02 おにぎり
翌朝、クニアキは異様な重さで目を覚ました。
それもその筈で、彼の上では、クロが逆さまになって豪快に寝ていた。
「……おい……重いんだよお前! 俺を布団にすんな!」
「んー……おはよー……くにくにぃ……」
「誰がくにくにだ! 起きろ! 退け!」
クロをどけ、ようやくまともに身体を起こす。
「……はぁ……昨日のアレ、夢じゃなかったのか……」
見上げた天井には、確かに昨夜も見た木材の節。
雨に濡れない、子供のような管理人。
外見と全く違う家。
どこか不思議なあの体験は、夢のようでいて、夢じゃなかった。
不思議と言えば……あんなにびしょ濡れだった服も、このアパートに入る前には乾いていた気がする。
――いや、恐らく、クロに腕を捕まれた時には、既に。
「(何者なんだ、コイツ……?)」
そのクロはと言うと、部屋の隅で、まるで猫のように欠伸をしながら床を転がっている。
そしてひとしきり体を伸ばした後、クニアキを見るとにぱっと笑った。
「おー、ちゃんと起きれたんだー、えらいねー」
よしよし、と頭を撫でようとするクロの手を、クニアキは退けた。
「さてとー。朝ごはんつくるよー! たぶんできるはず!」
「たぶんってなんだ、たぶんって……」
呆れながらも、コンロの前で卵を割りはじめるクロの姿を眺めていると、ちょっとだけ、ほっとするような感じがした。
「なぁ」
「なーにー?」
「連れてきてくれたのはありがてぇけどよ……俺、家賃、払えねぇぞ。それに、食費も……」
「知ってるよー」
「へ?」
「お金なんて、クニアキが働けるようになったらくれればいいしー。今は何も気にしないでここに居なよー」
「でーきたよー!」とクロが持ってきたのは、おにぎりと卵焼きだった。
クニアキの目頭が熱くなったのは、それらから立つほかほかな湯気のせいだけではないだろう。
「……どこまで知ってんだよ、俺の事」
「だいたい?」
クニアキは「へっ」と笑うと、やや乱暴におにぎりを口に入れる。
「――しょっっっっぱ!!!」
「ありゃりゃ、間違えちゃったかー」
悶絶するクニアキを前に、クロはぺろりと舌を出した。