Mistake summons
私は人生で最大の間違いを犯した
あぁ、私がこんなことをしなければ、
あぁ、そんなこと少々我慢すればよかったんだ
私が強欲だったためにまさか、こんな天罰が下るなんて、思いもしなかった。先が悔やまれる。
あぁ神様、彼方のご加護があらんことを……――
あの夜のことは、当然ながら鮮明に覚えている。
月のない空に、きっと厚い雲がびっしりと覆っていたに違いない。霧のような雨が降っていた。
真っ暗な自分の部屋で、少女は虫の声を聞きながらフローリングにびっしりと白チョークで呪文を書く。部屋の中央には大きな星、ペンタクルを描き、それを中心にペンタクルを呪文の文字で囲むのだ。
おそらくその文字は少女の母国、日本では使われていない文字だった。描いている本人には文字の意味が分からないはずだ。
しばらくして、彼女は一通り妖しげな文字を書き上げると、今度はペンタクルから少し離れた所に立ち、小声で何か不思議な言葉を唱えていた。それはまるで、誰も知らない歌のようで、誰も知らない物語のようだった。それは、呪文だった。
やがて星形に描かれたペンタクルの中心で、変化が起こり始めた。窓が出来始めていたのだ。
窓は空間の歪みによってできる。空中で、まるでそこだけ空間にヒビが入るように窓が出来た。他の世界に通じる窓である。
そして暗闇よりもっと暗い影が現れた。やがてそれは、おぞましい姿の“何か”を形取り始める。
少女は横目でその“何か”を見たとき、自分が喚び出したにも関わらず思わず怯んでしまった。
すると、その影は獲物を狙う猛獣の如く、手を伸ばし、彼女を窓に引きずり込もうとした。それは触手のような、ただの腕のような、はたまたかぎ爪のある手のようだった。少女は思わず驚いて呪文が途切れた。そして、“影”も少女の動揺を見逃さなかった。開きっぱなしになった異世界への窓に少女はあっという間に引きずり込まれたのだ。
憐れなその娘は、魔界へ引きずり込まれたのである。
その部屋に残ったのは、開いたまま無造作に捨てられた分厚い本と、ペンタクル、そして魔界と人間界を繋ぐ窓だけだった。
やがて、開いたままの魔界への窓から小さな醜い顔の悪魔が顔を覗かせた。少女の召喚した悪魔とは違う姿をしていた。