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I'll  作者: ままはる
第三章
28/114

28.テーブルマナー講座


⭐︎


「社交界だなんて大変だなぁ、守護剣士サマは」


 フォークを肉にブッ刺して、そのままかぶり付くラリィ。


「なんかよくわかんねぇけど、ひと晩だけのパーティーなんか、どうにかなると思うんだけどなぁ」


 テーブルに片肘をつきながら、ウィル。


「……なんでラリィまでいるのよ」


 テーブルの下でハイヒールを脱ぐリズ。

 その3人をゼンは無表情で眺め、それからゆっくりと天井を仰いだ。


「……どうしたものか……」


 翌日の夜。

 テーブルマナーを教えてやれとセイルに丸投げされたゼンは、許可を取って寮の自室にウィルとリズ、おまけにラリィを呼んだ。

 料理は食堂に頼んで作って貰ったものである。


 しかしゼンの予想を超えて、この3人はマナーを知らない。どう教えたら良いかと思案しているうちに指摘すべきことが増え、どこから手をつけていいのかさっぱりわからなくなってしまった。


「ゼン。さっきから黙っているけど、ダメなところはちゃんと教えてね。……というか、本当になんでラリィがいるのよ」


「リズ……ナイフを人に突きつけては、駄目だ」


「あ……」


 肩を竦めてナイフを皿に戻す。


「だって、なんかオレだけ仲間はずれじゃん? 寂しいじゃん? それに今夜は彼女も用事があるって言うしさぁ」


「あー、あのフリフリリボンちゃんね」


「チェリちゃん! ウィル、お前もさ、彼女作ったらいいんじゃねーの? そしたら毎晩ふらふらしなくなるだろ」


「えー……彼女とか面倒臭そう」


「ウィル……足をブラブラさせては……」


「面倒臭いと思うのは、好きじゃねーからだ。なぁ? リズもそう思うだろ?」


「私に振らないで」


「リズ……靴は履いた方がいい」


「大体、どこの誰とナニしてんだよ?」


「ラリィ……ナイフとフォークは外側から……」


「子猫ちゃんとニャンニャンしてんの♡ てか、あんたと同じ部屋だとうるさくて眠れねぇんだよ」


「オレ、うるさくないし」


「自覚ねぇのかよ」


「なぁなぁ、童貞捨てた?」


「……そういう話題は……」


 口をつぐみ、ゼンは再び天を仰ぐ。

 自分には無理だ。諦めようーーそう思い至る寸前、脳裏に名案が思い浮かんだ。

 ゼンは左手の甲に意識を集中させる。

 そして。


「ごきげんよう、ゼン。そしてその下僕たち!」


 颯爽と姿を現したのは、長い金髪をひとつに束ねた青年だった。特徴的なのはひと昔前の貴族が着ていたような、その煌びやかな衣装。


「何だコイツ。下僕って俺たちのことか?」


「シュイ=メイだ。だいぶ頭のネジがぶっ飛んだ面白い奴だぞ」


 初めて見るゼンの守護剣の精霊にウィルは眉をひそめ、ラリィは面白いことが起きそうだと胸を高鳴らせる。リズはそうきたかと、苦笑い。


「こいつらに、テーブルマナーを教えてやってくれないか」


「ふむ……?」


 シュイは現状を眺める。それからニコリと笑った。


「猿にマナーは不要ではないかな」


「誰が猿だ、誰が!」


「おや、小猿が吠えているね」


 はっはっはっと高らかに笑うシュイの目に、ウィルの手の甲の紋章が留まった。


「ヴァルキリーは小猿を選んだのかい? ついに気が触れたのかな?」


「こいつ……!」


 無駄だとわかりつつも、シュイの肩を殴るウィル。当然拳は空を切っただけである。


「ちゃんとウィルは強いわよ」


「レディがそう言うのなら、そう言うことにしておくよ。それでーー」


 何やら言いかけたシュイは、ふと部屋に置いてある鏡に気が付いた。近寄ってその鏡を覗き込むが、精霊である自分の顔はそこに映らない。


「あ……鏡をしまっておくのを、忘れていた……」


「なんてこと……っ! なんてことだ! この僕の美しい姿を映さないだなんて!」


 ひと筋の涙を流し、芝居がかった動作で床に崩れ落ちるシュイ。


「ゼン……僕はもう駄目だ……鏡が僕を拒絶している……!」


「大丈夫……お前は、美しい」


「本当かい? 蝶よりも、花よりも、僕は美しいかい?」


 こくりと頷いてみせるゼン。


「自分の鏡で見てみろ」


 シュイははっとして立ち上がると、口の中で呪文を呟いた。すると彼の手の中に、ゆらゆらと揺れる光が浮き上る。その光はまるで鏡のようで、シュイの姿を反映していた。


「美しい……僕」


 うっとりと見惚れるシュイ。


「……なんだこの茶番」


「な? 面白いだろ?」


「悪い人ではないんだけどね……」


 しばらく魔法の鏡に見入っていたシュイだが、やがて満足するとマントを翻してウィルたちを振り返った。


「それで、何だったかな? 彼らにテーブルマナーを教えれば良いのかい?」


「そうだ」


「本来、僕のように高貴な者が下々の者と混じり合うべきでは無いのだが、ゼンの頼みならば致し方がない。感謝の涙で咽び泣くが良い!」


 ーー精霊は物理的に触れることは出来ないのに、シュイの使う魔法はウィルたちを傷付けることが可能だった。


 マナーをひとつでも間違えれば、全身に激しい電流が流される。早々にラリィは離脱し、電流に悲鳴を上げるウィルとリズを大笑いしながら見物した。


「ーー終わったか」


 1通りの流れを終えた頃、部屋にセイルが入ってきた。元よりここはゼンとセイルの部屋だ。

 これでもかと電流を受けたウィルとリズは、ぐったりとテーブルに突っ伏している。


「やぁ、ゼンの下僕その1。ごきげんよう」


「……ゼン。もういいから、そいつを紋章に戻せ」


「悪いな、シュイ……助かった」


 シュイが紋章に戻されるのを確認すると、リズとウィルは心底ほっとする。


「……セイル。俺は、人にものを教えるのは……向いていない」


「そんなことは知っている。あの馬鹿貴族を使ったんだろう? それでいい」


 煙草に火をつけながら言うセイル。


「だったら最初からそう言え」


「万が一お前が教えていたら、それはそれで面白いだろ」


「……」


 無言、無表情で抗議するゼン。セイルはゆっくりと煙を吐き出し、スルーした。


「なぁなぁ。ダンスもするのか?」


 ラリィが尋ねた。

 リズとウィルの顔から一気に血の気が引いていく。


「馬鹿言わないで! あんたは見てるだけだから気楽でしょうけど、もう無理よ!」


「俺たちはただの剣士! ダンスなんて必要ねぇ!」


 リズとウィルの猛反対を聞きながら、セイルは煙草を吹かす。


「……今回は最低限のマナーだけでいいだろう。舞踏会でもないしな」


「ってゆーか、セイル先輩って社交界に出るような家の出なのに、なんで剣士なんかやってるんですか?」


「悪いか?」


「いえ、フツーに疑問です」


 真っ直ぐに問われてセイルが返答に困っていると、ゼンがぼそりと呟いた。


「まぁ……父親がアレだしな……」


「それ、女剣士の誰かも言ってました。なんか有名な剣士なんですか?」


「有名……?」


 ゼンはリズ、ラリィと顔を見合わせる。


「まぁ、有名……か?」


「セイル先輩の父親って言ったら、やっぱりめっちゃカッコいい人なんですよね? どの部隊にいるんですか?」


 キラキラした顔で尋ねるウィルの言葉に、ぶはっとラリィが吹き出す声がした。リズも肩を揺らして、必死に笑いを堪えている。セイルはただ微妙な顔をしているだけなので、代わりにゼンが真顔で言う。


「カッコいい人だと……俺は思う。が……夢を壊したくないので、いつかその時が来るまで……黙っておく」


「? はぁ……?」

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