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I'll  作者: ままはる
第二章
17/114

17.ロックウェル・バレー

⭐︎


 グリーンヒルから馬車で四日ほど内陸に向かって進むと、アトレストという街がある。温泉が湧き出ることで有名で、湯治を目的に人が集まる街だ。


 そこからさらに数時間進んだところにあるロックウェル・バレーは、自然美豊かな渓谷。遊歩道、登山道もきちんと整備されており、季節ごとに変わる景色を楽しめるとあって、観光客にも人気のスポットである。


 だが現在その道は封鎖され、一般人の立ち入りは禁止されている。魔物が出るーーそんな報告が頻繁に上がってくるようになったため、ウィルたち第三部隊一班が調査に派遣されたのだった。


「なんだか変ね」

「おかしい……」

「なんでだ?」


 リズ、ウィル、ラリィは、ほとんど同時にそう言った。


『……』


 三人は顔を見合わせる。


「ラリィからどうぞ」


 リズに促され、ラリィはひとつ頷いてから、ウィルが右手に握っている剣を指さした。


「なんでウィル、守護剣使わねーの?」

「俺かよ。……なんでって言われても……」


 ウィルが使っているのは、隊から支給された剣で、ラリィのものと同じである。


「別にいいだろ。勝手がよくわかんねぇから、まだ使いたくないんだよ」

「どんな剣なのか見たかったのに。いつ使う? 出したことある? ちょっと今出してみる?」

「うぜぇなぁ」


 ラリィを面倒くさそうにあしらうウィルに、リズは苦笑した。


「それじゃあ、ウィルは? 何がおかしいの?」

「この人ですよ」


 すかさずウィルはラリィを指さした。


「剣の使い方はメチャクチャだし、危なっかしいし、なんでこんな奴が剣士になれたんですか?」


 今しがた彼らが駆逐した魔物は、青白い光をまとった〈鬼火〉と呼ばれる、手のひらほどの大きさのものだ。臆病な性格なので襲いかかってくることは少ないが、近づきすぎると火を噴いて攻撃してくる。


 火事の原因にもなるので駆除することにしたのだが、ラリィはひとりで大騒ぎをしていた。動く上に的が小さいから、まず斬れない。反撃してきた火に逃げ回り、結局三匹いた鬼火を倒したのはリズとウィルの二人だった。


「だってこの人、まともに剣を握ったのは入隊してからだもの。外部受験だから練習生の訓練も受けていないし」


「そんなのでも試験通っちゃうんですか!?」


「通っちゃったんだよなぁ」


 あはは、と軽やかに笑うラリィ。


「聞いた話では、実技試験で現役の剣士にボコボコにされているのにもかかわらず、何度も立ち上がっていたらしいわ」


「肋骨が折れて大変だったんだぞ!」


「タフさで受かったってことですか……」


「ちなみにこの馬鹿、字の読み書きもできないから、筆記試験は別室で口頭で行ったのよ」


 ウィルもこの数日で薄々気づいていた。


「やっぱり正真正銘の馬鹿なんですね」

「そう。馬鹿なの」

「馬鹿なんだよなぁ、にゃはは」


 笑いながら自分でも認めるラリィ。


「んで、リズは? 何が『変』なんだ?」

「鬼火はこんな場所に出る魔物じゃないわ。死臭を好み、ウジや腐った人肉を食べるから、土葬式の墓地にいることが多いのだけれど」


 この美しい渓谷に墓地があるとは思えない。


「それに、弱っていたような気がする。やっぱりこんな場所じゃ食べ物がないんじゃないかしら」


 そう言われてみれば確かに、吐き出す火に勢いがなかったような気がする、と納得するウィルの視界の端に、何か動くものが映った。


「……アレも、こんな場所に住んでる魔物じゃないですよね」


 ━━〈魚人(シーマン)〉。鋭い牙を持った醜悪なヒラメに、地面を這う足が生えたような魔物である。


 それが川の浅瀬に一匹、いる。リズは片手でこめかみを押さえた。


「魚人の生息域は海。淡水では生きられないわ」


 これは一体どういうことだろうかと、リズは考える。いずれ海に辿り着く川だとしても、とてもじゃないが逆流してきたとは考えにくい。


「ラリィ、始末してきて」

「あいあいさー」


 ラリィが無防備に近づいていっても、魚人は反応しない。


(やっぱり、弱ってる……?)


「取り敢えずこの川に沿って調べてみましょうか。それぞれ倒した魔物の種類と数を地図に記入……ラリィは私かウィルに報告してちょうだい」

「了解です」

「ラジャー!」

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