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I'll  作者: ままはる
第三章
27/55

白か黒か


⭐︎


一方、女剣士たちの中に置いて行かれたリズ。


「訓練の邪魔をしてごめんね。セイルの言ったこと、本当に気にしないで。私はーー」


私は大丈夫だからーーそう言おうとした瞬間、突然ひとりの女剣士が、もうひとりの女剣士の胸ぐらを掴み上げた。


「黒だって言ってんだろ!? 絶対に黒だ! 上品さと色気を併せ持つ黒!」


「馬鹿! 白に決まってるでしょ! 白でこそ、あのアメジストみたいな目が引き立つのよ!」


「黒!」


「白!」


睨み合う両者。

リズは何が起きたのかわからず、レベッカを見る。

彼女は大仰にため息をついて、ふたりの肩を叩いた。


「……ラベンダー」


『っ! それだ!』


わっと湧き起こる歓声。

誰もリズの戸惑いなど気にも留めていない。


「アルマ、あんたヘアセット得意でしょ? 任せていい?」


「えぇぇ……出来るかなぁ。手が震えちゃうよぉ」


「ルシールも手先が器用だし、二人でヘアセットを担当して」


「私は実家にあるジュエリーを持ってくるわ」


「そうね。ドレスがまだ決定してないから、とにかくジュエリーは集められるだけ集めておきましょう」


「知り合いにも声掛けてみる!」


「それから……メロディとニコラはメイクを担当。残りは今からドレスと小物を探しに行くよ」


九班の班長であるレベッカは、班員たちの特性を理解しており、流れるように担当を振り分けた。


「あの、レベッカ……?」


リズに名前を呼ばれ、レベッカの心臓が跳ね上がる。


「な、何!?」


「こんなことに巻き込んで、ごめんね」


「ば……っ! 馬鹿じゃない!? 謝るくらいなら、さっさと剣士なんか辞めたらいいのよ!」


「守護剣士だから辞められないんだけど……」


「そんなことはわかってる!」


レベッカは思いに反して声を荒げてしまう自分に嫌悪する。


(違う違う! そんな悲しそうな顔しないでよ! 貴女のその綺麗な顔が万が一魔物に傷付けられたらと思うと、正気じゃいられないから……だから剣士なんか辞めろって言ってるのよ!)


レベッカの恋愛対象は女性。と言うか、リズである。


「あぁ、あの髪の毛を堂々と触っていいんだぁ……♡」


「責任重大だわ」


アルマとルシールもーー


「リップはピンクが似合うかな?」


「夜だし、赤も映えていいんじゃない?」


メロディとニコラも、綺麗なリズを更に美しく飾り立てられるとあって、鼻息が荒い。


「リズと同じ班で魔物の討伐なんか出来ないけど、こう言うのなら大歓迎だわ」


リズと自分を比べてしまうから。

荒々しく剣を奮う自分をリズに見られたくないから。

とにかく同じ空間にいると緊張して、いつものパフォーマンスが保てないから。

リズに傷を付けたくなくて、彼女を守ることに専念してしまうからーー

だから女剣士たちは、誰もリズと班を組みたがらない。


男女混合の班を組まされた時は、男剣士が夜這いなどを企てるものだから、リズを守りたい女たちは大激怒。男女の間に修復不可能な亀裂が入った。


「ありがとう」


柔らかく笑うリズに、女たちは骨抜きにされる。


入隊当初は、入隊も守護剣士に選ばれたのも色仕掛けだと陰口を叩き、嫌がらせをする者もいた。

しかしそんなものは、リズの人となりを知ればすぐに消え去ったのだった。


だがリズは、未だに何故自分が避けられるのかをわかっておらず、当初の噂が尾を引いているのだと思い込んでいる。


「さぁ、貴族令嬢が泣いて悔しがるくらい、最高の作品にしてあげるわ!」







ーーそして夜。

女子寮の前で、リズのドレスがお披露目された。


背中が大胆に開いた、光沢のあるラベンダー色のイブニングドレスにシルクのグローブ。バッグとハイヒールは上品な輝きを放つシルバー。胸元と耳にはアクセサリーで華を添えた。長い髪も、髪の一本一本を計算したかのように綺麗に纏めてあげられ、薄く、しかし繊細な色合いでメイクも施されている。


「リズ先輩……やば……めっちゃ綺麗……」


呆然と立ち尽くすウィルに、リズは真っ赤な顔で俯いている。

セイルは煙草を咥えながら、リズを上から下までゆっくりと見る。


「上出来だ」


「嘘でしょ……こんな格好、恥ずかしすぎて耐えられない……」


「背中を丸めるな、胸を張れ」


「そんな事言ったって、そもそもこの靴じゃまともに立つ事もできないわ」


初めて履いたハイヒールに、リズの膝はがくがくと揺れている。

セイルは煙をゆっくりと吐き出す。


「社交界までその靴で過ごせ」


「無理だってば!」


「……はっ」


ただでさえ鋭い目を更に細め、リズを見下ろすセイル。


「何が無理だ? 言ってみろ」


「……やるから。目が怖い……」


「足を開くな」


「ぐっ……はい」


「ちょっと、セイル! あんた、言い方がきついんだよ!」


見兼ねたレベッカが庇うように前に出た。


「リズだってやりたくてやってるわけじゃないんだから、もう少し優しくしてやってもいいでしょ!?」


「俺もやりたくてやってるわけじゃないがな。それよりも、誰の言い方がきついって? 俺か? お前か?」


「っ」


自分の言い方がリズに誤解を生んでいる自覚はあるレベッカは、何も言い返せない。


「……威圧感がマフィアなのよ、あんた……」


「何か言ったか」


「何でもない!」


二人のやりとりを聞きながら、ウィルは近くに立っていた女の服の袖を小さく引っ張る。


「なぁ、セイル先輩て何者なの?」


「そこそこ名の知れた貿易商の孫よ。知らなかった?」


「貿易商の孫……?」


「お金持ちのおぼっちゃま。セイルは次男だから、家業は継がないみたいだけどね。父親もアレだし」


「アレって?」


「それも知らないのね。セイルの父親ってーー」


「おい」


セイルに睨まれて、女は慌てて口を閉ざした。


「今日はここまででいい。明日からはマナーを教えてやるから、死ぬ気で覚えろ」


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