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I'll  作者: ままはる
第九章
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短剣

「おい、弥月! どっかで見てんだろ!? いくらこいつらを寄越したって、オレには効かねぇぞ!」


 ラリィは霧の向こうへと叫び声を上げた。


「このクソ野郎は何度だって殺せるし、偽物のリディアだって斬れる! 本物のリディアがいるのは、オレの胸の中だからな!」

「――ほんっとに、つまんないなぁ」


 突如、弥月の声がした。それと同時に霧が晴れ、弥月の姿も露わとなる。


「弥月!」

「やぁ、ウィル。思ったよりも元気そうだね」


 ウィルとラリィはそれぞれ武器を構える。

 弥月はニコリと微笑むと、残っていたリディアと猫背の男のドッペルゲンガーたちに向かって指を鳴らした。その瞬間、彼らの頭は弥月の力に撃ち抜かれ、絶命した。


「張り切って一杯集めてきたのに、何の役にも立たなかったよ」

「そりゃご苦労さんだったな」

「スラム街で事件の再現をしてみても食いついて来ないし、ほんっっとにつまんない」


 大仰にため息をつく弥月に、ウィルは斬りかかる。


「黙れ! てめぇだけは許さねぇ!」

「嫌だなぁ、ウィル。リムの村でのこと、もう忘れちゃったの? 君なんかがいくら頑張ってみても、僕は指先だけで君たちを殺せるんだよ?」


 弥月は右手の人差し指をリズに向けた。そしてドッペルゲンガーたちにしたように、その頭を撃ち抜こうとするが――


「【baku】」


 ゼンの魔法がそれを阻む。

 弥月は目の前に出現した爆炎を、大きく後ろに飛んで躱した。

 すかさずウィルが斬撃を繰り出す。しかし弥月は薄く笑みを浮かべたまま、今度は左手をウィルに向けた。


「ウィル。僕からのプレゼントだよ」


 弥月の手から、黒い蔦が生えた。意思を持った影のようにうねりながら、ウィルに向かってそれは伸びてくる。


「なんだよ、これ――!?」


 剣を振るう度、蔦は断ち切れる。だが次の瞬間には同じ場所からまた芽吹き、その数を増やした。

 無数の手はウィルの四肢を掴んで絡みつき、あっという間に彼の自由を奪った。


「ウィル!」


 ラリィが踏み出す。その腕を――リズが掴んだ。


「リズ! ウィルが……」

「そうね」


 リズは穏やかに微笑んだまま、ラリィを見つめる。


「ちゃんと、見せてあげないと」


 リズの手が、ラリィの腰の短剣に触れた。

 そして――


「あなたの最期を」


 鈍い音がした。

 短剣が真っ直ぐに、ラリィの胸に沈み込む。


「……リ、ズ……?」


 名前を呼んだラリィの声は、途中で掠れた。


「っ! ラリィ……!?」


 ゼンが振り返る。

 リズは短剣を突き刺したまま、目を見開いた。そして何かを発しようと口を開きかけた、その瞬間――


 一閃。


 ゼンの剣が、リズの胴を両断した。

 血を噴き、裂けた体は崩れ落ちる。地面に落ちる直前、それは人の形を失いドッペルゲンガーの姿へと変じて動かなくなった。


「何、だ……?」


 ウィルの喉から、乾いた声が漏れる。


「ラリィ先輩……?」


 ラリィは胸に刺さった短剣を押さえながら、ゆっくりと膝を折る。ラグエルの槍が手から滑り落ち、地面で重たい音を立てた。


「ラリィ! おい……!」


 ゼンが駆け寄り、その身体に触れる。

 赤いものが、止めどなく溢れていた。服を、指を、地面を染め、色は瞬く間に広がっていく。


「え……先輩……? ラリィ先輩……? 先輩!」


 ウィルは渾身の力で蔦を引きちぎろうともがいた。だが絡みつく影は、びくともしない。


「ふざけんな……! 先輩!? おい、ラリィ!!」

「ウィ……ル……」


 ラリィは目だけを動かして、ウィルを見た。


「喋るな……!」


 ゼンは短剣の柄を押さえ、必死に周囲を見渡す。しかし応える者は誰もいない。


「……っ……」


 続くはずだったラリィの声は、喉の奥で塞がれ言葉にならない。

 身体が小さく跳ね、そして――力が抜ける。

 その様子を、弥月は満足そうな笑みを浮かべて眺めていた。


「あの血の量じゃあ、助からないね」


 彼はウィルの耳元で、楽しげに囁く。


「お誕生日、おめでとう」


 そして弥月の姿は消えた。同時に、ウィルを縛っていた蔦も霧散する。


「ラ……ラリィ先輩!!」

「勤務医と部隊長を呼べ……!」

「あ、あ……でも……」

「走れ!」


 ゼンの声に、ウィルは手足を投げ出して走り出した。

 頭の中は真っ白だ。

 何が起きたのか、どこに走ればいいのか、何一つ整理できないまま、ただ走る。


 次に気付いた時には、ラリィは担架に乗せられていた。ゼンと勤務医、そしてライトに運ばれている。


 ラリィは――ぴくりとも動かなかった。


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