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恋愛するのが怖い。

今、彼が隣に居ても、直視することは容易ではない。

そのことに彼自身気づいてるかどうかは微妙だけど。


乱暴されたとか、両親が冷めてたとか、そういうのじゃない。

過去の恋愛で、2度と恋はしないと決めたから。

自己暗示とでもいうのだろうか。

恋をすることに臆病になっているだけなのかもしれない。


女友達より男友達の方が多いのは安心できるから。

友達はどこまでも友達だし、意識して一線をおくように接しているから。

そういう関係は誰にも影響は与えないし、誰も傷つけない。

もう、自分を傷つけたくなかった。

それが一番の理由なのかもしれない。







―――― 「結婚してほしい」


車の中でいわれた言葉を反芻する。

目の前は真っ暗で、久しぶりにもぐる布団はなんだか湿っぽい。

それでも眠ろうとがんばるが、社長の一言が耳について離れない。


―――― 「覚悟しといて」


何を覚悟しろというのだろうか。

社長の性格を考えると、どんな手を使ってでも遂行しそうで怖い。

社長に対して、どんな対抗をすればいいのだろうか。

どんな反抗をすれば、あきらめてくれるのだろう。





同年代の友達は、皆結婚し、家庭を持っている。

正直、うらやましいとも思うときはある。

帰る家があり、そこはいつまでも暖かいのだから。

給料を貰っても、使う時間がない自分の貯金は家が1件買えるほど溜まっているだろう。

銀行の貯金通帳も、最近見ていない。

それだけ褪めた生活をしていて、仕事しか楽しみがない完全なる仕事人間だという私に。

社長は何を求めているのだろうか・・・。


眠る時間が3時間以上確保されることが久しぶりだった。

しかし、社長の一言のおかげで昔の夢を見てしまった。

あの、つらい恋の夢を。








高校を出て、音楽を続ける為に留学した。

両親は共に音楽家で、当たり前の道だった。

留学先はイギリス。

大学、大学院と進学する予定だった。

あのことが無ければ・・・・。


同じ留学生で、同じ楽器を扱っていた彼。

技量も素晴らしく、飛び級すら噂されていた。

でも、彼が飛び級をして卒業することはなかった。

婚約までして、両親を喜ばせ、もちろん私自身も最高に幸せ絶頂期だったあの頃。

彼は違う人を選んだ。

それも大学も音楽も辞め、あっけなくその人の元へ。

何が起きたのか、どうしてそうなのか、さっぱりわからない。

それは今でも。

どうしてその人がいいのか、どうして私を置いて行ってしまったのか。

彼の両親もひたすら私と私の両親に謝るのみ。

問いただしても「知らない」しか言えないと辛い顔を見せる。

はじめは罵っていた父親も、最近は何も言わない。

音楽の道を外れた私に対しても、何も言わない。

関心が無くなったのではなく、どうすればいいのか思案しているのだろう。

学校でも公認に近いカップルだっただけに、先生や先輩・・・学校中の目が私を突き刺した。

まるで全て私が悪いかのように。

あの頃の私には耐えられなかった。

大好きだった恋人が駆け落ちをし、大好きだった学校が大嫌いな場所へと1日で変わったのだ。

先生からの冷たい指導や、同級生からの無言の圧力。

泣きたいのに泣ける場所がない、ステイ先。

逃げるように日本へ帰国した。

何をするわけでもなく、無気力に毎日を過ごした。

帰ってきたことを知っているのは両親だけ。

日本の家にお手伝いに入っていた業者も、来ないように手配してくれた。

それだけ、他人に干渉されるのが苦痛で苦痛で仕方なかった。

誰からも放っておいてほしかった。

心が悲鳴をあげていた。


誰かに助けてもらうわけでもなく、自分で立ち上がれるようになったとき

従兄弟から今の仕事を紹介された。

「音楽からは逃げられない。だから戦ってみろ」

そう言ってくれた従兄弟に感謝した。


――――がむしゃらに働いて、もっともっと忘れよう。

――――もう恋なんてしないんだから・・・・。


そう誓って2年。

たった2年で足元はぐらぐらに揺れている。





――――誰かに寄りかかりたい。

――――もう一人では無理。


心のどこかでもう一人の私は叫んでる。

でも、それを許すわけにはいかない。

もう2度と傷つくわけにはいかない。

次は、きっと立ち直ることはできないはずだから。

恋を幻にしてしまう術は、もう持ち合わせていない。





――――もう、誰も愛せない。

――――もう、誰も愛してはいけない。






この自分の気持ちを再確認した頃には、夜は明けていた。

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