表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I'll  作者: ままはる
最終章
108/114

108.トカゲ男

 その時、背後から空気が動く気配を感じてリズは大きく横に飛んだ。一瞬遅れて、彼女がいたその場所に大きな衝撃が落下してくる。


「鞭……!?」

「いや、尻尾……?」


 それは長くて太い、爬虫類の尻尾のようだった。月明かりを受けて、その皮膚はてらてらと緑銅色に光っている。


「やっぱり、女の方がいいなァ」


 声がして、リズは咄嗟に背後を振り返った。


(いつの間に……!? 足音がしなかった……!)


 そこにいたのは、一見リザードマンを彷彿とさせる男だった。

 四肢と、異様に長い尻尾はトカゲの様。しかし顔は人間を思わせる。ただし目は黒目しかなく、鼻は無い。口は耳まで裂けていた。


「合成獣か」

「あー、男は嫌いなんだ。固ぇし、筋ばっかりで美味くねぇ。血も臭くて不味いしな。おまけに喫煙者は最悪だァ」


 魔物の軽口に耳は貸さず、セイルはその尻尾を剣で切り落とした。


「おいおいおい! いきなり俺の自慢の尻尾に何してくれてんだ!?」


 魔物はセイルを睨み付ける。両手の鋭い爪を振り上げ、彼に襲い掛かる――かと思いきや、その裂けた口元を歪ませてニヤリと笑った。


「――なァんちゃって」


 刹那、斬り落とされた尻尾の断面から新たな尻尾が生えてきた。それはまるで蛇のようにうねり、リズの体に巻き付いた。


「しまっ……!?」


 完全に油断していた。

 両腕ごと締め付けられ、刀を振るうことも出来ない。


「リズ!」


 再度セイルが尻尾を斬り落とそうと剣を振り上げたが、魔物は尻尾にリズを捕らえたまま、地面を四つ這いになって走り出した。


「……っ!?」


 魔物は手足の吸盤を使って、訓練場の壁を駆け上がって行く。


「放……せ……っ!」

「いいよォ」


 ぱっと、尻尾の力を緩める魔物。途端にリズは空中に放り出され、真っ逆さまに落ちていく。


「なっ……」

「なんてな、なんてな! ジョーダン! 面白かった?」


 地面に激突する寸前で、尻尾がリズの足首に巻きつき、彼女の体を引き上げた。


「この――」


 リズは逆さ吊りのまま、刀を構える。


「そんなもん振り回しちゃァダメだよ」


 魔物は尻尾を振り回し、リズをまたしても空中に放つ。そして刀を尻尾の先で叩き落としてから、またリズの体に巻き付いた。

 セイルは玩具のように弄ばれるリズを見上げ、歯噛みする。


「くそっ! 降りて来い!」

「ヤーだよォ」


 訓練場の壁に張り付いたままでは、セイルには手出しが出来ない。


「俺は静かに食事を楽しむ主義なんだ。じゃあねェ」


 魔物はリズを捕らえたまま壁を移動し、更に木から木へ飛び移りながら城の方へと姿を消した。


「地面に降りて放しなさい!」

「あんたも女なら、もうちょっと可愛い声でも出してみろよ」


 魔物は走りながら尻尾に力を込めた。


「……ぅ……っ」

「ほらほら。骨が砕けちゃうよォ? 『きゃー! やめてー!』って言ってごらん?」

「この……変態……クソ野郎……!」


 魔物は高い城の城壁も軽々と超え、他に人や魔物の見当たらない中庭の一角へと降り立った。


「……いいねェ。強気な女は嫌いじゃない」


 魔物はリズを解放する。その瞬間、リズは刀を出現させると刀身を横に薙いだ。


「……っぶねぇ! なんだその刀ァ!? さっき叩き落としたのに!」


 魔物はスレスレで斬撃を躱し、手近な壁を登った。


「降りて――来いっ!」


 リズは刀を槍のようにして魔物に投擲する。

 まさか武器を投げるとは思っていなかった魔物は、慌てて壁を蹴って地面へと逃げた。刀は壁にぶつかり、乾いた音を立てて地面に転がり落ちる。


「馬ァ鹿! 武器を拾いに行くロスが――」

「無いわよ、そんなもの」


 守護剣は、離れていても念じれば所持者の元へと帰ってくる。

 再び刀を握ったリズは魔物の首を狙う。しかし刃が届くより速く、尻尾がリズの体を横から殴打した。


(あの尻尾……速い……!)


 すぐに体勢を立て直すが、顔を上げた時には魔物の姿はそこには無かった。


「!?」


 壁かと見上げた時には既に遅い。


「その刀、厄介だなァ」


 尻尾がリズの右腕に絡み付いた。

 そして。


「いい声で鳴けよ」


 ――ボキンッ。


「っっぅあぁ……っっ!!」


 リズの右腕が歪な音を立て、あらぬ方向へと曲がった。

 刀は力無く手のひらから滑り落ちる。


「ぁ……うぅ……!」

「いいねぇ。美味そうな声だ」

「……こ……の……」


 リズは耐え難い激痛を奥歯で噛み殺し、左手で刀を拾う。

 利き腕を折られても、片時も魔物から視線を外そうとしないリズに、魔物は少しだけひやりとした。


「……はっ。まだヤる? その生意気な目が恐怖に歪むまで、身体中の骨を折ってやるよ。次は脚を――」

「私のリズにぃぃ、手を出すなぁぁ!!」

「……な……」


 リズを呼ぶ野太い声と同時に、背後から魔物の背中に剣が突き立てられた。

 目を見開いた魔物の尻尾が動く。だが今度こそ、尻尾が届くその前に、リズの左手に握った刀が魔物の首を斬り落とした。


「は……っ。はぁ……っ!」


 魔物の首が血を噴き、地面に転がり落ちるのを確認してから、リズは地面に膝を着く。


「リズ! 大丈夫か!? なんという……」

「……ブラッド……フォード隊長……」


 魔物を背後から刺したのは、第1部隊長ブラッドフォードだった。彼は青ざめた顔でリズの右腕に視線を落とす。


「腕を折られたのか……すぐに手当てを――」

「助けていただいて、ありがとう……ございました。でも……」


 リズは深く頭を下げる。そしてその角度で、目だけを上げてブラッドフォードを睨み付けた。


「私は、あんたのものじゃない」

「あ……いや、それは……」

「次はセクハラで訴えます。本気で」

「セ、セク……!?」


 呆然と立ち尽くすブラッドフォードに一礼すると、リズは右腕をだらりと垂らしたまま歩き出した。


(せっかくあいつが、穏便に済ませてくれたのに……)


「ほんっと、馬鹿……」


 赦さないと、意地を張っている自分自身が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ