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I'll  作者: ままはる
第三章
32/54

合流


⭐︎


「なんちゃら侯爵の別荘って、アレだろ?」


ディアス侯爵の別荘からやや離れた場所。

ラリィは遠目に見える豪邸を指差し、隣を歩くセイルに確認した。

セイルは煙草の煙を吐き出しながら頷いてみせる。


「今頃ウィルたち、美味いもん食ってんのかなぁ。いいなー」


「堅苦しい飯を食っても美味くないだろ」


「そうかぁ? 美味いもんは美味いよ」


「それよりも、どこに行く気だ。食堂じゃなかったのか?」


夕食時、ラリィが一緒に飯を食おうと誘いにきたので、寮を出てきたセイル。しかしラリィは寮の食堂には向かわず、繁華街の方へ向かっていた。


「この間、めっちゃ美味いラーメン屋見つけたんだよ! 餃子食いながらビール飲んでぇ、からのラーメン!」


「……何でもいい。腹減った」


「じゃあこっちの道! 丸猫飯店っていうーー」


そう言いかけた時、ディアス侯爵別荘の方で何かが光るのが見えて、二人は立ち止まった。


「何だぁ? 花火でもやってんのか?」


「いや、何か変だ」


金色の光に包まれた屋敷が、やがて闇色に染まっていく。パフォーマンスにしては不気味である。


「っ!」


「おい、ラリィ!」


突然何かを思い出したように、屋敷に向かって走り出すラリィ。一瞬迷って、セイルもその後を追った。


「なんかわかんねーけど……ヤバそうじゃね?」


門は開いていて、こちらに向かって何かを叫んでいる様子の人間たちがいる。だがその声は、まるでこの闇の幕に遮られているかのようで、届いてこない。


「ゼン!」


人だかりの向こうにゼンの姿が見えた。魔物らしきものと対峙しているように見える。


「どうなってるんだよ、これ! なんで中に入れねーの!? あれ、魔物だよな!?」


「……他の入り口を探すか」


二人は屋敷の外を、高い塀に沿ってぐるりと周る。


「閉じ込められてんのかな? ゼンもいたし、ウィルやリズも中だよな? ってか、ダメだ! 早く助けに行かないと……!」


「方法がわからん。武器もない。どうするつもりだ」


「そんな事はわかってるけどーー」


次の瞬間、すぐ近くの屋敷の塀が、突然爆発した。


「うぉ!? っっくりしたぁ!」


「その声は、お猿くんではないかな?」


塀の向こう側から、聞き覚えのある声がした。


「シュイか!?」


「ご名答。少し離れていたまえ」


シュイは魔法式を口の中で唱え、高らかに片手を天に、片手を顔の前に置いて顔を斜め四十五度に傾ける!


「【阿修羅の如き天地の怒り】!」


魔法というものは、トリガーとなる術者の声が必要なのであって、その言葉は何でも良いのである。

そして再度爆発が起きて、塀がガラガラと崩れ落ちた。


「ようやく防壁の弱いところを見つけたよ」


「中で何が起きている?」


人ひとりがようやく通れるほどの穴。そこから中を覗きながら、シュイに尋ねるセイル。


合成獣(キメラ)で溢れかえっている。何故このようなことになっているのかは、僕の預かり知らぬ事だ」


合成獣(キメラ)って……魔物だよな? みんなは無事なのか!?」


「さて。僕は出口を探せと言われただけだからね」


「っ!」


ラリィは塀の隙間に身体を捩じ込むと、屋敷の敷地内へと走って行った。


「馬鹿が……武器も持たずに何ができる」


煙草を携帯灰皿に押し付けてから、セイルも中に入った。


「俺が避難誘導をする。お前はゼンのところへ戻れ」


「僕に命じていいのはゼンだけだよ」


ニコリと笑ってから、シュイはその場から姿を消してゼンの紋章へと戻って行った。







「くっそ……! 飛び道具は卑怯だろ!」


全身を針に覆われた狼は、その鋭利で大きな針を、ウィルに向かって飛ばしながら襲いかかってくる。

ウィルはその針を交わすことで精一杯で、反撃が出来ずにいた。


狼が地面を蹴る。

それを迎え討とうと剣を構えるが、やはり無数の針が飛んできて、身体を捩って避けた。


「あー、イライラする! 正々堂々向かって来いよ!」


その時、近くの植え込みが揺れた。

狼の注意がそちらに向く。


「っ! なんでそんなところに……!」


メイドだ。

おそらくそこにじっと隠れていたのだろうが、恐怖のあまり物音を立ててしまった。


狼がメイドに向かって針を飛ばすのと、ウィルが駆け寄ったのは、ほぼ同時。


「つっ!」


メイドの手を引いて、屋敷の中に逃げ込んだ。


「あ……あ……ご、ごめんなさ……」


ウィルの左肩に、数本の針が深く突き刺さっている。

ウィルは適当な部屋の中に駆け込むと、狼が追ってきていないことを確認してから、その針を抜き捨てた。


「いってぇなぁ、クソが。絶対にぶっ殺す」


それからようやくメイドの方を見た。


「怪我してねぇか?」


「は……はい」


(あれ、この女……)


ウィルが、見覚えがあると思って探していたメイドである。

くりくりとした大きな目に、小柄な身長ーー


「……あ! フリフリリボン!」


地味なメイド服だったからわからなかったが、思い出した。以前写真を見せて貰ったことがある、ラリィの彼女だ。


「あー、スッキリした! そうだそうだ、チェリちゃんだろ?」


「はい。あ、あの……ラリィ君から、ウィル君の話は聞いています。助けてくれて、ありがとうございました」


チェリはウィルの肩の傷を申し訳なさそうに見る。


「毒はなさそうだし、大丈夫。てかあんた、ここのメイドやってんの?」


「アルバイトで……」


「いいね、メイドのバイト。萌えるわ」


ウィルの砕けた物言いに、チェリの緊張が解けて笑顔が見える。


「ひとまずこの部屋に隠れてな。終わったら迎えに来てやるから」


不安そうに頷くチェリ。その頭にウィルはそっと手を置いた。


「あんた、そっちの服の方が可愛いよ」


「え……?」


じゃ、とウィルは手を振って部屋から出て行った。

閉じた扉をチェリは見つめながら、ウィルが触れた頭に、そっと指先を乗せる。


「ウィル君……」


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