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I'll  作者: ままはる
第三章
33/56

金の目をした男

「お。いいもん見っけ!」


廊下に置かれた甲冑から、ウィルは盾をむしり取る。さすが公爵邸、レプリカではなく本物である。

それを左手に構えて、中庭に戻った。


「おい、ワン公! 防御力アップしたぞ、かかってこい!」


狼は一目散にウィルに向かって駆け出した。そして鋭い爪を剥き出して、ウィルに飛びかかった。同時に、針を勢い良く飛ばして来る。


「ワンパターンなんだよ!」


針は盾でガードして、その胴体を剣でひと凪ぎした。


「ギュゥ……!」


悲鳴を上げて地面に転がったところに、トドメを刺す。

狼は長い舌をダラリと垂らし、動かなくなった。


ほっとする間もなく、次に視界に入ってきたのは、一匹の蛙。

特に何の変哲もない蛙だが、蛙はゲロゲロと鳴きながら喉袋を大きく膨らませーー轟音と共に激しい炎を吐き出した。


「あ……っっつ!!」


盾で防いでみたものの、すぐに熱くなって盾を捨てる。


「この間の鬼火といい……炎はやめろって。公爵邸だぞ? 弁償できねぇだろ?」


蛙はぴょんぴょん飛び跳ねて、どこかへ行こうとする。

見失ったらそれこそ屋敷を燃やされてしまう。

小さな蛙に狙いを定めて、剣を振り下ろす。だがこの蛙、まるで太刀筋を読んでいるかのように剣を避けた。


「ゲロ」


小馬鹿にするように、小首ーー蛙に首はないけれどーーを傾げる蛙。

もう一度喉袋を膨らませ、炎を貯める。


「ーー【rai】」


声と共に、落雷が蛙に直撃した。


「ゼン先輩!」


魔法を放ったゼンの方へ駆け寄ろうとして、しかしウィルは咄嗟に大きく後ろに下がる。

雷に撃たれたはずの蛙が、何事も無かったような顔で炎を吐き出した。


「お……効かない……」


これは困ったと、ゼンは思案する。

雷が効かないというよりは、魔法が効かないような手応えであった。


「逃げ道を見つけた。何故かセイルがいて……避難者を誘導している」


「じゃあ最悪、ここが炎上しても逃げられますね」


「命には代えられないが……」


足元を飛び回る蛙に剣を振り下ろすゼン。だが、やはり逃げられてしまう。


「その蛙で最後?」


リズの声。


「リズ先ぱ……」


振り返った先にいた彼女の姿を、ウィルは思わず凝視した。

ドレスは大胆に破れ、際どいラインまで足が露わになっている。また先ほどの触手の酸で、ドレスの所々も溶けて破れていた。


「本当に楽しいパーティーだわ」


リズは刀を持っていない。無防備なまま蛙へと近付いていきーー鞘から刀を抜く居合いの要領で、左手の紋章から刀を抜き放った。

その一瞬の動きで、蛙は一刀両断にされた。


「……お見事」


ゼンは自分のスーツを脱いで、リズの肩に被せる。


「屋敷の中は元帥が見て回ってるわ。多分もう魔物はいないと思う」


そう言ってウィルを振り返ったリズは、絶句した。


「あなた……」


「動かない方がいいよ。魔法もね。発動と同時にこの頭、吹き飛ばすから」


あの男がーー黒ずくめの、金の目をした男が、ウィルの背後に立っていた。右手をウィルの頭に翳し、小さく笑みを浮かべている。


「やっぱりてめぇの仕業か! 何がしてぇんだよ!」


ウィルは体は動かさないまま、声を上げた。

少しでも動けば本当に殺されるーー翳された手から、ヒヤリと冷たい何かを感じる。

それはリズとゼンも同じで、誰も動くことができなかった。


「今日連れて来たのは、そこそこいい出来だと思ったんだけどなぁ。一人も殺せないだなんて、駄作だったね」


「お前が……作った合成獣(キメラ)か……?」


「そう! どうだった? 僕のお気に入りは蛙。前回の鬼火の反省を活かしたんだけど、あんなに速く斬れるんだね。ビックリしちゃった」


ゼンに尋ねられると、男はどこか嬉しそうに、そして少年のように無邪気に笑った。


「君がウィル。君がゼン。君がリズ。ーーうん、覚えた」


一人一人ゆっくりと顔を見つめる男。


「本当はここでみーんな死んで貰う予定だったんだけど、頑張ったご褒美に、今日はウィルだけにしておくね」


ウィルの頭に男の手が触れる。

ウィルの体はまるで金縛りにあっているかのように、動かない。


「それじゃあ、バイバーー」


男の手がーー地面にごろんと転がった。


「……え?」


断面から溢れ出す血と、転がり落ちた手を茫然と見る男。


「お前か。例の怪しい男ってのは」


男の手を切り落としたのは、二階のテラスから飛び降りて来たラリィだった。

ラリィは屋敷の中で調達した槍を構える。

男は無言で手を拾い上げてから、ラリィを見た。

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