表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 星巴伝  作者: 桜惡夢
一章 雷覇霆依
12/38

十一話 同床異夢


曹洪と馬超の事実上の婚約が決まり、数日の滞在で関係を深めた曹洪は馬超の弟達からは「義兄上」と既に呼ばれており、逃げ道は断たれていた。

尤も、姉妹に挟まれた環境で育った為か、曹洪自身義理とはいえ弟の存在は嬉しく思っていた。

馬超の事も、何だかんだで意識しているので。

ある意味、曹洪は“勝ち組”だと言えた。


そんな訳で新たに馬超を加えた一行は涼州を離れ、司隷へと歩みを進めていた。

ある意味、曹操・卞晧・韓浩にとっては住み馴れた場所ではあるのだが、それは洛陽限定の話。

司隷の、それも西側・北側の事は知らない。

まあ、一行の中では旅をしていた卞晧が一番世間を知っていたりはするが、それも今は昔の話。

ずっと同じままで存続し続けるという事は難しく、時代に合わせて変化してゆくのが常である。



「貴様が遣れと言っただろうがっ!」


「手加減って物を知れっ!、この怪力馬鹿女っ!

何処に野菜を「細かく刻んでくれ」と言われて磨り潰す奴が居るんだよっ?!」


「ふふん!、今、貴様の目の前に居るっ!」


「自信満々に自分の馬鹿さを威張るなっ!

──と言うか、どうするんだよ、これっ!」


「食えなくはないだろう?、寧ろ食い易い!」


「食感が無えよっ!」



──と、口喧嘩をしているのは夏侯惇と韓浩。

事有る毎に打付かり合う二人は犬猿の仲。

既に見慣れた光景と為っているが、例外が約一名。

出逢ってから初めて見る二人の様子に慌てて曹操に「止めなくてもいいのか?」と訊ねた馬超。

当然ながら曹操は「いつもの事よ」と放置。

それを見ながら、馬超も従っていたのだが。

終わる気配の無い過熱振りに不安になっていた。



「貴女達も似た様な感じだったわよ、“翠”」


「ぅぐっ…それは言うなって…反省してるって…」


「ふふっ…まあ、自分から「料理を教えてくれ」と言ってくる位だから、心配は無用でしょうけどね」


「なあっ!?、しょしょっ、そういう事言うなっ!

アアアタシは別に“翔馬”の為とかじゃなくて…

そうだっ!、こうして旅をするんならアタシ自身も料理が出来た方が安心だからだよっ!」


「あら、私は「兄さんの為に」だなんて事は一言も言っていないわよ?」


「……へ?────ぁああっ!?」


「それに、「そうだっ!」なんて言っている時点で明らかに後付けだってバレバレじゃないの…

誤魔化すのなら、せめて上手く遣りなさい

慌てて取り繕おうとするから墓穴を掘るのよ?

後、さっきは敢えて名前を出さなかったのよ?

それに気付いていたのかしら?」


「…ぅっ……ぐっ…………気付いてません…」


「…やれやれね……まあ、“桔梗”が成長の為にと私達に預けるのも頷けるわね

今のままだと交渉とかで遣らかしそうだもの」


「………………」



呆れた様に言う曹操の視線から逃げる様にして顔を外方に向けてしまう馬超。

反論したくても脳裏には言葉通りに遣らかす自分の姿が思い浮かんでしまっていた。

母・厳顔に「一緒に旅をして己が未熟さを知って、その上で様々な事を学んで来い」と言われた時には思わず「巫山戯んなっ!」と言いたくなった。

しかし、こうして歳下の曹操に指摘されてしまえば否定など出来無くなってしまう。

──と言うか、「ああ、それから婿殿とは励めよ、

“子連れ”で帰ってきても構わぬからな」と言って笑顔で尻を叩かれたのが絶対に悪い。

間違い無く、厳顔の一言が原因だ。

そう馬超は言い切れる程、曹洪を意識している。

そうでなくても曹洪には惹かれているのだ。

仮に、婚約の話が無かったとしても、馬超の懐いた今の気持ちは存在している事だろう。

そう言い切れる程なのだから。


曹操は曹操で馬超を揶揄い愉しんでいる。

既に婚約が纏まった事も大きな要因だが。

如何せん、馬超の反応は揶揄い甲斐が有るのだ。

愉しくて、面白くて、止められない。

曹操自身、根が悪戯好きな事も有るのだが。

馬超の反応は実に嗜虐心を擽るのだ。

──とは言え、それが将来的に曹家と馬家の関係に罅を入れてしまう要因にはしない様に注意。

飽く迄も家族の、義従姉妹の関係の範疇での事。

その辺りの加減は曹操も弁えている。

尤も、欲を言えば、今ので曹仁に話題を飛び火させ甘寧に嫉妬させて想い()を煽りたかった。

此方等は刺激し過ぎには要注意案件なのだが。



「それはそれとして、ほら、手元に集中しなさい

兄さんに見惚れてると指を切るわよ?」


「~~~~~~っ!?、一々言うなーっ!」


「はいはい、判ったわ、言わない様に善処するから先ずは言われた通りに遣りなさい」


「くぅ~~~~っ………」



然り気無く曹操に指摘された通りだった。

気付けば曹洪の姿を目で追っている馬超。

意識していないからこそ、他者から言われて初めて事実に気付くと、恥ずかしさは倍増し。

馬超の様に口に出せる性格でなければ、逃げ出すか俯いて茹で上がっている事だろう。

まあ、そこまで純情な事が大前提ではあるが。

馬超は羞恥心を誤魔化す様に意識を移す。

図星を突かれ、真っ赤になりながら曹操に言われた包丁での野菜の皮剥きの続きを再開した。


だから、馬超は気付かなかった。

曹操が「善処するから」と言った事に。

そう、曹操は「遣らない」とは言っていない。

だが、未熟な馬超は気付けなかった。

隣で厳しく指導するのは鬼ではなく、悪魔だと。


そんな曹操と馬超の様子を見ながら微笑む卞晧。

妻の愉しそうな、年相応な表情を嬉しく思う。

何だかんだで、曹操には対等に近い関係の女友達は今まで一人も居なかった。

だから、砕けた性格の馬超の存在は曹操にとっても大きな意味が有ると言える。

甘寧や夏侯姉妹との関係は良好だが。

どうしても主従関係が先に入ってしまう為、自然と曹操との間に一定の距離感が生まれてしまう。

それが無いのが馬超との関係である。

馬超だからこそ、と言ってもいい位だ。

…まあ、曹洪との縁談の件には触れないが。

それに関しては卞晧は関わるつもりは無い。

曹洪ではなく、韓浩が面倒臭いからだ。


そんな卞晧だが補佐を務める夏侯淵と一緒に今夜の主菜を作っている。

尚、甘寧と曹仁は一緒に別の作業中だ。

其処に主人達の意図が有る事は言うまでも無い。

此方等には卞晧は積極的に絡んでいるが。

それは一々言う事でもないだろう。



「そう言えば、秋蘭達には許嫁とかは居るの?」


「いいえ、私達に許嫁等は居りません

まあ、家を継ぐのが姉者にしろ、私にしろ婿を取る事だけは確定してはいますが…

今の所は、それだけですね」


秋蘭なら(・・・・)縁談も多そうだけど?」


「……まあ、少なからずは、有りますね」



卞晧の言いたい事を察し、夏侯淵は苦笑する。

別に夏侯淵自身は意識している訳ではない。

料理を始め、家事が出来るのは単純に好きだから。

姉である夏侯惇が男勝りで、兄の様な人物が故に、その世話をしている内に身に付いただけの事で。

自分から「良い嫁に成る為に」と意識して頑張った結果という訳ではない。


だが、客観的に見れば、それは関係の無い事。

夏侯淵は「良妻賢母に成るな」と褒められる程に、家庭的な女性へと成長している。

しかも、文武両道とくれば引く手は数多有る。

曹家の睨み(・・)が無ければ既に嫁いでいる。

そう言い切れる位だったりする。


卞晧から見ても夏侯淵は魅力的な女性だと言える。

曹操という愛妻が居なければ、この場に居る女性の中でなら間違い無く夏侯淵を妻に選ぶだろう。

そう言い切れる程にだ。

勿論、それは“たられば”の話でしかない。

浮気をする気も無いし、側室も取る気は無い。

卞晧にとって“女”は曹操一人なのだから。

だから、これは飽く迄も「嫁にするなら」の話。

それ以上でも、それ以下でも、それ以外でもない。



「秋蘭自身は結婚に付いては、どう考えてるの?

流石に結婚する気は無い訳じゃないんでしょ?」


「はい、それは勿論、したいとは思っています

…ただ、私の場合、姉者の事が有りますから…

姉者の縁談が先に纏まれば、でしょうね」


「春蘭の縁談、ねぇ……悪い娘じゃないけど…」


「──ええい!、今日という今日こそは私が貴様に年長者を敬う心を教えてくれるわっ!」


「はっ!、年長者?、敬う心?、先ず手前ぇ自身の言動を見直してから言えってんだっ!」


「己の愚かさを死に晒せっ!」


「どう遣って殺して教えるんだ糞脳筋っ!」



──と、互いに剣を抜いて斬り合い始めた二人。

その様子を見てから、卞晧は夏侯惇に向けた視線で「…本気で縁談が纏まるまで待つの?」と訊ねる。

姉の事を信じてはいるが、流石に夏侯惇も不安から思わず視線を逸らしてしまった。

何しろ、下手をすると夏侯家を潰してしまう場合も十分に考えられてしまうからだ。

──と言うか、結婚した姉の姿を想像出来無くて、つい、夏侯淵は胸中で姉に愚痴ってしまう。



「…まあ、春蘭の事は置いておくとして…

秋蘭としては、どういう人が良いの?

或いは、気になる人が居たりする?」


「…いえ、そういった方は居ません

家の事を考えれば、私の意見は無意味ですが…

……そうですね…やはり、誠実な方が良いです

別に側室が出来ても気にはしませんし、一緒に夫を支えていくだけですが…

あまりに酷い方は嫌ですね

後は……まあ、頭抜けていなくても構いませんから文武両道な方だと嬉しいですね

互いに高め合えれば言う事無しですが…

やはり、ある程度は理解して貰える相手である方が私としても気を遣い過ぎなくて済みますから」


「あー……大抵の男って自分より優れてる奥さんを嫌がる傾向が強いもんね~…

俺と華琳、翔馬さんと翠さんみたいな関係って実は意外と珍しい組み合わせだもんね…」


「華琳様と玲生様は特別だとは思いますが…

まあ、仰有る通りですからね

そういう意味では私達の場合、結局は家同士による政略結婚になる可能性は高いと思います

ですから……私の作る料理を残さず、美味しそうに食べてくれれば…それで十分だと言えますね…」


「それってさ、春蘭が男で、実兄弟じゃなかったら条件的にドンピシャだね」


「……ふふっ、ええ、確かに、そうですね」



卞晧の言葉に促される様に想像した夏侯淵。

その様に言われてみれば、確かに夏侯惇が男ならば自身の理想とする結婚相手に近いと言える。

…まあ、文武両道ではないのだが。

それでも間違い無く幸せな家庭を築けるだろう。

夏侯惇の様な性格の男ならば、彼我の能力を比べて劣っているからと言って嫉妬はしない筈だ。

寧ろ、自分が活躍出来る様に尽力してくる。

そういう豪気な男だろうから。

だから、自然と笑みが溢れた。

ただまあ、理想の結婚相手が殆んど実の姉と同じ、という事実には可笑しくなってしまったが。

夏侯淵は嫌な気はしなかった。


一方、夏侯淵に合わせる様に笑う卞晧だが、会話の流れの中で夏侯淵が一瞬だけ覗かせた無意識の変化を見逃しはしなかった。



(へぇ~…秋蘭には気になる相手が居るんだ…

二人の周辺情報は無いから俺には判らないけど…

華琳だったら今の情報が有れば絞れ込めるよね)



──と、妻に負けず劣らず密かに企んでいた。

夏侯惇には悪いのだけど、卞晧は夏侯家の跡取りは夏侯淵になるだろうと確信している。

夏侯惇は嫁には出せても、跡取りには不向きだ。

だから、嫁の貰い手が居さえすれば夏侯家としても直ぐに縁談を纏める事だろう。

それ位に、不向きである。


尚、野営地の近くには天然の温泉が湧いていた。

一行は旅の疲れを癒す様に男女別に堪能した。


普通であれば、思春期の男子達である。

美少女達の入浴を覗きたくもなる所だが。

そんな命知らずは此処には居なかった。

もし、覗きをしようと企てようものならば、笑顔が全く笑っていない卞晧に「何処に行くのかな?」と問い詰められ、死刑宣告を受ける事だろう。

何しろ、独占欲の強さなら卞晧も頭抜けている。

「あら、私の方が強いわよ」「いいや、俺だね」と互いに譲らず、そのまま確かめ合い始めるのだろう負けず嫌いな似た者夫婦なのだから。






まだ悠久の空に瞬く星々が眠りに就くよりも早く。

湯煙の中、ゆっくりと湯面に波紋を刻み込む。

火照った身体には、素肌を撫でる冷えた夜の空気が丁度心地好かったりする。

一汗掻いて、朝温泉を楽しむのは曹操と卞晧。

こう遣って皆との旅の中でも夫婦水入らずの時間を作り出しては思い出と絆を増やしている。



「秋蘭に気になる相手が、ねぇ…

気付かなかったけれど…まあ、私自身も玲生に逢う以前は余裕が無かった事も有るから…

そういう意味では居ても可笑しくはないわね」



そう昔を振り返りながら言う曹操。

今でこそ、この様な感じで当時の自身を客観視して反省したりも出来るのだが。

当時は本人に余裕は無かった。

何時、破裂しても可笑しくはない、そんな状況下で夏侯淵が「実は気になる方が…」と恋愛相談をする空気が読めない真似は出来無かっただろう。

──となると、その想いは自然と秘される訳で。

当時の曹操が知る可能性は無いに等しいと言える。

だから、こうして卞晧が先に気付いたというのも、別に可笑しな話ではない。


尤も、無意味に心配性で嫉妬深い女性なら夏侯淵の言動から付き合いの長い自分より先に気付いた事に「自分以上に気にしているのでは?」と勘繰って、そのまま喧嘩や破局に繋がってしまう場合も有る。

そう曹操が為らないのは、信頼関係が確かな為。

何だかんだで曹操は卞晧が自分以外では満足しないという事を身を以て理解しているのだから。

まあ、だからと言って嫉妬しない訳ではない。

ただ、今回の場合は単純に必要が無いだけの話。

女心・乙女心は不可思議で、時に理不尽である。


そんな少々自嘲気味な曹操を抱き寄せながら卞晧は「昔の話だからね」と言う様に唇を湯で濡れている曹操の素肌へと優しく重ねた。

擽ったさと共に包まれて満たされる幸福感を感じて曹操の落ち込み掛けた気分は晴れる。

それを察して卞晧は会話を再開する。



「秋蘭の性格的に歳下は弟分でしかないだろうから同い年以上なんだとは思うんだけどね

俺は二人の人間関係とか知らないから…」


「それは仕方の無い事だもの、追々で十分よ

それよりも秋蘭の気になる相手なのだけれど…

多分、“曹丹”兄さんじゃないかしら…」


「曹丹さんって…確か秋蘭達とは同い年だよね?」


「ええ、それから秋蘭達の母親である李寧小母様と兄さんの母親の李葉伯母様は再従姉妹でね

だから、両家は昔から付き合いが深いのよ」



卞晧は曹操を抱き締めながら記憶の糸を手繰る。

腕の中で悪戯をしている曹操の事は気にし過ぎない様に一時的に意識を思考に向けて。

一度しか会った事がなく、話したのも僅かだが。

卞晧の記憶の中の曹丹は気さくで穏やかな印象で、しかし、芯の強さを感じさせる人物だった。

今回の旅の同行者が成人している事──十五歳以上だった為、候補者からは外れてしまったが。

此処に居ても可笑しくはない人物だと言えた。


曹丹は、曹操の祖父・曹真の側室である陳遼の子で三男・曹邵の次男として生まれた少年である。

母は曹操が言った通りであり、夏侯家とも縁が深く夏侯姉妹とは曹操に次いで血縁関係の深さも有り、幼少期から親交も深かったりする。

立場的には曹家の分家筋という事で曹丹の方が多少上位になるのだが、同い年という事もあり、三人は実の兄妹も同然の気安い関係でもある。


そんな関係を知っているからこそ、曹操も卞晧から話を聞いて思い当たったのが曹丹だった訳だ。

思い返せば「成る程ね…」と思える節も多々有り、改めて当時の自分を情けなく思う。

まあ、それは後で最愛の夫に甘えて癒すのだが。



「伯父様の長男の曹雄兄さんは四歳上だけれど…

後継ぎだし、既に婚約者が居るから対象の候補から外しても良いでしょうね」


「秋蘭は横恋慕する様な質じゃないだろうしね」


「そうね、引き摺らずに次に(・・)行く方ね

何方等かと言えば春蘭の方が引き摺るでしょうね

ああ見えて其方(・・)は私達よりも不器用だもの」


「もし、俺が死んだら華琳は再嫁する?」


「嫌よ、玲生以外と結婚するだなんて

だから最低でも一人出来るまでは死なせないわよ」


「……喜んでいいんだよね?」


「ふふっ…さあ、どうかしらね

でも、此方(・・)は嬉しそうだわ」



そう言って挑発的に笑う曹操は歳不相応に妖艶で。

卞晧も男としての本能を刺激され、誘われる蝶に。

花が芳蜜で引き寄せる様に、子孫繁栄へ繋ぐ。






夜が明け、出発し、特に何も起きないまま夕方には予定通りに街へと一行は到着した。

馬超が「何か拍子抜けだな…」と呟いた様に。

確かに、粗未成年の曹操達一行の旅としては想像の危険性を下回る内容だと言えた。

だが、それは飽く迄も“今回の道程は”である。

最初から考えると、十分に危険な旅だと言えた。

それを馬超は知らないから言った訳だが。

曹操達は勿論、曹洪も教えはしない。

何故なら、それでは経験に為らないから。

“そういう油断の恐さは身を以て知るべきである”

というのが卞晧の方針であるが故に。


それは兎も角、宿探しと夕食決めの為に走って行く韓浩・曹洪・夏侯惇。

そう、毎回という訳ではないのだが、夏侯惇も結構参加していたりするのだ。

「食いたい料理(もの)が有るなら勝ち取れっ!」の韓浩の一言で夏侯惇の負けず嫌いに火が点いた為だ。

…まあ、それ自体、店が決まった後から、夏侯惇が「私は今日は濃い料理の気分ではない」等と何度か文句を言い、韓浩と揉めた為なのだが。



「…何と無くは感じてたんだけどさ

翔馬って普段は結構子供っぽいんだな…」


「翔馬さんに限らず男って子供っぽいと思うよ」


「……玲生や隼斗さんでもか?」


「うん、そういう部分は少なからず有るよ

ただ普段から出易いかどうかが違うだけでね」



馬超が卞晧・曹仁の名を挙げたにも関わらず、誰も「韓浩は?」と口を挟まないのは不要だから。

ある意味、一番子供っぽいのが韓浩なのだから。


──とは言え、そういう存在は一人は必要だ。

皆が皆、優等生ばかりでは議論等成立しない。

様々な意見とは、異なる価値観・視点により生じ、それらが打付かり合い、組み合わさり、新たな解(可能性)を導き出すのだから。


そういった意味では馬超も韓浩側だったりする。

本人に自覚は無いのだが。

厳顔が曹操達に馬超を預けたのも優等生に教育する為ではなく、経験を積ませ成長させる為。

それを曹操達は理解しているからこそ、表向きには馬超を“教育する”体で接している。

勿論、本当に必要事も教育してはいるのだが。

本来の意図とは大抵が隠されているものである。

それに馬超が気付けば、素晴らしい事だが。

曹操達も厳顔も其処まで欲張ってはいない。



「玲生もだけど、隼斗兄さんは特に出難いわよ」


「まあ、それは何と無く判るな…」


「お帰り、手配は終わったの?」


「ええ、後日、馬家からも正式な書状は届けられる事には為っているけれど、私からも一足先に事情を報せておかないといけないしね

翠と翔馬兄さんの事を、ね」


「──なぁっ!?」



「用事が有るから」と別行動していた曹操が戻り、会話に加わると態とらしく内容を強調する。

それを受けて馬超は声を詰まらせ、顔を赤くした。


曹操の“玩具”にされている馬超を誰も助けない。

それは基本的に皆が曹家の、曹操の側だからで。

何より、“貰い火”はしたくないからだ。


──と、其処に韓浩達が戻って来る。

顔を背け合っている韓浩と夏侯惇を背に引き連れ、苦笑している曹洪の姿から大体を察した。

勝者は曹洪であり、それは韓浩と夏侯惇が御互いに邪魔し合った結果の“漁夫之利”だと。


そんな訳で、曹洪の案内で夕食を取る為に店へ。

今までは席等は適当だったが、今は少し違う。

以前は、卞晧の左には必ず曹操が座っている以外は決まってはいなかったのだが。

現在では馬超と曹洪、甘寧と曹仁が隣合うか対面に位置する様に座る事が決まり事になっている。

──と言うか、然り気無く曹操達が誘導している。


料理を注文し、来るまでは雑談となる。

その時間は御互いを知り合う為でもあり、価値観や思考の基準を知る機会でもある。

その為、曹操も卞晧も話題を振る際には、役に立つ(・・・・)情報を与える様に配慮している。



「なあ、この後は并州に向かうんだよな?」


「ええ、だけど、その前に長安に行くわ」


「…長安に?、けど、確かに彼処って…」



韓浩の問いに曹操は長安行きを告げる。

長安の名を聞いて馬超が眉根を顰める。

だが、それは当然の反応だと言えた。


曾ては国都として栄えていた長安。

しかし、今では荒廃し、無法地帯となっている。

勿論、完全な廃墟でも、賊徒の根城でもないが。

恐らく、日常的な犯罪者数の多さ、犯罪率の高さは漢王朝一だと言えるだろう。

それでも改善出来無いのは、手を出せないから。

長安は裏で様々な利害や思惑が交錯している地。

下手に手を突っ込めば、一気に大炎上し、国を焼く可能性も十分に有り得る為なのだが。

それは曹家や馬家も無関係ではない。

それだけに扱いの難しい場所だったりする。


そんな長安に行くと言えば、表情も渋くもなる。



「だからこそよ、長安を知る事は国を知る事…

私達が背負うべき、未来へ残してはならないものが何であるかを知る為にも行く必要が有るわ」


「洛陽が表の縮図なら、長安は裏の縮図だからね

何方等か片方だけじゃなくて、何方等も知っておく事が本当に重要だったりするんだよ」


「………何て言うかさ、二人の話を聞いてアタシは「自分の器が小さいな」って思ったんだけど…」


「うん、大丈夫、間違ってないから」


「あら、酷いわね、兄さん…

そんな言い方だと私達が可笑しいみたいじゃない

それとも落ち込む翠を放って置けないとか?」


「「──えぇっ!?」」


「──って何で翔馬が驚くんだよっ?!」


「えっ!?、其処っ?!」


「大丈夫よ、兄さん、安心したら?

翠のは十分に大きいじゃないの」


「……へ?────なぁっ!?、~~~~~~っ!!」


「──って、俺っ?!、えっ!?、俺に来る訳っ?!」



曹操の言葉の意味が判らず首を傾げた馬超だったが曹操の視線を辿って行き、その意味に気付く。

同時に、同じ様に曹操の視線を辿り、意味を知った曹洪が「ああ、確かに…」と納得して油断していた所で馬超と視線が打付かった。

馬超は両手で隠す様に押さえながら、曹洪を睨む。

羞恥心に真っ赤になりながら、涙目で。

そんな責任転嫁(言い掛かり)に戸惑う曹洪。


そんな二人の様子を肴に暇を潰す笑顔の曹操。

何も子供っぽいのは男だけではない。

女性にだって、こういう子供っぽさは有る。

ただ、男女で方向性が違うというだけで。

それは誰にでも有る、童心という一面である。



「…そう言えば、玲生様、街で聞いたのですが…

北方では“黒鬼党”という名の山賊の一団が随分と好き勝手遣っているみたいです」


「黒鬼党?、本当に?、聞き間違いじゃない?」


「ぇ、ええ…少なくとも聞いた話では確かに…」



話題を変えて二人を助けようとした甘寧だったが、卞晧の意外な反応に戸惑う。

別に問い詰めている訳ではないのだが。

卞晧の気配──特に眼差しが鋭く感じられた為に、甘寧は思わず臆してしまう。


そんな卞晧の反応を曹操が見逃す筈は無く。

馬超と曹洪で遊ぶのを止め、卞晧に意識を向ける。



「何か気になる事が有るの?」


「…昔、まだ母さんと旅をしていた時にね…

母さんと潰したんだよ、その黒鬼党を…」


「なら、その時の生き残り(残党)って訳か…」


「いや、それは無いよ、母さんが壊滅させたから

だから、少なくとも一度は確実に滅びてる」


「だったら、有名な悪名を使って箔を付けようって考えなんじゃないか?

そういう連中って珍しくはないだろ?」


「……そうだね、それなら良いんだけど…」



馬超の言葉に納得した様に雰囲気を変える卞晧。

ただ、曹操だけは卞晧の横顔から何か危惧している要因が有る様に感じていた。

それもまた、女の勘だ。






四日後、予定通りに一行は長安へと入った。

色々と話は聞いていたとしても目の当たりにすれば大袈裟ではない事を嫌でも理解させられる。

“親が子を最も近付かせたくない場所”の第一位に輝き続けるのは伊達ではなかった。



「………酷ぇって話じゃないよな、これは…」


「……ああ…まさか、此処までとはな…」



普段、喧嘩ばかりしている韓浩と夏侯惇でさえも、長安の現状を目の当たりにしては意見が合う。

韓浩も洛陽の“裏の顔”を知らない訳ではない。

しかし、それでさえ、此処では生温いと言えた。


洛陽の表と裏──つまりは貧富の差は大きい。

だが、大通りは綺麗で、豪華で、派手な店や屋敷が並んでいる事も有り、初見では気付かない。

貧困層──政治的汚点(・・・・・)は見えない様に隠される。

だから、洛陽に住む者ですらも実態を知らない者は意外と少なくはなかったりする。


しかし、此処は──長安は違っている。

洛陽とは違い、隠そう(・・・)という意識は無かった。

通りを歩けば、当たり前の様に屍が転がる。

痩せて骨に皮を張り付けた様に為った幼い子供。

皮膚が爛れ生きながら腐っていった様な老人。

身体に乱雑な刺し傷と大量の血の跡の残る男。

眼を見開いたまま衣服が破れ肌が露出している女。

それは何処か似た様でもあり、しかし各々に異なる末路(人生)を辿った命の脱け殻。


けれど、弔う者も、悲しむ者も、哀れむ者も無い。

それが、此処、長安という荒都の現実である。


素性は当然だが素顔を晒さない様に頭から足元まで包み隠す外套を全員が身に付けている。

それも綺麗な物ではなく、賊徒を退治した際に得た戦利品とも言える薄汚れた物を。

そうする事で長安の雰囲気に紛れ込む。

其処までしなければ一行は目立ち過ぎるのだ。



「それでも、こんな場所でも生きている人は居る

その事実を貴方達は、どう受け止める?」


『……………………』



曹操の言葉に卞晧を除く全員が黙り込んだ。

視線を彼方此方へと向けながら、耳を、鼻を利かせ少しでも多くの情報を得ようとする。

だが、知れば知る程、募るのは嫌悪感ばかり。

それも、目の前の現実に対してだけではない。

その一端には自分達も関わっているという事実に。

より一層の嫌悪感を懐かずには居られなかった。






暫く街中を歩き回り、宿を取って部屋に籠る。

汚い外套を着ていた事もだが、街の空気が嫌で。

曹操と卞晧以外は部屋に着いた途端に深呼吸。

今居る宿も長安の中なのだが、気分的な問題で。

兎に角、隔離された一室が今は救いだった。

それ程までに彼等は強烈な嫌悪感を懐いた。


外から姿が見えない程度に窓を開けて、部屋の中に風を入れながら窓辺で曹操は長安の景色を見ながら静かに眼を細めていた。

覚悟はしていたし、知識としては理解していた。

しかし、やはり想像と現実は別物だと言えた。

屍や血の臭いに臆しなどはしないし、気にしない。

けれど、人の腐乱した屍の放つ異臭は違う。

糞尿が混じり、内臓が腐れ、蛆や蝨が住み着き。

人としての尊厳を奪われて死んで逝った姿を見れば

“この世の生き地獄”とさえ言いたくなる。

それ程に荒廃している曾ての都の姿に。

曹操が何も思わない訳が無かった。



「長安の人達にとっては、これが日常(・・)なんだよ」


「………そう、なのかもしれねぇ…けどな、玲生

やっぱり、こんなのって可笑しいだろ?

これが人間の住む場所なのか?」


「じゃあ、康栄には長安の人達は何に見えたの?

人の姿をした獣?、鬼?、それとも…化け物?」


「──っ…………そ、それはっ………」



淡々とした口調の卞晧の言葉。

それに対して康栄は噛み付いたという訳ではないが二人の関係性が故に少し乱暴な言い方になる。

それは、ある意味では康栄の卞晧に対する甘え。

信頼関係が有るからこそ許される、八つ当たり。

行き場の無い感情を、卞晧が上手く誘導し、自分に向けさせて吐き出させている訳だ。


だから、それを客観的に見た他の面々は気付く。

今、自分が懐く感情は正しいものではある。

しかし、抱え込むべきものではない。

だが、忘れてもならない。

今の感覚を忘れず、その上で向き合わなければ。

それが自分達の背負うべき事なのだと。


ただ、卞晧の次の言葉は韓浩も含め、胸に刺さる。

嫌悪感を懐いたのは紛れも無い事実。

だが、その理由が一方的な嫌悪感だと気付いたなら自分の感情を疑ってしまうのは必然。

卞晧の言った通り、長安という現実を肯定している人々もまた自分達と同じ人間である。

決して、全く異なる生態系の別の生物ではない。

その事実が、重く心に伸し掛かってくる。


そんな皆の様子を見詰めながら卞晧は自分に向いた視線に気付き静かに視線を向けた。

窓辺の曹操が「本当、意地悪よね、貴男って…」と言うかの様に拗ねの入った眼差しをしていた。

それに対して卞晧も「これ位で潰れる様なら俺達と一緒には歩いていけないでしょ?」と返す。

勿論、それは曹操への挑発の意味も含む。


凹みも引き摺りもしないが、曹操でも堪える。

それ程に長安の現状は常人には理解し難いものだ。

けれど、それで立ち止まってしまう様なら、結局は其処までしか進めはしない。

それから先に踏み込むには覚悟が必要不可欠。

勇気などと言う一時凌ぎの勢い任せではなく。

自らの言動の結果()、その全てを背負う覚悟が。


それを卞晧は曹操を含めて問うている。

それが解っているからこそ、曹操は拗ねている。

曹操の方が施政者としての認識は深い。

だが、人としての覚悟は卞晧の方が上だ。

色々と未熟なのは当然の事だとしてもだ。

まだまだ自分が甘えの有る覚悟しか出来ていない。

その事実を腹立たしく思ってしまう。


そんな曹操の葛藤を理解しているからの激励。

最愛の夫が相手でも譲らない負けず嫌いな曹操には効果覿面の方法だと卞晧も判って遣っている。


それに応える様に曹操が静かに口を開く。



「今、貴方達が感じている感情は正しいわ

けれど、玲生の言った通りでも有るのよ

それは何方等の正否を問う事ではないの

…思春、貴女なら解るでしょう?」


「………長安の人々は日々を生きるだけで精一杯で他者に手を差し伸べる余裕が無い…

それが今の長安の現状を生んでいるのですね?」


「ええ、その通りよ

余程の自己犠牲願望でも無い限り、人は自分の事を第一に考えて行動するものよ

他者を思い遣れるのは程度差は有れど多少なりとも余裕が有るからよ

だから、貴方達は長安の現状を異常だと感じるの

逆に、長安の人々は感覚が麻痺してしまう訳ね」


「……つまり、今の長安の異常さは異常なんだけど可笑しい事じゃなくて、だけど可笑しい訳で………ぁあ゛あ゛あ゛ぁあ~~~~~っ!!

糞っ、ややこしいなっ、畜生っ!

難しい事は解んねぇから考えるのは止めたっ!

要は、長安を含めて変えれば良いんだからなっ!」



元々、性格的に細かな思考が苦手な馬超が爆発。

両手で頭を掻き乱しながら、叫んだ。

だが、それを切っ掛けに場の雰囲気は変わる。

重々しかった皆の意識が「幾ら考えても悩んでも、何もしなければ現実は変わらない」と気付く。

その事を教えたかった卞晧と曹操は一瞬だけ視線を合わせて苦笑を浮かべ合う。

こういう意外な形で周りに影響を与える才器。

それは意図的には得られない天賦である。

ある意味、二人からすれば一番妬ましい才能。

だからもう、笑うしかなかったりする。



「ふふっ、ええ、珍しく翠の言う通りよ

大事なのは現状を知った私達が何を成すのか…

どの様な未来を築きたいと志を持つのかよ」


「…確かにそうだよな、翠の言う通りだ、珍しく」


「珍しく珍しく言うなっ!

華琳は兎も角、お前もアタシと同類だろ康栄っ!」


「ハッハッハッ!、確かに翠の言う通りだな!」


「「お前もだろっ、馬鹿春蘭っ!!」」


「なっ、何だとぉーっ?!」



韓浩・馬超・夏侯惇と賑やかな面々が騒ぎ出す。

「やれやれ…」という空気ではあるが。

それを皆が心地好く感じているのも事実。


そして、こうも思う。

こんな風に自分達位の年齢の者が集まり良い意味で馬鹿騒ぎの出来る様な日常の有る社会。

そんな明るく、健全な、笑いの有る未来を。

築き、繋いで行きたいと。






夕食も済ませ、街の明かりが消えてゆく。

闇に飲まれる様に人々の気配が薄れる中。

夜行性の獣や虫の様に動き出す影が有った。


闇夜に紛れるのなら兎も角、松明を持って歩く。

そんな堂々とした“暗躍”には呆れるしかない。



「……何て言うかさ…ある意味凄いよなぁ…」


「…まあ、普通じゃ考えられないよね、これは…」


「…って言ぅか、これが普通なのが凄ぇな…

…洛陽だったら、捕りたい放題だな…」


「…康栄、洛陽では遣らないと思うぞ?…」


「…隼斗殿の言う通り、此処だからでしょう…」



夜の長安の街を行き交うのは其方側(・・・)の者達。

それを屋根の上から見下ろしながら馬超達は呟く。

確かに、これが洛陽であれば間抜けも間抜けだ。

到底、その手を生業にしているとは言えない。

だが、長安では隠れたり、潜む必要は無い。

何故なら長安は、そういう事が黙認された場所。

多くの権力者達の思惑が入り混じり、様々な利害が交錯して複雑に絡み合っている。


だからこそ、迂闊に手出しは出来無い。

誰が何に関わっているのかも判らない。

自分達にまで事が及ぶ可能性も十分に有り得る。

それ故に、長安では全てが黙認されている。

無法地帯ではあるが、裏では暗黙の了解が有る。

それが、ある意味で長安を長安たらしめている。

根の深い、政治と歴史の負の遺産()である。


そんな中、一人腕組みをし、眉間に皺を寄せながら蠢く暗躍者達を見詰めている者が居た。



「……う~ん…」


「………?…どうした姉者?…」


「…なぁ、秋蘭、奴等を狙えるか?…」



夏侯淵の問いに夏侯惇は腕組みを解き右腕を伸ばし人差し指で暗躍者達の一部を指差して訊ねる。

夏侯淵は、彼我の距離・障害物の有無・風向き等、主だった条件を検証し、直ぐに答えを出した。



「…連中をか?、それはまあ、出来るが…」


「…華琳様!…」


「…春蘭、馬鹿な事は考えないの…

…今此処で百や二百の害虫を潰しても無駄よ…

…結局は一時的なもので直ぐに次が出て来るわ…」


「…それに警戒して潜られたら余計に厄介だしね…

…遣るなら一斉に、一掃しないと駄目だよ…」


「…ぅぅっ…」



期待した子供が落ち込む様に肩を落とす夏侯惇。

その様子に夏侯淵は「…まさか、遣る気とは…」と胸中で冷や汗を流していた。

出来る・出来無いの問題ではない。

曹操・卞晧が言った様に「遣るのなら徹底的に」が絶対の前提条件だったりする。

それを姉が理解しておらず、一時の感情任せにより自分に射殺させようとした事にだ。

別に殺っても構わない状況であれば否は無いが。

状況を理解している夏侯淵は戸惑うのも当然だ。

ただ、今の遣り取りで姉の危うさを理解した。



「……翠にとっての翔馬兄さんではないけれど…

…春蘭にも早めに“箍”が必要ね…」


「…何方かと言えば“手綱を握る乗り手”かな…

…まあ、そう簡単に見付かるとは思わないけど…」


「…そうね、ええ、本当に、そう思うわ…」



小声で交わされる主君夫妻の会話。

それを聞いていた夏侯淵は静かに溜め息を吐く。

自分の双子の姉ながら、全く男っ気が無い。

…いや、違う意味でなら男っ気が有るのだが。

兎に角、先日の卞晧との会話を思い出した。

姉が結婚するのを待っていたら確実に行き遅れる。

それは避けたいのが女としての本音である。

ただ、だからこそ、姉の事が心配でもある。

その為る様にしか為らない状況が、もどかしく。

夏侯淵の頭を悩ませていた。


そんな夏侯淵の反応を見ながら、秘かに企む夫妻。

ある意味では夏侯惇の事は諦めている。

どうしようも無いのが本音だからだ。

だから先に周りを固めてしまう事で促そうと。

そんな風に目論んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ