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I'll  作者: ままはる
第三章
29/57

いざディアス公爵別邸へ

二週間、みっちりマナーを叩き込まれた二人は、ようやく当日を迎えた。


「馬子にも衣装じゃなぁ」


高らかに笑う剣士隊元帥と共に、迎えの馬車に乗ってディアス侯爵別邸へと向かう。


「リズ先輩、ハイヒール慣れたんですね」


「毎日これで過ごしたお陰で、走れるくらいにはなったわ。ウィルもスーツ、よく似合ってるよ」


「動きにくいし、蝶ネクタイも苦しいし、早く脱ぎたいですけど」


「……数時間の、我慢」


そう言ったゼンも、やはりスーツの着心地は悪そうで、何度も蝶ネクタイを調節し直していた。


「お前たちは今夜の夜会の見せ物だ。特にお主は、余計なことは喋らず、黙って私の隣におれば良い」


「……ホント、つまんねぇの」


元帥に釘を刺されたウィルは、唇を尖らせる。


ーー程なくして馬車は、海が望める高台の屋敷の前に止まった。


「別邸とは言え、さすが公爵家ね」


ゼンのエスコートで馬車から降りながら、リズが感嘆の声を漏らす。


剣士のグラウンド二つ分はありそうな広大な敷地。受付を過ぎて門を潜ると、立派な噴水が招待客を出迎えた。綺麗に剪定された植木たちは、キラキラと輝く電飾で彩られている。


「アーヴァイン元帥」


屋敷の中に入ってすぐ、横手から声が掛かった。

ウィルたちも足を止めてそちらを見る。


「お忙しい中ご足労いただき、ありがとうございます」


「ディアス侯爵。今夜はお招きいただき、誠に感謝致します」


(こいつが事の元凶か)


頭を下げる元帥の隣で、ウィルは内心で悪態をついた。

快活そうな初老であるが、やはり一見して気品を感じる男である。


「彼らが例の守護剣士殿たちかな?」


「お前たち、ご挨拶を」


「お初にお目にかかります。ゼン=ハーニアスと申します」


元帥に促され、ゼンが頭を下げる。


「魔剣士殿でしたね。剣術に長けておられるだけでなく、魔法にも精通しておられるとは、誠に感服いたします」


「……痛み入ります」


「初めまして、侯爵様。リズと申します」


セイルに何度も指導されたように、丁寧に片足を下げて礼を取るリズ。


「これはこれは、噂以上にお美しい剣士様ですなぁ。妖刀村雨の使い手でしたね?」


「はい」


「……ウィル=レイトです」


最後にウィルが前に出た。

侯爵は更に満面の笑顔を浮かべて、ウィルの手を取る。


「史上最年少の守護剣士殿! いやぁ、天晴れ! 素晴らしい才能をお持ちですな!」


「いえ……あー……」


「貴族の戯れに呼び出されて、さぞご不快な思いをされていることでしょう。どうしても三人揃った守護剣士殿にお会いしてみたくてね。年寄りの我儘と思って、今夜限りご容赦いただきたい」


終始笑顔を絶やさず、明朗な侯爵。

どんな気難しい貴族なのかと構えていたウィルは、少しだけ肩透かしを食らった気分である。


「どうか肩の力を抜いてお楽しみください。後ほど宜しければ、守護剣をご披露いただければ幸いです」


それでは、と元帥に一礼をして、侯爵は他の招待客の方へと向かって行った。


「なんか、めっちゃ感じのいいおっちゃんでしたね」


「ディアス侯爵は、優れたお人柄で人望も厚いことで有名なお方だ。加えて新しいもの、面白いものに目がない」


「ミーハーかよ」


「……もう口を閉じておれ」


その後もどこかの貴族、夫人、令息、令嬢が入れがわり立ち替わり、物見遊山でウィルたちに声を掛けて来た。会話の受け答えまで叩き込まれていたウィルは、ひたすら試験を突破する気持ちでそれに臨んでいた為、食事の席へと案内された時には既に疲労困憊。それでも挨拶攻撃が中断されたので、少しばかりほっとして、ようやく周りを見る余裕ができた。


豪華な衣装で上品に笑う貴族たち、優雅な音楽を奏でる学芸団、スマートに給仕を行うウェイターたちに、細かな気配りを見せるメイドたち。


(あれ?)


そのメイドの中に、ウィルは見覚えのある顔をみつけた。


(誰だっけ? 見た事あるはずなんだけど……)


ウィルがじっとそのメイドを見ていると、向こうも視線に気がついて、小さく微笑んで頭を下げた。


「ところでアーヴァイン元帥。元帥は、守護剣が実は他にも存在するという話をご存知ですか?」


食後のデザートが運ばれてくる中、ディアス侯爵が尋ねた。


「その噂は私も聞いた事がありますが……剣士隊に身を置いて五十年、この三本以外を目にしたことは御座いませんね」


「確か守護剣は、ティルア帝国より賜った宝剣だとか。ティルアにある可能性は?」


「さて……どうでしょう。可能性は低いとは思いますが、無いとも言い切れませんなぁ」


実際、元帥はキリーに尋ねたことがある。しかし当の本人も、知らないと答えたのである。


「では、守護剣には精霊が宿っているという話は?」


「はっはっはっ。侯爵様は守護剣の噂について本当にお詳しい」


ぎくりとしたウィルを気取られまいと、元帥は大きな声で笑う。


「私も精霊とやらに会えるのを楽しみにしておるのですが、なかなかどうして、姿を現してはくれません」


「ふむ……あくまで噂は噂でしかないということですか」


「所詮はただの剣に過ぎませんよ。しかし、何か面白い真実がわかり次第、すぐにお耳にお届けいたしましょう」


残念そうな侯爵に、元帥はすました顔でそう言った。

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