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08 きらきらお守り誰のもの?


 

「えー? ぼく以外の人喰いー?」


 クニアキに話しかけられ、クロはダンボール箱を手にしたまま振り向く。

 背後では、ナナミが「おーらぁい! おーらぁい!」と白い手たちに指示を出し、大きめの荷物を運び入れていた。


「ああ。あのコンってヤツもそうなのか?」

「コンはちがうよー。えらい龍で、むしろ“人喰い”を許さないって言ってる方ー! ぼくに人を飼育しろーって言って、あの本貸してくれたのもコンなんだよ」

「でも、許さないって言ってる割には、一年経ったら喰って良いって言ったのもアイツだろ? なんかおかしくないか?」

「それはそうだけどー、まあいいかなって!」

「もっと深く考えろよ……」


 ナナミがクロに対して言っていたことは、あながち間違いではないかもしれない。

 クニアキは、そう思い始めていた。


「それにねー、ほら。コンはこれもくれたんだよー」


 そう言って、クロがコンビニ袋から何かを取り出す。

 それはミサンガのような鮮やかな編み紐で、中心には薄く透明な楕円形のものが編み込まれていた。

 金色と銀色のものが一枚ずつ。


「なんかあった時のために、これつけておいてねー!」

「なんだこの薄いの……鱗、か?」

「うん、お守り! 鱗はぼくと、コンの! ぼくと繋がってるから、前みたいに二人になにかあったらすぐわかるよ。ぼくがすぐ行けない時は、コンが見てくれるから! これはくにくにのでー、こっちはナナちゃんに渡しておいてー」


 クロから二つのお守りを受け取る。

 鱗は思ったよりも固く、二つのお守りがぶつかった時に、まるで金属のようなカチリとした音を出した。


 だが、そこでクニアキは思う。


 ――もしかしたらこれは、自分たちを守るためのものではなく、逃げ出さないよう“監視”するためのものではないか、と。


 考えた末、ナナミ用に渡されたものも含めて、二つのお守りを自分のポケットへ深く深くしまい込んだ。


 



 今日は、クニアキとナナミの部屋移動の日だった。


 ワンルームから成長して2DK(すべて畳の和室だった)となり、それぞれの部屋が生まれたさみだれ荘。

 せっかくだからと、ナナミが色々と家具を買い足したのだ。


 ナナミから『プレゼント』と称して、クニアキは和室に似合うちゃぶ台と座椅子と、ちょっとしたタンスを。クロはいわゆる「人をダメにするビーズクッション」を買ってもらっていた。

 

 鮮やかな赤いカバーのそれを、クロはいたく気に入り、ぽすっぽすっと手を差し込んで遊んでいる。


「わー、すごいすごい! これ、ちょっとあれに似てるよー! ニンゲンの肺をさわったときの感じー! あはは、でっかい肺だー!」


 クニアキは何も聞かなかったことにした。


「ナナミ、本当に良いのかよ。また俺の分まで」

「はい! 今までの残業代がいーっぱい入りましたし、それに、お二人には命も救ってもらいましたしっ!」

「命なんて、そんな大袈裟な……」


 そこまで言いかけて、ハッと気付く。

 ――もしもナナミが一人の時に、あの男と会っていたら?


 あの男の、普通じゃない目を思い出す。

 理性を失った、『自分はどうなってもいいが、こいつだけは』――そんな凶暴な色がにじんだ目。


 あの時はたまたまクロが居て助けられたが、もしクニアキだけだったら、彼自身だって無事では済まなかったはずだ。


「(悔しいが、あんなの俺じゃ勝てないな……)」


 悩んだ末、クニアキはポケットからあのお守りを取り出した。


「……おい、ナナミ、これ」

「わあっ、なんですかこれ!? 綺麗ですね~」

「お守りだってさ。クロがつけてろってよ。これがありゃ、こないだみたいに危なくなったらすぐ助けに来れるんだと」

「へえ~! ありがとうございますー!」


 手首にそれを取り付け、「きれーい!」と眺めるナナミを複雑な面持ちで見つめた後、 クニアキも自身のお守りをつけた。


 

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