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I'll  作者: ままはる
第三章
30/53

「ーーさて、お食事が済んだ後は、中庭で暫しご歓談をお楽しみください。道中に手に入れた珍しい石も展示しておりますので、そちらも宜しければどうぞご覧ください。その間にダンスホールの準備も整いますでしょう」


「……ダンスの練習はしてないっすよ」


「よい。ここまで粗相がない事に驚いておるくらいだ。セイルの指導力を再評価せねばなるまいな」


小声で隣の席の元帥に囁くウィルと、笑う元帥。


「珍しい石とは、どのような物でございますの?」


どこかの夫人が尋ねた。


「立ち寄った街の行商人から買い取ったものなのですが、深い黒と、それでいて光を受けると金色に輝く美しい石でしてね。どの鑑定士に見せても、まだ名のついていない石だと言うのです」


「まぁ、それは大変興味深いですわ」


話が盛り上がる侯爵と夫人の脇をすり抜けて、貴族の令息らしき男がリズの方へとやって来る。


「私は石よりも、貴女の方が興味深い。この後テラスで夜風に当たりませんか?」


「あは……興味を持っていただけるような身分ではありませんので……」


「おいおい、怯えているじゃないか。それよりも私とお相手願えませんか? シャンパン一杯だけでも」


横から別の令息がやってきて、リズの手を引いて行く。


「あの、えっ、いや……」


これが隊士やそこいらの男であれば、どんな方法でも交わすことができるのだが、こんな場所ではどうすればいいのかわからない。

ゼンに視線を送ってみたが、助けてくれそうな様子はない。


「私、お酒は苦手で……」


「リズ嬢。それではこちらで俺と葡萄ジュースをどうですか? お仕事の話に興味があるなぁ」


また別の男に手を引かれ、あれよあれよとリズは姿を消した。


「リズ先輩、大丈夫ですかね?」


「……おかしなことには、ならないだろう」


よりにもよって公爵家で、他の貴族も騒動を起こすようなことはしないだろうとゼンは思う。


「あの、魔剣士様。宜しければこちらでお話をお聞かせ願えませんか?」


次に現れたのは、頬をピンクに染めた貴族令嬢たち。ゼンを取り囲んで、中庭に連れて行ってしまった。


「お主は私から離れるでないぞ」


「へいへーい。信用ねぇなぁ」


ウィルは元帥について、中庭に出た。ウィルに話しかけてくる者たちを、それとなく元帥がかわしてくれるお陰で、ウィルはのんびりとジュースを飲んで過ごす。


(そういや、さっきのメイド……誰だっけなぁ? 絶対に見た事あるんだけど)


そのメイドはどこに行ったのだろうかと視線を彷徨わせていると、奥の方からゼンが小走りでやって来た。


「どうしたんですか? ゼン先輩」


「ウィル……」


いつも読めないゼンの表情が、少し緊張しているように見えた。

ゼンはどう説明したら良いのか、元帥とウィルを交互に見ながら言葉を探す。


「石……あの石、あの男の気配がする」


「石って、侯爵がさっき言ってた石のことですか? あの男ってーー」


言いかけて、ゼンの言いたい事を理解した。

あの男ーーウィルの両親を殺めたかもしれない男。

報告を聞いている元帥も、急いで石の方へ向かった。


「まぁ、本当に美しい石ですこと」


「加工して装飾品にすれば良さそうですね」


中庭で、ガラスケースに入れて飾られた石の周りには人だかりがある。

元帥は人をかき分けて、その石の前に出た。


「ゼン。間違いないのか?」


頷くゼン。


「寒気がするような、この嫌な感じは……間違いない」


「しかし、一体どういうーー」


その次の瞬間。

石が、金色の光に包まれた。眩いくらいの強い光は少しずつ大きく広がり、やがてこの屋敷を丸ごと包み込む。


「なんだ……?」


「何かのパフォーマンスかしら?」


金色の光は、次第に薄暗い墨のような色へと変化した。

そして空から、ボタリと墨色の塊が落ちてくる。

ひとつ、ふたつ、みっつーー

中庭、屋敷の屋根の上、裏庭。いたるところに落とされた塊は、激しく蠢いたあと、醜悪な魔物の姿へと変化した。


「なんという事だ……」


元帥は素早く視線を動かす。

目視できるところに四体。どの魔物も元帥ですら見た事がない姿をしているが、これらが危険な物であることは、痛いくらいの殺気でわかる。


「ゼン! 招待客を屋敷の外へ避難させなさい! ウィルは中庭の魔物を殲滅! 私は預けた武器を取りに行ってくる」


「何なんだよ、一体!」


ウィルは守護剣を呼び出し、目の前にいる魔物を睨みつけた。

見た目は狼に似ているが、目が左右に三つずつ。全身を覆っているのは毛皮ではなく、鋭い無数の針のようである。

獣は鋭利な牙を剥き出しにして、低い唸り声を上げた。


「ど、どう言う事だこれは!? 何が起きたんだ!?」


「侯爵。ひとまずこちらへ」


突然現れた魔物の姿に気が動転している侯爵の手を引くゼン。


「あ、あれはあの石から出てきたのか!?」


「……わかりません。ただ、何かよくない……物だと思います」


悲鳴を上げる他の招待客たちも先導し、ゼンは屋敷の門を目指す。

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