57.蟲喰鳥
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神に祈りの言葉を捧げる神父の言葉を静かに聞いて、深い穴の底に置かれた両親に、土を被せていく。
神父に、何か掛ける言葉はないかと問われたが、ゼンは何もないと答えた。神父はゼンの隣で涙を流すフォトにも尋ねる。
「ごめ……なさい……」
消え入りそうな声で呟くフォト。
何故泣いているのかと、何故謝るのかと、ゼンは考える。
この子は何も悪く無いのに。何度謝ったところで、この人たちに愛されることなどないのに――
「……少し、話をしないか」
埋葬を終えた後、ゼンはフォトの手を引いて教会の裏の公園に向かった。
平日の午前中なので、公園にはほとんど人の姿はない。
ふたりは日向のベンチに腰を掛けた。
今日は天気は良いが、少し肌寒い。もうすぐ雪の降る季節がやって来る。
「寒くないか……?」
フォトは頷いたが、ゼンは自分の上着を脱いでフォトの肩に掛けた。
「お前は……どうしたい?」
「……」
フォトは口を真一文字に閉ざし、黙り込む。地面につかない両足をぶらぶらさせた。
待ってみても口を開く様子がないので、ゼンは続ける。
「俺は……お前がしたいように、すればいいと思っている。まずは目を、治して。それから、この街がいいなら、ここにいてもいい。グリーンヒルに来るのなら……それもいい。もちろん、別の街でも」
「……」
ベンチの下でゆらゆらと揺れる自分の足に視線を落とすフォト。
頭の中では昨日ラリィに言われたことが残っていて、ちゃんと話をしなければいけないのだとわかっている。言いたいこともちゃんとあるのに、言葉が出てこない。
「金の心配なら、いらない。あとはお前の……気持ち次第」
「……えと……」
この数日間、フォトは今までに無い経験を沢山した。
温かいお風呂に入り、温かいご飯を沢山食べて、暖かいベッドで寝た。夜中に叩き起こされる事もないし、痛いこと、怖いことは何も起きなかった。優しい人たちが遊んでもくれた。だからこれ以上を望んだら、ダメだと思った。我儘を言えばこの人たちに失望されてしまう、と。
もう充分。もう何も望んでいない――そう伝えたいのに、上手く言葉に出来ない。
「わた、私……えと……」
気持ちばかりが焦る。こうなると余計に言葉が出なくなって、いつも母親に苛々すると怒られた。
「……大丈夫。ゆっくりで、いい」
ゼンはそう言って、フォトの頭に手を置いた。
優しい声。大きな手。
フォトの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
『お前のにーちゃん、めちゃくちゃ優しいからな』
ラリィの言葉が蘇る。
これ以上のことは、望んではいけないのに――
「お兄ちゃ――」
口を開きかけた時、突然ゼンがフォトの上に覆い被さった。それと同時に、風を切る大きな音がすぐ頭の上を横切った。
「な、なに……!?」
「魔物だ……俺から離れるな」
風を切って通り過ぎて行ったそれは、2メートルはある大きな怪鳥だった。緑と紫の毒々しい羽を広げ、空を大きく旋回している。
(蟲喰鳥……こんな街の中に……)
蟲喰鳥は真っ赤に吊り上がった目で、フォトを捉えている。この魔物は毒蟲を食べて鉤爪に毒を蓄える。だが主食は蟲ではない。肉の柔らかい動物や人間の子供である。
勢いをつけて、急降下してくる魔物。大きな趾の鉤爪で、フォトを捕らえるつもりである。
ゼンは守護剣シュイ=メイを出現させ、構えた。それから魔法式を唱えかけーーやめた。
(今は失敗できない……)
剣が届くところまで降りてきたら、斬る。
蟲喰鳥は一直線に降りてきて、そして途中で軌道を変えた。
「っ!」
回り込んでフォトを捕まえるつもりなのか、右へ左へ器用に飛び回る。
「絶対に俺から離れるな……!」
「う、うん……!」
フォトはゼンの服の端を掴み、ぎゅっと目を閉じた。よく見えないが、怖いことが起きていることはわかる。
蟲喰鳥はもう1度上昇していく。その姿を追いかけて空を見上げ――ゼンは絶句した。
今、目視できただけで5羽はいる。
(何故……)
「わぁ、大変だね。魔物がいっぱいだ」
「弥月……!」
気配に気付かなかった。いつの間にか弥月が、今し方ゼンたちが座っていたベンチに腰掛けていた。
弥月は金色の目を細めて、ゼンに笑顔を向ける。
「魔法は使わないの? 剣だけで5羽もひとりで相手できる?」
「……お前が呼び寄せているのか」
蟲喰鳥が1羽、落ちるように降下してきた。ゼンはフォトを庇いながら、その羽を斬り落とす。
「ギイィィィ!」
地面に落ち、悲鳴を上げる魔物の首を落とした。
まずは1羽。と、安心したのも束の間、2羽目が降りてくる。そして他の3羽も散り散りに、しかし獲物はフォトに定めたまま飛翔する。
スピードが速い。4羽全ての動きを追えない。
近付いてきた1羽に剣を振るったと同時に、その反対方向から来た1羽の嘴が、フォトの腕をついばんだ。
「痛いっ!」
「くそっ……!」
追い払うように剣を振り回す。
(魔法なら……しかし、失敗したら、戦えなくなる……!)




