十三話 火無煙無
ちょっとした寄り道は有ったものの概ね予定通りに并州を抜けた曹操達一行は幽州へと入った。
夏侯惇の再教育は曹操主導の下、しっかりと行われ短期間ではあるが、成果が見られている。
勿論、彼女のらしさを潰さない様にした上でだ。
まあ、絶妙な匙加減が出来るからこそだが。
簡単に真似する事は出来無いと言えた。
そんな曹操達だが…現在は野営地にて沈黙中。
瞑目し、腕組みをしている曹操を見ながら、全員が静かに固唾を飲んで待っていた。
「…………………………はぁ~……仕方が無いわね
翔馬兄さん、翠と春蘭と康栄を御願いね」
「春蘭達と一緒にするなよなっ!?
私は其処までは遣らかしてないってのっ!」
「ちょっ!?、“達”は無ぇだろっ!」
「華琳様っ、此奴等と一緒にしないで下さいっ!」
「「「──はあっ!?、お前が言うなっ!!」」」
──と、三者三様に見えて、実は似ている三人。
そんな問題児を丸投げされる曹洪は項垂れた。
今から既に苦労する事が想像出来るのだから。
──とは言え、その決断は曹操にとっても苦渋。
馬超と韓浩は兎も角、夏侯惇には不安が残る。
自分達の手元から離すのは、気が気ではない。
だが、この三人は明らかに不向き。
外すとなると、御目付け役は曹洪しかいない。
他は外す訳にはいかないのだから。
「…兎に角っ!、何か問題を起こしたら問答無用で厳罰よっ!、返事はっ?!」
「「「判りましたっ!!」」」
火山が噴火する直前の地震の様に。
キレる一歩手前の曹操の微震を感知した問題児達は先程までの対立が嘘の様に声と動きを揃えた。
此処で怒らせば、どうなるのか。
それが判らない訳ではない。
…まあ、それが判る程まで遣らかしている訳だが。
其処は触れないのが人情というものだろう。
これ以上は曹操を刺激してはならない。
その一念で三人は見えない掌を固く握り有った。
「…はぁ………恨みますよ、御祖母様…」
ただ、それを理解出来てしまうのが曹操。
勿論、その事を口にして事を荒立てはしない。
溜め息と共に苛立ちを吐き出し、静かに愚痴る。
二日前、宿泊した街に着いた所で予期せぬ来客。
曹操の祖母である夏侯昭からの使いの者で、曹操に宛てられた文を手渡すと返事も受け取る事も無く、直ぐに戻って行ってしまった。
その背中を見ながら、曹操は嫌な予感がした。
返事が不要、という事は単なる連絡事項から始まり一方的な命令まで幅広い。
そして、名武家の夏侯家の歴史の中でも智謀の面で稀代の女傑とされる祖母である。
知っているが故に、曹操は文を棄てたくなった。
まあ、そう思うだけで、実際には仕方無く読むが。
それは曹操の予感を裏切らない内容だった。
文を要約すれば、「幽州の古い友人達が悪徳官吏の暴挙により苦しんでいますから懲らしめなさい」と血の繋がりを感じさせる物だった。
誰とは本人を含め、口にはしなかったが。
そういった事情で曹操達は先ず、調査する事に。
騒がず、慎重に、しかし、些細な情報も見逃さず。
そうなると件の三人には不向き。
しかも、馬超は婚姻関係を結んではいたとしとも、曹家として見れば、まだ部外者である。
それらを考慮した上で、曹洪に任せると決めた。
曹洪自身を外すのは惜しいが、三人だけでは不安。
それに、どうせなら意味の有る組み合わせにすれば少しは進捗具合にも良い影響を生むだろう、と。
やはり、血は争えなかった。
そんな訳で夏侯昭からの指名依頼を受けた一行。
曹洪達が先行して幽州を回る間、曹操達は夏侯昭の文に有った事に関する情報を収集。
何しろ、文に夏侯昭の古い友人が何処の誰なのか、悪徳官吏が何処の誰なのか、記されてはいない。
使者が文を奪われた時の為の配慮──ではない。
其処は、曹家の鬼ば──ゴホンッ、鬼よ──いや、
“鬼姫”と嫁いだ頃から呼ばれている夏侯昭。
可愛い孫達に試練をさせる訳だ。
つまり、曹操達は自力で事の次第を調査し、任務を遂行しなくてはならない。
単純な討伐戦ではないから、三人を外した。
当然と言えば当然だが、難しい決断ではあった。
曹洪達と分かれてから二人ずつで散り、情報収集。
組み合わせに付いては言うまでもない。
丸一日を費やし、決めた集合場所で合流。
入手した情報を報告し合い、組み合わせて推測。
夏侯昭の古い友人が誰か判れば話は早いのだが。
その手掛かりをくれる様な甘い祖母ではない。
だから曹操は友人から辿る線は即座に捨てた。
──と言うか、夏侯昭の友人に会う訳ではないし、調べる必要が有るとすれば、祖母の意図した相手に間違い無いかを確かめる為の判断材料に過ぎない。
しかし、世に悪徳官吏など掃いて捨てる程居る。
幽州に一人しかいない、という事など無い。
──となれば、対象を特定する事自体が面倒臭い。
…いや、時間が掛かってしまう。
そう考え、曹操達は“手当たり次第に潰す”事に。
数撃ちゃ当たる作戦を決行。
勿論、幽州全体を対象にするのは難しい。
主に時間と労力的な問題で。
其処で先ずは対象を絞り込む事に。
その為の情報収集だったりする。
「──というのが、此方で判った事だ」
「そう………どう思う、玲生?」
「御義祖母様の文からしても粛正対象の被害範囲は決して小さくはないと思うし…
そうなると…この人と、この人…この人も消えるね
…まあ、見逃す事になるのが複雑だけど…」
「……それは言わないで頂戴、抑え切れないから」
「うん、今のは失言だったね、御免ね」
「それ位、別に構わないわ……解っているもの…」
謝りながらも卞晧の意図は違う。
それを曹操も理解しているから、少し恥ずかしい。
だから、自然と後半は小声に為ってしまった。
今のは卞晧が態と言い、曹操の抱える葛藤や不満を苛立ちとして自分へと向けさせる為のもの。
本当なら曹操も遣りたくはないのだが。
此処で飲み込むと溜まってしまい──不味い事に。
卞晧と出逢う──再会するまでの自分を省みれば、容易に想像出来てしまうから、素直に甘える。
側に居る曹仁達は当然、気付かない振り。
鎮火し掛けている火を態々煽る真似はしない。
誤魔化す様に──話を戻す様に、曹操は咳払いし、卞晧が指差していた悪徳官吏の名前を書いた竹簡を地面に並べた中から取り除いて脇に置く。
そう遣って少しずつ絞り込んでいった。
結果、情報収集により浮かんだ対象候補者は当初の三十七人から十四人にまで減った。
しかし、まだ十四人も居る。
数撃つにしても、まだ対象が多い。
せめて、この半数以下にしたいのが一同の本音。
「…ある意味、此処からが本番ね」
「そうだね………取り敢えず、共通点を探そうか」
「…?…共通点、ですか?」
「私達が現時点で得ている情報だけでは此処からは絞り込むのが難しいでしょう?
だから先ずは残りの対象候補者の共通点を考えて、幾つかに分けるのよ
そうすれば、その纏まりに絞れば数を減らせるわ」
「成る程…」
「そういう訳だから、思春も気付いた事が有ったら遠慮せずに発言して頂戴
判断は私と玲生がするから」
「はい、判りました」
そう言って曹操達は彼是と議論を重ねて行き。
最終的には対象候補者を四人にまで絞り込んだ。
除外した面々を放置する事に抵抗は有る。
しかし、賊徒と違い、一応でも、官吏である以上は曹操達も容易に手を出せないのが現実。
まあ、得た情報を夏侯昭と劉懿に渡せば、その後は上手く使ってくれるだろうと考えてはいるが。
それでも、自身の無力さを感じない訳ではない。
武ではなく、地位や権力…影響力・発言力といった人を従え、動かす力が、足りないという事を。
曹操と卞晧だけではなく、この場の全員がだ。
ただ、悩んでいても何も変わりはしない。
今は出来る事を一つずつ遣るしかない。
そう自分に言い聞かせ、曹操達は切り替える。
「県令二人、騎都尉一人に──文官が一人…
普通なら地位の高い方から潰す所なのだけれど…」
「うん、この人が一番の曲者だろうね」
曹操が呟き、卞晧が指差した竹簡に視線が集まる。
書かれている名は──“公孫淳”。
啄郡太守・公孫賛の父方の祖母の弟の三女の次男。
公孫賛とは再従兄弟の関係になる。
本家の当主たる彼からの信頼が厚い人物。
しかし、その裏では巧妙に私腹を肥やしている。
付け入る隙は少なく、機会も一度きりだろう。
そう全員が考えられる程の二面性を持っている。
「…取り敢えず、他の三人から潰しますか?」
「………そうね、それが一番無難でしょうね」
「………………ちょっと待って」
「何か気になる事が有るの?」
「気になる事じゃなくて、遣り方の事でね
先ず、この人に………」
決断し掛けた曹操に待ったを掛けた卞晧。
四枚の竹簡と、簡易作成した地図。
それ等を使い、卞晧は思い付いた事を説明する。
その話を聞く曹操達の表情は、怪訝、驚愕、納得、関心、賛同、尊敬と変わり──苦笑で終わる。
誰かさんも「血は争えない」と思ってはいるが。
此処にも同様の人物が居る。
しかも、そんな二人の血が融け合う事は確実。
将来、色々と苦労するのだろう、まだ見ぬ者達へと曹仁達は「強く生きなさい」と言いたくなった。
それは兎も角として、卞晧の策に異論は無い。
寧ろ、矢面には立てない自分達にとっては好都合。
ただ、問題が全く無い訳ではないのだが。
それに関しては、どうしようもないのも事実。
取り敢えず、卞晧の策でなら、曹洪達も参加可能。
経験を積ませる、という意味でも利が大きい。
曹操達は野営する予定を破棄し、直ぐに動き出す。
時は止まってはくれない。
旅をする期間が決まっている以上は有限。
民の事を思えば無視は出来無いが。
今の自分達では独善的な救済は出来ても、その後を含めて責任を持って背負う事は出来無い。
だからこその、将来に繋げる為の旅である。
建設的に考えれば、費やす時は少ないに限る。
しかし、曹操達の罪悪感は意外と少なかった。
それは一体何故なのか。
その理由は卞晧の策であり、遣る気の理由。
そして、密かに傍観している夏侯昭の“眼”。
その報告を受け、夏侯昭が、劉懿が笑むのだが。
それを曹操達が知る事は無いだろう。
水面に小石を投げ入れれば波紋が生じる。
小石一つで波紋の起点は一つ。
小石を二つ投げ入れれば、波紋の起点は二つ。
重なり合う波紋は擦れ違う事無く、打付かり合い、強い波紋が押し勝ち、負けた波紋を飲み込んで更に波紋を大きくする。
「────金仲徳っ!
民を守る県令の身で有りながら、私利私欲を満たす為の搾取を繰り返した罪っ!、赦すまじっ!
この揚台漢の裁きを大人しく受けよっ!」
「くっ!、最早これまで…ならば、道連れよっ!」
「えぇいっ!、抵抗するかっ、愚か者めっ!
構わぬっ!、一人残らず斬り捨てよっ!!」
悪徳官吏である県令・金好の元に踏み込んだのは、啄郡の騎都尉である揚文。
民からの訴えにより、横領が発覚。
揚文は民を救う為、金好を討ち取った。
「────クククッ…金好め、随分とまあ…
だが、貴様の御陰で我が懐が暖かくなったわ…
死んだ貴様の分まで、しっかりと使ってやる
だから安心して笑っていろ、クククッ…」
──というのは表向きな話。
本当は同じ悪徳官吏である騎都尉の揚文が、金好の貯めていた金品を奪い取る為。
民を助ける気など無い。
その証拠に、押収した金品は全て自分の懐に。
民に還元する事など微塵も考えてはいなかった。
「──失礼致します、台漢様」
「どうした?」
「はっ、此度の件を馮尖が察した様です
監視していた者から馮尖が啄県に向かったと…」
「ほぉ…クククッ…馮尖も馬鹿な奴よな
よし、ならば予定通りに配置しておけ
通り掛かったら──判っているな?」
「不運にも“賊徒に襲われて”亡くなられます」
そう揚文に返すと報告に来た男は部屋を出た。
暗闇に揚文の笑い声が響く。
金好を討ち、自分の屋敷へと戻った揚文。
暫し自身の執務室で表向きの仕事を片付けていると吉報が齎され、口角を上げた。
予定通りに馮尖を亡き者にする事が出来た。
流石に直ぐに動けば怪しまれるだろう。
少なからず、馮尖の息の掛かった者達が居る以上、積極的に動き過ぎれば目立つ事は明白。
その隙を突かれぬ様に、伸ばしたくなる手を堪え、ゆっくりと手中に落ちてくるのを待つ。
空から舞い落ちる雪を掌に受ける様に。
だが、一人になれば抑え切れない感情が溢れる。
揚文の高笑いは部屋の外にまでも漏れている。
まあ、それを気にする者は居ないのだが。
その夜、揚文は祝宴を開く様に愉しんだ。
予てより目を付けていた金好の妻。
後妻になる二十四歳の美しい未亡人を二歳の息子の助命を条件に弄び、堪能した。
揚文にとって、宛ら世界が自分を中心に回っている様に思えたとしても可笑しくはない。
それ程に何もかもが上手く行っていた。
──夜が明け、屋敷に幾多の兵が流れ込むまでは。
布団の中、微睡みから抜け昨日の続きを始める様に金好の妻の肌を撫でていた揚文。
服を着る暇も無く、裸のまま縛り上げられる。
「貴様等っ!、これは何の真似だっ?!
私を誰だと思っているっ!
こんな真似をして、只で済むと思うなよっ!!」
「──ほぉ…どう只では済まぬのだ?」
「フンッ!、私は騎都尉だっ!
貴様等の罪を捏造する事など……………なアッ!?」
縛られたまま庭の地面に転がされた揚文は反転して仰向けになると上半身を起こし、兵達を睨む。
いつも通り、地位と権力で白を黒にする。
「これで貴様等は破滅だ!」と言おうとした。
──が、背後からの声に違和感を覚え、振り向く。
すると、其処には揚文を見下ろす男が居た。
啄郡の太守・公孫賛、その人である。
揚文は状況が理解出来ず、鯉の様に口を開閉する。
そんな揚文の首に公孫賛の剣が触れる。
冷たく、硬質な、鋭利な刃の感触に我に返る揚文。
「は、伯珪殿っ、これは一体何の真似ですっ?!」
「…何だ、その「心当たりは有りません」と戯けた事を言いそうな顔は?
まさか、本気で自分が助かると思っているのか?
つい先程、自ら口にしたばかりだというのに?」
「ぐっ……そ、それは………」
「県令の金好・馮尖の殺害と私財の押収と着服…
その他にも貴様の遣ってきた数々の不正と暴挙…
全てを白日の下に晒し、処断する予定だったのだが──余計な手間が省けた
もう此奴に用は無い、殺せ」
「はっ」
「おまっ、御待ち下さい伯珪殿っ!、話をっ!
えぇいっ、話を聞かぬかっ、この若造がっ!」
そう叫び、本性を晒したのが揚文の最後。
公孫賛は振り返る事無く、揚文の屋敷を後にする。
保護された金好の妻子──妻からは事情を聞く。
当然だが、金好自身の罪が消えた訳ではない。
妻子に罪が無くとも、それはそれ、これはこれ。
金好の妻子は罪は問われないが、私財は無い。
二歳の息子が後任に就く事も、である。
それは彼女にとっては大誤算。
彼女は決して、金好を愛していた訳ではない。
金好と居れば裕福な暮らしが出来るから。
だから、自らの美貌を使っただけ。
そして、産んだ息子も彼女にとっては道具。
不要になった物は捨てるか、処分するのみ。
公孫賛は陣内の自身の天幕に入り、溜め息を吐く。
今まで自分に仕えていた者達の数々の裏切り。
それらは最初は信じ難かった。
だが、こうして現実であった以上、間違い無い。
そう、間違い無いからこそ、公孫賛は項垂れる。
「………っ………子儷………まさか、お前が……」
そう呟き、唇を噛み締める公孫賛。
そうなるのも無理も無いだろう。
何しろ事は揚文達だけの話ではない。
啄郡の──いや、幽州の幾多の官吏の情報。
その全てが看過出来無い不正や横領や暴挙。
それだけでも頭が痛いのに、再従弟の名が有る。
幼い頃から実の兄弟の様に育ち、信頼している。
その公孫淳が、悪徳官吏の一人である。
その事実に、苦悩する公孫賛。
しかし、啄郡の太守として、無視は出来無い。
いや、身内だからこそ、他の者には任せられない。
事の真偽を確かめ、自分が裁かねばならない。
それが一族の、公孫家の当主としての責務。
そう覚悟を決めると公孫賛は人を呼ぶ。
現在、幾つもの摘発を同時に行っている。
その担当官の中には当然の様に公孫淳も居る。
少なくとも、自らが動かなくてはならない以上は、彼が自ら証拠隠滅を行う事は難しい。
後は、手の者を使う場合だが。
其方等は押さえられる可能性を考えれば危険。
公孫淳は慎重な為、先ず遣らないだろう。
そう公孫賛は考えている。
勿論、念の為に屋敷には見張りを付けてはいるが。
天幕に入って来た兵士。
公孫賛の直属であり、公孫賛自らが鍛えた部下。
信頼している部下──が、今は信じ切れない。
たった一人の背信・裏切りが、心を曇らせる。
そんな自身の胸中を公孫賛は苦々しく思う。
「至急、子儷に伝令を出せ
李共の所が終わり次第、韋瑜・郭章・沮登を捕らえ証拠を押さえる様に、とな」
「畏まりました」
短く、丁寧に、そう返事をして部下は去る。
一人きりになった天幕の中。
公孫賛は、公孫家の、啄郡の、幽州の中で。
自分が一人きりになった様な孤独感に苛まれる。
それが考え過ぎ、気にし過ぎなのは判っている。
判ってはいるが──拭い切れない不信感を生む。
人間不信に陥ってしまいそうで怖くなる。
だが、自分の責務には、こういった面も有る。
その事を理解し、覚悟を決めるしかないのだと。
公孫賛は自分に言い聞かせるのだった。
そんな公孫賛の様子を離れた森の中、高い木の枝に腰掛けて氣を用いて覗き見ているのが曹操。
読唇術を──いや、読心術を用いずとも判る。
ある意味、人間不信では曹操の方が先輩だ。
だから、公孫賛の苦悩は理解出来る。
だからと言って助けようとは微塵も思わないが。
「華琳様、只今戻りました」
足下──木の根元から聞こえた声に曹操は座る枝を滑る様に離れ、軽やかに着地する。
フワッ…と風を孕み、膨らんだ裳だが、決して翻るという事は無かった。
まあ、此処には男は居ないので見えたとしても別に大して問題でも無いのだが。
その辺りは曹操の自尊心によるもの。
尤も、卞晧が居れば見えても構わない。
寧ろ、然り気無く見せて興奮を誘う所だ。
何故なら、女は狩人、蜘蛛の様に意図を張る。
それは兎も角として。
曹操は偵察と情報収集から戻った甘寧を見る。
「御苦労様、思春、どうだったかしら?」
「はい、現状は予定通りです
公孫賛の大粛清に民は歓喜し、期待しています」
「そう…これで公孫賛は引き下がれないわね」
甘寧の言葉に不敵な笑みを浮かべる曹操。
その言葉通り、今の公孫賛は急死でもしない限り、決して止まる事は許されない。
そうなる様に仕向けたのだから。
三日を費やして、各地の悪徳官吏・商人等の情報を集めた後、それを公孫賛に匿名で提供。
公孫賛が動いた事を確認してから民に大粛清の事を流布して公孫賛を“御輿”として担ぎ上げる。
当然ながら、担ぎ手は幽州の民である。
苦しめられていた民は救世主の如き公孫賛を尊敬し支持し付き従う事だろう。
しかし、その為には公孫賛は手を緩められない。
少なくとも、現時点で判明している悪人達は全て、取り除き切らなくてはならない。
公孫淳も含めて、である。
これは卞晧が提案した策。
公孫賛という家柄や基盤が揃った人物を御輿にし、自分達が掴んだ悪徳官吏等を一掃する。
その為に、曹操達六人は各地に散って情報収集。
曹洪達四人には、民の間に情報を流させた。
揚文や馮尖が掴んだ情報も、それである。
つまり、弱肉強食に基づいた芋蔓式摘発作戦。
地位の高い悪徳官吏等に、下位の悪徳官吏を見せ、巣穴から誘い出し、食い付いた所を狙う。
最終的には公孫賛という釣り手が総取りする。
曹操達は水面下で餌の匂いを拡散させる役目。
感じるが見えない水の流れの様なものだ。
曹操達の実力であれば、粛清対象者達を手分けして仕留めれば一日も有れば全てが片付くだろう。
しかし、それでは一時的に置き替えるだけ。
腐敗を根本的に断つ事には繋がらない。
其処で、公孫賛という改善の象徴を意図的に造り、自他を戒めさせる事で改善と継続を促す。
公孫賛は監視者であると同時に、監視対象者。
そして、その最終判断は民に委ねられる。
──とは言っても、それは公孫賛の主観の話。
実際には民には何の権限も無い。
公孫賛が公孫淳を叱るだけに止めたとしても、民が不満を言い、反抗するという事は無い。
抑として、公孫淳の遣っている事は直接的ではなく間接的な事ばかりだったりする。
その為、民は公孫淳を悪人とは思ってはいない。
だが、公孫賛から見れば、それは裏切りである。
それが重要であり、今回の策の全てである。
外より内に敵を生み易いのが平和の欠点。
適度な争乱や、遣れば勝てるが大変な敵対国。
そういった存在が無ければ、国は内から腐る。
その事を曹操達は旅をしながら嫌と言う程に見て、知って、苦悩し、決意を固めてきた。
そういう意味でも、卞晧の策は良かった。
一時的ではなく、ある程度の持続を見込める。
そして、公孫賛の様な責任感と真面目さが無ければ成立はしない強迫観念による“自己監視”が今回の卞晧の策の要だったりする。
“自分に甘い者”には不可能な事だからだ。
「それじゃあ、貴女は兄さんと合流して頂戴
私も玲生と合流して、最後の仕上げに入るから」
「判りました、どうか、御気を付けて」
「ええ、貴女達もね」
そう言って二人は分かれ、森の中から姿を消した。
氣により強化された身体能力は駿馬を軽々と越え、それでいて使用者の力量次第では足音も消せる。
暗躍する立場となれば、如何に有用かが判る。
そんな隠密向きな氣の使い手である甘寧。
自然の中を流れ行く雲の影の如く駆け抜ける。
甘寧が足を緩めたのは人里離れた山の中。
綺麗な澄んだ泉が心を癒してくれる気がする。
此処が曹仁と落ち合う場所。
だが、曹仁の気配は無い。
隠れる理由も無い為、単純に自分が早かっただけ。
そう結論付けると甘寧は泉を見る。
氣を使っていようと動けば身体は熱を帯びる。
流石に汗だくになる程ではないが。
身体が火照っている事には間違い無い。
靴を脱ぎ、辺りの岩に腰掛け、足を泉に付ける。
爪先に触れた泉の水は想像よりも冷たい。
しかし、寒いと感じる程ではない。
ゆっくりと、足首辺りまで入れ、熱を逃がす。
ふと、甘寧は泉に映る自分の顔に目が行った。
曹操達と比べると目付きが鋭く、可愛らしくない。
脳裏に浮かんだ中に夏侯惇が含まれてはいないが…それはまあ、仕方の無い事だろう。
甘寧は指先で目尻を下げてみる。
…変な顔になるだけで、可愛くはない。
まあ、面白いという意味でなら愛嬌は有るが。
今度は頬を引っ張り上げ、笑みを作る。
……目付きが鋭いから、余計に恐かった。
「…………………はぁ~……」
暫く弄った後、大きな溜め息を吐きながら、立てた左膝に額を当てて顔を伏せ、瞑目する。
両腕は顔を隠す様に組む。
小さな暗闇。
その中が安心する一方、寂しいとも感じる。
脳裏に浮かぶのは曹操達──ではなく、唯一人。
曹仁の顔と姿だった。
自覚したのは…益州で夏侯姉妹が合流した時。
曹操達の中に後から加わった形の甘寧にとっては、夏侯姉妹は“新入り”の様な存在。
勿論、格下扱いしているとかではない。
単純に一行の加入順として、だ。
ただ、二人は曹家の縁者。
卞晧・韓浩とは初対面だったが。
当然、曹操達とは既知である。
曹仁が二人と親しそうに話したりする姿を見ていて甘寧は胸の中に何かが渦巻いていると感じた。
まるで部屋の中に煙が立ち籠めているかの様に。
それが“嫉妬”なのだと気付いた時。
甘寧は生まれて初めての“恋”を自覚した。
自覚後は、暫くは曹仁を過剰に意識してしまう為、自制心が働く距離感を意識的に保っていた。
しかし、当然だが曹仁の傍に居たいという欲求が、知らず知らず距離感を狂わせてしまう。
気付いて慌てない様に取り繕うのは大変だった。
それでも少しずつ、本当に少しずつだが、気持ちを落ち着けられる様に成ってきていた。
──先日の、韓浩と夏侯惇の一件までは。
はっきり言ってしまえば、嫉妬である。
別に告白したとか、そういう事ではないが。
客観的に見て、相思相愛な事が羨ましかった。
曹仁と、そうなる事を甘寧は望むのだから。
そんな想いを抱えながら、平静を装い続ける。
当然だが、精神的な負担は小さくはなかった。
だからなのだろう。
「……………隼斗さん…」
甘寧は思わず、曹仁の名を呟いていた。
勿論、甘寧自身が意図した事ではなかった。
ただ、“恋愛の女神”は気紛れで──悪戯好き。
悩める少女に予期せぬ無茶振りをする。
「済まない、待たせた様だな」
「…………ぇ?」
不意に、しかし、当然の様に掛けられた声。
甘寧が聞き間違える筈は無く、顔を上げた。
念の為に気配を薄れさせていた曹仁。
それでも顔を伏せたまま容易く気付いた甘寧に対し感心しながらも自身の未熟さには溜め息。
「まだまだだな…」と思いながら声を掛けた。
だから、御互いに不意打ちの状態が出来上がった。
顔を上げた甘寧の頬を伝うのは緩んだ蓋の隙間から溢れ出してしまった秘していた想いの雫。
それは甘寧自身でさえ、自覚していなかった事。
当然ながら曹仁は焦り、気付いた甘寧も慌てて。
甘寧は何とか誤魔化そうとする。
だが、動揺が思考を混乱させ、上手く行かず。
「嫌われてしまうっ…」という悲観的な結末ばかり思い浮かんでしまい、止まりもしない。
そんな甘寧を曹仁は抱き締めた。
何も言わず、ただただ強く、優しく、抱き締めて。
それは卞晧の洗脳の賜物だったりする。
「泣いている女性には胸を貸すのが男の責任」とか「女性を泣かせてしまったら男が悪い」とか。
…まあ、卞晧自身も母親に洗脳されたのだが。
兎に角、それが此処で活かされた。
そんな曹仁の腕の中で甘寧は次第に落ち着いて行き──自然と自身に素直になれていた。
少しだけ曹仁の胸板を押し、身体を話すと顔を上げ真っ直ぐに見詰める甘寧。
曹仁が見詰める中、甘寧の唇が想いを紡ぐ。
きっと、二人を始め、彼方此方で覗き見をしている女神は「ドッキリどきどき大成功!」等と書かれた手持ち看板を持って笑顔を浮かべている事だろう。
尤も、今回に限れば、微笑んでいるのは離れた所で高い氣の技術を無駄遣いして二人の様子を把握し、打合掌している夫婦が居るのだが。
見られている事など当事者達は知らないのだが。
曹操達が行動を開始してから二週間。
予期せぬ祖母の無茶振りに頭を痛めていた曹操だが今回も結果的には感謝する事になった。
何だかんだで、当初ならば見過ごすしか無かった、悪徳官吏達を粛清する事が出来たのだから。
勿論、その遣り方が万能ではない事も含めて。
今回の経験は大きな糧になると実感している。
「──さて、準備は出来たわね
それでは改めて…皆、御疲れ様、よく遣ったわ
私達の立場上、直接は関係の無い幽州の地だけれど虐げられていた民の未来に可能性を拓けた…
その先までは今は背負えはしないけれど…
この経験が私達を成長させてくれるわ
…だから、先ずは素直に喜びましょう、乾杯っ!」
『乾杯っ!!!!!!!!』
曹操の合図で、全員が手にした深めの造りの木杯を軽く打ち合わせる。
一般的には「無作法だ」と言われる行為だが。
曹家や馬家では馴染み深い簡易祝儀の表現方法。
付け加えるならば、孫家でも同様である。
そして、木杯に注がれた白酒──強さ控え目──を皆で一斉に呷ってゆく。
勿論、一気飲みではなく、その辺りは個々の判断。
そして、並べられた料理へと手を伸ばしてゆく。
そんな中で曹操は卞晧を小さく睨んだ。
本当ならば、まだ話したい事が有ったのだが。
卞晧に「華琳、話が長いのは不粋だよ?」と視線で注意された為、途中で切り上げた。
実際には予定の一割も話していない。
しかし、皆の反応を見れば卞晧の判断が正しかった事を嫌でも理解させられる。
だから、それは曹操の細やかな抵抗。
其処に深い意味は無かった。
「なあ、華琳?、この赤い御飯は何だ?
──っていうか、食えるのか?」
「ああ、それは“御赤飯”という料理よ
元々は玲生の御母様が教えて下さった料理でね
“御祝い事”で出される家庭料理なのよ
結婚祝いや出産祝い、成人祝いや就職祝いとかね」
「へぇ~…どれどれ………ん…不味くはないけど、特に特徴的な味付けって訳じゃないんだな」
「まあ、見た目が縁起物の料理だしね
物足りないなら胡麻塩を振ると良いわよ」
──という曹操は馬超と話しながら、自分の言葉に噎せ掛けていた二組に視線を向けていた。
今回の件では二人一組で行動する機会が多かった。
──と言うか、意図的に多くしていた。
表向きには行動し易く、裏では卞晧との時間造り。
──と思わせて、その実は各組の関係促進が狙い。
その甲斐有って、二組が一線を越えてくれた。
御赤飯は、そんな二組への曹操からの御祝い。
ただ、曹操と卞晧が把握していたとは知らない。
二人の氣の感知範囲は皆が思っている倍以上だが、二人が敢えて伏せている為だ。
曹操達も態々話題にする気は今は無い。
だから、当事者達は偶然だと思った。
それは兎も角として。
曹操達は無事に幽州の大粛清を完遂した。
正確には、今後の公孫賛時代ではあるが。
取り敢えず、現時点での自分達が成し得らる中では最善策と考えられる選択肢をし、実行した。
その結果としては、十分に満足出来ると言えた。
街中では目立つ為、野営にて簡易の祝勝会を催し、こうして無礼講で、少量の飲酒も許可している。
その達成感に水を指す真似を自分の話で遣るという事は確かに不粋だと曹操も納得した。
…全く気にしていない訳ではないが。
それは今夜、卞晧に責任を取って貰うだけ。
そんな曹操の目の前では、料理を食べながら馬超が考え込み、大きな溜め息を吐いた。
曹洪との関係に関しては心配していないし、急かすつもりもないので候補にすら挙げない曹操。
料理を食べながら馬超の言葉を静かに待つ。
「…こうして目の当たりにすると、よく判るな
自分達が如何に恵まれた環境で生まれ育ったのか」
「ええ、そうね…私達は恵まれているわ
勿論、それに伴う責任や義務は有るけれど…
その恩恵を享受する以上、負うべきものよ
──とは言え、それに反発したくなるのも人間ね
少し前の貴女みたいに、無い物強請りをする様に」
「ぅぐっ…それを言うなって…」
少し沈んだ口調の馬超の真面目な自分を恥じる様な独白に皆の雰囲気も一転した。
それを感じ取った曹操は同調しながらも馬超の事を揶揄う様に言う事で場の雰囲気を弛緩させる。
こうして自分の言動を省みて学ぶ事は大切だ。
しかし、それに囚われ過ぎては進めなくなる。
時には、後先考えない行動力・決断力も必要。
その事を曹操は理解している。
──否、こうして旅をする事で理解が出来た。
頭抜けた才器故に生じる孤独感による溝や歪み。
それを卞晧という同じ存在が橋を架けてくれた事で向き合う事が出来、その先へと至れた。
だから、こうして今度は自身が他の者を導く。
そうする事の必要性を今の曹操は理解している。
押し付けるのではなく、教え導く事の大切さを。
自らが考え、導き出す事の意味を。
この旅で曹操も確かに成長しているのだから。
「翠、貴女だけじゃないわ
私や玲生、他の皆も同じよ
私達は何も無い所から突如生まれた訳ではないわ
父母が居て、祖父母達が居て、祖先が居て…
その末端として私達は此処に在るの
だから、時には理不尽な因縁も有るでしょう
勿論、その逆に恵まれている事も有るわ
ただ、それらを棄てたとしても断ち切れはしないわ
私達の子供や孫…その血筋が残る限り続くのよ」
そう言って言葉を切った曹操は馬超を始め、一同を見回してゆき、最後に卞晧と見詰め合い、微笑む。
それは本の一瞬の事なのだが。
それでも二人だけは確かに通じ合える。
脳裏には幾つもの可能性が思い浮かぶ。
それらは必ずしも良い事ばかりではない。
しかし、それは享受するだけの事ではない。
自らが考え、決め、動き、掴み得る事が可能。
自分次第で、良くも悪くも変わってゆく。
そういった無数の可能性が幾重にも絡まる糸の様に長短太細も様々に延びている。
その一糸を指先に絡め、手繰り寄せる。
「──だからこそ、私達の歩みは大きな岐路よ
王朝は枯れ、中から腐敗し形骸化して逝くのみ…
軈て朽ち果てた後、大地は次の皇帝になろうとする次代の権力者達による群雄割拠へ
その中で未来を勝ち取る事が私達の天命よ」
「…………はぁ~……此処で「飛躍し過ぎだ」って言えないのがなぁ…
本当、母さんが私に外に出て学ぶ様に言ってたのも今なら意味が理解出来るんだよなぁ…」
「まあ、何て言うか…頑張れ、翠」
「あら、他人事みたいに言っているけど、兄さんは馬家に婿入りする身なのを忘れたの?」
「…そうだぞ、忘れたのか?」
「いやいや、今、翠も「あっ、そうだったな」って顔をしてたよね?
忘れてたのって俺だけじゃないよね?」
「ぅっ…」
「はぁ~…其処で切り返せない辺り、まだまだね」
「くぅっ…」
「ほらほら、二人して翠を苛めないで」
劣勢な馬超に助け船を出す卞晧。
勿論、曹操の意図は理解しているが、脱線し過ぎてしまいそうだった為。
それを曹操も察したので文句は言わず、軌道修正。
「まだまだ私達は未熟な身だし、立場も弱いわ
それでも背負っているものの量や大きさは一般的な民とは比べ物にならない事は確かよ
それを投げ出し、逃げ出す事は簡単だけれど…
その先を、想像出来無い程、愚かではないわね?」
曹操の言葉に馬超達は沈黙・瞑目し、考える。
幽州は勿論、これまでに旅をした中で見てきた。
そういった状況に、家族が、一族が、親しい者達が身を置く事になり、嘆き、苦しみ、死んで逝く。
そんな状況を是と出来るかと言えば──否。
当然ながら、許容出来る訳が無かった。
馬超達は目蓋を開け、曹操を真っ直ぐに見詰める。
頭では理解はしていた善悪、理想と現実。
だが、実感が伴わなかった故に芯と成り得なかった覚悟と意志が、此処で至る事が出来た。
それを感じ、曹操は笑む。
「私達は独りではないわ
だから、一人ではなく、共に背負って行きましょう
目指す理想は幾多の困難と試練の先…
私達が理想の果てを直に見る事は叶わなくとも…
その意志を、その信念を継ぎ繋ぎ、至らせる
遥か三千年先の未来へと
その第一歩、その礎を、私達は築いて行くのよ」
「………いや、華琳、三千年って…」
「…気長にって話じゃないな、想像出来無ぇな」
「ふふんっ、当然だな!、お前達程度では華琳様の御意志を完全に理解する事など出来る訳が無い!」
「このっ…なら、そういう春蘭はどうなんだよ?
お前なら華琳の意志を理解出来るのか?」
「愚問だな!、私如きが理解出来る筈有るまい!」
「偉そうに言う事かよっ!、この馬鹿っ!」
「馬鹿とは何だ!、翠も私と同類だろうがっ?!」
「一緒にするなっ!、私の方が多少は増しだっ!
………増しだよな、翔馬?」
「え?、此処で俺に振るの?」
真面目な話が一転、賑やかな喧騒に包まれる。
小さく溜め息を吐きながらも、曹操達は笑む。
自分達の子供達や孫達が、同じ様に笑い合える。
そんな未来を築き上げる事。
それが、自分達の行く道。