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I'll  作者: ままはる
第九章
103/114

103.霧の中

「リディア!」

「なんか……霧が濃くなってませんか……?」

「……だな」


 いつの間にか視界が霧で覆われていて、リディアを完全に見失った。


「先輩、帰りましょう! 深追いすることないですよ!」

「ここでオレが追わなくても、絶対にまた来る。今日までガン無視してきたからな。向こうもシビレを切らしてるはずだ」

「だったら、せめてリズ先輩たちに報せ――」


 その時、唐突にウィルの腕を誰かが掴んだ。反射的に振り解き、間合いを取る。


「……悪い。驚かせたか」

「ゼン先輩?」

「私もいるわよ」


 リズの声だ。


「2人とも、こんな時間になんで……?」

「昨日の後片付け……残っていたから、早く来たのだが……」

「私はランニング中だったのよ」


 答えるゼンとリズ。

 それからリズは、睨むようにラリィを見た。


「さっきの歌声、もしかして……?」

「リディアだ」

「……やっぱり」


 こめかみを押さえながら、リズはため息をつく。


「この霧も、弥月の力ね」

「多分――」

「……あぁぁぁ!」


 リディアの悲鳴が聞こえた。

 弾けるように、ラリィはその声の方へと走り出す。


「……たい……痛いよ……」


 霧の中に、リディアを見つけた。

 腹から血を流し、地面に横たわるリディア。そして少女の前に立っているのは、鈍色の包丁を手にした猫背の男――

 ラリィはほとんど無意識に、ラグエルの槍を構えていた。


「ラリィ!」

「人間じゃないなら殺していいだろ!?」


 リズの制止も聞かず、ラリィは男に斬りかかる。

 本物の猫背の男は死んだ。リディアも死んだ。だったら今目の前にいるこの2人は、弥月の作った紛い物だ。


「痛いよぉ……」

「ラリィ。また、守ってくれなかったね」

「大好き」

「ママ……死にたくないよ……」


 霧の四方八方から、リディアの声だけが聞こえてくる。

 ウィルもヴァルキリーを握り、構えた。


「ホント、悪趣味だわ……」

「……」


 リズとゼンも、周囲の気配に集中する。


「あーそーぼー」


 猫背の男はくるくると踊るように、ラリィの斬撃を躱す。

 霧で視界が悪く、なかなか男の動きを捉えられない。


「あの子の目の前で、また僕を殺すの?」

「魔物はカウントしねぇんだよ!」


 ラリィの目に殺気が篭る。


「君はそうかもしれないねぇ。でも、あの子はどうかなぁ? 次こそ赦して貰えなくなるかもねぇ?」

「っっ!」


 僅かに動きが鈍るラリィの足元に、リディアが1人、2人と集まって来た。


「ラリィ」

「大好きよ、ラリィ」

「リディアを守って」


 リディアのうちのひとりが、ラリィの腰の短剣に触れた。


「リディア……」


 ラリィは強く目を閉じる。

 そして――


「目を閉じていろ」


 ゼンの声と同時に、魔法の落雷がリディアを直撃した。

 ラリィの足元にいた3人のリディアは、毛の無い猿に似た生き物に姿を変えて地面に倒れた。


「躊躇っていると、死ぬぞ」

「……悪ぃ」


 ラリィは小さく息を吐き、背後にいたリディアを槍で貫く。


「ドッペルゲンガーね」

「人間に変身するっていう魔物ですね」


 霧の中には、まだリディアの姿をしたドッペルゲンガーがいる。しかし魔物の正体がハッキリすれば、ウィルには斬る躊躇いは無い。


「ラリィ先輩! 俺は斬りますからね!」

「胸糞悪ぃけど……仕方ねぇな!」

「君の遊び相手は僕だよぉ」


 霧の中から、猫背の男が包丁を構えて飛び出して来た。

 ラリィはその刃をすれすれで躱し、男の腹に膝蹴りを食らわせる。


「てめぇは黙ってろ!」


 そして槍の穂先が、男の首を刎ねた。

 男もまた、ドッペルゲンガーの姿へと戻って地面に転がる。

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