97.ラーメン屋にて
「結局、オレとラグエルってどーなったんだ?」
「……」
アレクシスとの謁見を終えた後、その足でラリィはゼンと昼食を摂りにラーメン屋へと入った。
先週からフォトは学校へ通い始めた。学校では給食が出るので、ゼンは妹の昼食を心配する必要が無くなったのだ。
ちなみにリズとウィルはラーメンの気分ではないからと、2人で寮の食堂へ行った。
「つまり……様子見、だな」
「オレがヤク中だから?」
「……もう手は出していないのだろう?」
「逮捕されてからは1回も。でもこーゆーのって、経歴とかが大事ってことだろ?」
確かにアレクシスは、ラリィに前科があることに難色を示していた。ラリィはその経歴だけを聞くのと、実際に会って会話をした場合のギャップが大きい。もしもラリィを守護剣士として扱った場合、経歴だけが独り歩きすることだろう。
「ラグエルも、まだ完全には信用出来ない」
「何も考えてねーぞ、あいつ。ただの脳筋だし」
「……たった数ヶ月で、判断はできない。国宝にするなら、慎重に決めるべきだろう。……シュイたちも、恐らく守護剣として扱われるまでに、それなりの時間があったはずだ」
届いたラーメンを啜るゼン。
「お前も、ラグエルも、問題を起こさず王の信頼を得られるまで……現状維持、だな」
「なんかややこしいな。別にオレ、守護剣士じゃなくていいんだけど。ーーここ、味噌ラーメンも美味いな」
「……塩も、美味い」
暫しズルズルと、並んで麺を啜るふたり。
「フォト、学校どんな感じ?」
「楽しい、らしい」
「学校で友達出来たら、もうオレとも遊んでくれなくなるかな? 遊んでくれるうちに、今度一緒に猫カフェ行こって言っといて」
「気が向いたら、伝えておく」
「気が向いたらかよ」
「……そう言えば、やたらとお前の指の心配をしていたが……?」
「あー、手品……じゃないけど、親指が外れたように見せるアレな。この間フォトにやって見せたんだけど、本気で信じてくれて可愛かったぞ」
「すごく、痛そうだったと……引いていた」
「オレの演技力も捨てたもんじゃねーな」
そんな他愛の無い会話を繰り返す。
ラリィはゼンと話すのが楽しくて堪らない。
感情の抑揚もなく、無表情。そんなゼンが時折見せるようになった表情の変化を見つけると、なんだか無性に嬉しくなるのだ。
「……お前は、大丈夫なのか?」
「何が?」
「弥月」
「どーかな。そろそろ何か仕掛けてきそうだよな」
スープを飲み干し、次は餃子を口に放り込むラリィ。
「うまっ。午後から仕事じゃなかったらビール頼むのに……!」
「……弥月は俺たちには敵意がない。だから怖くはない、か?」
「んー……いやぁ。多分だけど、オレ、死ぬんじゃないかと思ってる」
ゼンは手を止めた。どういう意味かと尋ねるような目をラリィに向ける。
「ウィルの目の前で、オレを殺そうとするんじゃないかなって。あいつ、ウィルを虐めるのが楽しいらしいし、最終的にはオレたち全員殺すつもりかも」
「有り得なくはない……な」
「だから怖くないことは無いんだけど、ウィルと約束もしたし、簡単に死ぬつもりはねーよ」
「……ソレは、そう言う事か」
ゼンは目線で、ラリィが帯剣している短剣を指した。魔物の討伐中でもないのに、ラリィが帯剣しているのは珍しい。グリーンヒルに帰ってきてから、休みの日でもこの剣をぶら下げている姿をよく見かけていた。
「まぁ……何があるかわかんねーからな。――おっちゃーん! 餃子1人前追加で!」
カウンターの奥に声を張り上げながら、ラリィは短剣をゼンに渡した。
受け取ったゼンは、不思議そうな顔をする。
「これ……?」
「もしもオレが思った通りに死んだらさ、後のことを頼みたいんだ」
「……馬鹿なことを……」
「オレも馬鹿なことだと思うけど、万が一って事もあるし。ウィルを悲しませる……いや、約束を破ったって怒るかもしれねーなぁ。でも、その時はウィルのこともよろしくな」
「……」
「こんな事、ゼンにしか頼めねぇんだよ。あ、セイルやリズには内緒な」
ゼンは呆れた顔で短剣をラリィに返す。
「……死ぬなよ」
「オレだってまだ死にたくねーよ」




