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I'll  作者: ままはる
第五章
55/114

55.弥月の思惑とは

「一応、仕事の話もしておかないとね」


 夜。宿の1室に集まって、リズがそう話を切り出した。


「街の外れの花畑に、毒蟲(どくむし)が住み着いているらしいわ。毒蟲も人間に害があるけれど、その毒蟲を狙って蟲喰鳥(むしくいどり)が来る。そっちの方を退治して欲しいそうよ」


「鳥ですかぁ……」


 面倒臭そうに呟くウィル。

 鳥は空に逃げるので、厄介極まりない。魔法なら簡単に駆除できるのだが、と思いゼンを見る。


「魔法士協会では何て言われたんですか?」


「……よくわからない」


 ゼンは協会で話した魔法士の言葉を伝える。

 特に悪いものは感じないので、呪術の類ではなさそうである。おそらくは、イップスのようなものではないか、とのことだった。


「イップスって?」


「特にこれといった原因は無いけれど、今まで出来ていたことが出来なくなることよ。スポーツ選手に多いって聞くけど、魔法使いにもあるなんて……」


 ラリィに説明をするリズ。


「別に病気とか、弥月の仕業じゃないってことだよな? それなら良かったじゃん」


「良くは……無いだろう」


「またそのうち元に戻るって! 戻らなくても、ゼンは剣士なんだから。剣があれば戦えるだろ?」


「それはそうだが……」


 楽観的なラリィの言葉を聞いていると、少し気持ちは楽になる。


「とにかく明日は、家の片付けと遺骨の埋葬を終わらせる。葬式はどうする? ちゃんとやるのか?」


 セイルがゼンとフォトに尋ねた。


「正式にやるつもりはない。報せる人間もわからないし……俺と……この子だけが立ち会えばいいと、思っている」


「私は……わからないから、それでいい」


「それじゃあ、ゼンとフォトが教会に行っている間、家の方はラリィとセイルに任せましょう。私とウィルは、花畑の蟲喰鳥を見てくるわ」


 リズがそう言った時、フォトが大きな欠伸をした。時計に目を遣ると、子供にはもう遅い時間だった。


「フォト、そろそろ寝ようか」


「うん……」


 リズとフォトは同室である。リズが手を繋いで連れて行こうとしたが、ふと考えてその手を放した。


「リズちゃん?」


「ゼン。連れて行ってあげてくれる?」


「……俺?」


 ニコリと笑顔で頷くリズ。


「はい、これが鍵。ちゃんと寝付くまでいてあげてね」


「……」


 鍵を押し付けるように手渡され、ゼンはそれとフォトを困ったように交互に見た。


「……リズ」


「わかった……」


 非難めいた目を向けるセイルを遮って、ゼンは立ち上がる。そして無言でフォトの手を引いて、部屋を出て行った。


「強制するものではないだろ」


「いつまで待っても自分から関わろうとしないんだから、仕方ないじゃない」


 セイルの言葉に、リズは呆れた声で反論する。


「私だって、ゼンにフォトを引き取れなんて言わないわ。でも、あの子がどんな子で、何を望んでいるかも知らないのに、適当な施設に入れるようなことはして欲しくないの」


「ゼンはそんなこと……」


「そんなことしないのは分かってる。でも背中を押さなきゃ動かないのも知ってる。セイルはゼンの肩を持ちすぎよ」


「……」


 バツが悪そうに煙草の灰を落とすセイル。

 全部リズの言う通りである。セイルはハーニアス夫妻のことも、フォトのことも、ゼンを煩わせる面倒なものだとしか思っていない。


「まったく……弥月は余計なことをしてくれたな」


「それなんだけどさぁ」


 ラリィが思い出したように手を挙げた。


「弥月って、ウィル以外には敵意らしい敵意が無いような気がするんだよな」


「どういう意味ですか?」


「ウィルのその指輪はもともと弥月の物で、それを奪ったウィルの家族が許せない……ってのが、弥月の言い分だろ? 実際、ウィルの父ちゃんと母ちゃんはそれで殺されたし、ウィルも侯爵の別荘で殺されかけてた」


「俺だけじゃなくて、あの屋敷にいた人間丸ごとでしたけど……」


「その中でも弥月が殺そうとしたのって、ウィルだけじゃん? あとはオマケ、みたいな」


 ウィルはあの時の、自分の頭に添えられた弥月の手の感覚を思い出し、背筋が寒くなる。あと数秒ラリィが来るのが遅れていたら、確実に死んでいた。


「リズの時は、別にリズを殺そうとはしてなかったよな」


「……私がどうするかを見て、楽しんでいるようだったわ」


「今回のこれも、ゼンに敵意があるわけじゃなくて、ただ成り行きを見てるだけだと思うんだ」


「……何が言いたいんだ?」


 セイルが先を促すと、ラリィはウィルの首に下げた指輪を指差した。


「やっぱり、原因はコレなんだよ。コレが何なのかわからない限り、オレたちは弥月につけ回されて、ウィルはそのうち絶対に殺される」


「でも俺、コレが何なのか本当に知らないんですよ」


「だからさ、行ってみないか? ウィルの家」


「は?」


 口を開いたまま、ラリィを見詰め返すウィル。


「嫌ですよ。大体、グリーンヒルから1ヶ月くらいかかりますし。そんな遠いところ、許可が出るわけないじゃないですか」


「……交渉してみてもいいとは思うけど」


 考え込むリズ。

 確かにラリィの言うことも一理ある。


「中途半端に故郷を飛び出して来たんだろ? ちょうどいいじゃん」


「良くない! 調べるなら誰か人をやればいいだろ!」


「事情がよくわからない他人が行くより、本人の方がわかることもあるかもだし」


「ヤだ! 絶対ヤだ!」


「ガキだなぁ……」


「ガキで結構!」


 頑として首を縦に振らないウィルの首元で揺れる指輪を、セイルはちらりと見る。


「ウィル。それ、見てもいいか」


「いいですけど」


 ウィルは首からネックレスを外して、セイルの手の上に乗せた。

 何の変哲もない、ただの銀の指輪。内側に何かの模様が彫られてあるくらいである。

 セイルの頭の中が、チリチリと痛む。その不快な痛みに耐えながら、じっと指輪に視線を向けた。


「……ちっ」


 セイルは片手で頭を押さえながら、指輪をウィルに返す。


「セイル? 大丈夫?」


 セイルの顔を覗き込むリズ。顔色が悪い。


「何でもない」


 頭が痛い。

 その痛みを紛らわせる為に煙草を吸ったが、それでも痛みは鎮まらなくて、セイルは立ち上がった。


「飲みに行ってくる」


「あ、ズルい! オレも!」


「お前はうるさいから来るな」


 着いてこようとしたラリィを制し、セイルは部屋を出て行った。


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