則から。


尚、曹丕の結婚に関しては曹操も曹晧も全て本人の意志に委ねる方針であり、強いる気は無い。

自分達が恋愛結婚なのだから。

我が子に政略結婚をさせる真似はしない。

ただ、結婚の世話をする気も無いが。

その必要が無い様に育てるので問題は無い。



「それにしても…本当に“雲”は大人しい娘ね」


「はい、羽や忠を見ているだけに心配に為りますが特に問題は無いそうなので安心しています」



そう話す曹操の腕に抱かれているのは寝息を立てて眠っている夏侯丹と夏侯淵の長子長女の夏侯雲。

母親似の髪の色、父親似の瞳の色が特徴。

曹操達の子供達の中では一番よく眠っている娘だ。

どの子も曹操達に抱かれて、グズる事は少ない。

勿論、理由が有る時には別だが。

基本的に不安から泣いたりする事は少ない。

全く無い訳ではないが、その辺りは仕方が無い事。

曹操達自身も新米親であり、未熟なのだから。


それでも、一般的な同年代の男女と比較をすれば、しっかりしていると評価される。

そうなる様に曹操達に指導されているのだが。

曹操達も含め、家族や周囲から学ぶ事は多い。

それに気付くのか、受け入れられるのか。

その違いが成長の差として出ているというだけ。

故に、曹操達に特別な事をしている意識は無い。


ただ、その当たり前が出来無いのが大多数の人々。

その為、出来る方が特別視されるのだが。

事実としては、出来無い方が可笑しいと言える。

それを曹操達が他者に強要したりはしないが。

彼女達の在り方に影響され、変わる人々も居る。

そういう意味では彼女達は特別だと言えるだろう。



「夜泣きにも個人差が有るからね

一般的な頻度で見れば丕も少ない方だったし

夜泣きが少ないから問題が有る訳じゃないよ

勿論、多いからって訳でもないしね

寧ろ、気に為ったら相談する事が重要だから」


「そうだよな~…宅の“岱”は夜泣きが多いから、それはそれで心配したもんな…

雲や同い年の子供と比べても小っさいしさ」



そう話しながら馬超が腕に抱く我が子を見る。

馬洪との間に出来た長子長女の馬岱。

母親似の髪と瞳の色をした少し小柄な愛娘。

初めての子供という事も有り、心配は尽きない。

ただ、曹晧という信頼している人物が居る御陰で、馬超達の不安や心配は大きく軽減・緩和されている事実が有る事も確かだったりする。

そういう意味でも然り気無く影響力は大きい。


その馬岱は曹操達の長子の中では一番最後になる。

韓羽・曹忠・曹丕・夏侯雲・馬岱と産まれ。

曹丕を中心に見れば、韓羽と曹忠が一つ上であり、夏侯雲と馬岱が一つ下になる。

五人の中では最年少では有るが苦労人確定。

ただ、その意識は本人には無い。

二つ違いの叔父が居る事も知らないのだから。

馬超達にしても気にしない様にしている。

その方が気が楽だからだ。


そんな馬超()に見詰められた馬岱。

「………え?」という感じで円らな眼を瞬かせて、静かに見詰め返している。

──と言うか、年頃なら「ちょっと、御母さん!、そういう事言うかなっ?!」と怒る所だろう。

その辺りの配慮の足りなさは変わっていない。

成長していそうで、していないのが馬超らしさ。

娘からしたら「其処は成長しようよ!」なのだが。

まあ、まだ其処までの思考力は無い為、判らない。

それが幸せなのか、不幸なのか。

それは孰れ、時が経てば判る事だろう。



「今は小柄でも将来は判らないしね

其処まで心配しなくても大丈夫だよ」


「そうか?…けど、小っこいままなのは………」


「何かしら、翠?、言いたい事が有るなら遠慮する必要は無いわよ?、ほら、言いなさい」


「あ、いや、別に………な、なぁ、翔馬?」


「──俺?!、えっ?!、ちょっ、いきなり……っ…」


「何が言いたいのかしら?」



馬岱の話をしていた筈が、ついつい自分達の中では一番小柄な曹操を見てしまった馬超。

普段は気にしない振りをしてはいるが、身長の事は唯一曹操が気にしている問題。

…胸の大きさ?、そんな物は曹晧の愛が有るので。

気に為らない程度まで、十分に育っています。

勿論、現在も成長中です。

しかし、その一方で身長の伸びは今一。

曹晧とは差が開くばかり。

勿論、それが夫婦仲に影響したりはしませんが。

曹操も女の子であり、年頃の女性な訳で。

二人で並んだ時の見栄え(・・・)を気にする訳です。

要は、妻としての自尊心──否、沽券だろう。


それを知っていながらも、つい遣らかした馬超。

助けを求めた馬洪()を巻き込み焦る。

逃げたい所だが、曹操を相手に口で勝てるとは全く思ってはいないから、八方塞がり。

二人は確実に追い詰められている。


尚、馬岱は曹操()の予兆を察した曹晧により、馬超が気付くよりも早く奪取され、避難。

親の罪は親が背負うべき物であり、子に罪を背負う義務や償う必要性は無い。

──という訳で、曹晧が責任を持って確保した。

「それなら華琳を宥めてくれよっ!」と。

馬超は叫びたいだろう。

だが、曹晧は愛妻家であり、自己責任には厳しい。

つまり、「自分で蒔いた種でしょ?」と。

曹晧は馬超を突き放す。

「だったら俺だけでもっ!」と言いたい馬洪だが、曹晧は「夫婦は運命共同体だからね」と。

笑顔で最後の綱を断ち切ってしまう。

要するに、「頑張ってね」という事だ。


そんな曹操達は放置し、一同は談笑を続ける。

態々関係の無い業火に飛び込む馬鹿は居ない。

夏侯惇ですら、空気を読んで近付かないのだから。



「もう雲は這い這いはしてるんだっけ?」


「はい、動いている時間は短いですが、這い這いを始めてから今日で二週間程に為ります」


「おーっ、羽も早かったが、私達に似たか!」


「いや、それは関係無いだろ?」


「そんな事は無いだろう?

私と秋蘭は姉妹、それも双子の姉妹だ!

少なくとも他の姉妹よりは子供達も似る筈だ!

そうですよね?!、玲生様っ?!」


「んー…まあ、双子の子供達が似る可能性としては無いとは言わないけど、珍しい事だとは思うよ?

何だかんだで両方の父親の方にも血縁関係が有るか否かが大きな要因になるからね

勿論、片親が双子だと似易いとは思うけどね」


「ほら見ろ!、玲生様も言っただろう!」


「ただね、春蘭と秋蘭も双子なんだけど、双子って言っても髪や瞳の色も全く一緒って訳じゃないから子供達が似る可能性は、そっくりな双子よりは似る可能性は低くなると思うよ」


「だってさ」


「むぅっ…」


「そう拗ねるな、姉者

私達と同じではないが、同じ位に仲が良く、互いに信頼し合う関係には為れるだろう」


「そうか、そうだな!、うむ!」



今は変な所で親馬鹿な夏侯惇だが、以前に比べれば随分と丸く為っていると言える。

まあ、韓浩を相手にしている所は別だが。

それは夏侯惇の信頼(甘え)でもあるので無問題。


そんな夏侯惇の扱い方が、離れた事、結婚した事、子供が出来た事で向上している夏侯淵。

以前とは違い機嫌を取る様な遣り方はしない。

話の方向性を上手く逸らしつつ、納得させる。

そういう遣り方を然り気無く出来る様に為った。



「羽と忠は同い年で仲良しですし、もう少しすれば雲と岱も一緒に遊ぶ様に為りますね」


「そして、同じ様に丕を巡る様になる訳だな」


「…………春蘭、譲りはしませんよ?」


「それは此方等の台詞だ、思春」



場を和ませ様とした甘寧。

其処に要らぬ一言を放り込んだ韓浩。

すると、母親の顔に切り替わった甘寧と夏侯惇。

宣戦布告し、静かに火花を散らす二人。


その様子に韓浩(元凶)は知らん顔をする。

火中の焼き栗を拾おうと手を突っ込む気は無い。

下手に突っ突けば、どうなるのか。

それは豊富な経験を以て知り、学んでいるから。

──なので、韓浩は然り気無く話を振る。



「………だとさ、玲生」


「丕は大変だね~」


「他人事だな、息子だろ?」


「息子でも、恋愛・結婚に関しては他人事だよ

家の為に政略結婚させる訳でもないんだからね」


「あー…まあ、それもそうか」


「そう言う康栄はどうなの?

「娘は御前には遣らん!」的な定番は?」


「御前達の息子に?

寧ろ、「宅の娘で良いのか?」だろうな…

…あ、何か甦ってくる記憶が…………ぁっ…」


「何だ康栄、私に何か言いたい事が有るのか?」


「え?、あ、いや、別に……って、玲生さん?

あの、どうして離れてるんですか?

そして、春蘭、御前は何故剣を抜いてるんだ?」


「さあ、どうしてだろうな…」



──と、責任逃れしようとした韓浩だったが。

上手く曹晧との会話で誘導され、夏侯惇にとっては人生で一番嬉し恥ずかしだった出来事を想起させる台詞を口にさせられてしまって。

(愛妻)の逆鱗に触れてしまった。


それに気付いた時には既に手遅れ。

曹晧を含め、全員が二人から離れていた。

曹操達ですら何時の間にか喧嘩を止めており。

「しっかりと頑張りなさい」と。

無言の激励を視線で送っていた。

韓浩の「ま、待て話せば──」という所で、揃って話し声も叫び声も聴こえなくなる。

決して、無慈悲な訳ではない。

それが一つの落ち(・・)というだけの話。

そう、喜劇では落ちが肝心なのだから。



「それにしても、この状況でも眠っていられる雲の鈍さ(胆力)は大したものね

春蘭の怒気(アレ)は全く抑えられていないもの」


「それを言うなら岱も眠ったんだから同じかな?」


「いや、単純に気絶したんじゃないか?」


「だよねぇ…普通に考えると無理でしょ、アレは」


「まあ、それ以上に強かなのは羽と忠よね

さっさと丕を連れて消えているのだもの

ふふっ、一体何方等が──いいえ、誰が(・・)、将来的に丕を掴まえるのかしらね」



我が子の恋路を愉快そうに想像する曹操。

その辺りは正しく曹家の女性だと言える。


そして、それは馬超達にしても同じで。

結局の所、我が子の意思を尊重している証拠で。

何処か、楽しんでいる事は否めない。


──と、何だかんだで賑やかな日常だが。

けれど、それは儚いものであると彼女達は知る。

だからこそ、その為に戦う意志を絶やしはしない。




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