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I'll  作者: ままはる
第六章
64/114

64.女子高生

「なぁなぁ、やっぱりあの山って魔物出るの?」


 今の険悪なムードをものともせず、何事もなかったかのようにラリィが尋ねた。


「あ……出ますよ。時々竜も出ますし」

「竜!?」


 ラリィは嬉しそうな声を上げる。


「マジで? オレ、竜は見たことねーの! 人間は襲わないんだろ? カッコイイ? デカい? どんな感じ?」

「あ、いや、そんな近くでは見たことはなくて、遠くの方にチラッと見える程度で。ティルアの国境に近いんで、そのせいですかね。ティルアでは竜はそんなに珍しくないそうですよ」

「見たいなー、竜。白い竜を見るといい事あるらしいぜ」


「馬鹿くせぇ。そんなジンクス信じてるんですか?」

「ウィルは見たことあんの?」

「そりゃ、ありますよ」

「いい事あった?」

「あれば俺は今ここにいませんよね」

「確かに!」


 言って笑うラリィ。本当は笑い事ではないのだが。

 その時、会議室の外から何やら騒がしい声が聞こえて来た。甲高い女の声である。


「……なんだ?」

「ああ……また来た」


 不思議そうなゼンと、ため息をつくセドリック。


「なんだろ。痴話喧嘩かな」


 ワクワクしながらラリィが会議室を出て、声のしたエントランスホールの方へと向かう。その後ろを、他の者達もついて行く。


「いつになったら退治してくれるの!? もうこれ以上待てないの!」

「そう言われても、俺らも最善を尽くしてるんだって。さっき援軍も到着したから近いうちにーー」

「近いうちじゃダメなの! 今! すぐ! ナウ!」


 入り口近くで、学生服を着た女と隊士とみられる男が言い合いをしていた。黒髪で小柄な女子学生の方が、一方的に隊士に詰め寄っている様子であるが。女の後ろには、同じ学校の制服姿の男もいる。


「あの人たちは?」

「あの女子高生……鈴菜(すずな)って名前の子なんですけど、頻繁に早くクレイドルを退治してくれって直訴しに来るんですよ。言われなくても頑張っているんですけどね」


 泣きそうな顔で隊士に縋る鈴菜を不思議そうに見るリズ。


「お願いだから早く退治してよぉ! (れん)ちゃんまで殺されちゃう!」

「蓮ちゃんって?」


 ラリィが鈴菜に近付き、声を掛けた。鈴菜は涙を溜めた大きな目をラリィに向ける。


(はぁ……♡ すっげー可愛い!!)


 ラリィの好みのタイプ、ストライクゾーンのど真ん中だ。


「蓮ちゃんは、鈴の大事な彼氏! 将来の旦那様!」

「あ……そ。彼氏ね」


 速攻で興味を失ったラリィは、鈴菜の後ろで終始困ったような顔をしている男を指差した。


「蓮ちゃん?」

「いえ、僕はただの友人です」

「ねぇ、(つばさ)ちゃんもお願いして! 早くクレイドルをやっつけてって!」

「ねぇ……やめようよ、鈴。この人たちだって放置してるわけじゃないんだからさ」

「放置してきたから、蓮ちゃんのお姉ちゃんが……っ! これで蓮ちゃんまで殺されちゃったら……鈴……鈴……もう生きていけないー!」


 床に座り込み、大声を上げて泣き出す鈴菜。

 周りの隊士たちは揃って困った顔で鈴菜を見ているが、翅と呼ばれた友人は慣れた様子で隊士たちに頭を下げた。


「毎度お騒がせしてすみません」


 そして軽々と鈴菜を抱き上げると、出口の方へと踵を返した。


「翅ちゃん! 諦めないでよ!」

「はいはい。こっちの人たちに迷惑をかけるより、蓮を説得しに行こうね」

「うぅ……!」


 そして静かにドアが閉まった。


「学校に連絡しようが親に言おうが、あれが1日置きにやって来ます」

「たまったもんじゃねぇな」


 そう言ったウィルだが、制服姿の女子高生は魅力的であった。


「今の、絶対ラリィ先輩のタイプでしたよね」

「めっちゃくちゃ可愛かったよなぁ! ウィルはギャルの方が好みなんだっけ?」

「ギャル、可愛くないですか? ゼン先輩は? そういや先輩の彼女は見た事ねーや」


 会議室に戻りながら、恋愛話に花を咲かせるウィル、ラリィ、ゼン。


「ゼンも割と最近別れたんだよな? 『ゼン君は何を考えているのかわからない!』っつって」

「……なんで知っているんだ……?」

「優しそうな子だったよなぁ。おっとりしてるっつーか」

「だから……なんで知っている……」

「なるほど。ゼン先輩は癒し系がタイプですか」

「……くだらない」


 男たちの話を聞きながら、リズは呆れる。


「あ、リズ先輩の好みは知りたく無いんで、言わないでくださいね。俺に望み無くてヘコみそうなんで」

「いやいや、ウィル。リズはセイルとーー」

「違うって言ってるでしょうが!」


 リズの拳がラリィの後ろ頭に入ったところで、4人は会議室に戻ってきた。

 会議室の中では、その場を離れなかったセイルが、煙草を咥えながら黒板に貼られた資料に目を通していた。


「何だったんだ?」

「早くクレイドルを倒せって、女子高生の抗議よ。こっちは何か気になる事でもあった?」


 資料はどれもクレイドルによる被害者のものばかりである。被害者の生前の顔写真と、グロテスクな現場写真。簡単に被害状況や場所が書かれた書類。


「いや……」


 セイルは煙草の煙を吐き出しながら、生存者がいたという、被害者3名の写真を見ている。3名のうち1名は女性である。


(かえで)=オータムリーフ……」

「綺麗な人ですね。勿体無ぇ」


 生前の写真を見て、ウィルが呟いた。長い黒髪の、若い清楚な女性である。


「『蓮ちゃん』の姉ちゃんですかね?」


 他の被害者に若い女性はいない。


「このねーちゃんがどうかしたのか?」


 楓の現場写真を、他の写真と見比べるようにしているセイル。ラリィも同じように見てみたが、どれも鋭い爪か牙かで裂かれ、原型を留めていないようなものばかりである。


「……なんでもない」

「それじゃあーー侯爵のところに行きましょうか。さっき支部長が伝話で私たちの到着を伝えたらしいわ」

「だから守護剣士だけでーー」

「班全員で、ということらしいわよ」


 セイルはため息と一緒に、長く煙を吐き出した。


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