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I'll  作者: ままはる
第七章
84/114

84.答え合わせ

 エルミナの迎えでリムの村に戻ったセイルとゼンは、その道すがら村で何が起きたのかを聞いた。


 村の中の魔物は、リズたちと村人たちとでほぼ殲滅した。

 ケガ人は何人か出たが重傷者はおらず、死者はアゼル唯ひとり。


 既に日は落ちて、辺りは夕闇に包まれている。長の庇護である結界を失った村には、雪山本来の寒さが訪れていた。

 家を失くした者や、まだ不安が消えない者たちは学校に残り、校庭の真ん中に焚いた炎に手を翳し、身を寄せ合っていた。


「ウィルは?」


 教室の中に入るなり、そこにいたリズとラリィに尋ねるセイル。ウィルの姿は無い。

 リズは俯き、静かに首を横に振った。


「ネコ……フェリナが一緒にいるから大丈夫だとは思うけど、まともに会話出来る状態じゃねーな」


 ラリィは、ウィルを見つけた時の状態を思い出す。

 ウィルは既に事切れたアゼルの前に座り込み、虚な目でどこか宙を見つめていた。ラリィが声を掛けると歪な笑顔を浮かべ、全部自分が悪いのだと言って、ふらりとどこかへ行ってしまった。


 ウィルの後はネコに追ってもらい、ラリィはアゼルの亡骸を学校へと運んだのだった。


「……そうか」


 セイルは低い声で呟く。

 ただでさえ、アゼルの話にショックを受けていたのだ。その上目の前で彼を殺されて、まともでいられるとは思えない。


「そっちはどうだったんだ? 何か思い出したか?」


 全員で暗くなっていても仕方がないと、ラリィは努めて明るい声で尋ねた。


「ああ。全部思い出した」

「全部? マジで?」


 ーーそれからゼンが、研究所でのアゼルの話をラリィたちにも言って聞かせた。


「……ひとつ、ラグエルに確認したいことがある」


 ひと通り話し終えた後、セイルはそう言ってラリィを見た。教室の中にはエルミナもいるが、セイルに構う様子はない。ラリィは一応リズを振り返り、彼女が頷くのを確認してからラグエルを呼び出した。


「おお、へなちょこラリィ! オレと走りに行く気になったか!?」


 この沈んだ空気の中、ラグエルの元気すぎる声はかえって皆をほっとさせる。


「お前、俺を見た事がある気がすると言っていたな。どこだったか思い出せ」

「はぁ? 知らねぇし忘れた! オレの気のせいだ!」

「……だったら、今から俺の話を聞いて、思いあたる事があれば言え」

「なんでコイツ、こんなに偉そうなんだ……」


 ラグエルはぶつくさと文句を言っていたが、セイルは気にせずに口を開いた。


「ーー8年前、俺は誘拐された。それはただの身代金目的の、つまらない誘拐だった」


 教室に並んだ椅子のひとつに腰を掛け、セイルは淡々とあの日何が起きたのかを語り始めた。


 誘拐犯たちは名のある貿易商の孫を誘拐したものの、身代金を要求する段階で怖気付いてしまった。軽い気持ちで誘拐などに手を出したが、よくよく考えてみれば彼らの立てた計画は杜撰で、身代金の受け渡し時に捕まるリスクが高すぎた。


 かと言って顔を見られた為、このままセイルを解放することはできない。

 そこで誘拐犯は、目的を身代金ではなく人身売買へと切り替えたのだった。


 どこへ行くとも知らされず、目隠しをされたまま馬車に揺られること数日。売買が行われる会場の目前で、セイルはまた別の人物に攫われた。


「それがあの男ーー焔真だ。あいつの正体は、白竜」

「白竜……」


 同族の名に、エルミナは苦い表情を浮かべた。


「焔真が、どうしてセイルを?」


 リズが尋ねる。


「あいつはティルアの研究所で実験をしていた。どこかで誘拐されてきた人間を使ってな」


 そうしてセイルは、あの研究所へと連れて行かれた。地下室のあの5つ並んだ檻のひとつに入れられて、そこで数ヶ月を過ごしたのだ。


「その時に俺が見たのは、ウィルの持っていた綾乃の指輪じゃなかったーー弥月の指輪だ」

「……つまり……焔真は、弥月の封印を解く実験を、していた……?」


 ゼンの言葉にセイルは頷いた。


「俺の他にも連れて来られた人間があと4人いた。ひと月毎に1人ずつ減っていき、最後に残っていたのが俺とーー今の弥月になった男だ」


 そこでラグエルが、あっ! と大きな声を上げた。


「分かった! お前、アレだ! 檻の中にいたあん時のガキか!?」

「やっぱり知り合いだったのか?」


 ラリィがラグエルとセイルを指差して尋ねたが、ラグエルは首を横に振った。


「別に知り合いじゃねーよ。クソ焔真がなんかやってんのは知ってたんだけどよ、まぁオレには関係ねーと思って放っておいたんだ。でも檻ん中にガキ入れてんのを見た時に、なんか無性にムカついたんだよな」


 焔真の人体実験は気分のいいものではなかったが、それを言ったところで、ラグエルに出来ることは何も無い。誰が死のうが、世界が滅びようが、剣に囚われの身となった彼にとっては、もうどうでもいい事であった。


 しかし子供を実験に使うのは、なんだか非常に気分が悪かったのである。


「だから初めて、あの野郎に抗議したんだ。ガキは使うなって。毎晩あいつの耳元で怒鳴り続けたら、5日後にようやく観念しやがった」


 その時、既にセイルは焔真の実験の最中にあって、記憶に鍵をかけられていた。そしてそのまま、放り出されたのである。


「ちゃんと家に帰してやれって言ったんだが、一応約束は守ったみたいだな」

「そやつ……竜である私があの小屋にいることを知っておったのじゃな」


 話を聞きながら、エルミナも納得した。


「もしかしてラグエルが焔真に封印されたのって、焔真の実験に口を出したから?」

「……なるほど。それだな」


 リズの言葉に、ラグエルは両手をぽんと合わせる。


「あいつ、本当に喋らねーんだよ。だから何考えてんのか全然わかんねぇ。暗い目ぇして、辛気臭ぇったらねーな!」


 セイルは窓の外の焚き火に視線を向けながら、息を吐いた。

 突然焔真に解放されたことだけが腑に落ちなかったのだが、これで全てが繋がった。


「お前がいなければ、今頃俺が弥月だったのかもしれないのか……」

「なんかよくわかんねーけど、オレに感謝しやがれ!」


 セイルは、苦手なシュイとラグエルに救われたことに、内心で小さく自嘲した。


「焔真は弥月の封印を解こうとしていたが、今思えば、あれは守護剣を造っていたのだと思う」

「守護剣を……って、そう言えば弥月が、ラグエルは実験だったって言ってたな」


 ラリィに言われて、ラグエルは何でもない事のように頷く。


「死んだ奴は武器に出来るのか。死んだ直後なら、或いは死ぬ寸前だったらどうかーー結果、死んだ奴は武器には出来ねぇ。ティルアの内戦で死ぬ寸前だったオレは、ご覧の通りだ。痛みも何も感じなくなった」


 だからラグエルは全身包帯まみれなのかと、ラリィは合点がいった。


「今の弥月は、守護剣の精霊だ。所持者は焔真。しかし精霊であるはずのあいつに触れるのは、それがただの精霊ではなく弥月だからだろう」

「どゆこと?」


 ラリィは首を傾げる。

 セイルはラグエルに手を伸ばすが、その手は彼の体をすり抜けた。


「どういう原理かはわからん。ただここに、弥月という異物が入ることによって、こいつは実体を持ったんだろう」

「……俺の仮説だが……」


 と、ゼンは前置きをする。


「アゼルの話では……封印される前の弥月は、誰の指示も聞かない……暴走すると止められないタイプだったようだ。……だが、精霊としての弥月なら、暴走しても紋章で封じられる……」

「だから焔真は、守護剣の精霊として封印を解く方法を模索していたのね」


 そしてその過程で、精霊となる人物の記憶を消去する必要があった。だからセイルの記憶は封じられていたのだろう。


 セイルは額を押さえ、深い息を吐いた。記憶を取り戻す際に、体力をかなり消耗している。


「大丈夫? 少し休んだら?」

「俺のことはいい」


 リズがそう言ってセイルに毛布を手渡したが、彼は視線を窓の外に向けた。

 気掛かりなのは、ウィルの方である。


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