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I'll  作者: ままはる
最終章
105/114

105.棺

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 ラリィの死亡が告げられたのは、それから3時間後の事だった。

 胸の短剣は急所に届いており、医務室に運ばれた時には既に手遅れだったと、苦い顔でライトは呟いた。


「待ってよ……意味が、わからない……」


 医務室の前で、リズは震える声でライトに問う。


「誰が? 誰が……死んだって……?」

「リズ……」

「ラリィが? あのラリィが、死んだって仰っているんですか……?」

「……」


「そんなわけ……そんなわけない! ラリィに会わせてください!」

「リズ。今はまだ会わせてやれん。綺麗にしてやらないと……」

「そんなの、どうだっていい!」


 医務室に入ろうとするリズを、ライトが阻む。それでも彼を押し退けようとして、後ろからセイルに羽交締めにされた。


「やめろ、リズ!」

「なんで!? あいつの心臓なんか、殴ればまた動くわよ!」

「リズ!」

「だって――っ!」


 リズは医務室の扉を睨みつけた。

 そして拳を扉に思い切り叩きつけると、リズはその場を離れて行った。

 セイルは額を押え、長い沈黙を落とす。


「……ゼンと話がしたい」

「ゼンも……まだ混乱している。落ち着くまで待ってやれ」

「くそっ……!」


 セイルは、廊下の椅子に座ったまま俯いているウィルに視線を向けた。

 ようやくリムの村の一件から立ち直っていたのに、また堕とされた。しかも1番最悪な方法で。

 セイルには、ウィルにかけてやる言葉は見つからない。セイル自身にも、そんな余裕は無い。


「本当に、死んだのか」


 ライトは短く頷く。

 セイルは医務室の扉をじっと見つめた後、静かに歩き出した。


「……ウィル。お前も部屋に戻れ」


 ウィルの肩に触れるライト。

 ウィルは床の一点を見つめたまま、掠れた声を絞り出す。


「嫌だ」

「ウィル――」

「あんな部屋、帰れねぇよ……」


 部屋の中には、ラリィの物が溢れている。なのに、そこにはラリィがいない。


「すげぇ疫病神だな、俺」


 そう言ってウィルは自嘲する。


「次はセイル先輩かも。ゼン先輩や、リズ先輩……やっぱりみんな、殺される」

「そんな事は……」

「あんな化け物、誰が止められるって言うんだよ……」


 大丈夫だと、そう言って笑っていたラリィはもういない。


「ウィル。とにかく今は休みなさい。それから今後の事を、みんなで考えよう」

「……」


 ウィルは鉛のような体で立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。


(今後の事を考える……?)


 寮とは反対の方向へ歩きながら、ぼんやりと思う。

 今後やるべき事なんて、一つしかないのに。


⭐︎


 ラリィの入った棺は城の一角にある教会へと運ばれ、葬儀は明後日の朝、執り行われることになった。


 棺の側には、まるで寄り添うようにラグエルの槍が横たわっている。あの場所から、剣士たちが2人がかりで運んできたのだ。

 あれからラグエルは姿を現さず、沈黙を貫いている。


 ゼンは礼拝堂の椅子に腰を下ろし、祭壇の真ん中に安置された棺に視線を向けていた。もう半日以上、そこから動いていない。1度家に帰ってフォトにランク家へ行くよう伝えてから、ずっとここで棺を見つめているのだ。


 礼拝堂へは、ひっきりなしに噂を聞きつけた人々が訪れていた。その誰もが棺を前に涙を流し、怒り、悲しんでいた。

 ジーナから報せを受けたヴィンスとレオもやって来て、泣き喚いてようやく先程帰ったところである。


「……」


 ゼンは深い息を吐いて、天井を見上げた。

 酷い気分である。


「……馬鹿野郎……」


 ぽつりと呟いたところに、足音が近付いて来た。

 振り返らなくても、足音だけで誰かはわかる。


「……リズと、ウィルは……大丈夫か?」

「知るか」


 ゼンの後ろに座ったセイルは、吐き捨てるように答えた。


「お前はいつまで、ここで棺を眺めているつもりだ」

「……わからない」


 ゼンは無表情だ。彼が今、何を想って何を考えているのか、セイルにはわからない。


「妹が待ってる。帰ってやれ」

「今は……ここに、いたい」

「お前がここにいて、何になる?」

「……」


 ゼンは自分の手の中へ視線を落とし、今の自分に出来ることは何だろうかと考える。

 そうして暫く考えを巡らせた後、ぼそりと呟いた。


「……次は、誰だろう……」

「弥月に殺されるのは、か?」


 セイルは小さく笑う。


「俺なら、全員殺す。俺もお前も、リズも殺して最後にウィル。そして指輪を奪う」

「全員……」

「大人しく殺されるつもりはない。こいつと違ってな」


 立ち上がり、教会の出口へと向かうセイル。


「リズが怒るのも当然だ」


 入れ違いにリズが教会の中へと入って来た。

 リズは険しい顔で棺の前まで進み、そして右足を大きく振り上げて棺を蹴り飛ばす。


「リズ……」

「時間を置いて、考えた。たくさん考えた……けど……っ! やっぱりどうしたって、赦せない!」


 もう一度棺を蹴ろうとしたので、ゼンは彼女の腕を引いて止めた。


「放して! こんな奴、殺してやる!」

「言っていることが、無茶苦茶だ……」

「何度私を裏切れば気が済むのよ!? 私に赦されるまで諦めないんじゃなかったの!?」


 本気で棺を破壊しそうで、ゼンはリズを祭壇から引き離す。

 リズはぼろぼろと涙をこぼしながら、棺に向かって手を伸ばした。


「なんで……」


 伸ばした手が、途中で力無く落ちる。膝の力も抜けて、ゼンがリズを支えた。


「なんでまた、私を独りにするのよ……」


 リズはゼンの肩に顔を埋め、声を殺して嗚咽を漏らす。

 置いていかれるのは、いつも自分の方だ――


「赦さないから……! 金輪際、赦さないから……っ!」

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