08 きらきらお守り誰のもの?
「えー? ぼく以外の人喰いー?」
クニアキに話しかけられ、クロはダンボール箱を手にしたまま振り向く。
背後では、ナナミが「おーらぁい! おーらぁい!」と白い手たちに指示を出し、大きめの荷物を運び入れていた。
「ああ。あのコンってヤツもそうなのか?」
「コンはちがうよー。えらい龍で、むしろ“人喰い”を許さないって言ってる方ー! ぼくに人を飼育しろーって言って、あの本貸してくれたのもコンなんだよ」
「でも、許さないって言ってる割には、一年経ったら喰って良いって言ったのもアイツだろ? なんかおかしくないか?」
「それはそうだけどー、まあいいかなって!」
「もっと深く考えろよ……」
ナナミがクロに対して言っていたことは、あながち間違いではないかもしれない。
クニアキは、そう思い始めていた。
「それにねー、ほら。コンはこれもくれたんだよー」
そう言って、クロがコンビニ袋から何かを取り出す。
それはミサンガのような鮮やかな編み紐で、中心には薄く透明な楕円形のものが編み込まれていた。
金色と銀色のものが一枚ずつ。
「なんかあった時のために、これつけておいてねー!」
「なんだこの薄いの……鱗、か?」
「うん、お守り! 鱗はぼくと、コンの! ぼくと繋がってるから、前みたいに二人になにかあったらすぐわかるよ。ぼくがすぐ行けない時は、コンが見てくれるから! これはくにくにのでー、こっちはナナちゃんに渡しておいてー」
クロから二つのお守りを受け取る。
鱗は思ったよりも固く、二つのお守りがぶつかった時に、まるで金属のようなカチリとした音を出した。
だが、そこでクニアキは思う。
――もしかしたらこれは、自分たちを守るためのものではなく、逃げ出さないよう“監視”するためのものではないか、と。
考えた末、ナナミ用に渡されたものも含めて、二つのお守りを自分のポケットへ深く深くしまい込んだ。
◇
今日は、クニアキとナナミの部屋移動の日だった。
ワンルームから成長して2DK(すべて畳の和室だった)となり、それぞれの部屋が生まれたさみだれ荘。
せっかくだからと、ナナミが色々と家具を買い足したのだ。
ナナミから『プレゼント』と称して、クニアキは和室に似合うちゃぶ台と座椅子と、ちょっとしたタンスを。クロはいわゆる「人をダメにするビーズクッション」を買ってもらっていた。
鮮やかな赤いカバーのそれを、クロはいたく気に入り、ぽすっぽすっと手を差し込んで遊んでいる。
「わー、すごいすごい! これ、ちょっとあれに似てるよー! ニンゲンの肺をさわったときの感じー! あはは、でっかい肺だー!」
クニアキは何も聞かなかったことにした。
「ナナミ、本当に良いのかよ。また俺の分まで」
「はい! 今までの残業代がいーっぱい入りましたし、それに、お二人には命も救ってもらいましたしっ!」
「命なんて、そんな大袈裟な……」
そこまで言いかけて、ハッと気付く。
――もしもナナミが一人の時に、あの男と会っていたら?
あの男の、普通じゃない目を思い出す。
理性を失った、『自分はどうなってもいいが、こいつだけは』――そんな凶暴な色がにじんだ目。
あの時はたまたまクロが居て助けられたが、もしクニアキだけだったら、彼自身だって無事では済まなかったはずだ。
「(悔しいが、あんなの俺じゃ勝てないな……)」
悩んだ末、クニアキはポケットからあのお守りを取り出した。
「……おい、ナナミ、これ」
「わあっ、なんですかこれ!? 綺麗ですね~」
「お守りだってさ。クロがつけてろってよ。これがありゃ、こないだみたいに危なくなったらすぐ助けに来れるんだと」
「へえ~! ありがとうございますー!」
手首にそれを取り付け、「きれーい!」と眺めるナナミを複雑な面持ちで見つめた後、 クニアキも自身のお守りをつけた。




