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I'll  作者: ままはる
最終章
114/114

114.エピローグ

「あれ、おっさん。来てたの?」


 リズの病室に入るなり、彼女のベッドサイドの椅子に座ったライトを見てウィルが言った。

 ウィルは慣れない松葉杖をつきながら、ベッドの方へと歩いていく。


「リズ先輩だけお見舞いかよ」

「この後お前の様子も見に行こうと思っていたところだ」

「もう俺、退院だっつーの」


 ジト目のウィルに、ライトは苦笑する。

 ウィルの怪我――特に脚は、歩いて病院まで行ったことに医者が驚いたぐらいには重傷で、2日間の入院を余儀無くされた。


 それ以上に重傷だったのがリズ。折れた右腕は手術が必要で、1週間程度の入院となった。時間は掛かるが、また剣は握れるようになるということである。


「調子はどうだ?」

「いいように見えるかよ? どうせなら俺も、もうちょっと入院しておきたいんだけど。ここのナース可愛いし」

「お前という奴は……」


 ライトは眉間に皺を寄せ、苦笑いを浮かべているリズに視線を向ける。


「本当にいいのか? お前の負担が大きすぎるのでは無いか?」

「大丈夫ですよ」

「? 何の話ですか?」


 リズのベッドの端っこに腰掛け、首を傾げるウィル。


「セイルとゼンが異動するんだって」

「は!? どこに!?」

「第2部隊に上がるそうよ。本当は新入隊士が入る時期に上がる予定だったのだけど、弥月の件が片付くまでは、って引き延ばしていたらしいの」


 第2部隊に上がるということは、昇進である。


「ゼン先輩の場合はフォトがいるし、第2部隊の方が都合がいいかもしれないですけど……でも、それじゃあ俺らの班、どうなるんですか?」


「それを今、話し合っていたのだ。新入隊士が入って新しい班編成も既に組んであるので、どこかの班と合体させるか、暫くは3人のままでいくか……」


「私は3人でいいと思っているんだけどね。でも私は数ヶ月は前線に立てないし、その間はウィルとラリィには別の班と行動してもらう事になるけど」


 ウィルは露骨に嫌そうな表情を浮かべる。そもそもウィルが大人しく指示を聞くのはリズやゼンやセイルだからであり、他の隊士たちに対しては、例え先輩であってもリスペクトの気持ちはほとんど無い。


「俺はリズ先輩から離れる気は無いんで。一生リズ先輩の部下がいいんで」


「奇遇だな、ウィル。オレも一生リズの部下でいいと思ってたところだ」


 と、剥きたてのリンゴを片手に登場したのはラリィ。リンゴは可愛らしいウサギにアレンジされている。


「リンゴ剥いてきたぞ。他には? 何かする事あるか?」

「肩が凝ったわ。あ、それからその書類に必要事項記入しておいて。あとこれが洗濯物。おやつにケーキとオレンジジュース買ってきて」

「はいはーい」


 何故だか嬉しそうにリズの肩を揉み始めるラリィ。

 リズの右腕が治るまで代わりに働くことで、彼女の溜飲を下げようとしているのである。


「……まぁ確かに、この問題児たちを上手く手懐けられるのは、お前しかおらんな」


 楽しそうに喉の奥で笑いながら、ライトは立ち上がる。


「リズはとにかく、今は休みなさい。ウィルも脚が治るまでは事務作業に就くこと。ラリィは――」

「オレは?」

「今回の功績で、正式に守護剣士として認められるそうだ。また王と元帥との面会があるだろうから、敬語の練習をしておきなさい」

「げっ」


 ラリィとしては、守護剣士になると堅苦しい行事に参加しなければいけなくなるので、このままのらりくらりと逃げていたかったのだが。

 ライトは笑いながら、そのまま病室を後にした。


「守護剣士、ねぇ……」


 ウィルは自分の手に刻まれた紋章に視線を落としながら呟いた。


「『守護剣』に、まだ納得いってない?」

「……そりゃ、まぁ」


 全て受け入れて納得しているシュイ=メイやラグエルはともかく、記憶を消されたキリーと村雨を、今後も守護剣として使うことにはどうしたって納得がいかない。


「なんかさぁ、その、研究所? ってのには何かなかったのか? 守護剣の作り方のレシピみたいなの」

「そんなもん残ってるわけ――」


 ラリィの言葉にそう言いかけたウィルは、思わず言葉を飲み込んだ。


 本当に残っていないのだろうか。

 だとしたら焔真は、どうやってラグエルを作り出したのだろうか。


「無く……は、ない? いや、でも、また1ヶ月も掛けてあそこまで行くわけにも……」

「私、1日で行く方法知ってるわよ」

「は……?」


 微笑んで言ったリズの視線の先は、窓の外。そこにいたのは、灰色のネコだった。


「フェリナ……?」

「もう少し体が良くなったら、みんなで研究所に行ってみましょう?」

「何かヒントだけでも見つかるかもしれねーもんな!」


 ウィルは紋章の刻まれた手を握り、力強く頷いた。


「あ。そう言えば知ってた? 今期の練習生にアイツがいるらしいって!」

「アイツって?」

「ほら、あのー……グランチェスにいためっちゃ可愛い子の彼氏の――」


「ああ、蓮ちゃん? ……は? あいつ、練習生になったんですか!?」

「そうらしい。今度飯誘ってみようぜ」

「ラリィ先輩の目的は鈴の方じゃないんですか?」


「違うって! 彼氏のいる子に手は出さない……リズ、目線が冷たい。違うってば。オレは蓮に会いたいだけだって!」

「はいはい。わかったから、あんたはさっさとこの書類片付けて。ウィルも、フェリナが待ってるからもう行って」


「代わりに書類書くとは言ったけど、『書ける』とは言ってねーからな。ちゃんと教えてくれねーと書けないぞ!」

「面倒臭いわね……」

「じゃ、またお見舞い来ますね」


 ウィルは松葉杖を持って歩き出す。

 首元には、鎖に通した銀の指輪がきらりと光って揺れていた。

貴重なお時間を割いて私の拙い物語を読んでくださり、ありがとうございました!

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