十話 馬路燈風
多くの物事の始起は唐突であり、劇的である。
それは良く言えば一目惚れ、悪く言えば事故。
予期せぬが故に、良くも悪くも回避し難いもの。
曹操にとって見合いの話は不幸な事故だった。
しかし、それにより卞晧という運命へと繋がった。
物事の全ては決して悪いままではない。
勿論、その逆で良いままでもないのだが。
その先がどうなるのかは、自分次第だろう。
「──はあ?、アンタ、巫山戯てんの?
いきなり言い掛かり付けて襲い掛かってきといて、「いや~、悪ぃ悪ぃ、アタシの勘違いだったよ」で済ませられると思ってんの?
俺の腕が悪かったら無辜の民を殺してるよ?
そんな事が赦される訳?
それとも何?、人の話も聞かずに攻撃する野蛮人が彷徨いてるのが此処では常識な訳?
殺された方が悪いの?、弱い者が悪いんだ?
なあ、俯いてないで何とか言ってくれない?
謝れば赦される訳?、泣けば済む訳?
そんな訳無いよね?、有っていい訳無いよね?
ほら、どうなんですか?、答えてくれません?」
「………っ……………っ………っ…………っ……」
珍しくキレて正論責めしているのは曹洪。
その姿は曹操達でも初めて見るものなのだが。
ある意味、それは当然だと言えた。
基本的に曹洪は根に持つ方だが、長く引き摺ったり蒸し返したりはしない。
そんな事に精神的な労力を割くなら忘れてしまい、気持ち良く日々の生活を送っていたいからだ。
勿論、怒る時には怒る。
ただ、以前までは正論だが、押し負けていた。
それは口の達者な姉妹に挟まれて育った事が大きく影響していると言えるのだが。
そんな曹洪は旅の中で学び、鍛えられ、成長した。
知識の増加、話し方の変化、精神的な安定等々。
幾つもの要素が重なった結果だと言える。
そんな曹洪の前で俯き、今にも泣きそうな雰囲気で身体を小さく震わせているのは一人の少女。
彼女の名は──“馬超”。
此処、涼州を治める馬一族の姫君である。
「………なあ、放って置いていいのか?…
…あれ、進展しそうな気がしないんだけど…」
「ああいうのは気にしたら負けよ
まあ、彼女の言動からして思い付くのは罪を悔いて自害する位でしょうから、大丈夫よ」
「…いやいや、大丈夫じゃないだろ、それは…
…なあ、良いのか、玲生?」
「大丈夫、華琳の言う通りだよ」
「いや、だから大丈夫じゃないよな?
馬一族の姫君が自害したら大問題だぞ?」
「だから、大丈夫なのよ
今の兄さんなら、それも含めて窘められるわ
抑、非が有るのは彼女の方だもの
仮に自害したとしても、それが彼女の責任の取り方なのだとしたら尊重してあげるべきだもの
──あ、思春、それ一口貰っていいかしら?」
「はい、構いません、私も一口宜しいですか?」
心配する韓浩を他所に、曹操は甘寧と頼んだ甘味を楽しんでおり、卞晧も心配する様子は無い。
曹仁と夏侯姉妹も我関せずの姿勢のまま。
その為、「…あれ?、俺が可笑しいのか?」と思う韓浩の思考は当然だと言えるだろう。
だが、よくよく考えると曹操達の方が可笑しい。
いや、特殊だと言えるのだが。
其処は韓浩、あっさりと納得してしまう訳で。
結局、放置で決着してしまった。
野次馬の様に遠巻きに見ている者達からしたなら、「…えっ!?、止めないのっ!?」である。
さて、何故この様な事態に為ってしまったのか。
それは「幾つかの不幸な偶然な重なった為」としか言えなかった。
益州での野生生活──いや、現地調査を心行くまで堪能──いや、満喫──でもなく…………兎に角、終えた一行は涼州に入っていた。
その道中、一行は唐突な襲撃を受けた。
約三十人程の、奇妙な仮面を付けた男達にだ。
相手は賊徒ではな──くもないが、“五胡”という漢王朝に敵対している異民族である。
この五胡は元々は大小数十の部族が集まった同盟・連合といった集団だったのだが、統合と滅亡により数は十を切り、その結果、当時の有力な部族の数が五つだった事で五胡の名を冠した同族として統一、一つの国の様な存在へと形態を変えた。
だが、漢王朝とは数百年に渡って因縁が有る。
その為、敵対関係は現在も尚続いている。
そんな五胡の領土──正確には遊牧民族である為、活動している範囲であるが、それは漢王朝の領土の北部・西部・南西部。
接している領境では大小の違いこそ有るが日常的に五胡との戦いは繰り返されている。
因みに、東部は海の為、あまり関係は無い。
南部域は地形の関係上、五胡とは接していない。
ただ、別の国とは接しているのだが、国同士の間に国交は無いが、地元民の間には交流が有る。
現状、友好な関係の為、何方等かが一線を越えない限りは良い関係が続く事だろう。
──で、そんな五胡に襲われた一行なのだが。
当然ながら、傷を負う事も無く、返り討ちに。
死体は処分したが、戦利品は勿体無いので街の店に持ち込んで買い取って貰った訳なのだが。
其所で一つ目の不幸が有った。
偶々店の近くで遊んでいた子供達が、韓浩と一緒に五胡の仮面や装束を着て巫山戯ていた所を見ており曹洪が潜入してきた五胡の者だと勘違いした。
先に述べた様に漢王朝と五胡は敵対関係に有る。
その中でも涼州は特に激戦区だったりする。
それは涼州が五胡の領土を分断している為だ。
五胡にとって涼州を獲る事は、南西部から西・北と一繋ぎに漢王朝を包囲出来る様になる。
それは同時に漢王朝の西方諸国との交易を断絶し、孤立させる事にも繋がる。
そういった事情から両者にとって涼州は最重要な地だったりする訳である。
しかし、漢王朝側は州牧である馬一族の長・馬騰に丸投げしている感は否めない。
まあ、皇帝ではなく、宦官共が、であるが。
其所で、二つ目の不幸が重なった。
つい先日、馬超率いる討伐隊が襲撃してきた五胡を撃退したのだが、一人も討てずに逃げられた。
実際には民を守り、被害も最小限で済んだのだが、馬超自身は不完全燃焼──逃げられた事に対して、誰よりも不満を懐いていた。
それこそ「死にたい位の失態だ!」と思う程に。
その為、馬超は非常に五胡に過敏に為っていた。
そんな時に子供達が馬超に話をしてしまった。
勿論、それだけで有れば状況は拗れはしない。
巫山戯ていた二人は叱られ、宿を取りに。
その後、曹洪は忘れ物をした為に一度宿まで一人で戻ってから合流する事に。
その道中、官軍崩れの傭兵だろう態度の悪い男達に絡まれていた初老の夫婦と孫娘だろう少女を助け、感謝された所を事情を知らない行商人が目撃をし、それを五胡の男を探す馬超に伝えてしまう。
そして、曹洪が曹操達の居る店先に遣って来た所で馬超が背後から襲い掛かり、一方的な言い掛かりを付けて攻撃し、曹洪の言葉に耳も傾けず。
其処に先程助けた老夫婦達が通り掛かり曹洪に礼を伝えた事で、漸く馬超が自身の誤解を認識した。
それで事態は収拾が着いた、と思われたのだが。
勘違いばかりしていた馬超が更に遣らかした。
其所で誠心誠意謝罪をしていれば良かったのだが、馬超は子供達や行商人の所為にした。
勿論、間違った情報を流布した事は悪い事なのだが鵜呑みにしたのは他でもない馬超自身である。
その「アタシは悪くないんだ!」的な態度に対し、曹洪がキレてしまった、という訳だ。
何しろ、普段から色んな意味で理不尽な集団の中で生活している曹洪の精神的負担は小さくない。
しかも、それが正論・正当な理不尽さだから尚更に曹洪の精神は厳しい状況下に有る訳で。
それが結果的に曹洪の精神力を鍛え上げているが、溜まりに溜まった鬱憤に運悪く点火したのが馬超。
「やれやれ…全く誰に似たのやら…」
「あら、若い頃の誰かさんの武勇伝も負けず劣らず
“じゃじゃ馬”振りが凄かったのでは?」
曹洪と馬超の様子を眺める曹操達の隣の席。
丁度、曹洪達からは死角になる位置で、曹操の席と背中合わせになる席に座っていた女性客からの声に曹操は最初から話をしていたかの様に返した。
卞晧以外は反射的に警戒心を高めた。
だが、曹操と件の声の主に険悪な雰囲気が無い為、警戒は必要最低限に留められた。
「それは否定はせぬが…流石に彼処まで考え無しに動いてはおらなんだがなぁ…」
「その辺りは父親の──馬一族の気性でしょうね
良く言えば勇猛果敢、悪く言えば血の気が多い…
まあ、それも彼女が男だったら、良い方向に出たのかもしれないけれどね」
「ふむ…確かにそうかもしれぬな」
──と、世間話でもする様に二人して馬超に対し、酷評を口にしている。
その様子に「…もう何も気にしないぞ、俺は…」と韓浩は一人静かに自棄食いを始めていた。
疲れた脳は甘い物が癒してくれるのだから。
「それはそうと、この様な場所で会おうとはな…」
「その言い方では店主に失礼ではないかしら?」
「その様なつもりはない──が、成る程な
あの迂闊さは私の影響も少なからず有る訳か…
やれやれ…今から教育し直すのも一苦労だろうし……ふむ、良ければ、あの者を婿にくれぬか?」
「後継ぎなら、弟で長男の馬鉄が居る筈よね?
それに…まだ幼いとは言え、次男の馬休も
勿論、宅としても悪くない話だけれど…
一応、兄さんも分家の長男なのよ
だから、“お転婆娘”さんを嫁にくれるのなら話を受けても構わないわよ?」
「確かに筋としては、そうなのだがな…
馬鉄も馬休も性格的に当主には不向きでな
寧ろ、あの“馬鹿娘”の方が向いているのが現実で「婿を取らせる」というのが基本方針でな」
「成る程ね……それで?、どうして兄さんを?
候補者なら他にも居るでしょう?」
「まあ、確かに居るには居るがな…
如何せん、此処では馬一族の影響力が強過ぎる
あの馬鹿娘の手綱を握り、乗り熟せるとなると…」
「……確かに外から迎え入れる方が良いわね
加えて、理性的で少々神経質な位の相手が」
「それに武の腕前・家柄・忍耐力と揃えば尚更にな
性格的にも根っ子は子供っぽい様だしな
その辺りも気が合い易いであろうな」
「言えば言う程、兄さんは条件に合う訳ね」
「其方等さえ良ければ、あの者の家に馬鉄か馬休を婿に出しても構わぬ
まあ、年齢や性格的な事も有るし、先ずは見合いの話から進める事になるだろうが…」
「………そうね、此処では返答は出来無いけれど、前向きに考えてみる事は約束するわ」
「それだけでも有難い話だ」
──とまあ、そんな感じで二人は話を纏めた。
卞晧は意図や内容を理解し、甘寧は口を挟む立場に無いので聞き流している。
由って、韓浩以外は皆、この会話を普通の世間話と変わらない認識で聞いていた。
しかし、韓浩にしてみれば冷や汗物である。
勿論、“政略結婚”というのは政治の常套手段。
古今東西、珍しくもない事なのだが。
当の曹操は切っ掛けこそ、それっぽい形だったが、結果的には大恋愛という事になる訳で。
それなのに当事者の知らない所で縁談が進められる事実を目の当たりにしてしまうと流石に怖い。
卞晧を婿に迎え、改姓もさせるのだが。
実質的な曹家の次期当主は曹操である。
その影響力の一端を知り、今になって就職先に対し不安を覚えてしまった韓浩は可笑しくはない。
ただ、もう引き返せず、逃げ道も無いだけで。
決して、主君としては悪くはない。
いや、旅をして、外を知り、逆に理解出来た位だ。
如何に自分が恵まれた未来への道に立つのかを。
だがしかし、それはそれ、これはこれ、である。
自分の知らない所で縁談が纏まり掛けている。
それは、ある意味では恐怖でしかない。
特に平民出身である韓浩からすれば尚更にだ。
(………翔馬、強く生きろよ
今、お前の目の前に居るのが未来の嫁さんだ
…いや、まだ決まってはいないけどさ…
でも、多分、粗確定だろうな…
婿か嫁かの違いで何方も逃がす気無さそうだし…
そういう訳だから、まあ、頑張れ
取り敢えず、見た目には極上の美人なのは確かだ
…性格等には多少問題が有ってもな)
そう韓浩は胸中で曹洪に声援を送った。
膠着状態のまま、一方的に叱責されて、耐え兼ねた馬超が取った言動は予想通りの自害であった。
しかし、それも予想通りに曹洪に窘められてしまい逆ギレ気味に半泣きで「どうしろってんだよ!」と最後には曹洪に答えを求めた。
多少八つ当たりも有ったが、色々と溜まった鬱憤を吐き出し終えた曹洪は普段の彼に戻った。
そして──泣きながら縋る馬超に狼狽える。
自分が泣かせている事もだが、腰に抱き付く馬超の豊かな柔らかさに男の性が反応しているから。
勿論、流石に必死な馬超にでさえも気付かれる程に如実な変化ではないのだが。
それが時間の問題だと感じているから、焦る。
そんな曹洪の様子を見ていた曹操は「…やっぱり、兄さんも普通に男なのよね」と思いながら動く。
…まあ、その前に馬超と、自分と、卞晧と、自分と視線を瞬時に移し、考える事は有ったが。
それは彼女の気にし過ぎな事は否めない。
勿論、卞晧にしても嫌いではないが。
卞晧にとっては“曹操のだから”が最重要で。
それに納得し得ないのが、女性の美への執着心だと言わざるを得ないのだろう。
「話が纏まらないのなら、武で決めたら?」
「………え゛?」
「いいなそれ!、判り易くて!
よし、戦って決めようぜっ!──っぁ痛っ!?
だ、誰だアタシを殴った、の……は…………」
曹操の一言に曹洪は「…マ、マジっすか?」という助けを求める視線を傍観者と化した卞晧達に向け、一同の揃った首肯に項垂れた。
韓浩であれば「んな理不尽が有るかーっ!」と叫ぶ所なのだろうが、曹洪は聞き分けがいい。
だから反論しても無駄だと察した瞬間に諦めた。
潔いと言えば聞こえは良いが、変な所で染み付いた妥協癖は曹操達には改善点だと判っている。
それを矯正する為の無茶振りだったのだが。
やはり、一度素に戻ってしまうと駄目だと理解し、曹操は誘導の方向を修正する。
一方、馬超の方は曹操の提案に食い付いた。
追い詰められていた馬超とすれば当然の反応だ。
別に馬超自身に今回の非を有耶無耶にしようという気持ちは無く、単純に責任の取り方が判らない為、どういう形であろうとも構わないから明確な答えが欲しくて仕方が無いというだけ。
そんな馬超の浅慮で単純過ぎる言動に対し、馬超の頭に愛有る拳骨を贈った者が居た。
曹洪と曹操に意識の行っていた馬超は避けられず、痛む頭を押さえながら苛立ちと怒りに任せて背後の犯人に振り向き──顔を青ざめさせた。
「……………か、母…様………どうして?…」
「何だ、私が街に居るのが可笑しいか?」
「…ぃ、いや、そんな事は…」
馬超に拳骨を贈ったのは曹操と話をしていた女性。
名を“厳顔”と言い、馬騰の妻、馬超の母である。
尚、曹操とは曹騰を介した既知の間柄である。
洛陽時代の、尖っていた曹操を相手に一歩も退かず笑って“小娘”扱いをした猛者でもある。
そんな事も有り、御互いに認め合う仲な訳だ。
尤も、厳顔からすれば実際に曹操は小娘でしかなく面白がっていたのが当時の本音なのだが。
それでも一目置く存在だったのは確かで。
成長し、険の取れ、落ち着いた姿には「ほぉ…」と思わず嘆息してしまった程だ。
その要因が隣に座る少年である事を、“女の勘”で厳顔は察し、興味を持ったりしている。
それは兎も角として。
男勝りな馬超も流石に母の前では大人しい。
まあ、それもその筈、武では馬超は敵わない。
ある意味では“動物的な思考・価値観”をしている馬超にとっとは強者である母は絶対である。
それ故に、耳を伏せ、尻尾を股の間に丸め、今にも腹を見せて服従しそうな仔犬の様になるのも当然。
出来る事なら言い訳をしたいのだ。
だが、先程まで曹洪の正論責めに屈していたが故に自分の非を嫌と言う程に理解している。
だから、その言い訳ですら出来無い状態だった。
(ふむ…今だけかもしれぬが、この娘がな…
こうなると是が非でも婿に欲しくなるな…)
厳顔の威圧感に負けた馬超が俯いた瞬間に、視線を曹操の側で溜め息を吐く曹洪に向けた厳顔。
まだまだ荒削りではあるが──それは今の話。
この二人の下に居れば、嫌でも成長するだろう。
そう断言出来る程に、厳顔は二人を評価する。
それを考え、無理に引き留めるつもりは無い。
寧ろ、婚約の話さえ纏めてしまえば、馬超を二人に同行させるのも有りだと考えている位だ。
馬超の成長にも繋がるだろうし、二人の仲が深まるのであれば良いし、何なら身籠っても構わない。
何方等かと言えば、そうなってくれる事を望む。
何しろ若い男女なのだから。
切っ掛けさえ有れば行く所まで行くだろう。
色気の無い馬超ではあるが、見た目は確か。
厳顔は環境さえ用意して遣れば成ると思った。
厳顔は軽めの拳骨を馬超に落とすと曹操達の方へと向き直り、通りにも関わらず頭を下げた。
戦力的には一人前でも、まだ成人をしていない以上馬超の責任は親にも関わってくる。
だから決して可笑しな事ではない。
ただ、傍目には潔く見えて厳顔は強かだった。
厳顔が馬超の非を認めた事で、ある意味では曹洪の逃げ道を塞いだとも言えるのだから。
何しろ、あれだけ揉めて置いて今更「判りました、その謝罪で手打ちにしましょう」とは言えない。
これは馬一族の面子に関わってくるのだから。
それが判ったから曹操は胸中で舌打ちする。
「本当、喰えないわね…」と視線が物語る。
しかし、それ以上は考えても無駄な為、止める。
それよりも事態の収拾が優先すべき事だから。
「…それで?、兄さん、どうするの?
遣るの?、遣らないの?
遣らないのなら、他の案を出して頂戴ね?」
「ぅっ…………それは…………………判りました
武で決着を付けます」
「…まあ、其方等が武で決めようと言うのであれば此方等に異論は無い
此方等が勝てば此方等で謝罪する方法を提案して、其方等が勝てば其方等が決めるという事で…」
「ええ、それで構わないわ」
「では、取り敢えず場所を変えるとしよう
流石に通りの真ん中で闘わせる訳にはいかぬ
街外れの草原でも構わぬかな?」
「問題無いわ、行きましょう」
──と、当事者達の意思が介在する事無く、二人の遣り取りだけで話は纏まってしまった。
だが、当事者達は口を挟めない。
…いや、曹洪は具体案を提示出来れば可能だったが肝心の具体案が思い付かなかった。
馬超には最初から異議を唱える資格が無かった。
これは有罪・無罪を決める為ではなく、どう遣って償うかが焦点となっているからだ。
つまり、加害者である馬超の言い分は全却下。
決定権は皆無だと言えた。
そんなこんなで場所を変えた一行が見守る中。
曹洪と馬超は草原にて対峙していた。
「…俺、被害者だよね?、何でこんな事に…」等と愚痴が聞こえてきそうな沈んだ気配の曹洪。
目の前の遣る気──と言うか、自棄糞な馬超を見て場違いな気持ちになるのも無理も無い。
チラッ…と韓浩に視線を向ければ「強く生きろ!、生きてさえいれば良い事も有るって!」と無責任な励ましの意思を送ってきた。
「殴っていい?、お前を先に殴っていい?」と思う曹洪の気持ちも、ある意味当然だろう。
「えー…ごほんっ…両者、正々堂々と戦う様に
それでは──始めっ!」
「──っしゃぉらああぁっ!!」
「──っ!?」
何故か審判役を任された卞晧の開始の合図と共に、馬超は最短距離を疾駆して曹洪に接近した。
勢いそのままに迷う事無く踏み切り、大上段に振り上げた愛槍を曹洪に向かって振り下ろす。
それを曹洪は左手に逆手に持った剣で受け、身体を捻って往なすと入れ替わる様に一回転。
勢い余って躓いて体勢の崩れた馬超の背後を狙った──が、馬超は槍を地面に突き立てて跳び上がり、空中で一回転半捻りを決めて着地する。
靭やかで、身軽な馬超の動きは見事だった。
“じゃじゃ馬”と言うよりは、“雌豹”の様に。
…その際、曹洪からは“淡い緑”が見えたのだが、それは言わないでおく事にした。
ややこしい話が更に拗れてしまうから。
馬超は一撃で決めるつもりだった。
勿論、街中で襲撃した際に躱されていたから曹洪が出来る事は判ってはいたのだが。
それでも、本気なら自分が勝つと思っていた。
それだけの自信が馬超には有った。
しかし、実際には曹洪に受け流された。
躱した訳でも、防がれたのでもない。
その事実が、曹洪の実力の高さを証明していた。
だが、決して怖じ気付いた訳ではない。
寧ろ、馬超は心を踊らせていた。
「何だよ!、お前凄ぇ強ぇじゃねぇかっ!」と。
そう笑顔で言いそうになってしまう程に。
馬超は曹洪に強い興味を懐いた。
そして、「お前の事が知りたい!」と言うかの様に馬超は曹洪へと向かって行った。
そんな馬超を見ながら、曹操達は気付いていた。
街中では普通にしていたが、今は氣を使っている。
別に曹家・孫家の専売特許ではないから、使えても可笑しな訳ではないのだが。
ただ、基本的に氣の技法は我流な場合が多い。
資質的には遺伝するのだが、氣を呼び起こす方法が確立されていないのが常識な為、氣を使えないまま生涯を終える者の方が圧倒的に多いのが現実。
だからこそ、体系化された技法は見れば判る。
自分達と、馬超の技法は同一である事が。
「…貴女、その技法は何処で身に付けたの?」
「昔、少々“やんちゃ”していた頃にな…
だから、正直に言って私も驚いておる
まさか、こういう縁が結び付けるとはな…」
「その辺りの話は後で聞かせて貰うわよ?」
「構わぬよ、所で宿は取っておるのか?
まだなら、宅の方に部屋を用意するが…」
「残念ながら取っているわ」
「むっ…そうか…それは残念な事だな」
次第に激しくなる二人の闘いを見ながら、曹操達は場外での舌戦を行っていた。
まあ、其処まで激しくはないのだが。
一般人が目撃したなら、音を立ててでも、今直ぐに此処から走って逃げる程度には剣呑。
そんな曹操の気配に卞晧は触れず。
ある意味、下手に刺激したくはない状態だった。
それは兎も角として。
馬超の攻撃に対して曹洪は後手に回り続ける。
時折、隙を狙って仕掛けはするが、基本的に曹洪は受け身の姿勢で闘っていた。
だが、それは曹洪の得意な戦い方ではない。
韓浩や曹仁が威力の有る一撃を中心に据える一方、曹洪は甘寧と同じく技巧を重視している。
但し、甘寧よりは男である分、膂力は有る。
それを活かした連撃が得意なのだが。
この闘いでは敢えて守勢に回っていた。
その理由は大きく二つ有る。
一つは馬超の技量が判らないから。
槍と剣では間合いが違う事も有り、下手に間合いに入ると殺られてしまう。
それを卞晧達に叩き込まれている為、冷静に馬超の技量を見極めつつ、体力を温存している。
もう一つは……まあ、曹洪も男だという事だ。
馬超は集中していて気付いてはいないのだが。
曹洪は、馬超の動きを捉えようとすればする程に、視界の中で揺れ弾む“男の浪漫”が気になる。
もし、これが単なる手合わせだったなら、曹操から「…兄さん?、戦いの最中に余所見をするだなんて随分と余裕が有るのね?」と殺気を貰っただろう。
要するに、集中し切れていないのが原因である。
だがしかし、それでも伊達に扱かれてはいない。
次第に馬超の動きに慣れ──大凡だが、見切る。
そんな曹洪の変化を獣じみた直感で嗅ぎ取ったのか馬超は大きく跳び退いて距離を取ろうとした。
それまでであれば両者の間合いは開いただろう。
しかし、此処で曹洪は攻めに転じた。
自ら馬超との間合いを詰め、内に潜り込む。
それに驚き、焦ったのは馬超の方だった。
大きく跳び退いた事が仇になった。
槍の性質上、空中に有る時は動きが鈍る。
特に、馬超の様に全身を撓らせる様にして槍を扱う場合には膂力不足で槍の重さで動けなくなる。
槍を手放せば良いが、この闘いでは敗北が確定。
それに……そんな形での敗北は嫌だった。
だから馬超は凌ぎ切れる可能性に賭ける。
槍の内側に入り込んだ曹洪は槍を弾かず左手に持つ剣の刃を滑らせる様に添わせて動きを封じる。
そして、右手を腰の後ろに回して柄を掴む。
曹洪の武器は甫元作の対剣“燕羽”。
普通の直剣よりも短い刃は小回りが利く様に考えた曹洪の意を汲んで造られている。
逆手に握った剣を抜けば、宛ら翼を広げた燕の様に曹洪は滑る様に間合いを詰めた。
──諦めたくはなかった。
しかし、馬超には天賦の武の才器が有るが故に既に結末が見えてしまっていた。
槍を弾かれたなら、その反動で身体を捻って回避に繋げられたかもしれないのだが。
それを曹洪は許さず、逆に利用して見せた。
結果的には槍を手放そうが手放さまいが同じ。
馬超の直感に従った回避行動は間違いではないが、その回避方法は迂闊だった事は確か。
その一つの判断の誤りが生死を分けた。
──かに思われたのだが。
ここで二つの不運な偶然が重なってしまう。
曹洪に意識が向き過ぎていた馬超は接地する左足の踵が地面に引っ掛かり、体勢を崩す。
反射的に体勢を立て直そうとして槍を手放し思わず曹洪の左腕を掴んでしまった。
それにより、曹洪は馬超に引き寄せられる事に。
これが一つ目の原因である。
もう一つは馬超の集中が途切れた事に引っ張られて曹洪の集中力も切れてしまった事。
それにより身体を撓らせる馬超の弾む自己主張へと曹洪の意識が向いてしまい──曹洪も着地に失敗。
結果、二人は縺れ合う様にして倒れ込んだ。
二人の悲鳴と、千切れた草の葉が空に舞った。
「っ痛ぅ~…」
「ぁ痛たた…」
──とは言え、二人共に素人ではない。
無意識に受け身は取っていたので軽い打ち身程度で大した怪我はしていなかった。
馬超が下で、曹洪が上。
客観的に見れば曹洪が馬超を押し倒し、覆い被さり迫っている様にも見える体勢なのだが。
当の二人は状況を把握出来てはいなかった。
その為、目蓋を開いた途端、互いの近さに驚く。
「……ぇ?」と言う様に同時に固まった。
先に我に返った曹洪は身体を離そうと右手を着いて上体を起こそうとして──違和感に気付く。
その右の掌が、とても柔らかくて温かい事に。
曹洪が、馬超が、自然と視線を向けた。
曹洪の右手が、馬超の左胸の上に有った。
曹洪が右手を握ると、馬超は痛みと擽ったさの入り混じった不思議な感覚に思わず「…ぅぁんっ…」と可愛らしい声を上げてしまう。
『…………………………~~~~~~~っ!!!???』
暫しの沈黙の後、二人は声に成らない悲鳴を上げ、揃って顔を真っ赤にしてしまう。
だが、こういう時に限って神様は悪戯をする。
慌てて離れようとする曹洪だが、馬超が左腕を今も掴んだまま離してはいなかった。
気が動転している馬超は無意識に身体を硬直させ、それに伴って曹洪の左腕を掴む右手にも力が入り、結果として曹洪を捕まえてしまっていた。
離れようと後ろに向けた力は引っ張られる形で前に向かって反発し、左側が固定されている事で大きく右側に傾いてしまう。
ただ、動転していても曹洪も馬鹿ではない。
同じ過ちを繰り返さない様に右手を馬超の身体から離れた地面に着いて堪えようとした。
──が、其処には何故か馬超の槍が有った。
掌が柄の上に乗り、滑ってしまった。
「うわぁっ!?」「きゃあっ!?」と上がった声。
そして──二人の唇は綺麗に重なり合っていた。
互いの瞳に互いの瞳が映り込んでいた。
身体が硬直し、思考が停止した二人。
しかし、無意識に防衛本能を働かせた馬超は難しい体勢では有りながらも、左腕を振り抜いた。
悲鳴を上げる余裕すら無く、曹洪は殴り飛ばされ、馬超から少し離れた地面に落ちた。
「…………其処まで!、勝者、馬超!」
曹洪の気絶を確認した卞晧は冷静に審判を下した。
こうして締まらない終わり方だが、決着した。
治療された曹洪が目覚め、顔を真っ赤にして自分を睨み付けている馬超に釈明しようとしたが、直ぐに「何を言っても無駄だよね…」と悟った。
そう、女性は理屈より感情で動く事が多い。
だから、曹洪は素直に馬超に謝った。
それに対し、馬超は事の発端を思い出した。
目の前の曹洪の様に、潔く素直に自分の非を認め、心から謝罪すれば良かったのだと。
当の曹洪から教えられた為だ。
その瞬間、馬超の怒りは一気に萎んだ。
勿論、羞恥心は消えないが、それはそれ。
それ以上に自分の軽率さと不遜な態度に苛立つ。
だが、それを飲み込み、馬超は曹洪を赦し、改めて事の発端である自分の言動を謝罪した。
曹洪も「判ってくれたのなら良いよ」と赦した事で二人は握手を交わし、色々な誤解を水に流した。
だがしかし、それでは済まさない者達が居た。
いや、寧ろ、済まされては困るのだから。
「それでは曹洪殿、勝負の結果、娘が勝ちましたし謝罪方法は此方等で決めさせて頂きますので」
「え?、いや、それはもう──」
「兄さん、これは両家の面子の問題でも有るの
だから、此処まで話が拗れていた以上、今更二人が謝り合ったからと言っても収められないのよ」
「そういう訳でな、約束通り受け入れて貰わねば、此方等も引き下がれぬのだ」
「……判りました、そういう事なら受け入れます」
「うむ、そう言ってくれると有難い」
「それで、具体的には何を?」
「まあ、自分の尻拭いは自分でさせるだけよ
──という訳で、この馬鹿娘を妻に貰ってくれ」
『……………………………………………え?………はあぁああぁあぁぁぁあぁああぁっっっ!!!!????』
厳顔の言葉に曹洪と馬超は息ぴったりに叫んだ。
当然と言えば当然の反応だが、実際は少々違う。
曹洪は「それはまあ?、性格には問題有りだけど、馬超は美人だし悪い娘じゃないから妻に貰う事自体嫌だって訳じゃないけど…」という感じで。
馬超は「そりゃあ、ちょっと口煩い所は有るけど、それはアタシも悪かった訳だし…曹洪は強いし顔も濃過ぎず整ってるから貰ってくれるなら…」と。
口には出さないだけで、決して悪感情は無い。
それは馴れ初めこそ最悪の印象だったが、武を通じ互いの本質を理解し合ったのが意外と大きく。
こうして認め合い、気になる存在に昇格していた。
ただ、それでも結婚するには早過ぎると思うから、こうして声を上げてしまった訳で。
それを誤解されない様に二人は釈明し出す。
「ああ、跡取り娘なんで曹洪殿には婿入りして貰う事になるが…其処は其方等に任せても構わぬか?」
「ええ、それは構わないわよ
尤も、私達の私情の関係で今直ぐには無理だけれど将来的な話としては約束するわ」
「それならば従者として連れて行って貰えぬか?
少し外に出して学ばせた方が良さそうなのでな」
「私達は構わないけれど…次の長なのでしょう?」
「婿殿が其方等の出身な以上、変わらぬからな
宅としても其方等とならば否も無しよ」
「成る程ね、そういう事なら教育してあげるわ」
「宜しく御願いする」
そう言って笑顔で握手する曹操と厳顔。
当事者達が動揺している間に話は纏まった。
反対?、そんな事、二人が出来る訳が無かった。
曹操は本家の跡取り娘で自分の主君となる者。
厳顔は母であり、馬一族の長・馬騰の妻ではあるが実質的な最高権力者である。
そんな二人に逆らえる訳が無かった。
何より──当事者達にとっても悪い話ではない。
その為、この縁談は此処に決定された。
宿は取ってあっても夕食は決まってはいない。
そうなると馬家に招かれるのは当然の流れ。
そして、どんな行動力をしているのか。
曹操達が着いた時には馬超の婚約を祝う宴の会場が出来上がっており、父であり当主であり族長であり州牧である馬騰が仁王立ちをして待っていた。
そして、槍を向けて「貴様に娘は遣らん!」と曹洪──ではなく卞晧に言い放った。
次の瞬間、槍を奪い取り、顔面に槍の柄を叩き込む笑顔でキレた曹操の姿が有った。
それは、ある意味での“正当防衛”であった。
その為、厳顔が馬騰を叱り、曹操に謝罪した。
顔面に綺麗な赤い打痕を刻んだ馬騰の音頭で祝宴は始まり、賑やかに盛り上がる。
馬騰は義息となる曹洪を捕まえ、馬超の昔話をし、羞恥心で真っ赤になってキレた馬超に殴られた。
遣らかした馬騰だったが、然り気無く曹洪と馬超の仲を進展させた事は知らない。
まあ、義父子関係の心配は要らなそうではある。
そんな会場で少々不機嫌なのが曹操である。
馬騰の発言も一因だが、問題は一騎打ちの件。
曹操は曹洪の勝ちを確信していた。
馬超や厳顔には悪いが力量差が明らかだった。
しかし、結果はアレである。
卞晧に「物事は計算通りには為らないって事だね」と笑顔で言われた通りである。
そして「それを学べたのが取り返しが付かない場合じゃなくて良かったね」と言われた。
不満だが、正に言葉の通りだった。
そんな曹操に酒の匂いを纏う厳顔が近寄る。
「葬儀ではないのだぞ?」
「……はぁ~…判っているわよ
でもね、私なりに色々と思う事も有るのよ」
「まあ、あの夫であれば当然か…」
「あら、だからこそ判る“高み”も有るのよ」
「はははっ、確かにそうだな」
曹操の雰囲気の変わった事に厳顔は安堵する。
自然と周囲からも嫌な緊張感が消えていった。
そうなる原因は曹操だが、周囲が腫れ物扱いすれば今度は曹操に影響が及ぶ、負の連鎖になる。
卞晧が動けば容易いが、母親似の厳しさを持つ彼は愛妻の成長の為に敢えて放置していた。
他の者達にとっては、いい迷惑だが。
そんな卞晧が“孫静”の息子である事を既知である厳顔は察していた。
だが、敢えて公の場では話はしなかった。
色々と複雑に事情が絡むと理解しているからだ。
だから厳顔の脳裏には“たられば”の話が浮かび、意識せずに曹操に話し掛けた。
「こうして翔馬殿との縁談となったが…
私は玲生殿でも良かったのだがな…
それならば嫁に出し、孫を跡取りに迎える、という方法でも有りだと言えたな」
「あら、それは無理よ、有り得ないわ」
酒の影響も有り思わず溢した厳顔の話に間髪入れず曹操は拒否し、不可能だと言い切った。
その反応には流石の厳顔も酔いから覚めた。
顔を向けた先、曹操の視線は卞晧を見ている。
「…そうまで、はっきりと言わんでも…」
「勘違いしないで馬超に問題が有る訳ではないわ
それが有り得ないのは私自身が理由よ
私はね、独占欲が強いのよ、自分でも驚く位にね
だから、玲生を共有する気は微塵も無いわ
玲生は私だけの男よ
この世に玲生の子供を生んでいい女は私だけ
私以外が玲生に抱かれる事は決して赦さないわ
それが何処の誰であろうとね」
「……………………」
そうはっきりと、躊躇無く言い切った曹操。
その清々しいまでの態度に対し厳顔は呆然とし──愉快そうに、しかし、理解を以て笑った。
「ククッ…そうよな、本気な程に譲れはせぬな」と思わず言いそうになる程に。
勿論、本気でも共有する事は有るだろう。
それは各々の価値観や恋愛観に因って様々だ。
また、その時々の置かれた状況等も有るだろう。
もしかしたら、曹操も共有した可能性も有り得る。
しかし、それは既に“たられば”である。
今の曹操に共有の意思は無く、可能性も無い。
「…やれやれ……そういう所は義母娘よな…」
「あら、御義母様もだったの?」
「まあ、当時は相手は居らなんだが…
そういった類いの話をした時には今のお主と同様に言い切っておったわ
その眼光には若かった私は身震いした程よ」
「ふふっ、それは私には嬉しい言葉だわ」
厳顔の言葉に年相応の笑顔を咲かせる曹操。
その姿に厳顔は内心で驚くが、自分の知る彼女を、彼女との思い出を曹操に伝える。
それが“自分に託された事”だと感じたから。
そして若き日の自身の想いを呼び起こす厳顔。
それは孫静との事だけではなかった。
今宵、彼女は火が点き、馬超は下が増えるのだが。
それは、また別の話である。