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I'll  作者: ままはる
第九章
95/114

95.最近変なの

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


「……なんかさぁ、最近変だと思わない? ねぇ、村雨?」


「……はぁ……」


 頬杖をつきながらぼやいたキリーに、村雨は深いため息をついた。


 近頃キリーに絡まれることが増えた気がする。

 お互いの主がかつてない頻度で封印を解くので、単純に顔を合わせる機会が増えたのが原因のひとつだが、それにしたって最近は距離が近過ぎる。


「……何が『変』なのだ」


 無視をするのも忍びないので、一応言葉を返す村雨。


「ウィルが冷たいの」


「それが?」


「変でしょ? なんで急に冷たくなったんだろ? 私、何かしたかなぁ?」


 村雨は無言で、グラウンドの向こうで訓練に励むキリーの主を見た。彼は時折こちらに――彼ら目当ての女の集まりに笑顔を向けては、黄色い声援を受けて満足そうにしている。


「いつも通りのようだが?」


「違うんだってば! 私にだけ冷たいの! 妙によそよそしいって言うか、目を合わせてくれないのよ!」


「では、そなたに嫌気がさしたと言う事だろう」


「直球すぎてヘコむ……」


 ラグエルを紹介した時は普通だった。しかし次に会った時――創世祭だからと封印を解いてくれた時には、なんだか態度が変だった。と、キリーは思う。グリーンヒルに戻ってきてからも、キリーが感じるその違和感は続いている。


「ウィルの生まれ故郷で何かあったのかなぁ?」


「……」


 村雨は黙って自分の主に視線を移した。リズも女剣士たちの中で、グラウンドで汗を流している。

 口には出さなかったが、村雨もまた自分の主に違和感を覚えていた。


 キリーがウィルに感じるものとは反対で、リズは村雨に対して更に気を遣うようになった。今まで週に1度程度自由時間と称して封印を解かれていたのが、グリーンヒルに戻ってからはそれがほぼ毎日となった。


 毎日自由時間を与えられてもどこで何をすれば良いのかわからない。ほとんど辞退して自ら紋章の中に戻るのだが、今日は主の訓練の様子を見学しようとここへ来たのである。


「ラグエルなんか、毎朝訓練前にラリィ君と一緒にランニングしてるんだって。仲良しでいーよねー」


「主従が仲良しこよしで良いはずがない」


 ちなみに、ラリィとラグエルはまだ王への謁見が済んでいない為、公にはされていない。


「……はぁ。イケメンに冷たくされると、地味に傷付くのよね……」


「セイル殿に冷たくされている場面はよく見かけるが?」


「セイル君は逆にそれがいいのよ。それにさぁ、ちょっと見ててね」


 そう言ってキリーは一歩前に出ると、口の横に両手を当てて大声を張り上げた。


「セイルくーーん!! こっち見てーー♡♡ セイルくーーん!!」


 キリーの声援は声援を送り続ける。

 初めは無視していたセイルだったが、やがて呆れた目でキリーを見た後、面倒臭そうにこちらへとやって来た。周囲の女たちは、セイルの接近に色めき立つ。


「邪魔をするなら帰れ」


「えへ♡ ごめんね♡ 今日もカッコイイね♡」


「……」


 頭は大丈夫かとでも言いたそうに首を傾げ、セイルは訓練に戻って行った。

 その後ろ姿を見送った後、キリーは得意げに村雨を振り返る。


「ね?」


「何が『ね?』なのかが全くわからない」


「入隊以来、私たちをガン無視してたあのセイル君が、ちょっと相手してくれるようになったの!」


「今のは相手をしてもらったという認識で合っているのか……?」


 しかしここにいる女たちは嬉しそうなので、ただ追い払われただけだと思った村雨が間違っているということなのだろう。


「セイル君はちょっとだけ棘が抜けた気がするのよね」


「失われていた記憶が戻った故に、セイル殿を苛立たせていた頭痛が無くなったからかもしれぬな」


「それは嬉しい変化だからいいんだけど、やっぱりウィルが変なのが納得できなーい!」


「ふむ……変と言えば、ラグエル殿も妙な様子であった」


「あの人は最初から変よ」


「それはそうだが、私を避けているようだ」


 偶然ラリィとラグエルの早朝ランニング中に会ったのだが、『女とは一言も口をきかない!』と叫びながら逃げるように去って行ったのだ。


「何それ。じゃあ私も避けられるのかな? まぁ、ラグエルは全然好みのタイプじゃないからいいけど」


 キリーはウィルに視線を戻した。


「思春期なのかなぁ……」


⭐︎


 ウィル、リズ、ゼンの守護剣士3人にラリィを加えた4人は、イシュタリア王との謁見を迎えていた。


 以前ウィルが守護剣士になったばかりの時にも通された部屋で、以前と同じように人払いをさせた威厳のある王は、人の良さそうな笑みを浮かべている。


 挨拶もそこそこに、王はゼンへと視線を向けた。


「シュイ=メイをここへ」


「はい」


 短い返事と共に、シュイの封印を解くゼン。

 ゼン自身も、シュイに会うのは久し振りである。セイルの記憶を戻した時の疲労が大きくまだ回復していないからと、今日まで対話を拒否されていたのだ。


「やぁやぁ。下々の者たちよ、つつがなくお過ごしかな?」


 普段通りに――否、また更に背景の煌めきをパワーアップさせ、登場するシュイ。


「王に向かって『下々の』と言えるのは、お前以外にはまだ出会ったことが無いな」


「僕からすれば、アレクシス――君はまだハイハイを覚えた赤子同然だからね」


「ふっ。違いないな」


 王に気を悪くした様子は無い。


「4本目と対面する前に、お前の意見を聞いておきたいのだが」


「4本目とは、ラグエルのことかい?」


 シュイはラリィをチラリと横目で見た。


「粗暴で教養の無い男だよ。単純である為、扱い方を間違えなければ従順にはなるかもしれないね。今のところ、記憶に手を加える必要は無い」


「ふむ……」


 アレクシスはウィルたち4人を気にするように、やや戸惑うような表情を見せた。その意味に気付いたシュイは、無意味に髪を掻き上げながら笑う。


「彼らはもう全て知っているよ。僕たちが精霊などではないということもね。ついでにラグエルには、あの2人に余計な事は言わぬようきつく口止めをしてある」


「……全てか……」


 暫しの沈黙が流れた。

 沈痛な面持ちで額を押さえたアレクシスは、深い息を吐きながら円卓の椅子に腰掛ける。


「話が長くなりそうだ。掛けなさい」


 ウィルたちは顔を見合わせた後、遠慮がちにそれぞれ席に着く。


「まずは、お前たちがこの事を知ることとなった経緯を聞かせてくれないか」

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