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陽だまりの庭  作者: はるうた
第一部 花咲く季節

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第3章 雨の日の温室

種を蒔く


土に託した

小さな夢


見えなくても

ちゃんとそこにある


いつか芽を出す日を

静かに待っている


---


## 一・雨の温室


四月の終わり、雨の日が続いた。


「今日も雨かあ」


小春は、教室の窓から空を見上げた。どんよりとした灰色の雲が、空のぜんぶを覆っている。朝から降り続ける雨は、校庭の桜の花びらを叩き落として、水たまりにピンク色の模様を作っていた。


「外の作業、できないね」


隣の席で、真白が言った。机の上に広げた弁当箱を、箸で静かに片付けている。今日のおかずは、卵焼きと切り干し大根の煮物。真白が自分で作ったものだ。


「そうだね。でも、温室はあるから」


「そうだけど」


真白は、窓の外を見た。雨粒がガラスを伝って、不規則な筋を描いている。


「雨の日の温室、どんな感じだろう」


「行ってみればわかるよ」


小春は、真白の弁当箱を覗き込んだ。


「真白のお弁当、今日もおいしそうだったね」


「……普通だよ」


「卵焼き、甘い味付けだった?」


「だし巻き」


「へえ、本格的」


真白は、何も答えなかった。でも、口元が少しだけ緩んだ気がした。


放課後のチャイムが鳴った。小春は、教科書をカバンにしまった。傘を持って、真白と一緒に教室を出る。


廊下に出ると、雨の匂いがした。校舎の外から、湿った空気が流れ込んでいる。


---


温室に向かう道は、傘を差しても足元が濡れた。


靴の中に、ちいさな水たまりの冷たさが忍び込んでくる。二人で肩を寄せ合って、渡り廊下を早足で歩いた。


温室のガラス扉を開けると、中は外とは別の世界だった。


雨粒がガラスの天井を叩いている。ぱらぱら、ぱらぱら。不規則だけど、どこか心地いいリズム。風が吹くと、ざあっと音が大きくなって、また静かに戻る。


温室の空気は温かかった。外の冷たい雨とは違って、土と植物の呼吸が混じった、湿った温もり。鼻の奥に、緑の匂いが広がる。


「いらっしゃい」


柚葉が、作業台の前に座っていた。手元には、小さな鉢がいくつか並んでいる。鉢の横に、種の袋が三つ。


「今日は、種まきをしようと思って」


「種まき?」


「うん。夏に咲く花の種。今蒔いておくと、ちょうどいいの」


小春は、柚葉の隣に座った。真白も、反対側に座る。


「何の花ですか?」


「ひまわり、マリーゴールド、あとコスモス」


柚葉は、種の袋を一つずつ見せてくれた。ひまわりの種は、黒くて細長くて、小春の小指の先くらいの大きさ。マリーゴールドの種は、もっと小さくて、針のように細い。コスモスの種は、茶色くて、ちょっとだけ曲がっている。


「触ってみて」


柚葉が、小春の掌にひまわりの種を載せてくれた。


指で転がすと、表面がざらざらしていた。かたくて、乾いていて——これが夏になったら、背丈よりも大きな花になるなんて、信じられない。


「ひまわり、かわいい」


「小春ちゃん、ひまわりっぽいね」


「そうですか?」


「うん。明るくて、元気で」


柚葉が笑った。その笑顔は、温室の空気みたいに温かい。


小春は、ちょっと照れた。掌の上の種を、大事そうに見つめた。


---


## 二・花言葉


種まきの作業を始めた。


小さな鉢に土を入れる。柚葉が用意してくれた培養土は、黒くてふかふかで、手に取ると湿った冷たさがあった。土の匂い——雨の日に庭の土を掘り返したような、深くて落ち着く匂い。


指で浅い穴を作って、種を落として、やさしく土をかぶせる。


「こうですか?」


「うん、そんな感じ。種は深く埋めすぎないように。指の第一関節くらいの深さ」


「はい」


小春は、丁寧に種を蒔いた。ひまわりの種を、一粒ずつ。小さな種の一つ一つに、花になる力が詰まっている。


「種って、すごいですよね」


「すごい?」


「こんなに小さいのに、ちゃんと花になる」


「そうだね。生命の神秘ってやつかな」


柚葉は、自分の鉢にじょうろで水をあげながら言った。水が土に染み込んでいく音が、雨音に混じる。


「私、それが好きなんだ。種を蒔いて、芽が出て、花が咲いて。その過程を見るのが」


「柚葉先輩、花が好きなんですね」


「うん。小さい頃から」


「なんでですか?」


「んー……おばあちゃんの影響かな」


柚葉は、少し懐かしそうな顔をした。手元のじょうろを置いて、窓の外の雨を見つめた。


「おばあちゃん家に、大きな庭があってね。いつも花がいっぱい咲いてたの。春は桜とチューリップ、夏はひまわりとアサガオ、秋はコスモスとキンモクセイ。冬でも、山茶花が咲いてた」


「すてきですね」


「うん。おばあちゃん、去年亡くなっちゃったんだけど」


「……そうなんですか」


温室の中が、少しだけ静かになった。雨音だけが、ぱらぱらと響いている。


「でも、花を見ると、おばあちゃんのこと思い出すから。だから、ずっと花を育てていたいなって」


柚葉の声は、穏やかだった。悲しみというより、温かさが滲んでいる。花に水をあげる時の、あの丁寧な手つき。その一つ一つに、おばあちゃんとの思い出が込められているのかもしれない。


「いい話ですね」


「そうかな。ありがと」


柚葉は微笑んだ。真白が、自分の鉢の土を丁寧にならしながら、その横顔をそっと見ていた。


——花を見ると、会いたい人を思い出す。


真白には、柚葉のその気持ちが、わかる気がした。


---


凛と詩がやってきた。


「雨、すごいね」


凛が、温室の扉を開けながら言った。傘を畳んで、入り口の傘立てに立てる。制服の肩が少し濡れている。


「うん。外の作業、今日は無理だね」


「だね。何やってるの?」


「種まき」


「ああ、夏の花か」


凛は、作業台の隣に座った。


「手伝う?」


「ありがと。じゃあ、マリーゴールドお願い」


「了解」


凛は袖をまくって、慣れた手つきで鉢に土を入れ始めた。


詩は、いつもの文庫本を持っていた。でも、今日は本を開かずに、作業台の端に座って、みんなの様子を眺めている。


「詩先輩、今日は本、読まないんですか?」


小春が聞くと、詩は少し微笑んだ。


「たまにはね。みんなの話を聞いてる方が、面白い時もあるから」


「そうなんですか」


「うん。小説よりも、リアルな会話の方が面白いこともある」


詩の視線が、小春の手元に止まった。小春が種を一粒ずつ丁寧に蒔いている、その指先を。


「小春ちゃん、丁寧だね」


「え?」


「種の蒔き方。ひとつひとつ、大事に蒔いてる」


「あ、はい。こんな小さいのに花になるって思ったら、雑にできなくて」


詩は、少し目を細めた。


——この子は、ほんとうに丁寧に生きてるんだな。


種に対しても、人に対しても、まっすぐで。目がきらきらしている。何かに興味を持った時の、この輝き方が——なんだか、まぶしい。


---


「ねえ、花言葉って知ってる?」


詩が、唐突に言った。雨の温室の静けさに、その声が自然に溶けた。


「花言葉?」


「花に、それぞれ意味があるの。知ってた?」


「聞いたことはあります」


「例えば」


詩は、凛が蒔いているマリーゴールドの種袋を指差した。


「マリーゴールドは『変わらぬ愛』。コスモスは『乙女の純真』」


「詩先輩、詳しいですね」


「詩を書くから、調べることが多くて」


詩は、窓の外を見た。雨は、強さを変えながら降り続いている。ガラスの天井を叩く音が、さっきより少しだけ激しくなった。


「花言葉って、誰が決めたんだろうね」


「確かに、気になります」


「昔の人が、花を見て感じたことを言葉にしたんだと思う。ロマンチックだよね」


小春は、手元の種を見た。ひまわりの種。黒くて小さな、かたい種。夏になったら、大きな黄色い花が咲くのだろう。


「わたしも、花言葉、覚えたいな」


「教えてあげようか」


「本当ですか?」


「うん。詩を書く参考に、いろいろ調べてあるから」


温室の柔らかい光の中で、詩の横顔が穏やかだった。


——もっと、いろいろ教えてあげたいな。


花言葉のことも。言葉の選び方も。この子が目を輝かせるたびに、何かを渡したくなる。


小春は、そんな詩の視線に気づかないまま、種袋の裏を読もうとしていた。


---


「真白ちゃんは、何か好きな花ある?」


柚葉が聞いた。


「……特に」


「何でもいいよ。なんとなく好き、でも」


真白は、少し考えた。掌の中の種を見つめて——それから、ぽつりと言った。


「……かすみ草」


「かすみ草?」


「白くて、小さくて、控えめなところが好き」


「へえ。真白ちゃんらしいかも」


柚葉は、ふわりと笑った。


「でもね、かすみ草って、実はすごい花なんだよ」


「……そうですか?」


「うん。ブーケの脇役みたいに見えるけど、かすみ草だけで束ねると、すごくきれいなの。主役にもなれる花」


真白は、柚葉の顔を見た。柚葉は、いつもの優しい笑みを浮かべている。


——主役にもなれる花。


その言葉が、胸の奥に落ちた。水が土に染み込むみたいに、ゆっくりと。


真白は、目を逸らした。自分の鉢の土を、もう一度丁寧にならした。


---


「凛先輩は、好きな花ありますか?」


小春は、凛にも聞いてみた。


「あたし? んー……」


凛は、手を止めて考えた。マリーゴールドの種が指先にくっついている。


「ひまわり、かな」


「ひまわり?」


「うん。まっすぐで、元気で、好きなんだよね」


「花言葉、何ですか?」


凛は、少し首を傾げた。


「えーと、確か『憧れ』とか……」


「『あなただけを見つめる』もあるよ」


詩が、さらっと言った。


「あなただけを見つめる!」


小春が声を上げると、凛は慌てた。


「べ、別にそういう意味で選んだわけじゃないから! ただ、見た目が好きなだけで!」


凛の顔が、耳まで赤くなった。マリーゴールドの種をこぼしそうになって、慌てて掌を閉じる。


「凛、顔赤いよ」


柚葉が、くすくす笑った。


「うるさいな」


凛は、ぶっきらぼうに言って、種まきに集中し始めた。でも、耳の赤さはなかなか引かない。


——あなただけを見つめる。


凛は、その言葉を胸の中から追い出そうとした。でも、追い出そうとするほど、隣に座っている柚葉の横顔が目に入る。


種袋を見る柚葉の、やわらかな横顔。


——別に、そういうんじゃ、ない。


そう思いながらも、凛の心臓は、しばらく落ち着かなかった。


小春は、凛と柚葉のやりとりを見ていた。なんだか、微笑ましい。


---


## 三・夢の話


作業が終わると、いつものようにお茶の時間になった。


柚葉が紅茶を淹れてくれた。温室の隅に置いてある電気ポットのお湯で、ティーバッグを丁寧に蒸らす。琥珀色の紅茶が、白いカップの中でゆらゆら揺れていた。紅茶の甘い香りが、土と緑の匂いに混じって広がる。


雨音を聞きながら、5人でテーブルを囲む。


「雨の日の温室も、いいですね」


小春が言うと、柚葉が頷いた。


「そうだね。静かで、落ち着く」


「雨音が、心地いいです」


「わかる。私も、雨の日の温室、好きなんだ」


凛が、お菓子の包みを出してきた。ビニール袋から出したのは、薄い黄色のクッキー。


「雨の日用に、さっぱりしたの作ってみた」


「何味?」


「レモン」


小春は、一枚手に取った。表面に細かい模様がついている。一口かじると、バターの甘さの奥から、レモンの爽やかな酸味がふわっと広がった。


「おいしい!」


小春は、思わず声を上げた。


「レモンの香りがする」


「レモンの皮、擦り下ろして入れてあるの」


「すごい、本格的」


「そんなでもないって」


凛は照れくさそうに言ったが、満更でもなさそうだ。紅茶のカップに口をつけて、小春の反応をちらりと見ている。


真白も、一枚手に取った。静かにかじって、咀嚼している。


「……レモン、合う」


「おっ、真白が言ってくれると嬉しい」


「べつに」


真白は素っ気なく答えたが、二枚目に手を伸ばした。


---


「ねえ、みんな」


柚葉が、紅茶を飲みながら言った。雨音が、少しだけ穏やかになった頃だった。


「将来、何になりたいとか、ある?」


「急ですね」


「さっき、おばあちゃんの話をしてて、なんとなく気になって。おばあちゃんは、ずっと花が好きで、ずっと庭で花を育ててたなって思ったら」


凛が、最初に答えた。


「あたしは、調理師になりたい」


「お菓子屋さん?」


「んー、まだ決めてないけど。料理に関わる仕事がしたい」


「凛先輩なら、なれそうですね」


「どうだろ。まあ、頑張るよ」


凛はそう言って、自分のクッキーをもう一枚かじった。「まだまだだけどね」と小さく付け足す。


詩は、カップの中の紅茶を見つめながら、少し考えてから答えた。


「私は、文学に関わる仕事かな。編集者とか、ライターとか」


「詩を書く仕事?」


「それは趣味のままでいいかな。仕事にすると、好きじゃなくなりそうだから」


「なるほど」


「好きなことは、好きなままでいたいんだ」


窓の外を見る詩の横顔が、どこか大人びて見えた。


柚葉が、自分の番だと言うように話し始めた。


「私は、農学部に行きたいなって思ってる」


「農学部?」


「うん。植物のこと、もっと勉強したくて。品種改良とか、ちょっと気になってるの」


「柚葉先輩らしいですね」


「そうかな。まあ、花に関わっていたいなって」


柚葉は、手元のカップを両手で包んだ。紅茶の温もりを、大事そうに持っている。


---


「小春ちゃんは?」


柚葉に聞かれて、小春は困った。


「わたしは……まだ、決まってないです」


「そうなんだ」


「将来の夢とか、考えたことなくて」


「焦らなくていいよ。まだ1年生だし」


「でも、みんなちゃんと考えてて、すごいなって」


小春は、紅茶のカップを両手で持った。温かい。雨の日の温室で、みんなと一緒にいる。それだけで十分な気がするけれど——。


「そんなことないよ。私だって、中学の時は全然わからなかったし」


柚葉は、優しく言った。


「いろんなことを経験していく中で、見つかるものだと思うよ」


「そうですか……」


「うん。だから、今は好きなことをやればいいんじゃないかな」


小春は、少しだけ気持ちが軽くなった。好きなこと。今のわたしの好きなこと——温室で花の世話をすること。みんなと話すこと。種を蒔いて、芽が出るのを待つこと。


「真白ちゃんは?」


「……栄養士に、なりたいと思ってます」


真白が、ぽつりと言った。


温室が、少しだけ静かになった。真白が自分のことを話すのは、珍しい。


「栄養士?」


「はい。母が……入院してた頃から、父と一緒にごはんを作ってて」


真白の声は、静かだった。カップの中の紅茶を見つめている。琥珀色の液体に、天井のガラスが映っている。


小春は、真白の母親のことを思い出した。真白が小学生の時に、亡くなったのだ。それ以来、真白はお父さんと二人で暮らしている。毎日のお弁当も、夕飯も、真白が作っている。


「それが楽しくて、もっと知りたいなって」


「そっか。素敵な夢だね」


柚葉が、真白を見て言った。まっすぐに、温かい目で。


「真白ちゃんなら、いい栄養士さんになれると思う」


「……ありがとうございます」


真白は、小さく頭を下げた。紅茶を一口飲んで、そっとカップを置いた。


柚葉の言葉が、真白の中に残っていた。かすみ草は主役にもなれる花。真白ちゃんなら、いい栄養士さんになれる。


——この人は、いつもまっすぐに、そういうことを言う。


真白は、テーブルの向かいに座る柚葉を、ちらりと見た。紅茶を飲む柚葉の横顔。温かくて、穏やかで。


——ずるい。


そう思って、すぐに目を逸らした。


---


## 四・帰り道


雨は、いつの間にか小降りになっていた。


ガラスの天井を打つ音が、ぱらぱらから、ぽつり、ぽつりに変わっている。


「そろそろ帰ろっか」


柚葉が言って、みんなが立ち上がった。使ったカップを洗って、作業台を拭いて、種を蒔いた鉢を棚に並べた。


「水やり、忘れないようにしないとね」


「明日の当番、誰だっけ」


「あたしと柚葉」


「じゃあ、お願いね」


温室を出ると、空が少しだけ明るくなっていた。雲の切れ間から、夕日が覗いている。西の空がオレンジ色に染まりかけて、まだ残る灰色の雲との境目がぼんやりと滲んでいた。


「あ、虹」


小春が、空を指差した。


薄い虹が、雲の向こうにかかっている。七色の光が、淡く、けれど確かに、空の端から端へと弧を描いていた。


「きれい」


「本当だ」


5人で、虹を見上げた。


雨上がりの校庭。水たまりに空が映っている。虹の色が、水面にも薄く落ちていた。


「虹って、雨の後にしか見えないんだよね」


柚葉が、空を見上げたまま言った。


「雨が降らないと、虹も出ない」


「なんか、いい話ですね」


「そうかな」


柚葉は笑った。


詩が、小春の隣で空を見ていた。虹の光が、詩の横顔をほんの少しだけ色づかせている。


小春は、この景色を覚えておこうと思った。


雨上がりの空。虹。温室。花言葉。将来の夢。みんなの声。


なんだか、特別な一日だった気がする。


「また明日ね」


「はい、また明日」


小春は、真白と一緒に校門へ向かった。


---


帰り道、雨上がりの空が高かった。


アスファルトが濡れていて、街灯の光がオレンジ色に反射している。水たまりを避けながら、二人で並んで歩いた。


真白が言った。


「小春」


「なに?」


「将来の夢、なくても大丈夫だよ」


「え?」


「小春は、今を楽しんでればいいと思う」


真白の声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


「……ありがとう、真白」


小春は、真白の横顔を見た。真白は、まっすぐ前を見ている。濡れたアスファルトに、二人の影が長く伸びていた。


「真白は、栄養士になりたいんだね」


「……うん」


「知らなかった」


「言ってなかったから」


「いい夢だと思う」


「……ありがと」


真白は、少しだけ顔を伏せた。


「小春」


「なに?」


「今日のクッキー、おいしかったでしょ」


「うん、すごくおいしかった」


「……あのレモンクッキー、作れるかな」


小春は、驚いた。真白が、お菓子を作りたいと言ったのは初めてだ。


「作れるよ、絶対。真白、料理上手じゃん」


「……そうかな」


「今度、凛先輩にレシピ聞いてみようよ」


「……うん」


真白の口元が、ほんの少しだけ、ほころんだ。


雨上がりの道を、二人で歩いた。遠くの空に、虹の残り香がまだ薄く見えていた。


---


柚葉の園芸ノート 4月26日(金)雨のち曇り


雨の日。温室で種まきをした。

ひまわり、マリーゴールド、コスモス。夏に向けて。


花言葉の話で盛り上がった。

凛がひまわりの「憧れ」で真っ赤になってて、かわいかった。

真白ちゃんがかすみ草を好きだと教えてくれた。「感謝」。

控えめだけど、主役にもなれる花。真白ちゃんに似てるなと思った。


みんなの将来の話もした。

おばあちゃんのことを話したら、小春ちゃんが泣きそうになってた。

やさしい子だなあ。


雨上がりに虹が出た。五人で温室から見上げた。きれいだった。


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