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Mistake  作者: Alice
ⅠThe gramary of ruin
2/3

Out break

 ベリアルは主であるルシファーの王座へと向かっていた。城内の廊下に足音が響く。この、人間界の古城を象った拠点地を、ルシファーは気に入っていた。最も、彼に与えたのはベリアルであるが。

 ベリアルは元は、ルシファーと対等な、否、上回る程の魔将であった。自分の世界くにも持っていた。人間界のヨーロッパの宮廷を真似た広い古城を作り、数十万の悪魔を従えて。

 しかし、今ではどうだ。今や魔王と化した堕天使に、いつ殺されるか分からぬという死の恐怖に怯えながら日々を送る始末だ。

 “Belialベリアル”とは反逆者と言う意味を持つ。いつか裏切るつもりだった。ルシファーに反逆するつもりだった。だがそれには準備と時間が必要だ。

 まだだ、まだひたすらに堪えるしかない――

 ベリアルにはある考えがあった。しかし、失敗すれば終わりだ。確実に殺されるだろう。否、ただ殺されるのならばまだ良い方である。ルシファーは裏切りは許さない。きっと地獄を見せるに違いない。

「ルシファー、俺だ」と、ベリアルは目を見張るような純白の扉に呼び掛けた。

 真の恐怖へ繋がる魔の扉である。そして、この目を見張る程の白、この古城に不釣り合いの異質な白い扉は、彼の趣味である。

 もう一度声を上げるが、返事はない。ただ、グチャグチャと気味の悪い音が聞こえるだけだ。嫌な予感がする。

 仕方がないのでベリアルは黙って扉を開けた。

 開けた瞬間、異様な匂いが全身を包んだ。元来、王座は扉同様に純白である。見渡す限りに目が覚めるような真っ白な部屋である。

 しかし、今回は違った。

 四方の壁も、天井も床も、おぞましい程にどす黒い血が飛び散っていた。至る所が真っ黒な血、同胞の血で汚れている。

 しかし、ベリアルは思わず胸を撫で下ろしたくなった。

 普通悪魔は、人より少し血の色が濃い。紅い血色である人に比べると悪魔の方は、黒に近い色をしている。

 しかし、見る限りでは人の血は見られない。つまり、ごく最近ルシファーへベリアルが調達してきた人間は無事だと言うことになる。

 そして、おぞましい死を遂げたかつての同僚の“残骸”が足下に転がっていた。頭はなく、彼の自慢だった角も原形を留めていない。腸がずっと部屋の奥の方まで続いている。内臓やらが腹から溢れ出て、手足は有らぬ方向に曲がっている。

 思わず目を部屋の隅から隅まで走らせ、ベリアルが調達した人間の姿を探した。やがて部屋の隅で、両手で顔を覆っている少女の姿を認めると、ベリアルは部屋に改めて一歩踏み入れた。

「珍しいと思っているんだろ? お前からのプレゼントを大事にしていることが」

 主の声がした。

 視線を上げると、壁にもたれ掛かってこちらに残忍な笑みを浮かべているルシファーの姿があった。純白のゆったりとした服を着た、白い肌の青年の姿だった。もちろん本性はこんなに美しくはない。

 ルシファーを目にしていると、我ながらあの小娘には悪いことをしたとベリアルは思った。

 この化け物と昼夜共に過ごすなん気が狂うに違いない、そう考えると思わず苦笑いが漏れる。

 現に、部屋の隅で震えながら嗚咽している少女の姿がある。あれこそがベリエルが調達した“ルシファーの新しい玩具”である。

 咳払いをして、ベリエルは言った。

「人間を引きずり込んだ痕跡は残っていないのは間違えないだろう。ヤツは俺よりも優秀だ」

 “人間”と言うときにベリエルは顎で少女の方をしゃくった。

 その瞬間に、さも怖ろしげといった感じで少女はビクッと身を震わせた。無理もない。なぜならこの狂った世界にやってきて一日と経たないからだ。

「……そうか、それはいい。ヤツらに私達の動きが張れるのは面倒だ。戦争の火を点すのは奴等で構わんが、火種を作って火を点させるのは我等でなくては……」

 ルシファー独特の、余韻を響かせるような喋り方で言った。 彼はいつも、何かを隠すような言葉と余韻を選び、そしてその言葉の裏には重大な何かが見え隠れするような話し方をする。聞いている方は、自分の心が全て、洗いざらい見透かされているのではないか、まるでガラスの玉を光に透かして覘くように、自分の心も覘かれているのではないかという錯覚に陥るのだ。

「先手を、討つつもりなんだろう?」

「先手……まぁそうだなぁ。つまり不意打ちだよ。一気に三分の一ほどを拈り潰すつもりさ」

 まるで、「今日虫を潰したんだ」とでも言うような軽い調子でルシファーは言った。

「もうすぐ大きな戦争が起こるね……」

 ルシファーはニンマリと笑みを浮かべて、舌なめずりをした。

 ベリエルは思わず身震いをした。なぜならその無垢なはずの青年の表情に、残忍な笑みを浮かべたルシファーの本性を見た気がしたからだ。

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