5.不確定要素だらけの探索。
「アシュト、今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ!」
「しかし、残念だったね。昨日いた彼女は、体調不良かい?」
「あー……飲み過ぎたとか、なんとか?」
――翌日、ルキウスと合流してダンジョンへ向かう。
だけど、そこにベルの姿はなかった。
今朝のこと。
少女はやけにスッキリした表情、真っすぐとした視線で言ったのだ。
『あー、頭痛いわー、飲み過ぎたわー』
『どう見ても普通だし、棒読みですが』
『頭痛いわー、割れてしまいそうだわー』
『………………』
そんなわけで本日、ベルは欠席。
アヴィロスは持ってきたけど、先ほどから一言も口にしない。ただルキウスとの合流前に、このような助言だけはしてくれた。
『あのルキウス、って魔法使いは何か隠してるぜ』――と。
しかし『何か』と言われても、それだけではどうしようもない。
そんな感じで、僕は改めてルキウスを観察したが――。
「どうしたんだい、アシュト?」
「あ、いや……なんでもないよ」
彼はきょとんとした表情を浮かべて、こちらを見返すのだった。
その口調やら何やらに、おかしなところはない。少なくとも僕にはそう映るのだが、彼女たちはいったいどのような違和感を抱いたのか。
しばし考えるが、答えは結局のところ出てこなかった。
「それじゃあ、行こうか!」
「……うん、そうだね」
とはいえ、ダンジョンに入れば命がけの戦いだ。
こんな雑念は払っていかなければ、大惨事となってしまう。僕は一つ深呼吸をしてから、ルキウスに頷き返して一歩を踏み出したのだった。
◆
「……あの魔法使い、嫌な匂いがした」
一方その頃、宿に残ったベル。
彼女はベッドに腰かけて、難しい表情を浮かべていた。
考えているのは言わずもがな昨夜、唐突に姿を現した魔法使いの青年について。嫌な匂いと少女は表現したが、おそらくそれは悪魔としての勘、というものだろう。
「相手がアシュトだけなら、下手なことはしてこないはず。アヴィロスはさすがに、この状況で口を挟むほど馬鹿じゃない。だったら、あとは――」
思考を巡らせて、それを口に出して確認する。
そして一つ息をついてから、
「アシュトの身に危険があったら、すぐに行動できるようにしないとね」
窓際に立って、静かに目を細めるのだった。
彼女の抱いている『嫌な予感』というものが、いかように形になるのか。
何一つとして、間違いないといえるものは存在していない。
ベルという圧倒的戦力を欠いた中。
不確定要素の多いダンジョン探索が、始まろうとしていた。
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