表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I'll  作者: ままはる
第八章
86/114

86.リズとラリィとヴィンス

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 ウィルたちは一週間リムの村に滞在した後、一旦グランチェスへと戻って来た。


 エルミナがグリーンヒルまで送ると申し出たが、リムの村と竜の繋がりを説明しなければならなくなる為、断った。


 彼らは明日ここを発ち、またひと月かけて陸路でグリーンヒルへと帰還する予定だ。


「ネコとお別れってのは寂しいよなぁ」


「村が落ち着いたら、また遊びに来るって言ってたじゃない」


 グランチェスの街並みを歩きながら空を仰ぐラリィと、その少し前を歩くリズ。


 リムの村が今後どうなるか、まだ見通しは立っていない。再建するにしろ移住するにしろ、ウィルとの連絡役となる為にもフェリナは村に残る事になった。――というのは建前で、エルミナが断固としてフェリナを引き留めたからなのだが。


「――今日、創世祭なのね。忘れてたわ」


 そう言いながらリズは華やかな街並みに視線を這わせる。


 色とりどりの電飾や、神々を模倣したオブジェなどが飾られて、この国では一年で一番華やかに盛り上がる日である。


 その過ごし方は人それぞれ。家族との時間を大切にしたり、恋人との愛を深めたり、友人との時間を楽しんだりしながら、この世界の成り立ちに感謝するのである。


 ウィルはグランチェスに戻るなり、自由時間だと言ってどこかへ行ってしまった。恐らく、毎年この日に家族で街を訪れていたと言っていたので、その思い出を辿りに行ったのではないかとリズは考える。ゼンは魔法士協会に村の結界のヒントを探しに行き、セイルもいつの間にか独りでふらりと消えた。


 残ったラリィとリズでグランチェス支部に顔を出し、村から戻ったことを報告したところである。


「……」


「……何よ」


 妙な沈黙を落とすラリィに、リズは眉を顰めた。


 どこからか陽気な歌や音楽が聞こえてくる。


「いや……創世祭だなぁ、って思って」


「だからそう言ったじゃない」


「こーゆーのって、アレじゃねーの? 好きな人と過ごすもんだろ?」


「だから?」


「……」


 再び気まずそうに沈黙するラリィ。リズは、ラリィの言わんとすることを察した。彼はまだ、リズとセイルが深い仲だと思い込んでいるのだ。


「馬鹿じゃない?」


 もはや弁解する気も起きない。


「あんたもどこかに遊びに行ってきなさいよ」


「リズはどーすんの?」


「侯爵のゲストハウスに戻って、置いたままの荷物を整理でもしてるわ」


「つまんねーじゃん。……そうだ。ケーキでも食いに行かねぇ?」


「行かない」


 リズは即答する。


「あっちでステージショーやるみたい。一緒に――」


「行かない」


「じゃあ、屋台を覗きに――」


「行かないってば」


 リズは足を止めてラリィを振り返った。眉根を寄せ何かを言い掛けた時――すれ違った通行人と肩がぶつかった。


「急に立ち止まるんじゃねえよ!」


「あ――」


 リズにぶつかった少年は、悪態をついてそのまま通り過ぎようとする。


 リズはその少年を引き留めようとしたが、それより先にラリィの手が少年の腕を掴んでいた。


「な、何だよ!?」


「財布。返して?」


 ラリィはニッコリと笑顔で少年に言った。


「は、はぁ!? 何――」


「女と子供と年寄りからは盗っちゃダメだろ」


「っ!」


 少年は顔を真っ赤にすると、リズから盗んだ財布を投げつけて逃げて行った。


 リズはため息をつきながら財布を拾い、上着の内ポケットへと入れ直す。


「私って、スリやすい顔してるのかしら」


「そうかもなぁ」


 同意して笑うラリィを、リズはジト目で睨んだ。


 リズが財布を盗まれたのは、これで二回目である。


⭐︎


 ――四年前。


 少年は石畳を駆けていた。バタバタと大袈裟に足音を鳴らし、両腕を大きく振って、繁華街の人混みの間をすり抜けていく。


「おっと、悪ぃ!」


 女の子とぶつかったが、少年はそう言って短く謝るだけで足は止めない。それどころか、走る速度を上げて角を曲がった。


「チョロいなぁ」


 唇の端を上げて笑った少年の手には、金貨の入った財布が握られていた。彼は鼻歌混じりに、複雑に入り組んだ細い道を進んでいく。


「ヴィンス!」


 繁華街を離れた頃、横手から少年の名前を呼ぶ声が掛かった。ヴィンスは足を止め、そちらを振り返る。


「ラリィ。悪い、遅くなった」


「オレも今来たトコ。……んで?」


 首を傾げたラリィに、ヴィンスは手の中の財布を投げ渡す。


「ほら、今日の収穫」


「あー、うん。それはいいんだけどさ」


 ラリィはヴィンスの後ろを指差した。


「――誰?」


「ん?」


 振り返った先には、肩で息を切らした少女がいた。紫に染めた髪の少女の右手にはデッキブラシが握られていて、戸惑いと躊躇いの混じった目で、ヴィンスを見据えている。


「さ……財布、返して」


「は?」


 ヴィンスは彼女の手元に注目した。デッキブラシを握り締めた手は、微かに震えている。


「財布って何のこと?」


「それ……! 大切なお金なの。返して!」


「はぁー? これがあんたのだって証拠は?」


 ヴィンスは馬鹿にした口調で少女をあしらう。男二人相手に震えた女一人で挑むなど、無謀にも程がある。


 ラリィは無言でヴィンスと、受け取った財布と、デッキブラシを剣のように構えた少女を順番に見ていた。


「どこの国も、同じね……」


「あぁ?」


 少女は大きく息を吐いて、呼吸を整えた。しっかりとデッキブラシを握り直すと、手の震えは止まった。


 ――大丈夫。やれる。


 自分自身に言い聞かせ、そしてデッキブラシの柄で風を斬った。


「っ!?」


 デッキブラシはヴィンスの足元を薙ぎ払う。あまりの速さに軌道が見えず、ヴィンスはバランスを崩して尻餅をついた。少女は更に振り上げた柄で彼の首元を狙い――


「ほら、返すよ」


 ラリィが突然、財布を投げて寄越した。デッキブラシはヴィンスに届く直前で止まる。


 少女は財布を受け取り、ラリィの次の動きを警戒しながら注視した。


 大きなため息をついたラリィは拳を握り締め、それをヴィンスの脳天に食らわせる。


「いっ……!?」


「ヴィンス。女と子供と年寄りからは盗るなっつっただろ」


「そんな事言ったってさぁ! この間、とっ捕まってボコられたところじゃねーか! 自分より強い奴しか狙っちゃダメなんて、無茶苦茶なんだよ!」


「……真面目に働きなさいよ」


 ぼそりと呟いた少女に、ラリィは向き直った。


「ごめんな。こいつの事、許してやってよ」


「……スリは犯罪よ。警察に突き出す」


「だってさ。どうする、ヴィンス?」


 未だ尻餅をついたままのヴィンスを見下ろすラリィ。


「い、今のはちょっと油断しただけだ! 男を怒らせたらどうなるか、身をもって教えてやらなきゃな。綺麗な顔してるし、可愛がってやるよ」


「うーわ……めっちゃ三流悪役のセリフ……」


「いやいや、ラリィ。お前が引くトコじゃねーのよ」


「フツーに引くし。何する気なんだよ」


「この場合の何って言ったら、ナニだろ?」


「きゃー! サイテー! お前がそんな奴だとは思わなかった!」


 何やら内輪揉めを始めた二人を、少女は戸惑いの表情で見ている。


「えっと……?」


「ほらほら。オレがこいつの気を引いている間に、あんたは逃げな!」


「あ、う、うん……?」


 ラリィに背中を押され、納得して歩き出す少女。しかし三歩進んだところで、話がおかしな事に気がついた。


「なんで私が逃げなきゃいけないのよ!」


 慌てて振り返ったが、ラリィとヴィンスは全速力で逃げた後だった。


 少女――リズは、小さくなっていく彼らの背中を呆れた顔で見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ