九話 春秋双花
路銀に余裕も出来た事で順調に旅を続ける曹操達は荊州を抜け、益州へと入っていた。
何だかんだで、各地の治安の差を身を以て実感し、曹家・孫家の影響力が如何に高いのか。
それを改めて理解させられていた。
勿論、曹操・卞晧の才器であれば、将来的には更に良い社会を実現する事が出来る事だろう。
ただ、それでも二人はまだ子供であり、本人達自身自分の未熟さを知っている。
だから、焦らず、慌てず、その歩みを少しずつ前に進めながら、積み重ねて行く。
…まあ、その辺りが子供らしくはないのだが。
「はぁっ、はぁっ………や、やっと、頂上か…」
息も絶え絶え、汗もダラダラ、苦し気な表情をした韓浩は木々の洞窟の先に出口を見付けた。
「これ位なら休み無しで楽勝だろ!」と調子に乗り甘く見た韓浩と曹洪の発言に静かに御怒りになった曹操は「それなら、氣での強化も無しね」と提案し休憩無しでの山越えが始まった。
つまりは自業自得な訳だったりするのだが。
まあ、辛いものは辛いし、苦しい事は確かだった。
それでも、終わりが見えると不思議と力が湧く。
苦痛や困難が強ければ強い程、解放される瞬間への渇望から来る底力というのは軽視出来無いもの。
──とは言え、それを意識的に引き出したり、常に扱うという事は至難であり、危険だったりする。
何故なら、生物というのは自己崩壊を起こさぬ様に
“自己抑制”という防衛本能を備えるのだから。
だが、その一線を意図的に超え、力を引き出すのが氣という技法の真骨頂だと言える。
勿論、言葉で表す程、簡単な事ではないのだが。
既に韓浩達は“鍵”をてにしている。
後は、枷を外せばいいだけ。
まあ、それが実際には本当に難しい事なのだが。
それは兎も角として、疲弊し普段の倍以上に重くた感じる自分の身体を懸命に動かして、前へ。
山頂に向かうかの様に険しい上り坂の山道を抜け、途切れた木々の先に青空と白雲が姿を現した。
吹き上げる様に通り抜けた強めの風に目を細めると降り注ぐ陽光を遮る様に右手で庇を作る。
苦労したからこそ、その景色は一層美しく輝く。
そんな眺望から直ぐに視線を外し、下げた韓浩。
視界に映った存在に、自然と口元が緩んだ。
「──おおっ!、見ろ翔馬っ!、町だっ!」
「マジでっ!?、今日は宿だーっ!」
「ヒャッホゥーッ!、今夜は拉麺だーっ!」
眼下に町を見付けた韓浩が叫ぶと、直ぐ後ろに居た曹洪が駆け足で追い付き、町を見ると、昂ったまま下り坂を町を向かって駆け下りてゆく。
韓浩も曹洪に負けじと駆け出した。
「やれやれ…十分な程に元気じゃないの」
「まあ、二人共、見た目以上に子供だからね」
呆れた様に呟いた曹操に苦笑しながら卞晧は言い、曹操達は「あー…」と納得してしまう。
まあ、子供と言うよりは“幼児”なのだが。
それを態々言う必要は無かった。
曹操・卞晧は余裕で、努力家の曹仁は同じ努力家の甘寧を気遣いながら山道を登り切った。
韓浩達程に露骨ではないものの、曹仁達も疲労感は隠し切る事は出来無いでいる。
実際、この山道は滅多に使われない“迂回路”で、一般的に使用されているのは山の麓を大きく回った街道だったりするのだから。
ただ、その街道を行けば、眼下の町に着くまでには五日掛かるが、この山道を行けば一日で着く。
何方等を時間を無駄に出来無い曹操達が選ぶのか。
そんな事は言うまでもなかったりする。
──で、韓浩達の発言に繋がる訳だ。
まあ、もしも仮に曹操達が氣で強化をしていれば、二時間と掛からずに町に着いているのだが。
それは言わずもがな。
移動を兼ねた鍛練だったからに他ならない。
(…ふむ……中々いい感じじゃないの…)
チラッと視線を向けた曹操は、曹仁と甘寧の様子に内心で満足そうに口角を上げていた。
二人の事を、くっ付けようとはしていても露骨には遣るつもりはない曹操達。
だから然り気無く誘導したり、仕込んでいる。
それが少しずつ結果を出し、果実が膨らむかの様に努力と想いが実ってゆく様は見ていて楽しい。
勿論、曹操自身の果実も順調に実っている。
…まだまだ豊かとは言えない実りは置いといて。
曹仁と甘寧の距離は確実に縮まっている。
性急に既成事実を求めはしない。
この旅が終わる時、互いが必要だと思えれば。
それで十分だと言えるのだから。
はしゃぎながら坂を下って行った韓浩と曹洪は先に町に入り、鼻を利かせて美味そうな店を探す。
曹操達の旅の間の決め事の一つに“食べたい料理が有る場合には先に町に入って宿を取り、店を探せば町で最初に食べる料理の決定権を行使出来る”との約束が有る為、二人は必死だ。
何故なら他の食事は主従関係上、主である曹操達に優先権が有るからだ。
まあ、卞晧に提案すれば、余程可笑しくはない限り結構通ったりするのだが。
宮廷厨師顔負けの曹操達の料理が出る野宿が続いた後には大衆的な少し安っぽい味付けが恋しくなる。
韓浩は兎も角、曹洪は曹家の分家の嫡男だが、家の女性陣の権力が強い為、昔から父の部下等に付いて大衆料理店に出入りしていた為、そういう味付けに舌が馴染んでしまっていたりする。
贅沢な話だと言えるだろう。
「俺は拉麺が食いたい」
「濃い目の味の青椒肉絲が欲しい」
宿を取った二人は宿の前で顔を見合せ、短く互いの胃袋が要求している料理を口にする。
韓浩の要求は満たし易いが、曹洪の要求は難しい。
単純に青椒肉絲であれば探し易いのだが。
“濃い目の味付け”となると探し難くなる。
宿までの道中で拉麺を出しているだろう店は幾つか見付けたし、その内の半数は青椒肉絲を出している可能性が高い匂いがしていた。
だが、それは曹洪の要求を満たしてはいない。
曹洪が妥協すれば直ぐに決まる話では有るのだが、韓浩も曹洪の気持ちが判るが故に妥協はしない。
──となれば、二人が遣るべき事は一つ。
そう、足を使って店を探すだけだ。
当然ながら中に入って聞くというのは駄目だ。
別に遣ってはいけない、という訳ではないのだが。
それを遣るのは負けた気がしているからだ。
勿論、二人の勝手な思い込みでしかないのだが。
要するに、そういう雰囲気も含めて、二人は状況を楽しんでいる、という事だったりする。
それは一種の“宝探し”みたいな感じだ。
しかし、単なる悪巫山戯ではなく、二人の今までの経験で鍛えられた嗅覚は馬鹿には出来無い。
腹を空かせ、飢えた獣の鼻は、獲物を敏感に感じ、鋭く嗅ぎ分ける事が出来るのだから。
「────翔馬っ!」
「────康栄っ!」
「「──彼処だっ!!」」
店を探す事、凡そ四半刻。
のんびりと歩きながら向かっていた曹操達が、町の入り口に近付いた頃、二人は同時に同じ店を指し、遣り遂げた達成感に思わず抱き合った。
行き交う人々が「青春ね~」「馬鹿じゃない?」と真っ二つの意見に分かれている事など知らずに。
その後、二人は曹操達の元へと走って行った。
曹操達と合流した二人は急かす様に見付けた店へと案内して行った。
その姿は子供が親の手を引いているかの様だが。
実際には上の兄が弟妹を引っ張って行っている様に端からは見えてしまうのだが。
「…何かしら、随分と騒がしいわね…」
「…彼処の御店みたいだね」
通りに出来た人集りを見て眉根を顰める曹操。
町に着いたばかりで面倒事には関わりたくはない。
勿論、それが無辜の民が虐げられている状況なら、そんな事を気にする事も無いのだけれど。
人集りの雰囲気からして、殆んどが野次馬なのだと判る事から考えても官職者が関わっている可能性は低いと言えるだろう。
曹家・孫家の領地なら兎も角、普通の町では官職の持つ権限・圧力というのは平民にとっては抗えない強大な力だと言えるのだから、この騒ぎに官職者が関わっているのなら、人集りは出来難い。
それを瞬時に見極めたからこそ、曹操は嫌になる。
少し早いが、これから夕食だというのだから。
そんな曹操の心中を察しながらも卞晧は件の騒ぎの中心であろう場所を一軒の店だと見定めた。
然り気無く曹操達の視線を其方へと誘導する。
──次の瞬間、凍り付いたかの様に硬直したのは、韓浩と曹洪だった。
何しろ、その場所こそ、二人が見付け出した唯一の自分達の欲望を満たす理想郷だったのだから。
「……………っ!、このっ──」
「────ぷンギィャアァアアァアッ!!!!」
我に返った韓浩が、自分達の楽しみを奪おうとする不届き者を御店から叩き出そうと人集りを掻き分け店へと入ろうとした時、韓浩の身体を掠めて行った何かが奇声を残して通り過ぎた。
まあ、何かではなく“人”だったのだが。
怒気と勢いに任せて突っ込もうとしていた韓浩が、冷静になるには十分な切っ掛けだった。
人が飛んでいった方に視線を向ければ向かいの家の前に有った荷車に突っ込んだ男が伸びていた。
それだけでも男を飛ばした相手の力量が窺える。
それは一体、どんな相手なのか。
韓浩は人集りに飲まれる様にして距離を取った。
「この糞女がっ!、赦さねえぞっ!」
「手前ぇっ!、俺達を誰だと思ってやがるっ!」
「ん?、只の柄の悪い酔っ払いだろう?」
「姉者、違うぞ、“身の程を弁えぬ”、だ」
「おお!、成る程な、済まなかったな、訂正しよう
只の身の程を弁えぬ柄の悪い酔っ払い、だな」
「こ、此奴等っ…」
程無くして店の中から飛び出してきた二人の男達が店の入り口を睨み付けながら脅す様に声を荒げる。
だが、そんな事など気にもしない様子で右腕を捻り上げて捕まえている男を引き摺って店から出て来た女性達は歯に衣着せぬ評価を男達に下す。
そして、妹の指摘を受けて素直に男達に更に評価を下方修正して言うと姉は捕まえていた男を二人へと押し放ち、睨み付けた。
まだ成人してはいないだろう幼さの残る顔立ちとは裏腹に、その眼差しは武人としての強さを宿す。
卞晧の目には自分達と歳が近いだろう二人の少女の洗練された歩方・身体を使い方が目立った。
それは単純に優れていたから、という訳ではない。
少女達が身に付けているだろう武は、間違い無く、自分が母から教えられ、受け継いだもの。
それ故に気にならない訳が無かった。
そんな卞晧が無言で向けた視線の先では右手で額を押さえた曹操が溜め息を吐いていた。
「………何を遣っているのよ、あの娘達は…」
「何故、あの二人が此処に…」
「──って、止めないの?!
“春姉”なら殺り兼ねないよ?!」
「それならそれで構わないわよ
こんなに目立つ真似を考え無しにする様なら一緒に連れて行く事なんて出来無いもの
あの娘達を置いて行く口実になるしね」
「それはまあ、そうだけど……って、一緒に?」
「……どうせ御父様の仕業でしょうからね
船での件か、揚州での件かは判らないけれど…
早々に目立ったのが不味かったわね……はぁ~…」
曹操達三人の反応から既知である事を察した卞晧は以前曹操から聞いた双子の従姉の存在を思い出す。
曹操自身も田静が劉懿達に教えた武を習っている。
だから曹家に連なる者であり、曹操達に親い者なら同様に田静の武を身に付けていても可笑しくない。
しかし、卞晧としては気になるのは曹洪の口にした“殺る”可能性の方だったりする。
確かに見た感じの印象だと姉は手が早そうだった。
韓浩が女性になった様な感じだと言える。
妹の方は大人しそうで、意外と毒針持ちだろう。
そう一人で納得していた。
蚊帳の外、という訳ではないが、付いては行けない甘寧は曹操達の会話に耳を傾けながらも二人の姿を静かに見詰め続けていた。
甘寧自身、曹操達に出逢ってから学んでいる訳だが幼少の頃から嗜んでいる者とでは差は明らか。
勿論、努力次第で追い付く事は出来るが。
それは相手が怠慢となればの話。
少なくとも、甘寧の目から見た二人は慢心する様な人物には見えなかった。
その為、甘寧は一層の努力を心に誓う。
甘寧にも護りたい背中が有るのだから。
それはそれとして、人集りの壁の中で対峙している当事者達の緊張感は高まっていた。
まあ、厳密に言えば、“気圧されている男達の”、な訳なのだが。
「よく聞け、もう一度だけ言って遣る
“自分から打付かっておいて”、怪我をしただのと難癖付ける様なら──実際に怪我をするというのがどういう事なのか、私が丁寧に教えて遣ろう
だから、しっかりと考えてから答えろ
貴様等に、此処で何かが遇ったのか?」
「~~~っ……………な、何にも無ぇよ…」
「はっきりと言え!、聞こえんぞ!」
「ぐっ!?、何にも無かったよっ!
ただ俺達が酔っ払って勘違いしてただけだっ!
これが代金と迷惑料だっ!、畜生っ!」
「あっ、兄貴っ!?、待って下せえっ!」
睨み付け負けた纏め役らしい男が懐から小袋を掴み出すと対峙する少女に投げ付け、捨て台詞を叫んで人集りの壁を掻き分けながら一目散に逃げ出した。
一瞬遅れて舎弟っぽい二人は伸びていた一人を抱え「兄貴」と呼んだ男の後を追って行った。
少女の方は難無く小袋を掴み取り、妹に渡す。
妹は中を確認し、幾らかを掴み出すと姉へと小袋を返し、入り口に居た店主に近付き、それを手渡した。
「店主、奴等の飲食分の代金は足りているな?」
「…へ?……ぇ、ぁ、ああ、え~と……へ、へい、た、確かに有ります……が、少々多いかと…」
「それは迷惑分と奴等の割った皿の分だ」
戸惑う店主に男前な台詞で渡した金を握らせる。
ただ、こういう当たり前の事が出来無いのが、外の官吏等だったりするのだが。
その辺りの事に対して実感が──実体験が無い為、珍しいを通り越し、警戒心を与えてしまった事に、少女は気付いてはいなかった。
一方、姉の方は受け取った小袋を手に、店の中から様子を窺っていた五~六歳程の女の子を連れている母親と祖母らしき女性達に近付いて行った。
「あ、あの、有難う御座いました
娘だけでなく、私共も助けて頂いて…」
「気にするな、それよりも…ほら」
「………ぇ?、で、ですが、これはっ!」
「奴等に迷惑を掛けられたんだ、当然の事だ」
「し、しかし、それは助けて頂いただけでも私共は十分で御座います
この様な事までして頂くのは……」
「食事は楽しく、美味しく、賑やかに、だ
特に家族の団欒を邪魔されたのだからな
それ位の迷惑料は受け取って当然だ」
「それは………いえ、判りました
本当に有難う御座います」
「お姉ちゃん達、ありがと~」
「おう、沢山食べて大きく成れよ!」
既に支払いを済ませていた所で男達に絡まれていた親子は姉妹に頭を下げ、店を後にした。
笑顔で姉妹に手を振る女の子の姿に、笑顔を浮かべ答える姉妹の姿からは、先程までの威圧感は無く、年相応の少女らしさを感じられた。
そんな当の姉妹はというと、まだ食事の途中で──というか、まだ頼んだ料理が来てもいなかった為、席へと戻っていた。
店主は厨房に戻って仕事を再開し、人集りも一件の決着に拍手を送った後、散って行った。
そんな中、振り返った韓浩は曹洪を見た。
「おい、どうするんだ?、店に入るのか?」と。
抑が曹洪の望んだ条件を満たすのが件の店であり、韓浩の条件は他所の店でも満たせる。
だから、当然と言えば当然の事だったのだが。
その曹洪は曹操の判断待ちの状態だった。
そんな様子に韓浩は余計な口を挟む事はしないで、大人しく曹操の判断を待つ事にした。
旅に出たばかりの韓浩と比べれば大した成長だ。
まあ、偉そうに他人に自慢出来る事ではないが。
「………はぁ~……まあ、仕方が無いわね
こうして見掛けた以上、無視は出来無いもの」
その曹操の一言で場の空気は弛緩した。
元々、“二人旅”がしたかったのは曹操。
父・曹嵩の親馬鹿っぷりにより、同行者が付いた。
勿論、曹操自身も妥協した点である為、今更それを愚痴愚痴言うつもりはないのだが。
甘寧の様に旅の道中で縁が有っと迎えた同行者と、家の──というよりは父の意図により加わる同行者とでは気持ちの上で、歓迎の度合いが異なる。
まあ、人選からして母達が止めてくれたのだろうと推測出来てしまうだけに余計に無視は出来無い。
何より、本人達には悪気は無いのだから。
二人が店の中に入ってから暫くして曹操達は入店。
出迎える店員の声を聞きながら曹操は迷う事無く、奥の卓で向かい合って座る姉妹の元へ歩み寄る。
先に視界に曹操を捉えたのは妹の方だったのだが、背を向けている筈の姉は曹操に足音で気付いた。
それは宛ら、飼い主の帰宅を察知して出迎えに行く犬や猫の様に、常人離れした聴覚による反応。
曹操が声を掛けるより早く席を立ち、振り向いた姉──を後ろから抱き止め、その口を塞ぐ妹。
「んぅんんんぅんっ!……んぅんんぅん?」
「……落ち着け姉者、此処は店の中だぞ?」
「そういう事よ、席に着いて、静かにしなさい」
「んんっ!」
判っているのか、いないのか。
その判断に悩んでしまう姉の反応だが、曹操も妹も慣れているのか。
特に気にする様子も無く席に着いてゆく。
卞晧達も曹操に促され、空いている席に着く。
チラッと卞晧達、姉妹と初対面の面々が姉の様子を窺うが、その感想が「嬉し過ぎて落ち着かない犬」で一致していたりするのは必然だろう。
「先ずは…貴方から御願い出来る?」
「うん、いいよ
初めまして、俺は卞晧、操の夫だよ、宜しくね」
「は!、私は夏侯惇です、宜しく御願いします!」
「双子の妹の夏侯淵です、宜しく御願い致します」
挨拶をしているだけなのだが、双子という存在の、一般的な印象を容易く破壊してくれる二人。
勿論、曹操達や二人が大掛かりな仕込みをした上で騙そうとしている訳ではないのは判るのだが。
卞晧の中では“珍しい事例”として分類・記憶され軽い観察・検証の対象として認識したのは内緒だ。
一方、夏侯惇は聞かされていた曹操が認めた卞晧に対面する事が出来て、若干興奮気味。
憧れの人物に会って「御会い出来て光栄です!」と目を輝かせる子供の様だったりする。
犬に例えるなら、千切れんばかりに振られる尻尾が見えても可笑しくはないだろう。
対して夏侯淵は冷静に卞晧を見詰め、息を飲んだ。
少し氣を探っただけで、その内包する氣の濃密さに気圧されてしまったからだ。
勿論、卞晧も曹操も気付いていたが、敢えて触れず夏侯淵の無礼な行為は見逃した。
ただ、自分の軽率な行為に気付いた夏侯淵は静かに二人に対して頭を下げ、謝罪の意を示した。
(……成る程な、華琳様が夫とされる訳だ…)
姉の夏侯惇の氣を大きさは巨岩や居壁、或いは山を連想させる感じだが、卞晧の場合には奥底も規模も見えない程の圧倒的な深淵を思わせた。
迂闊に踏み込めば、二度と戻る事は出来無い。
そんな畏怖を否応無しに夏侯淵は理解させられた。
──とは言え、それは敵対した場合には、だ。
逆に言えば、非常に懐が深く、寛容さと包容力とを兼ね備えた強靭な精神力を想起させる。
自分達姉妹が生涯を賭して仕える主人として卞晧は不足も不満も無い人物であると感じられる。
その為、夏侯淵は無意識に口元を緩ませていた。
夏侯姉妹が自己紹介を終えると、姉妹とは御互いに面識の無い二人に卞晧が自己紹介を促す。
「私は甘寧と申します
晧様との御縁も有り、御仕えさせて頂いています
まだまだ至らぬ点も多いとは思いますが、今後とも宜しく御願い致します」
「俺は韓浩だ、晧とは幼馴染みでな
その縁で仕える事になったんだ、宜しくな」
そう言った二人に対し姉妹は各々の反応を見せた。
甘寧に対しては良い意味で対抗心を懐き、将来性を感じ取って、好意的に歓迎した。
年齢的にも夏侯姉妹の方が一つ歳上という事も有り自然と関係性の大枠は出来上がっていた。
一方、韓浩に対しては姉妹の反応は違った。
夏侯淵は卞晧の幼馴染みという韓浩の価値を直ぐに理解し、曹操に確認する意図で視線を向けた。
それを察した曹操は小さく頷いて見せる。
その瞬間、夏侯淵の中では、韓浩が替えの利かない存在の一人である事が確定した。
それ故に韓浩とも友好的に挨拶を交わした。
しかし、夏侯惇の反応は違った。
甘寧とは問題無かったが、韓浩に対しては明らかに不満な様子を見せていた。
「何故、私が貴様と…」と声が聞こえそうな程に。
それには流石の曹操も内心で焦った。
韓浩と夏侯惇の対立は卞晧と曹操の対立に等しい。
勿論、曹操と夏侯姉妹の関係と、卞晧と韓浩の関係とでは色々と違いはするのだが。
それでも客観的に、政治的に見た場合、その対立は曹操達自身が夫婦喧嘩をするよりも厄介な事。
それを理由に要らぬ波風を立てようと企てる者達は少なからず出て来るだろうから。
「………何だよ?、俺の顔に何か付いてるか?」
「…貴様、先程の野次馬共の中に居たな?」
「っ、────」
「ああ、それがどうした?」
「────っ!?」
展開的に不味いと察した曹操が夏侯惇を止めようと声を上げるよりも早く、韓浩が答えてしまった。
「何故、こういった時だけ反応が早いのよっ!」と曹操は韓浩に怒鳴りたかった。
何方等かと言えば、普段は空気が読めないが最悪の雰囲気だけは察している癖に、と。
胸ぐらを掴んで説教して遣りたくなる程に。
「やはりか、その阿呆面に見覚えが有ったからな」
「…おい、初対面の相手に随分な言い様だな?
喧嘩売ってるんなら買うぞ、手前ぇ…」
「私が貴様の様な腰抜けに喧嘩を売るだと?
フンッ、少しは笑える冗談が言える様だな」
「あ゛あ゛?、んだとぉ…」
「──あ、注文御願い出来ますか?」
「──ぇ?、あっ、は、はい!」
「拉麺三つ、炒飯四つ、青椒肉絲二つ、餃子二つ、鱒の香草焼き、棒々鶏で
あと、二人の分の代金も一緒で御願いします」
「はい、畏まりました」
夏侯惇と韓浩が一触即発な険悪な空気なのを他所に店員を捕まえて平然と注文をする卞晧を見て曹操は「ちょっと玲生!、それ所じゃないでしょっ!」と思わず叫びたくなってしまう。
だが、そんな自分の中に湧いた声が意外に冷静さを取り戻す切っ掛けになったりする。
二人の様子を客観的に見た場合、確かに険悪だが、果たして曹操が懸念している程に大問題なのか?。
その解答は直ぐに出る。
確かに険悪な関係が問題な事には間違い無い。
しかし、それは将来的な、立場上での問題だ。
今、この場に置いては、子供の喧嘩と大差が無い。
それに逆に言えば、今だからこそ、御互いに率直な言葉や意見を交わし、打付け、理解を深め合える。
その為の貴重な時間であり、限られた機会だ。
それならば、止めてしまうのは野暮というもの。
現に、各々が気にしている事は違っている。
客観的に言えば、論点がズレているのだから。
ただ、ある意味では似た者同士だから、打付かり、結果として喧嘩腰に為ってしまっている訳だ。
(もうっ、せめて一言言いなさいよっ!
空回りしていた私が馬鹿みたいじゃないのっ!)
そう愚痴りたい衝動に駆られるが、それに気付いて自制出来た事自体が大事だったりする。
そして、その事を理解出来るからこそ、曹操は隣で「良く出来ました」と言う様に笑う卞晧に対しての文句を言えなくなってしまう。
結局、そういった事も含めて、曹操達全員の成長に繋がる経験をするのが旅の目的なのだから。
──とは言え、腹が立つものは腹が立つ。
曹操は皆からは見えない様に卞晧の太股を抓る。
これ位で明らかな反応を見せる可愛い夫ではないが妻としては少しは鬱憤が晴らせる。
まあ、そういう事が出来るのは信頼関係が確かで、曹操自身が卞晧に甘えているからに他ならず。
卞晧もまた曹操の感情を受け止めているからだ。
だから、曹操の気が済めば、卓の下で繋がる掌。
尚、掴み合いまで発展しそうだった韓浩と夏侯惇の喧嘩は、結局は料理が来た事で容易く鎮火した。
“腹が減っては戦は出来ぬ”と言う様に、怒りには心身の消耗が伴い、空腹の苛立ちも生じるのだ。
予想通り、曹嵩によって派遣されてきた夏侯姉妹を旅の仲間に加え、曹操達は益州の南部へと進む。
これは曹操ではなく卞晧の希望によるものだ。
益州の南部域は“南蛮”と称される様に漢王朝とは文化的にも異なる部分が多く、それに直に触れる事自体が稀少な経験なのは言うまでもない。
だから卞晧は旅の目的の一つに「南蛮に行きたい」という旨を最初から曹操に話していた。
──で、その卞晧はというと。
「──うわっ!、本物の“黄金竜胆”だっ!
しかも数本纏まって生えてるなんてっ!
こんな事って有り得るのっ?!
──って、ああっ!、“矢切小町”ぃっ!?
嘘っ!?、何で此処にっ?!、自生地違うよねっ?!
しかも“尾花栗色玉斑蝶”まで居るしっ!
何これ!、マジでヤバイんですけどーっ!!」
──と、普段の彼からでは到底想像が出来無い程のはしゃぎっぷりで彼方此方へと走り回っている。
それが出来るのは町から放たれた山奥に陣を構えて野営しているからだったりする。
滅多に──と言うか、聞いた限りでは今居る場所に人が立ち入った記録も、そういった話も聞いた事が無い位に、秘境とされている。
だから、どんなに卞晧が子供の様に騒いでいようと誰かに見られる事も、咎められる事も無い。
思う存分、気の済むまで、卞晧は自然採集を楽しむ事が出来る訳だ。
そんな卞晧を、幼い子供を見守る母の様な眼差しと微笑で見詰めているのが曹操。
客観的に見れば、とても絵になる姿と言える。
現に、そんな二人の関係を甘寧や夏侯姉妹は笑顔を浮かべて「素敵な夫婦愛だ」と感じている。
(──嗚呼っ、これは本当にヤバイわねっ…
そんなに可愛らしい姿を見せないで頂戴!
我慢出来無くなっちゃうじゃないのっ!)
──が、実際の所、曹操は胸中で身悶えしていた。
基本的に大人びている卞晧にも勿論、年相応な所が有るのは出逢ってから今日までの日々で知っている事ではあるし、可笑しな事でもない。
何気無い悪戯をし合ったり、二人きりで居る時には御互いに甘えたり、気を抜く事も多々有る。
しかし、そんな中でも、此処までの卞晧の無邪気な一面を見た事は無かったりする。
勿論、卞晧が曹操に気を許していない訳でもなく、最愛の妻に格好悪い所を見せたくないから、という訳でもなく、単純に機会が無かっただけ。
つまり、我を忘れて童心に返ってしまう位に夢中ではしゃぐ様な事が無かったというだけの話。
そういった訳で曹操は悶死しそうな己の心を必死に抑え込みながら、堪えていたりする。
もし、回りに他の者が居なかったとしたら。
曹操は問答無用で卞晧を襲っている自信が有る。
そう言い切れる程に、今の卞晧の姿は曹操にとって魅力的であり、愛らしいものだったりする。
因みに、黄金竜胆というのは名前の通り、黄金色の竜胆なのだが、黄金なのは花ではなく葉と茎と根。
所謂、“霊薬”とされる植物であり、市場に出回る事は滅多に無い稀少な薬草の一つ。
薬として調合するには他にも稀少な材料は必要で、高度な製薬・精製技術も必要不可欠。
その為、取り扱えないから商品価値は非常に高いが買い手が滅多に居ないのが現実である。
尚、基本的には単生なので山一つに一輪、とされる程に複数が一ヶ所に生えてる事は無いとされる。
矢切小町は漢王朝領内では幽州の最北東端の一角に自生する場所が有るが、基本的には北方の植物。
濃い橙色の小さな菊花を深い雪山に咲かせる事から“厳冬陽の雫”とも呼ばれている。
霊薬とはまではいかないが、稀少な薬草の一つ。
扱い自体は難しくないが、自生地が自生地である為入手が困難な物なので稀少価値は高い。
尾花栗色玉斑蝶は虫嫌いな人でなくても蛾に見える地味な印象の強い蝶だ。
しかし、本の少し陽光を浴びるだけで、その身体は鮮やかなに栗色に輝き、羽根に浮かび上がる美しい金の斑紋様から“幸運蝶”とも呼ばれ、広く縁起物として言い伝えられている。
ただ、その目撃例は少なく、蛾の見間違えだった、なんて事の方が多かったりする幻の蝶。
生態も謎が多く、棲息地等も解ってはいない。
一説には“霊蟲”であり、寿命は軽く百年を超え、
“渡り”をしているから棲息が特定出来無いとする様な話も有ったりする。
要するに、まだ殆んど何も解ってはいない訳だ。
──とまあ、そんな感じの主夫婦は放って置いて、曹仁達は野営の為に色々と動いている。
基本的に料理を曹操達に頼っている分、他の仕事は曹仁達が担っている。
甘寧と夏侯淵は料理でも二人を補佐しているのだが──夏侯惇は曹仁達側に居る。
その理由は言わずもがな。
「──にしても、まさか山奥で何日も野営をする事になるとは思わなかったな…
こんな事なら拉麺食っとくんだった…」
「でも、料理に関しては不満は無いに等しいよ
何方かって言うと俺は寝ながらでも“纏氣”を持続させていないといけない方がキツイかな…」
「あー…確かになぁ~…」
薪割りと竈掃除をしながら韓浩と曹洪が話す通り、人里離れた山奥の密林は自然の脅威に溢れている。
ちょっと油断すれば蚊や蚤・壁蝨等に刺されるし、痒みだけではなく未知の病気を発症する恐れも有り決して油断する事が出来無い状況に有る。
多少は旅で慣れていてはいるものの、その度合いが急に跳ね上がったのは言うまでもない。
だが、「自然を相手に「準備が出来るまで待って」とでも言うつもりなのかしら?」と曹操に言われ、「何時・何処で、どんな状況に置かれるか判らない事だって有り得るのよ、その為にも状況に適応し、対処出来る様に経験を積むは大事でしょう?」と。
そう言われて反論出来る者は居なかった。
少なくとも、平民ではない立場に有る身だ。
それなら戦時下での刻々と変化する状況に合わせて対応しなくてはならない事も有り得る。
常に万全な状態で居られる訳ではないのだから。
…まあ、それは表向きの理由で、単純に夫の要望を叶えてあげたい妻の健気さなのは、言わぬが花。
“触らぬ女神に祟り無し”である。
「けどさ、改めて比べてみても違うもんだよな…
勿論、統治者が違うんだから当然なんだけどさ」
「まあ、そう思うのが普通なんだろうけどね
そういう意味だと曹家や孫家が特殊なんだよ
普通の統治者だと、あんな風に民の事を考えないし気にする事自体が無いからね
大多数の権力者にとっての民は家畜も同然…
自分達の私利私欲を満たす為の道具でしかないのが腹立たしい事に現実なんだから…」
「………そう、かもしれないな…」
曹洪の言葉に韓浩は静かに空を仰いだ。
別に期待もしていないから失望した訳ではない。
抑、韓浩自身は卞晧との縁で素晴らしい主に仕える事が出来ているのだから文句など無い。
ただ、卞晧達と旅をし、色々と学んだが故に思う。
もし、自分が権力者──仮に県令の一人息子辺りに生まれ育っていたとしたら。
果たして、卞晧達の様に、曹家・孫家の様な考えを常とした人物に成れただろうか?。
…先ず、無理だろう。
勿論、それは自分の経験する事によって違う以上、絶対だとは言わないが。
韓浩は、今の自分の様に成る事さえ想像出来無い。
それはつまり、それだけ卞晧達の影響力は大きく、自分は良縁に恵まれている事を理解させられる。
「………そうだな、だからこその、この旅だな
今の世の中を知って、少しでも「変えるべきだ」と思ったなら、それが答えなんだろうな…」
「結局の所、俺達に出来るのは支える事だしね
俺達自身に世の中を変えるだけの影響力は無いし、遣ろうと思っても背負い切れるとも思わないよ
望む望まずに関係無く、そういった能力や才器って
“世界に選ばれた”特別な人達だけの物で…
でも、それから逃げるには死以外には無くて…
生きるなら、背負うしかないんだろうね…」
「………俺は違ってて良かったって思うわ」
「ははっ、うん、俺もだよ、絶対に無理だもん」
真面目な話も長続きしない、耐えられない。
そう言うかの様に呟いた韓浩の言葉に曹洪は頷き、重苦しくなり掛けた空気を笑って流す。
一緒に旅をする中で、卞晧や曹操が韓浩を側に置く理由を曹洪も理解している。
自分達の様に生まれながらの政治に関わる側に居る者達とは違う、先入観の無い韓浩。
それは良い意味で非常識で、臆さずに「可笑しい」と声を上げる事が出来るから。
そういう存在は稀少で、欲しても得難い。
だからこそ、曹操も韓浩を認めている。
…まあ、まだまだ未熟なのは御互い様だが。
「それはそれとして、益州の現状は酷ぇよな…
荊州の時にも思ったけど、あれより上だからな…」
「ある意味、中央から遠いから独立しているに近い交州の方が治安が良かったもんね~…
しかも益州の州僕を含めて官職者が劉姓が多い分、無駄に中央との関係性が影響してるんだろうね…」
「それが有るから中央は下手に手を出さない、か…
そう遣って勘違いした連中が民を苦しめる…
それを民が享受して抗わないのも問題だよな…」
「楯突けば家族も無事じゃ済まないからね…
余程追い込まれるか、そういう流れでもない限り、民衆の一斉蜂起なんて無いだろうからね~…
それが判ってるから連中がデカイ顔するんだよ」
「益州で家督争い・御家騒動が起きそうだろうと、民衆が動けば“反逆罪”で死刑だろうし…
結局は、別の奴が美味しい所だけ持って行く、か…
そういう意味だと、マジで嫌な世界だよなぁ…」
「まあ、その世界で俺達も生きていく訳だけどね」
「確かにな……まあ、他所よりは環境的にも遥かに増しなのは間違い無いけどな」
「それは曹家の末席に居る身として保証するよ」
「末席って…翔馬は跡取り息子だろ?」
「姉さん達が婿を取らなければ、だけどね
俺自身は家督に拘りはないから、別にね~…
良い相手が居たら婿入りしても良いって思うし」
「あ~…“玉の輿”って奴か?」
「俺は男だから“逆玉”だね
そういう康栄は自分の家を興すのが必須だからね
頑張って嫁探ししないと、色々大変だよ?」
「だったら、お前の──」
「それは嫌、絶対に嫌、万歩譲って、俺の紹介無く知り合って、そうなったんなら構わないけど
俺が紹介して、そうなるのだけはマジで嫌」
「………チッ…」
長くは続かない真面目な空気は年相応の話題により一先ずの終わりを迎える。
ただまあ、曹洪の気持ちも理解は出来るので韓浩も無意味に粘って不快感を与えはしない。
そういう所の察しの良さが上手く行けば、韓浩にも直ぐに良縁が訪れそうなのだが。
それが出来無いからこそ、韓浩らしくもある。
「おいっ!、何時までも喋ってないで終わったなら此方等を手伝えっ!、馬鹿者っ!」
「はあっ?!、偉そうに言うな!、この筋肉女っ!
お前より俺の方が増しな物作れるからなっ!」
「なっ!?、ききき貴様っ!、言ったなーっ!」
「あー、言ーましたよ?、本当の事ですが?
魚の丸焼きを焦がすなんて…ププッ…ワロス…」
「~~~~~~~~~っ────殺すっ!」
「殺れるもんなら殺ってみろっ!」
「………はぁ~~~………またか…」
出逢いからして悪かった二人は口喧嘩から始まって直ぐに得物を抜いて斬り合い始める。
それを見て曹洪は溜め息を吐く。
何故なら、曹操・卞晧が止めない場合、二人の事を止めるのが曹洪の役目になっていたから。
勿論、自分で請け負った訳ではない。
気付いたら、「任せた」と夏侯淵・曹仁・甘寧から肩を叩かれていたのだから。
そう、単なる貧乏籤でしかなかった。
しかし、本当に仲が悪い二人である。
夏侯惇にはサボっている様に見えたのだろう。
夏侯惇自身は注意するつもりで言ったのだろうが、一言「もう終わったのか?」と確認してから言えば揉める事も無かったのだろうが。
それが出来無いのも夏侯惇らしさであるのだが。
あまり誉められた事ではないのだが。
韓浩も韓浩で無駄に事実を言って火に油を注いで、更に勢い良く扇いで煽るから燃える事燃える事。
「…この二人、絶対に同族嫌悪だよねぇ…」と。
火消し役を丸投げされた曹洪は思った。