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I'll  作者: ままはる
第九章
96/114

96.面接

 ――リズを中心にして、彼らはリムの村での出来事をアレクシスに話した。弥月と焔真のことも、アゼルのことも、研究所のことも。


 そして全てを聞き終えたアレクシスは、ため息とも唸り声ともつかぬ声を漏らした。


「――これは私からのお願いだ。この事は、キリーと村雨には黙っていて欲しい」


 そう言って頭を下げる王にウィルは驚き、そして腹が立った。


「……いつから知っていたんですか」


「私が王座を継いだ時に、シュイから聞いた。当時の王が書き残した、証拠となる文献の隠し場所も彼が知っている」


「シュイ、てめぇはなんで――」


「ウィル。王の御前でやめて」


 椅子から立ちあがろうとしたウィルを、リズが諌めて止めた。

 あれ以来、ウィルはキリーと村雨に対して後ろめたさのようなものを抱き、それを隠しきれずにいることをリズも気付いている。


「アゼルが話した事を忘れたのかな、小猿君?」


「キリーたちの為に記憶を消したって……でも、あいつらを騙したままじゃ――」


「では、ひと思いに殺せば良かったかい?」


「それは……」


「人に戻すことはまず不可能。僕たちの肉体は既に失われてしまったからね。彼女たちを救う方法は、あとは命を奪うことくらいしか思い浮かばないのだが、他に何か名案があるのならば教授願いたい」


 悔しそうに口を閉ざしたウィルの隣で、ラリィが首を傾げる。


「言い方悪いかもだけど、キリーたちって殺せるのか?」


「実際に試してみたことは無いが、僕たち同士が触れ合えることから考慮すれば、想像できるのではないかな?」


「つまり、どーゆーこと?」


「……恐らく、守護剣で斬れるということだ」


 アレクシスが口を挟んだ。


「これは私の個人的な想いだ。特にキリーに関しては、私が幼い頃からの秘密の遊び相手……『精霊のお姉ちゃん』は、私の初恋の人だ。大切な友人を傷付け、失いたくはない」


「友人……」


「村雨もそうだ。無骨な武人のような彼女だが、話してみると根は素直で誠実。一度だけ国政に悩んだ時に相談に乗って貰ったことがあるのだが、私が王だからと遠慮も忖度もしない村雨の言葉に、どれほど救われたことか」


 それからアレクシスは、シュイにも目を向ける。


「僕を褒め称える番だね。さぁ、存分に褒めちぎりたまえ! まずはこの外見の美しさから!」


「……」


 王はニコリと微笑み、ウィルに視線を戻した。


「彼女たちを救う方法も無いのに、ただ真実を伝えて悪戯に傷付けるようなことはしたくはない」


「おやおや、どうしたんだい? 遠慮しなくても良いのだよ?」


 シュイのことは無視して、アレクシスは話を続ける。


「彼女たちを守護剣として持ち上げ国宝にしたのは、彼女たちを守る為だと当時の王の手記には記されている。和平の契りにティルア帝国から賜った宝剣と銘を打てば、おいそれと帝国側も手出しは出来なくなると考えたのだろう」


 ウィルは口を閉ざした。キリーたちを守る為だと言われたら、それ以上は何も言うことが出来ない。


「キリーたちを先代の王に託したティルア人たちは、ここで処刑される覚悟だったそうだ」


 自分たちの命と情報を差し出す代わりに、罪の無いキリーたちを守って欲しいと訴えたのだ、と。


「結果、彼らは生きながらえた。それから彼らがどうなったのかまでは記録に無かったが……そうか。それがリムの村であったか」


 アレクシスは納得したように何度も頷く。


「これまで調査に関わった者たちには心苦しいが、村の調査は中止させよう。村人たちが安心して暮らせるよう、彼らの選択を尊重することを約束する」


「本当……ですか」


「ああ。弥月と焔真に関しては所在がわからぬ故対処が難しいが、剣士隊のみならず、魔法士協会、警察等全てに情報を共有させる。綾乃の指輪は、こちらで管理しよう」


 ウィルは差し出されたアレクシスの手を見つめた。

ゆっくりと指輪を首から外し、それを王の手の上に乗せようとして、動きを止めた。


「俺が持っていたら、ダメですか?」


「重荷であろう?」


「重い……ですけど」


 上手く言葉に出来なくて、ウィルは口籠る。


 父親がウィルに託した物だから。その前から脈々とレイト家に受け継がれてきたものを、ここで断ち切って良いものなのだろうか。


 それにアゼルは、綾乃を渡すなと言った。弥月に、という意味だったとは思うが、たとえ王であっても渡してはいけないと思ってしまった。


「……良い。では、今まで通りお前がそれを守れ」

「――はい」


 ウィルが力強く頷くのを確認すると、次にアレクシスはラリィへと目を向ける。


「では、待たせたな。粗暴で教養の無い男に会わせて貰おうか」


「あ、はーい」


 軽く返事をして、ラリィはラグエルの封印を解いた。

 包帯だらけの出立ちに、アレクシスは驚いたのか目を瞬かせる。


「なんだぁ、ラリィ。オレと腹筋対決した……誰だ? このジジイ」


「ばっ……! このじーちゃん、王さんだぞ!?」


「はぁ? どこの王だ? ティルアの王ならぶっ殺してやる!」


「イシュタリアだよ! っつーか、ティルアの王さんでもぶっ殺したらダメだからな!?」


「はーん?」


 一国の主に対して『ジジイ』だの『じーちゃん』だの不敬な言葉が飛び交う中、当の王は若干顔を引き攣らせながら2人のやり取りを見守っている。


 ゼンは無表情、シュイは既に自分の世界に入り込んでいるが、ウィルとリズは苦笑いを浮かべるしかない。


「あー、そうか。なんか王に会うとか言ってやがったな。んで? オレは合格か? 不合格か?」


「何の話だ?」


「オレを守護剣とやらに持ち上げるか、処分するかを決める面接だろ?」


 アレクシスはキョトンとした後、豪快に笑う。


「なるほど、面接か! では、不合格だと私が告げたらお前はどうするつもりだ?」


「元々終わってた命だからな。処分なら受け入れてやるけど、また閉じ込めるってんなら、ラリィに全力で逃げさせる!」


「オレを巻き込むなよ!」


「身動きが取れねー地獄がてめぇに理解できるか!? あぁ、クソ! 思い出したら走りたくなってきたぜ!」


「ダメー!!」


 部屋を飛び出して行こうとするラグエルを、慌てて一旦封印するラリィ。

 アレクシスは喉の奥で愉快そうに笑っている。


「なるほど。確かに粗暴で教養が無いな」


「ソボーでキョーヨーも無いかもだけ……無いかもでございますだけど、悪い奴じゃないんスよ」


「お前も教養が怪しいが……」


 アレクシスは顎髭を触りながら、ラリィの目を覗き込む。


「前科持ちだそうだな。殺人は正当防衛が認められたそうだが……薬物か」


「あー……はい……あ。未成年だったから見逃して貰ってたのもあって、結構警察には世話になってて……」


 言葉巧みにただの石ころを性格の悪い金持ちに売ったこともあるし、スリや万引きも生きる為にやってきた。縄張り争いに巻き込まれ、喧嘩も山ほどしてきた。


 そんな言わなくてもいい事を正直に白状するラリィに、リズはこっそりと頭を抱える。


「歴代の守護剣士に前科者はいない」


「っスよねー……でも別にオレ、守護剣士になりたいわけじゃ……」


「保証人はリズだと聞いたが、それは確かか?」


「はい」


 頷くリズ。


「再犯の可能性は、無いと思っています」


「断言するのか。その根拠は?」


「リズ……オレのこと信じて……?」


 ラリィは期待を込めた目でリズを見つめる。しかし彼女はラリィの方は見ようともせず、きっぱりと言い放つ。


「再犯があれば、捕まる前に私がこの男を殺します」


「お前らしくもない冗談だな」


 否。彼女は本気だ――


 ニコリと笑うだけに留めたリズに、ラリィ、ウィル、ゼンは同時に同じことを思った。


「……まぁ、そのくらいの覚悟を持って保証人になったと言うことは、それだけの価値があるということか。実際、第3部隊長からの報告内容は悪くは無い」


「ぶたいちょ……!」


 嬉しそうなラリィを、アレクシスはじっと見つめる。そして暫く黙り込んだ後、椅子から立ち上がった。


「今日はもう退がって良い。また追って連絡する故、リズに殺されないよう懸命に励め」

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