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真・恋姫†無双 星巴伝  作者: 桜惡夢
一章 雷覇霆依
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十五話 咲花果実


季節の移り変わりというのは自然の摂理である。

それ故に数多の生物は季節を一つの指針情報として自分達の行動の判断基準に用いている。

その中でも人間は特に季節を細かく分けて重用。

暦や節季等が最たる例だと言える。


そんな季節の移り変わりは止める事は出来無いし、都合良く変えたりする事は出来無い。

宛ら、地上の、生物の頂点に君臨しているかの様に振る舞う人間ではあるが。

所詮は自然界という掌の上で威張る蛙も同じ。

決して、その摂理の中から出る事は出来はしない。

それが叶うのは死を迎えた瞬間だろう。


しかしだ、「人間の永遠の願望」とも称される事の有る“不老不死”等の様に“生物の理を外れる”事自体は本末転倒だと言えるのではないだろうか。

もしも、その不老不死を実現したならば。

それは既に生物ではなく、異なる“何か”で。

姿形は人間と同じだったとしても。

それは人間と呼ぶべき存在ではなくなっている。


つまり、不老不死等は“生きている”が故の願望。

「死を克服する」というのも生者故の抵抗・執着と言えるのではないだろうか。



「………………はあぁぁぁ~~~……」



そんな季節の移り変わりを目視しながら、静寂へと波紋を広げる様に響く大きな溜め息。

可愛い一人娘と頼もしい義息が旅に出て早九ヶ月。

曹嵩は無駄に晴れている青空を恨めしく感じながら見上げては溜め息を吐いていた。

愛妻家で、子煩悩で、家族愛旺盛な曹嵩。

今は兎に角、娘達に会いたくて仕方が無かった。


妻の劉懿とは体調の回復により営みが可能となり、二人目(・・・)が出来そうな勢いではあるのだが。

現実的には難しい事は理解している。

何より、愛妻に命懸けの負担は掛けられない。

今は共に生きていてくれている。

それだけで十分だと言える。


それに、子供は増えずとも孫は期待が出来る。

一人二人という事も無いだろう。

二人の様子からしても最低十人は期待出来る。

更に曾孫まで考えれば──自然と顔が若気る。

親馬鹿は順調に爺馬鹿へと進化を遂げている。



「…良い大人の男が一人で空を見上げて若気ているという姿を客観的に見たら?」


「寄るな、触るな、関わるな!」


「──と思うなら、止めて下さい、御父様(・・・)


「──華琳っ!?、何故此処にっ!?、その声はっ!?、

只今っ!、会いたかったよーっ!!──グェッ!?」


「──はい、其処までですよ、准也」


「御母様、只今戻りました」


「只今戻りました、御元気そうで何よりです」


「御帰りなさい、華琳、玲生」



暫く離れ離れになっていた犬が、久し振りに会えた飼い主に興奮して飛び掛かろうとしたが、首輪から延びている縄を引っ張られたかの様に。

曹嵩は仰向けに倒れ、後頭部と背中を地面に打付け痛みに転げ回っている。

そんな曹嵩を他所に、劉懿は曹操・卞晧を抱擁。

母親としての威厳と存在感を遺憾無く発揮。


何やら一人で混乱していた曹嵩は痛みで冷静に。

…まあ、彼の場合、家族が絡むと冷静さが有るとは愛妻でさえ首を縦には振れないのだが。

ただまあ、娘達が帰宅した事だけは間違い無く。

それ故に曹嵩の気持ちが昂っているのは確か。



「父様の事が恋しかったのだなっ?!」


「いいえ、全く、これっぽちも」


「芹華ぁーーっっ!!」


「はいはい、少し落ち着きましょうね」



愛娘に即答で否定された曹嵩は愛妻に泣き付く。

そんな夫を子供を宥め諭す母親の様に扱う劉懿。

そんな両親の姿に「家に帰ってきたわね」と感じる辺り曹操達は毒されているのだろう。

尤も、賑やかであり、ある意味鬱陶しくはあるが、明るく温かな家庭である事には間違い無く。

その雰囲気を心地好く思っている事は確かだ。

…それを素直に口にする曹操ではないが。


ただ、そういう雰囲気だからこその良さは有る。

事実、初対面となる甘寧や馬超は緊張していたが、二人の──というか、親子の遣り取りを見て一気に緊張感が飛び去って行っていた。

「…何処の親も問題有るんだな」と思う馬超。

決して、幻滅したりはしていないのだが。

やはり、子供・若輩者という立場からしてみると、もう少し威厳を大事にして貰いたくはある。

尤も、それで口煩く言われるのは大嫌いだが。

そういう我が儘な思考も、未熟な部分の一つ。

そう今は思えるのだから、確と成長はしている。


曹嵩が落ち着いた所で曹仁達は帰還の挨拶を交わし初対面の甘寧・馬超は自己紹介。

威厳は失われているが、代わりに初対面で親しみを持たれている辺りは、曹嵩の人柄を理解した上での劉懿の演出(・・)だと言える。

曹操から事前に帰還を報せる文は届いているのに、敢えて曹嵩には報せてはいないのだから。

正に内助の功だと言えるだろう。

…“掌で転がしている”等と思ってはいけない。

似ている様に見えて、似て非なるものなのだから。



「それにしても急な事だね、嬉しい驚きだけど

皆元気そうだから………路銀の問題かな?」


「まだ十分に手持ちは有ります」



愛娘達に会えて、嬉しくて嬉しくて堪らない曹嵩の笑顔の質問に、この展開を曹操は予期していた為、準備していた路銀を入れた巾着袋を懐から取り出し曹嵩に向かって差し出す。

投げ付けたり、放り投げたりしない辺りは品性。

同時に、御金に対する尊重の意識の現れでもある。

決して、顔面に投げ付けたい気持ちを堪え、母親の怒りを買わない様に配慮した訳ではない。

そう、そんな理由ではない。



「?…それじゃあ、予定以上に早かったのかな?」


「それは直ぐに判りますよ」



首を傾げる曹嵩に、劉懿は一言言って腕を取る。

そのまま歩き出し、曹操達も後に続く。

曹操は勿論、馬超達も劉懿の然り気無くも巧みさに胸中で感嘆し、「これが妻の鑑ね…」と唸る。

まだまだ自身の女としての未熟さを知りながらも、その脳裏には自身の理想像を思い浮かべて。

胸中に強く決意を懐いていたりする。


尚、卞晧達は「男って弱いよね…」と。

曹嵩の背中を見ながら、自身を重ね合わせていた。

まあ、それで夫婦も家庭も円満なら良いのだが。

人と人の在り方は決して一つではないのだから。

きちんと向き合う事を大切にしようと心掛ける。






場所を移し、向かったのは屋敷の大広間。

家族・親族が集まる時に用いられたり、団体客等の対応時に謁見の間としても使用されている。

その大広間に曹家の主だった面々が勢揃い。

曹操と卞晧が上座に座る曹騰へ旅の報告をし終え、今回の早期の帰還の理由を説明する。



「ふむ…成る程のぉ…出来て(・・・)は仕方が無いのぉ」


「玲生が居ますから流れる(・・・)可能性は低いでしょう

しかし、絶対という訳では有りませんので…

まあ、早期帰還に個人的には思う事が無いという訳では有りませんが…

授かった生命(・・・・・・)には代えられません」


「何より、その事を理解している自分達が軽視する真似は出来ませんから…

予定を繰り上げての帰還を決めました

ですから、その決断に対する後悔は有りません」


「…まあ、旅の主体である御主達が決断した以上、儂等から彼是言う事ではないからのぉ…

さて、それはそれとしてじゃ…

韓浩(・・)夏侯惇(・・・)、御主達の意思は?」



曹操・卞晧との話を終え、曹騰は当事者(・・・)へ問う。

旅の中断、その理由は夏侯惇の妊娠(・・・・・・)だった。

勿論、曹操の言った様に卞晧が一緒に居るのだから流産という可能性は限り無く無いに等しい。

しかし、絶対ではない為、大事を取って。

そして、何よりも曹操・馬超・夏侯淵とは違って、夏侯惇の場合は恋愛としては順調でも、縁談自体は水面下でさえ動いてはいない。

つまり、予定通りに旅をして帰還すれば、夏侯惇の御腹が大きい状態で、という事になり。

それは婚礼の準備等を考えると、色々と拙い。

まだ甘寧が妊娠した方が話が楽だと言えた。

何しろ、曹家が全権を握って仕切れるからだ。


だが、韓浩も一応は公的に正式な曹家の家臣として迎えられてはいても、まだ成人前の身だ。

独立し、自家を興す事が確定している身ではあるが本人は要職に就いているという訳でもない。

要するに、自力で妻子を養うには早いという事。


そういった事情から、夏侯惇の妊娠が発覚した後、曹操と卞晧は皆と話し合い、帰還を決めた。

夏侯惇の妊娠により、二人の関係が露呈した訳で、二人は恥ずかしさで死にそうだったのだが。

曹操達から「疾うに知っていたわよ」と言われて、呆然としてしまったのは仕方の無い事。

尤も、羞恥心は逆に高まった訳だが。

それは若気の至り、軈て懐かしき黒歴史、である。


そんな訳で、曹騰に問われた韓浩は深呼吸。

真っ直ぐに曹騰を見詰め、自分の言葉で伝える。



「…俺達は未熟で、自分達だけで子供を産み育てる事は難しいと理解はしています

そういう意味では迂闊だったのだとは思います

でも、春蘭との子供が出来た事は後悔していません

まあ、少し…いや、かなり早い事は確かだけど…

それでも、素直に嬉しいと思っています

苦労も沢山有るとは思うけど…

此の手を離すつもりは有りません」



曹騰に話す中、韓浩は言葉と視線を切り、夏侯惇と見詰め合い、頷き合って手を繋ぎ、告げる。


曹操と卞晧に比べれば、まだまだ青臭い二人。

その覚悟も、精神も比較には為らない。

普通であれば、大反対されてしまうだろう場面。

けれど、曹騰や曹嵩達は若い意志を信じる。

特に、韓浩は「覚悟は有ります」とは言わなかった事に対する評価が高い。

口先だけの覚悟ではなく、不器用な誠意。

それを大人達は感じ取る事が出来たからだ。



「…そうか……だそうじゃが?」



思わず微笑んでしまいそうになるのを堪えながら、曹騰は夏侯惇の両親──夏侯勲と李寧に振る。

同時に緊張する韓浩と夏侯惇。

当然と言えば当然だが、曹騰は中立の立場だ。

一族の長ではあるが、それ故に肩入れもしない。

その事は曹操と卞晧の時にも同じだった。

だから、曹操達も「曾祖父様は大丈夫よ」と。

二人を安心させてはいた。

ただ、夏侯家の事には口出しは出来無い。

そういう意味では曹操達も援護は厳しいのだ。


曹騰に問われた夏侯勲は静かに立ち上がる。

歩き出す夏侯勲の後ろに李寧も続くのだが。

緊張している韓浩と夏侯惇は気付かない。


俯いたまま無言で近付いてくる夏侯勲。

表情が見えず、気配も上手く読めない。

その幽鬼の如き不気味さは想像を容易く超える。

馬超と婚約した曹洪が、馬騰と初対面している姿を客観的に見ていたが故に、余計に恐くなる。

当然だが、その理由は想像するに難くない。

夏侯勲達にしてみれば、嫁入り前の娘を傷物にされ孕まされてしまったのだから。


緊張から思わず息を飲む韓浩。

その目の前に立ち止まり、見下ろす様に立っている夏侯勲を韓浩は見上げたくはなかった。

しかし、男として退く訳にはいかない。

卞晧という友を、主を、師を見てきたからこそ。

愛する夏侯惇()の為に、顔を上げる。


──その瞬間、視界の両端に微かに残像が残る。

反応は愚か、警戒する事でさえも出来ず、気付いた時には鈍い痛みと共に両肩を掴まれていた。



「────有難うっ!!、有難う!、韓浩君っ!

本っっ………………っ当にっ!!、有難うっっ!!!!」


「…………………………………………………ぇ?」



歓喜の涙と笑顔を浮かべて韓浩に感謝する夏侯勲。

その反応は直前までの夏侯勲からは想像が出来ず、虚を突かれた形の韓浩は茫然となってしまう。

バシバシッ!、と力強く叩く夏侯勲。

普段の韓浩であれば、「痛ぇよっ?!」とかツッコム場面では有るのだが、その余裕は無かった。

──と言うか、味わった事の無い緊張感と、想像と現実の違いが大き過ぎて思考が停止した。

考えなければ状況は把握出来無いのだが。

その考える事自体を、今の韓浩の思考は放棄した。


まあ、それは韓浩の責任ではない。

少なくとも、男であれば、韓浩の立場だったなら、同じ様に緊張する可能性は高い。

そう考えれば、可笑しくはないのだから。


そんな父親と韓浩の様子に夏侯惇は我に返る。

当然だが、認められた事は嬉しい。

ただ、夏侯惇としては何処か釈然としない。

モヤモヤと胸の中で煙が立ち込めている感じだ。



「…え~と……あの、良いって事ですよね?」


「ん?、ああ、春蘭と一緒になるって事かい?

勿論だとも!、私達が反対する理由なんて無いよ!

寧ろ、「本当に春蘭で良いのかい?」と訊きたくて仕方が無かった位だからね!

君が本気で春蘭を想い、選んでくれた…

私達にとって今日程の喜びは数える位だよ!」


「…はぁ…そうですか…」


「ふふっ…もう、子供みたいにはしゃいで…

韓浩さん、未熟で色々と至らぬ娘では有りますが、どうか末長く宜しく御願いします」


「あ、はいっ、此方等こそ未熟者ですので…

御指導・御鞭撻の程、宜しく御願いします」



矢鱈と御機嫌な夏侯勲。

韓浩としては認めて貰えたのだから一安心だが。

その喜び様には置いていかれている状態。

其処に李寧から丁寧な言葉を貰う。

気が抜け掛けていた韓浩だが、卞晧から訊いていた定番の台詞を思い出して口にする。

勿論、上辺だけ、口先だけではない。

その意味を、その必要性を理解した上でだ。


韓浩は必ず自家を興さなくてはならないが、立場上実家とは距離を置かなくてはならない。

その為、曹家の縁者か、奥さんの実家の縁者が家を支える主要な使用人となる。

そういった面でも夏侯家という後ろ楯は大きい。

まあ、それは結果的に、の話ではあるのだが。

重箱の隅を突っ突く様な真似をする者は居ない。


そんな韓浩()と両親の側で苛立つ夏侯惇。

別に自分だけが蚊帳の外に居る様な気がしてしまい寂しいから構って貰いたい訳ではない。

ただ何と無く両親が自分を貶している気がして。

韓浩より下に扱われている気がして。

その事が気に入らなかった。

勿論、韓浩の事は愛しているし、子供が出来た事も曹操達には申し訳無いが、素直に嬉しい。

韓浩に嫁ぐ事にも不満は無いし、妹の夏侯淵に比べ自身の家事技能が低いという自覚だって有る。

ただそれでも、両親の態度には納得が行かない。



「父上!、母上!、黙って聞いて居れば好き勝手な事ばかり言ってっ!

私とて旅をして成長しているのですよっ?!」


「「成長している」と言うのなら、自己管理をして妊娠しないようになさい」


「ぅぐっ…」


「す、済みませんっ…」


「ああ、韓浩さんは良いんですよ

春蘭、貴女の恋愛自体に言う事は有りません

ですが、華琳様に仕える身で有りながら、感情的で衝動的に動いてしまうのは貴女の悪い癖です

勿論、それが良い結果に繋がる事も有りますが…」



言葉を切り、李寧は韓浩を見る。

子供が出来た事は本人達の迂闊さではあるのだが、こうして生涯の伴侶を得られた点は慶事。

その何方等も夏侯惇の性格に因る以上、全てが全て悪いという訳ではない事は理解している。


ただ、それはそれ、これはこれ。

文句を言う資格の無い娘に、母は静かに怒る。



「抑、貴女は昔から「私は結婚などしない!」だの「武に生きるのだ!」だの宣ってばかりで…」


「あの…母上、私が悪かったです、ですから…」


「いいえ、良い機会ですか言わせて貰います

大体、長女でありながら婿を取る為に必要な事には全く興味を示さず、毎日毎日体術だ剣術だと言って汗塗れ泥塗れ傷だらけで…

密かに「産まれる性を間違えた」と言われていると知った時の私の気持ちが解りますか?

“もし、御腹に戻して産み直せるなら…”と何度、本気で考え、何れ程苦悩した事か…

それもこれも、貴女が──」



──と、相当溜まっていたのだろう。

曹家の主要な面々が居ようが全く気にする事も無く李寧は夏侯惇に対し、愚痴と小言を言い続ける。

それを止められる者は誰一人として居らず。

だからと言って、退室も出来無かった。

何故なら、ある意味で李寧の気苦労を知りながらも誰もが匙を投げ、諦めていたのだから。

そういう意味では、略全員が共犯者である。

その為、李寧の言葉を素直に受け止めている訳だ。


同時に、親達は「宅の子供は…」と我が子に対する評価を改め、正面な事に安堵していた。

尚、馬超・甘寧は「春蘭みたいな娘にはしない」と心に強く誓っていたりするのだが。

馬超に関しては自分の事を棚に上げているのだと、気付かない辺りが、似た者同士だと言える。




そんなこんなで、李寧が満足(スッキリ)した事で終了。

半泣き状態の夏侯惇だが、折れないのが彼女だ。



「…ぅう゛ぅ゛……其処まで言わなくても…」


「いやいや、春蘭、よく考えてみなさい

根本的な事を言えば自業自得だからな?

──と言うか、御前は自分が普通の娘と同様に嫁の貰い手が居ると思っていたのか?」


「父上!、それは幾ら何でも酷いです!

私にだって貰い手の一人や二人はっ………………」



なけなしの意地で吠えた夏侯惇。

しかし、父親からの容赦無い言葉には返す言葉すら浮かばなかったのが現実。

何しろ、夏侯惇本人でさえ、韓浩以外に自分の事を貰ってくれそうな相手が居ないのだから。


いやまあ、勿論、一人居れば十分なのだが。

そういう現実的な問題ではなくて。

夏侯惇とて年頃の娘である。

そして、武張って生きてきたが故の強い自尊心。

それが音を立てて崩れ落ちてゆく気がして。

今にも泣きそうになってしまう。


それを察したかの様に夏侯惇の右手を握り、小さく頷いて見せたのは意外な事に韓浩。

その瞬間、夏侯惇の自尊心は価値観を変えた。

不特定多数に対する自尊心ではなく、一人の為に。

乙女心は複雑で、恋する乙女は無敵な訳で。

要するに、都合良く解釈し前向きになれる。

それが恋の力というものなのだろう。


尚、空気を察し、見えない様に韓浩に肘打ちをして夏侯惇への配慮を促したのは卞晧だが。

それは気付いたとしても、言わぬが花。

今は空気を読まなくてはならない。



「…まあ、今更他の可能性は無意味ですが

いいですか、春蘭?

明日からは婚礼の準備等も有り忙しく為りますが、きちんと妻として韓浩さんを支えていける様に私も手を抜かずに教育をします

ですから、貴女も自覚を持って覚悟なさい」


「………え?、あの、母上?、私は跡取り娘で…」


「あら?、秋蘭から聞いていないの?

家の事なら心配要りません

秋蘭が“冬哉”君を御婿に迎えるから大丈夫です」


「「……………………………………………え?」」


「──おかっ、御母様ァッ!?」


「──────あら?」



一応とは言え、長子長女の自覚は有った夏侯惇。

その為、自分が嫁に出てしまうと妹の夏侯淵に家を押し付けてしまう格好になる。

真面目な妹だから否とは言わないだろう。

それが判っているから、夏侯惇は韓浩を婿に迎え、夏侯家を継がせる方向で考えていた。

勿論、話し合っていた韓浩も同様にである。


ただまあ、それは二人の勝手な覚悟でしかなく。

曹操達も、夏侯勲達も、曹騰達も、夏侯惇が韓浩に嫁ぎ、夏侯淵が曹丹を婿に迎える。

それが規定路線だった訳だが。

曹操達に相談していないから、当然知らない。


そして、この場での一番の被害者は夏侯淵だろう。

予期せぬ流れ矢で夏侯淵は曹丹との関係を暴露され珍しく顔を真っ赤にして声を上げた。

既に想いを通わせ、密かに愛を育んでいる二人。

しかし、それを公にするのは曹操達の、夏侯惇達の婚礼が終わって、落ち着いてから。

そう二人で話し合い決めていたし、曹操達にしても同じ様に考えてはいた。

その為、李寧の暴露は予定外だった。



「えっ!?、マジでっ!?、冬哉さん達もっ!?」


「ええ、まあ……そういう事です」


「そうなのか秋蘭っ?!、何故私に黙っていたっ?!

私達は姉妹で、私は秋蘭の姉だぞっ?!」


「あ、姉者も私には言わなかっただろっ?!

私は姉者の妹なのに、付き合っている事よりも先に子供が出来たと聞かされた気持ちか判るかっ?!」


「ぐっ、そ、それはっ……康栄が出すからだっ!」


「ちょっ!?、春蘭が足を絡ませて離さな──」


「──ゥアァアアアァァアァーーーッッッ!!!!!!」



目出度い祝福の雰囲気が一瞬で姉妹喧嘩・夫婦喧嘩へと様変わりしてしまう辺りが若さだろうか。

売り言葉に買い言葉で私性活(・・・)を口走り合った結果、夏侯惇が羞恥心の限界を突破する。


その騒ぎの原因である李寧は、呆れた様に溜め息を吐く李葉から「駄目ですよ、バラしたら、もう少し泳がせて楽しみたかったのに…」と愚痴られる。

息子の恋路を玩具代わりにして楽しんでいる母親を批難する母親は此処には居ない。

寧ろ、「そうよ、そうよ」と同意している位だ。


…男性陣?、我関せずで路傍の石と化しています。

巻き込まれたくはない。

そう、彼等の気配が如実に物語っています。


そんな一種の地獄絵図に、一つ溜め息を吐いた後、手を叩いて注目を集め、鎮めたのは曹操。

流石に長く夏侯姉妹を含め、纏めてはいない。

既に当主夫人としての風格は十分だと言えた。



「ったく……春蘭、秋蘭が貴女に話さなかったのは貴女が妊娠したから優先順位を変えたからよ

秋蘭と冬哉兄さんの件は後回しでも問題無いもの

それよりも先に、貴女は康栄と子供の為にも正式に夫婦となって韓家を興さなくてはいけないわ

そういう配慮の結果、という事よ」


「そうでしたか…その…秋蘭、済まなかった」


「いや、私の方も取り乱していたからな…

私も言い方が悪かった、済まない、姉者」


「康栄、貴男も貴男よ

幾ら春蘭相手の遣り取りでも少しは気を付けなさい

言っていい事と悪い事があるのだから」


「ぅっ…その悪かったな、春蘭…」


「いや、私も急に話を振ったからな…」


「それから、小母様も小母様です

御陰で私の楽しみが減りました」


「うん、華琳、それは必要無い一言だよ?」


「良いじゃない、私も愚痴りたくなるわよ」



李寧の迂闊な暴露に楽しみを奪われた曹操が愚痴り卞晧が苦笑しながら窘める。

その曹操の言葉に女性陣が深く頷き、卞晧の言葉に男性陣が苦笑を浮かべる。

何だかんだで上手く纏まっている証拠である。



「…はぁ~……もう、この際だから出し惜しみせず纏めて遣る事にしましょうか

隼斗兄さんも思春との婚礼を進めて行きましょう」


「華琳様ァッ!?」


「………………………っ…………い、何時から?」


「聞きたい?」


「………………………………………いや、いい…」



曹操の自棄糞気味な態度から二人の関係を暴露され甘寧は顔を真っ赤にして叫んだ。

極力、関わらず目立たない様にしていたのだが。

当然、獲物を見失う曹操ではない。

寧ろ、逃げ隠れしようとしているからこそ、掴んで引き摺り出してから、仕留めようとする。

ある意味、獣の狩りの様なものである。


曹仁は二人の関係がバレていた事に驚き、反射的に曹操に訊ねてしまったのだが。

「訊いてはならない」「知らない方が良い」と心の中で小さな自分が必死に止めた。

想像する事すら放棄し、白旗を上げる。


何にしても、遅かれ早かれ遣る事には為る訳だ。

それなら、夏侯惇が妊娠してしまった様に。

そうなる前に、身を固めてしまった方が気楽だ。

子供が出来てからでは慌ただしくなるのだから。

そう、自分に言い聞かせ、切り替える。

恥ずかしがれば弄ばれるだけなのだから。


そんな一同の様子を静かに見ている馬超と曹洪。

旅組の中では曹操達に次いで、公認の関係だ。

まあ、関係の進捗具合自体は、ゆっくりだが。

巻き込まれなくて済んだ事に安堵していた。



「……なあ、翔馬、アタシ等、公認で良かったな」


「うん、そうだね…」


「──あら、何を他人事みたいに言ってるのよ

翔馬兄さんも翠との婚礼に向けて準備しないと」


「ちょっ!?、藪蛇だったぁっ!?」


「翔馬さんは康栄達以上に大変だしね

出来る限り、早く動いてた方が良いよ」


「………え?、そんなに?」



他一族への、その次期長としての婿入り。

考えない様にしていた現実が足音を立てて忍び寄る気がして曹洪は顔を青くした。

既に退路も逃げ道も無いのだが。






旅の報告と、早期帰還の理由。

それだけの筈の家族会議は気が付けば大婚礼会議に変貌を遂げ、五組の婚礼に付いて議論された。

…まあ、殆んどが女性陣中心の会議だったが。

それは仕方の無い事だろう。

男より、女性の方が拘りは強いし多いのだから。



「…ふぅ~……やっぱり、家は落ち着くね~…」


「ふふっ…ええ、そうね」



部屋に入るなり、寝台に、布団に倒れ込む卞晧。

そんな子供っぽい姿を見ながら微笑み、自身も同じ様に布団へと飛び込む曹操。

そのまま顔を見合せ、暫し笑い合って、当然の様に抱き合って唇を重ねる。


数ヶ月とは言え、毎日寝ていた部屋、寝台、布団。

その感触が、匂いが、雰囲気が、安心感をくれる。

ただ、若干の物足り無さも有るのが本音。

洗い立て、干し立ての布団も悪くはないのだが。

やはり、自分達の匂いというのが有るか無いかでは心理的・本能的な安心感には違いが生じる。

…まあ、二人の場合には御互いの匂いだが。


この部屋に居ると特段に安心する。

それは生まれて初めて出逢った場所であり。

初めて結ばれた場所であり。

亡き田静の存在を、不思議と感じられるからだ。


ただ、普通であれば有り得無い事だったりする。

婚礼前でありながら、一室で寝起きを共にする事は非常に珍しい事であり、世間的には先ず無い事。

韓浩と夏侯惇の様に“出来てしまってから”という順番を間違えた結婚でさえ、不純とされる。

例え、どんなに二人が真剣で一途に愛し合っている上での結果だったとしても。

世間一般的な(・・・・・・)正道を外れたなら。

そういう風に酷評・批難されてしまう。


ただ、曹操達にしろ、夏侯惇達にしろ。

周囲に恵まれている為、理解されている。

頭が固いだけの、一方的に価値観を押し付ける様な大人達ばかりだったとしたら、曹操達は迷う事無く真っ先に曹家を潰す事から始めるだろう。

そうしなくて済むのだから、感謝の念は強い。


尤も、そういう価値観を持つ様に曹家が成れたのは亡き田静の存在が大きかったと言える。

だからこそ、卞晧に対する期待は大きいのだが。

卞晧本人は大して重圧には感じてはいない。

曹操と共に歩む。

そう決めた時から、背負う覚悟は有るのだから。


そんな二人は抱き合ったまま、見詰め合う。

額を触れ合わせ、思考を共有するかの様にしながら今日までの旅を静かに振り返る。



「…最初は予想していた以上に戸惑ったわよね」


「隼斗さんが不眠症に為り掛けてたもんね」


「ふふっ、今の平然と寝ている兄さんからは想像も出来無いわよね、当時の姿は」


「思春はギリギリ知ってるけど、後一ヶ月逢うのが遅かったら知る機会は無かっただろうしね」


「その思春との出逢いも不思議なものよね…」


「華琳、随分妬いてたもんね」


「あら、今だって気持ちが無い訳じゃないわよ?

ただ、それ以上に私と玲生の繋がりが深く、強く、大きくなったから目立たないだけでね」



そう言いながら曹操は卞晧の服を脱がしてゆく。

「話をするんじゃないの?」という卞晧の眼差しに対して「勿論、話()するわよ」と挑発的な笑みを浮かべて見詰め返す曹操。

卞晧も、拒絶も抵抗もしないのだから合意だが。

今宵の肉食系(・・・)な曹操は大胆。

色々と思う所が有るから仕方が無いのだが。



「康栄と翔馬さんが意外と意気投合するのが早くて吃驚もしたよね、今は“らしい”と思うけど」


「元々、兄さんは“猫を被ってる”方だったしね

まあ、それも含めて同行者に選んだ訳だけれど」


「あ、やっぱり、矯正(・・)目的だったんだ」


「潜在能力は確かだけれど…思考と精神がね

曾祖父様だって、そういった機会になるだろうって判ってて態と同行者を付けさせてるもの…

普通に考えれば、私達二人だけ──康栄を加えても三人で十分に旅は可能だもの

そういう意味では、やっぱり強かよね」


「まあ、俺達も他人の事は言えないけどね」



思い出しながら愚痴る曹操に卞晧は苦笑する。

勿論、曹操も意図を理解していた上で乗った以上、ある意味では共犯だと言える。

被害者の曹仁・曹洪だが、後悔は無いだろう。

経験を積み、鍛練を重ね、伴侶にも出逢えた。

旅に出ただけの価値は、十分に有ったのだから。


尤も、それはそれ、これはこれで。

愚痴りたい事は山程有ると言えるだろう。

ただ、殆んどが過去の(・・・)愚痴である。

未熟だったが故の、浅慮から来る不平不満。

それを今は理解出来るから言わないだけ。



「孫家での一件は色々と予想外だったわね…」


「うん、あんな形で母さんの事を知るなんて、正直考えても見なかったからね…」



思わず、「あの日の玲生、可愛かったわよ」と声に出しそうになってしまう曹操だが、堪える。

言ってしまえば、話は終わり、始まる(・・・)のだが。

もう暫くは話をしたいという気持ちも有る。

勿論、始まっても何一つ問題は無いのだけれど。

其処は流石に空気を読んで自重する曹操。

気持ち的には卞晧を押し倒して襲いたいのだが。

田静に対する想いは理解出来る為、仕方が無い。



「後から春蘭と秋蘭が合流した時は驚いたね

色々と義父上の耳に入ったのかもって焦ったし」


「ええ、あの時は二人には悪いのだけれど、本気で関わりたくはなかったわね…

出来れば無視したかったもの」


「それなのに、二人の居た御店を引き当てる康栄と翔馬さんも、ある意味凄いよね」


「そう考えるなら、あの時から春蘭と康栄の縁絲は結ばれていたのでしょうね」


「そうだね……華琳は気付けたと思う?」


「絶対に無理ね、仮に結果(未来)を知っていたとしても、あの二人の様子からは信じられないわ

寧ろ、こうして振り返っていても今の二人の姿には簡単には結び付けられないもの

そういう玲生は少しは可能性を感じていたの?」


「無い無い、春蘭達とは面識も無かったしね

まあ、仮に知っていたとしても難し過ぎるよ

それなら華琳の設問の方が全然易しかったね」


「それは確かにそうね」


「二人の縁絲は理性で理解する事じゃなくて本能で直感する類いの典型だろうね

…まあ、他人の事は言えないけど」


「ふふふっ、そうね、私達も本能的だものね」



そう言って可笑しそうに笑いながら曹操は脱がして露になった卞晧の素肌へと唇を落とす。

それを受け入れながら、今度は卞晧の手が曹操へと伸びて服を脱がしてゆく。

宛ら卞晧の首筋に噛み付くかの様に顔を寄せながら身体を密着させ、脱がせ易い位置に動く曹操。

卞晧に重なる様に乗りながら唇を這い上がらせると啄む様に卞晧の頬に、唇に口付けを落とす。



「…んっ……翔馬さんと翠の件も意外だったよね

特に、翔馬さんの成長と鬱憤の溜まり具合を同時に目の当たりにする事になったし…」


「ん、そうね…ちゅっ……正直、私も驚いたわ

でも、結果的に言えば、翠が傍に居る様になって、兄さんの精神面は成長したと思わない?」


「うん、ある意味自覚が実感を伴ったんだろうね

翠っていう生涯を共にする伴侶が出来た事で責任感という面で意識が変わったんだろうね

それまでは曹家っていう大きな傘の下に居たから、本人も無意識な甘えが有ったんだと思うよ」


「そう考えると翠が遣らかしてくれた御陰ね

それも、ある意味では縁絲と言えば縁絲よね」


「そうだね、それに二人の縁談が確定化したから、他の皆も意識し始めたからね

良い意味での“荒療治”に為ったんだろうね」


「私達の場合、どうしても主従関係が有るものね

だから、兄さん達の様に“近い立場”の者が関わる話だったから現実味が強いのでしょうね」



それ以前から曹仁と甘寧の関係は“梃子入れ”して促進させようとしてはいのだが。

二人が自分達の関係に自己投影する事は無く。

最も身近な一例で有りながら、他人事的で。

だから、曹洪と馬超の件が無ければ、今の関係まで旅が終わる時には至っていなかっただろう。

そう曹操達は言い切る事が出来る。



「…まあ、その荒療治が効き過ぎたのがね…

小母様の言葉ではないけれど、春蘭の自己管理面に問題が有ったのは否めないわね…

──と言うか、(教育)が甘かったって事よね…」


「それは康栄にも言える事だけどね…

春蘭は女性なんだから、余計に注意しておかないと自分の人生を大きく左右するって自覚が有るべきな事は否定はしないけど…

逆に言うと、それで掴み取れもする訳だからね

勿論、その可能性は春蘭の性格的にも無いに等しいとは思うんだけど」


「ええ、そうね…寧ろ、そこまで春蘭が考えていて意図的に妊娠したのだったら、私は誉めるわ

その強かさは将来的に役に立つでしょうから

実際には単純に迂闊なだけな訳だけれど…」


「そういう質じゃないから春蘭なんだしね」


「ええ、それは康栄にしても同じでしょうね

結局の所、あの二人は根幹という部分で似た者同士だから惹かれ有ったのでしょうから」



恋愛に法則や定型といったものは存在しない。

それは家庭や人生にも言える事ではあるが。


曹操と卞晧も自分達の恋愛観を他者に押し付けたり推奨しようというつもりは微塵も無い。

単純に惚気るのは別だとしてもだ。

それは二人が他者の恋愛観に寄せたり、倣ったりは一切しておらず、独自の在り方を尊重する為。

勿論、両親だったり、親族達の話を聞いて思う事が全く無いという訳ではない。

ただ、それらは参考でしかない。

何しろ、文字通りに他人事なのだから。

だから二人は自分達の在り方を大事にする。


そういう意味では韓浩と夏侯惇が御互いに惹かれた理由や感覚というのは全てを理解は出来無い。

それは二人だけのもので。

他人が口出しするべき事ではないのだから。


その為、二人の話している事は客観的な一意見。

それ以上でも、それ以下でも、それ以外でもない。

逆に、曹操達の在り方を見て韓浩達も色々と考え、話したりはしているのだから。



「それはそうと…旅を切り上げて良かったの?

残りも、もう少しなんだから二人を残して回るのも有りだとは思うけど?」


「秋蘭が同行するのに?、春蘭が泣くよ?」


「自業自得でしょう」


「──って思ってても?」


「…………言えないわよ、馬鹿っ…」



歳上だが、手の掛かる妹の様な存在の夏侯惇。

ヤンチャで甘えん坊な忠犬だと言えばいいのか。

韓浩も一緒だとはいえ、置いていくと面倒臭い事に為るだろう事の顛末が思い浮かぶ。

そうでなくても、最後の最後には甘さが出る。

曹操にとって夏侯姉妹は、そういう存在だ。


それを理解しているから卞晧は意地悪な言い方をし曹操は拗ねる様に睨み付けながら攻勢を強める。

擽ったさを我慢しながらも曹操の火照りに呼応し、卞晧自身の火の点いた猛りも燃え盛る。



「まあ、行きたい気持ちが無いとは言わないよ

だけど、それ程急ぐ事でもないしね

華琳との婚礼を挙げて、康栄と春蘭の婚礼の後でも二ヶ月位は時間を取れるでしょ?」


「…成る程ね、今度は正しく新婚旅行に行く、と」


「婚礼を挙げる頃には春蘭も幾らか御腹が膨らんで自覚も出てるだろうしね

その時なら渋々でも大人しく留守番するでしょ?」


「春蘭の事だから正しく知識を身に付けてはいないでしょうし、それなら動いても大丈夫だと気付いた時には私達は発っている、と…

………判り易いのに、そういう時に限って予想外に裏切ってくれるのも春蘭なのよね…」


「あー……確かにそうかもね

それならそれで大人しく止めればいいよ

無理をしてまで行かなくても近場なんだしね

少なからず足を運ぶ機会は有るだろうし」


「寧ろ、近場だから知って置くべきでしょうね

…いいわ、私から御母様達に相談してみるわ

だから、御父様の相手は任せたわよ?」



然り気無く、愛娘に邪魔者扱いされる曹嵩。

理解はしていても、流石に即答する事は躊躇われた卞晧は苦笑を浮かべる事で返事とする。


そして「さあ、話は終わりよ」と曹操が卞晧の上で身体を踊らせ、艶やかに唄い始める。

何しろ、久し振りに気兼ね無く求め合える夜。

曹操も卞晧も自重はしない。




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