2.魔剣アヴィロスと、稽古の始まり。
「まったく、気にする必要ないわよ。アンタなんて使い魔と一緒なんだから」
「そ、そうですか……」
結局あの後、僕は王都の外周を三周してきた。
距離にして三十キロメートルはあったため、ベルと合流するころにはヘトヘト。せっかくの清々しい朝が台無しといっては何だが、とかく散々な目に遭ったのは確かだった。
しかも当の少女は、このような反応で意に介さない。
だが彼女が良くとも僕が良くないというか、他意はないけど許されない気がした。
「さて、と。ひとっ走りして、身体も十分にほぐれてるでしょ?」
「正直、疲れ切って腕も上がりません」
「はいはい、聞こえない。とりあえず、これを受け取りなさい」
「え、この剣はいったい……?」
なんて僕の気持ちを知らず、ベルは何もない場所から剣を取り出す。
手渡されて素直に受け取ったのだけれど、柄などはずいぶんと古びているものだった。しかし刀身の部分に限っては、刃こぼれ一つもなく美しいまま。思わず見とれてしまう輝きだ。
そんなこちらの心を読んだかのように、悪魔の少女は悪戯に笑う。
「どう? 凄いでしょ、それ」
「うん、凄い。素人目で見ても、業物だって分かるよ」
「それはそうよ! だって、それは――」
そして、しれっとこう言うのだった。
「かつてアタシが創り上げた魔剣『アヴィロス』なんだからね!」
「な、それって……!?」
僕は彼女の言葉に思わず吹き出す。
何故ならその名前は、歴史学に疎い自分でさえ知る悪魔の剣だったのだから。
――アヴィロス。
それはかつて、名高い悪魔の女王によって生み出された邪悪なる剣。
手にした者に絶大な力を与え、かつ七つまでの願いを叶えるとされていた。しかし願いを使い果たすと、使用者の魂を喰らい、己が魔力にするという。喰らわれた魂は未来永劫、解放されることはない。
そんなものを軽く渡してくるあたり、この少女は少しおかしい。
「大丈夫よ。願いなんてしなければ、喰われることないんだから」
「いや、そうは言っても分不相応だよ。別の剣が良い」
「あ、手にした瞬間から外せなくなるわよ?」
「呪いの装備ですよね、それ!?」
こっちに選択の余地、ないじゃないか!!
僕がさすがに憤慨していると、思わぬところから声が聞こえてきた。
『なんだよ。新しい持ち主は、とんだヘタレ野郎かァ?』
「何、この声……?」
『俺だよ俺、お前が持ってるアヴィロスだよ』
「……け、剣が喋ったぁ!?」
低く、脳に直接響くようなそれの出どころ。
手にしたアヴィロスが僕に語り掛けていると理解し、思わず悲鳴を上げてしまった。するとアヴィロスはどこか苛立った様子で、このように続ける。
『あーあー! ガタガタうるせぇな!? 良いだろ、喋るくらい!!』
「よ、良くない! 正直なところ、物凄く薄気味悪い!!」
『てめぇ、案外に口が悪いな!?』
それに返すと、彼は心外だといわんばかりに応戦してきた。
こちらも言い過ぎたと思ったりしたが――いや。やっぱりどう考えても、気味が悪かった。なので撤回せずにいると、アヴィロスはあるはずのない舌を打ってベルに声をかける。
『ベル様よぉ……勘弁してほしいぜ』
「我慢しなさい、アヴィ? これもアンタの宿命よ」
『そんな宿命、犬にでも喰わせてほしいぜ』
「ず、ずいぶんな言い様だね」
『お互い様だ』
すると彼女は、突き放すようにそう答えた。
その際に酷い言い草をされたので、僕はほんの少しだけ凹む。しかしながら、ベルが決めたことなら逆らいようがなかった。
ここは腹を括るしかない、かもしれない。
僕はそう考えて、一つため息をついてから改めてアヴィロスを見た。
「はぁ……それで、ベル? 僕はこいつで、どうすればいいのさ」
そして、師に当たる少女へそう訊ねる。
すると彼女は髪を弄りながら、微かに笑ってこう言うのだった。
「そうね。それじゃ、さっさと始めましょうか」
「……え?」
直後、ベルの背後から『巨大なハエ』が出現。
昨日のドラゴン並みのそいつは、赤い複眼でこちらを見下ろしてきた。
「手始めに、こいつ倒してみて?」
そして相も変わらず、軽い調子でそう言う少女。
僕はしばしの沈黙の後に――。
「ス、スパルタだあああああああああああああああああ!?」
悲鳴に近い声で、そう叫ぶのだった。
あ、稽古パートはカットします←こら
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!