3.思わぬ収穫と、視線。
めっちゃ書き貯めて(当社比)頑張ってます。
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「あっはははははははははははははははは!!」
「そんなに笑わないでって!? 剣術なんて、修めてないんだからさ!!」
『おいおい。それはせめて、俺を振ってから言ってくれよ』
「ぐ、ぐぬぅ……!」
――稽古一日目を終えて。
帰路に就いた僕たちであったが、ベルの大笑いは一向に収まりそうにない。その原因というのも、巨大なハエを前にした自分の対応だった。
アヴィロスも呆れたように言っているが、理由は考えるまでもない。
だって、
「さすがに、あそこまで逃げ回るとは思わなかった! ある意味、天才!!」
「……………………」
徹頭徹尾、僕はハエからの逃走を選択したのだから。
思った以上の速度で迫ってくる相手から、死に物狂いで逃げ続けた。アヴィロスの怒りの声と、ベルの笑い声がまだ耳から離れてくれない。
そして、いまだにイジられるので恥ずかしくて仕方なかった。
頬が熱くなるのを隠していると、ふとベルが涙を拭いながらこう言う。
「はー……でも、身のこなしについては凄かったわよ」
「それって、もしかして励ましてるの?」
「違うわ。ここからは、真剣な話」
こちらがヘソを曲げたと理解したのか、少女は咳払いを一つして頷いた。
次いで、真剣な声色になってアヴィロスにも意見を求める。
「アヴィロス。アンタから見て、アシュトの身体能力はどうだったの?」
『あー、そうだな。正直なところ、俊敏性についてはビビったな』
「俊敏性……?」
魔剣も同意したので、さすがに茶化しているわけではなさそうだ。
僕は首を傾げつつ二人の言葉に、少しだけ耳を傾ける。するとアヴィロスは今までのバカにしたような口調から一転し、大真面目に僕の分析をし始めるのだった。
『アシュト。お前自身は気付いてないだろうが、身体能力は相当なものを持ってるぞ。あの使い魔の攻撃を回避する俊敏性もそうだけど、長時間を同じ強度で走り続ける心肺機能も素晴らしい』
「あ、え……うん? そ、そうなの?」
『俺はベル様以外、誰の機嫌も取らねぇよ』
彼はそう言うと、しかし釘を刺すようにこう語る。
『もっとも、逃げてるだけだったら宝の持ち腐れだがな』
「そ、それはそうです……はい」
さすがに言い返せなかった。
僕はぐっと感情を呑み込んで、素直に同意する。すると、
『だから、慣れるまでは俺に任せな』
「……アヴィロスに、任せる?」
『おうよ』
彼の言葉に、首を傾げてしまった。
そんなこちらを見て、補足してくれたのはベル。
「アヴィロスには、所有者の動きを操る呪いも備えてあるのよ。本来は所持した奴を傀儡にするためだけど、それだって物は使いようね」
「なるほど……?」
「それに結局のところ、手にした者の実力以上は発揮できない。だったら最初のうちは、素直にそいつの力に頼っておきなさい」
『おう! ドーンと任せとけ!』
少女の言葉に、アヴィロスも軽い調子でそう言った。
要するに僕はひとまず、身体を貸す形になる、ということだろうか。しばらくは鍛錬に励むとして、それが終わるまでは魔剣に身を委ねる、と。
そう考えたら少しは気が楽だけど、ただ――。
「い、いいのかな。それで……」
どこか、情けない気持ちはある。
僕だって曲がりなりにも、冒険者の端くれになったのだ。
それだというのに、不慣れとはいえおんぶにだっこ、というのは違わないか。そんなふうに悩んでいると、ふいにベルが背中を叩いてきた。
「暗い顔してないで、今日も食べて飲むわよ! アンタの奢りで!」
「きょ、今日も……!? え、昨日のあれってまさか――」
「現世に戻ったばかりのアタシが、金を持ってるわけないでしょ?」
「………………」
――僕はこの時、心の底から思った。
課題は色々あるけれど、なるべく早く食い扶持を稼げるようにならなければ、と。
◆
「邪な空気を感じて、探ってみたが。……まさか、あれは?」
決意を固めるアシュトとベル、アヴィロスの一行。
そんな彼らの背後をつけ、不審そうに様子をうかがう者がいた。神官服に袖を通した男性は、難しい表情を浮かべて二人と一本の行方を眺める。
そして眉間に皺を寄せつつ、静かにこう口にするのだった。
「邪悪であるならば、いかなる者であっても放置はできない」
神官服の男性は、そう呟くと姿を消す。
アシュトたちはどうやら、厄介な相手に目をつけられたようだった。
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