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I'll  作者: ままはる
第五章
54/114

54.ゼンの実家

 家の鍵は、遺留品として警察に1度回収され、ゼンの手に渡っていた。

 鍵を開けて玄関をくぐる瞬間、フォトはラリィの手を強く握った。


「外で待ってるか?」


「ううん。大丈夫」


「なんか……意外と綺麗ですね」


 ウィルの勝手なイメージだが、もっと荒れた家だと思っていた。しかし実際は、掃除は行き届いており、余計な物はほとんど無く整然としている。


「潔癖症……だった気がする」


 ゼンが言うと、フォトも頷いた。


「ママは、汚いと怒るの」


「やる事は汚ぇのに?」


 ラリィはズカズカと家の中に入り、室内を物色する。


「食器は全部2人分。椅子も2脚。タオルも2枚。写真は1枚も無し!」


 他人の家なのに、腹が立って仕方が無い。

 キッチンも、バスルームも、2階の寝室も、全て綺麗だ。綺麗に、2人ぶん。

 どこにもゼンどころか、フォトの形跡も無い。居場所が無い。まるで最初から存在していないかのようだ。


「なんで……産んだのだろうな……」


 ゼンは2階の寝室を覗きながら、呟いた。フォトはウィルと一緒に1階に居る。


「こんな扱いをするくらいなら……最初から、産まなければいいのに」


 本来ならば子供部屋であろう部屋には、何も無い。カーテンすら取り付けていない部屋の真ん中に、ゼンは立つ。


「俺やあの子は、何なのだろう……」


「ゼン……あのさ」


「慰めて欲しいわけじゃない」


 ただどう足掻いたところで、この子供部屋に自分のベッドが用意される事は決して無かった。その事実が虚しくて、そんな自分にこれから何が出来るのか、わからなくなってしまっただけ。


「……思っていたより、早く片付きそうだ」


 業者を呼んで全て処分すれば、1日で終わるだろう。後は家ごと売却すればいい。


「オレさ、この家大っっ嫌い! あの2人がお前らの親だと思うだけでぶっ殺したくなる。もう死んでるけどさ。だから正直言って今回は、弥月にちょっとだけ感謝してる」


「……」


「ゼンはそう思わねーの?」


「……どうだろう。この件がなければ、あの子の事も知らないままだった、から……そういう意味では良かった、のかもしれない。でも……」


「でも?」


「死んで良かったとも、思わない。本当に、何とも思わないんだ……」


 そう言って、自分自身で気がついた。

 ひょっとしたら、これが母たちが自分に抱いていた気持ちなのかもしれない、と。生きていようと死んでいようと、どちらでもいいし興味も無い。ただ視界に入らず、声も聞こえない場所にいてくれたらいい。


(結局、親子だということか……)


「ゼン?」


「……ひとまず、片付け業者を、探してくる。あと……魔法士協会にも行ってくる」


「あ、ああ。誰か一緒にーー」


「必要ない」


 短く返事をして、1階へ降りて行くゼン。その背中を見送ってから、ラリィも下へ降りた。


「ゼンは出掛けてくるってさ。フォト、かくれんぼでもするか?」


「あ……で、できる……かな?」


「目が見えてないのに、できねーだろ」


 冷静にツッコむウィル。

 ラリィはフォトの頭をくしゃくしゃと撫でると、手近な椅子に座った。


「お前のにーちゃん、どーしたもんかなぁ」


「ゼン先輩が、どうかしたんですか?」


「んー……」


 考え込んでしまったラリィに、フォトが不安そうな表情を浮かべる。


「私、多分……迷惑かけてる、よね?」


「いや、そんなことはーー」


「警察の人が、孤児院があるって言ってた。私がそこに行ったら、お兄……ちゃん、困らないよね?」


 フォトの言葉に、ラリィは大きなため息をつく。


「お前たち兄妹はホント……相手のことを考えすぎっ! 気持ちはわからなくもねーけどさ、もっと、こう……楽に考えようぜ?」


「楽、に?」


 きょとんとするフォトの鼻先に、ウィルは指先を突きつける。


「お前はどうしたいんだよ? ちなみに俺も、孤児院に行くか他所の家に引き取られるかって言われたけど、絶対に嫌だっつって逃げたからな」


「ウィルくんも?」


「俺は嫌だった。けど、お前に合った孤児院もあるだろうし、行きたいなら行けばいい。行ってみて合わなければやめればいいし。とにかく、ゼン先輩に迷惑かけたくないからって、我慢してまで行くことねーよ」


 それを聞きながら、ラリィがパチパチと拍手する。


「そうそう! それに、ゼンは迷惑だなんて思ってねーぞ? お前のにーちゃん、めちゃくちゃ優しいからな。この間、酒飲み過ぎてゼンのベッドにゲロ吐いたのに、怒らずに片付けてくれたし! あれがセイルのベッドだったら、マジで殺されてたと思う。あと、勝手におかず食っても怒らねぇし、普通に奢ってくれるし、苦手な仕事も代わってくれるし!」


「聞いてるだけだと優しいってゆーか、ただの都合のいい人なんですけど大丈夫ですか?」


「あれ? マジで?」


 フォトが小さく笑った。


「ゼンはさ、フォトがどうしたら幸せになれるか、めちゃくちゃ一生懸命に考えてると思う。考えすぎて、わけわかんなくなってんだ。こーゆーのは、お互いちゃんと顔をつき合わせて話さなきゃ!」


「……うん……」


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