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I'll  作者: ままはる
第五章
57/114

57.蟲喰鳥


⭐︎


 神に祈りの言葉を捧げる神父の言葉を静かに聞いて、深い穴の底に置かれた両親に、土を被せていく。

 神父に、何か掛ける言葉はないかと問われたが、ゼンは何もないと答えた。神父はゼンの隣で涙を流すフォトにも尋ねる。


「ごめ……なさい……」


 消え入りそうな声で呟くフォト。

 何故泣いているのかと、何故謝るのかと、ゼンは考える。

 この子は何も悪く無いのに。何度謝ったところで、この人たちに愛されることなどないのに――


「……少し、話をしないか」


 埋葬を終えた後、ゼンはフォトの手を引いて教会の裏の公園に向かった。

 平日の午前中なので、公園にはほとんど人の姿はない。

 ふたりは日向のベンチに腰を掛けた。

 今日は天気は良いが、少し肌寒い。もうすぐ雪の降る季節がやって来る。


「寒くないか……?」


 フォトは頷いたが、ゼンは自分の上着を脱いでフォトの肩に掛けた。


「お前は……どうしたい?」


「……」


 フォトは口を真一文字に閉ざし、黙り込む。地面につかない両足をぶらぶらさせた。

 待ってみても口を開く様子がないので、ゼンは続ける。


「俺は……お前がしたいように、すればいいと思っている。まずは目を、治して。それから、この街がいいなら、ここにいてもいい。グリーンヒルに来るのなら……それもいい。もちろん、別の街でも」


「……」


 ベンチの下でゆらゆらと揺れる自分の足に視線を落とすフォト。

 頭の中では昨日ラリィに言われたことが残っていて、ちゃんと話をしなければいけないのだとわかっている。言いたいこともちゃんとあるのに、言葉が出てこない。


「金の心配なら、いらない。あとはお前の……気持ち次第」


「……えと……」


 この数日間、フォトは今までに無い経験を沢山した。

 温かいお風呂に入り、温かいご飯を沢山食べて、暖かいベッドで寝た。夜中に叩き起こされる事もないし、痛いこと、怖いことは何も起きなかった。優しい人たちが遊んでもくれた。だからこれ以上を望んだら、ダメだと思った。我儘を言えばこの人たちに失望されてしまう、と。

 もう充分。もう何も望んでいない――そう伝えたいのに、上手く言葉に出来ない。


「わた、私……えと……」


 気持ちばかりが焦る。こうなると余計に言葉が出なくなって、いつも母親に苛々すると怒られた。


「……大丈夫。ゆっくりで、いい」


 ゼンはそう言って、フォトの頭に手を置いた。

 優しい声。大きな手。

 フォトの胸が、ぎゅっと締め付けられた。


『お前のにーちゃん、めちゃくちゃ優しいからな』


 ラリィの言葉が蘇る。

 これ以上のことは、望んではいけないのに――


「お兄ちゃ――」


 口を開きかけた時、突然ゼンがフォトの上に覆い被さった。それと同時に、風を切る大きな音がすぐ頭の上を横切った。


「な、なに……!?」


「魔物だ……俺から離れるな」


 風を切って通り過ぎて行ったそれは、2メートルはある大きな怪鳥だった。緑と紫の毒々しい羽を広げ、空を大きく旋回している。


(蟲喰鳥……こんな街の中に……)


 蟲喰鳥は真っ赤に吊り上がった目で、フォトを捉えている。この魔物は毒蟲を食べて鉤爪に毒を蓄える。だが主食は蟲ではない。肉の柔らかい動物や人間の子供である。


 勢いをつけて、急降下してくる魔物。大きな趾の鉤爪で、フォトを捕らえるつもりである。

 ゼンは守護剣シュイ=メイを出現させ、構えた。それから魔法式を唱えかけーーやめた。


(今は失敗できない……)


 剣が届くところまで降りてきたら、斬る。

 蟲喰鳥は一直線に降りてきて、そして途中で軌道を変えた。


「っ!」


 回り込んでフォトを捕まえるつもりなのか、右へ左へ器用に飛び回る。


「絶対に俺から離れるな……!」


「う、うん……!」


 フォトはゼンの服の端を掴み、ぎゅっと目を閉じた。よく見えないが、怖いことが起きていることはわかる。


 蟲喰鳥はもう1度上昇していく。その姿を追いかけて空を見上げ――ゼンは絶句した。

 今、目視できただけで5羽はいる。


(何故……)


「わぁ、大変だね。魔物がいっぱいだ」


「弥月……!」


 気配に気付かなかった。いつの間にか弥月が、今し方ゼンたちが座っていたベンチに腰掛けていた。

 弥月は金色の目を細めて、ゼンに笑顔を向ける。


「魔法は使わないの? 剣だけで5羽もひとりで相手できる?」


「……お前が呼び寄せているのか」


 蟲喰鳥が1羽、落ちるように降下してきた。ゼンはフォトを庇いながら、その羽を斬り落とす。


「ギイィィィ!」


 地面に落ち、悲鳴を上げる魔物の首を落とした。

 まずは1羽。と、安心したのも束の間、2羽目が降りてくる。そして他の3羽も散り散りに、しかし獲物はフォトに定めたまま飛翔する。


 スピードが速い。4羽全ての動きを追えない。

近付いてきた1羽に剣を振るったと同時に、その反対方向から来た1羽の嘴が、フォトの腕をついばんだ。


「痛いっ!」


「くそっ……!」


 追い払うように剣を振り回す。


(魔法なら……しかし、失敗したら、戦えなくなる……!)

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