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I'll  作者: ままはる
第七章
76/114

76.精霊勢揃い

 玄関に向かったリズは、すぐに戻ってきてゼンを呼ぶ。


「部隊長から伝話がきたわ。行ってくる」


 そう言ってから、村雨を封印から解いた。


「ラグエルが戻ってきたら紹介してあげて」

「……じゃあ……シュイも」


 同じくシュイを封印から解くゼン。シュイは自身の背景にキラキラと輝くだけの無意味な魔法を施し、よくわからないキメポーズで登場した。


「おい、こいつを置いて行くな!」


 不満を叫ぶセイルの意見は無視して、リズとゼンはゲストハウスを出て屋敷へと向かった。


「これは……シュイ殿。随分と久方振りだ」

「おやおや、村雨ではないか。相変わらず生真面目が着物を着たような顔をしているね」


 村雨はシュイの言葉は聞き流す。

 反論しても意味がないことを、この100年で学んでいた。


「それじゃあキリーも」


 ウィルの呼び声で、キリーが現れた。


「ウィル。無事にお仕事は終わったみたいね。どう? ラグエルには会えた?」

「ああ。面倒臭そうな奴だな」

「でしょ?」


 ケラケラと楽しそうに笑うキリーの横を抜けて、セイルは2階の寝室に向かって歩き出した。


「どこへ行くのだ、我が主の義兄弟よ! 相変わらず三日三晩寝ずにいるような酷い目つきだね。高貴で眉目秀麗な僕が薔薇の貴公子だとすれば、さながら君は隣国の姫を攫おうとする黒の王子のようだ! さぁ、互いに膝を突き合わせて語り合おうではないか!」

「意味がわからん……」


 煙草に火をつけ、階段を上がっていく。

 その背中を見送りながら、ウィルとキリー、そして村雨は互いに顔を見合わせる。


「セイルくーん! 一緒にお話しようよー」

「お前らだけで楽しくやってろ」

「そんなつれないところもクールで好きー♡ ね、村雨?」

「私に振るな!」


 精霊というのは変な奴ばかりなのかと呆れながら、セイルは部屋のドアを閉めた。


「浮気者め。俺が好きだって言ったくせに」

「ウィルも勿論好きよ♡ 可愛いもの」

「『可愛い』じゃないんだよなぁ、俺が欲しいのは」

「『カッコイイ』まで、あと3年くらいかなぁ? ね、村雨?」

「だから私に振るなと……」


「あぁぁ! やっぱ無理ー! こんな吹雪の中を走るなんて、ただの自殺行為だぁ!」

「やっぱりてめぇはヘナチョコだな!」


 真っ青な顔でガタガタと震えるラリィと、つまらなそうな顔のラグエルが帰ってきた。勢いで飛び出して行ったので、ラリィは防寒具すら身に付けていなかった。


「ラリィ先輩、おかえりなさい。早かったですね」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」


 真っ直ぐに暖炉に飛びつき、近くにいたネコをカイロ代わりに抱き締める。

 村雨は初めて見るラグエルに、取り敢えず小さく会釈した。


「彼はラグエル。4本目の守護剣の精霊よ」

「4本目?」


 キリーが紹介すると、村雨は目を見開いて驚いた。

 シュイも魔法の鏡に映る自分の姿から目線を外し、無言でラグエルを見る。


「てめぇらもアレか。精霊ってやつか?」


 村雨とシュイを流すように見たラグエルは、何故かその場で腕立て伏せを始めた。


「左様……貴殿は今までどちらに?」

「クソ野郎に閉じ込められるまでは、ティルアの施設にいた。てめぇらの噂はちらっと聞いたことがあるぜ。イシュタリアで名誉ある剣だとか何とか言われてチヤホヤされてんだろ?」


 重力を感じないはずの精霊に腕立て伏せは効果は無いと思われるが、ラグエルは続ける。


「ラグエル殿は、ティルアで何を?」

「別に、何も。槍の持ち主を選ばされたけど、そうすると自由に外に出られなくなるからやめた。そしたら今度は動ける範囲が狭くなったから、まぁ退屈だったな」


 ラグエルはピタリと腕立て伏せを止めると、暖炉の前で震えているラリィに指を突きつけた。


「おい、てめぇ! オレを閉じ込めたままにしやがったら、オレの全身全霊の力を使っててめぇを呪い殺すからな!」

「そ、そんなこと出来んの……?」

「ヤル気があれば何でも出来る!」


 つまり根拠はないということだ。


「ラグエルと言ったね。君は、いつからそこに?」


 と、唐突にシュイが会話に入ってきた。


「『そこ』って、『ここ』のことか? あー……忘れた! 50年くらいじゃねーか?」

「50年ティルアの施設にいたの? その前は?」


キリーがそう尋ねると、ラグエルはポカンと口を開けた。


「は? その前はーー」

「そうだ! 僕の類稀なる頭脳に今、天才的な閃きが舞い降りたよ!」


何かを言いかけたラグエルの言葉を遮り、シュイは彼に右手を差し出した。


「親睦を深めようではないか」

「あぁん?」


ラグエルは差し出された手に視線を落とす。握り返してくる様子は無いと判断したシュイは、強引にラグエルの左手を掴んだ。


「では、参ろうか」

「な、何だ!? どこ行くんだよ! ってか、何だこれ! 手が離れねぇ!」


何かしらの魔法の力で、シュイとラグエルの手はがっちりとくっついている。シュイはそのままラグエルを引き摺るようにして歩き出した。


「ちょっと、シュイ?」

「レディたちはそこで姦しくお喋りでもしていたまえ。僕は男同士で親睦を深めたいのだから。おや、なんだか秘密の花園の扉を開けてしまうような響きだね! しかし案ずることはない。僕が愛しているのはこの世でただ1人、この僕だけさ!」

「……もういいから、早く行きなさいよ」


面倒臭くなったキリーは、片手を払ってシュイを追い出す。引きずられていくラグエルは何やら喚いていたが、やがてその声も遠ざかり聞こえなくなった。


「なんなんだよ、あいつ……?」

「相変わらず面白ぇ奴だな」


 呆れた顔のウィルと、なんだか楽しそうなラリィ。

 結局焔真のことは何もわからなかった。

 ラリィのこと、焔真のこと、弥月のことーー解決しないことばかりが増えていて、ウィルの頭の中はこんがらがっている。


(でもまずは、明日の事を考えなきゃだよなぁ)


 明日は、リムの村へ向かう日だ。


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