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「真実の愛は不滅だ!」と言われて婚約破棄されたので、愛し合う二人を「○○しないと出られない部屋」に閉じ込めてみた。

「イザベラ、婚約破棄しよう。僕とセシリーの愛は不滅なんだ! 僕は親に決められた形だけの婚約でなく、真実の愛を……セシリーを選ぶ!」


 舞踏会を明日に控えた日の朝。子爵家次男――クラウス・ベルハイトに会いに行った。私の婚約者だった男は先の発言をして侍女の肩を抱いた。

「真実の愛」の相手はベルハイト家で働いている侍女のセシリア。

 セシリアは、クラウスの母君の侍女だ。


 彼らは言い切った。「この愛は永遠だ」と。

 クラウスの言うとおり、親が決めたから仕方なく婚約していただけなので別に婚約破棄になっても傷心することはない。私にとっては誰が結婚相手でも一緒。

 なので私は素直に婚約解消を受け入れましょう。でも、その前に。


 ――見せてもらいましょうか。真実の愛の強度とやらを!!


✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼



「ここはどこだ……?」


 クラウスとセシリアは、何もない白い部屋で目を覚ました。

 唯一ある小さな扉には魔法陣が浮かび、そこにはこう書いてある。


『〇〇しないと出られない部屋』


 〇〇部分はモヤがかかっていて読めないようになっている。


「何だこれは!」


 クラウスが動揺するのをよそに私は魔法で部屋の中に呼びかける。


「ようこそ、愛の強度テスト部屋 へ!」


「この声は、イザベラ!?」


「はい。私ですよ。クラウス様。その部屋は私が魔法で作り上げた部屋です。条件を満たさないと扉は開きません」


 私は紅茶を啜りながら、水晶玉で二人の様子を監視する。


「貴方たちは真実の愛で結ばれているのでしょう? 私、真実の愛という形のないものを見てみたいのです。結婚が決まっている相手がいても選びたい愛というものを理解できないのです。この試練を突破して、私に愛というものを教えてくださいませ」


 クラウスはセシリアの手を握り、力強く頷く。


「もちろんだ! 愛はどんな障害も乗り越える! こんな試練とも言えない安い試練を突破するのに三分もいらないさ!」

「では、どうぞ。〇〇を解明して、ご自由にお帰りください」


クラウスとセシリアは顔を見合わせる。


「愛をはかる試練なら……キスか?」


「そうですね、クラウス様。わたしたちの愛の証だもの」


 二人は抱き合って堂々とキスをする。が――


 扉は閉ざされたまま、何も起こらない。


「違うのか」


「じゃあ……愛を誓う?」


「セシリー、愛してる!」


「わたしも愛しております、クラウス様!」


 ――二人の声が部屋の中に反響するだけ。やはり何も起こらない。


「これも違うのか。セリフが違う? それともキスをするのは唇ではないということか?」

「一つずつ試しましょう!」


✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼



 その後も、クラウスとセシリアは試行錯誤を重ねた。


 セリフの内容を変えてみたり、手をつないだり、ダンスしてみたり、歌ってみたり、部屋の中をぐるぐる走ってみたり。

 どれもこれも外れ。


 いつ出てくるのか、待つこと三時間。お茶のおかわり四杯目。冒険活劇を一冊読み終わった。

 真実の愛があるなら即答えを見つけて出てくると思っていたのに、全然答えにかすりもしない。退屈ね。

 


 魔法部屋の中の二人はだんだんもよおしてきたようで、内股になってもじもじしている。

 ついにクラウスが叫んだ。


「イザベラ! 君は、僕が婚約破棄したことを根に持ってこういうことをしているんだな!? 意地の悪い女だ。婚約破棄して正解だった!」

「根に持つも何も、無、です。貴方が誰と結婚しようが私はなんとも思いませんもの」

「それは僕に失礼じゃないか!?」

「侍女と恋仲になった貴方がそれを仰いますか」


 愛し合っているのなら私と婚約せず、最初からセシリアと婚約していれば良かったのに。侍女ということは一応どこかの貴族の娘でしょうし。

 漏らす寸前なのか、セシリアの方はずっと前かがみになってプルプルしている。


「仕方ありませんわね」


 私はため息をつく。


「正解は――お互い現在進行系で付き合っている人数を打ち明けることですわ。ちなみに嘘をつくと一生開かないですよ」

「な、なんだと?」

「さあ、どうぞ」


 クラウスは胸を張って答えた。


「僕にはセシリアただ一人しかいない!」


 セシリアは青ざめ、視線を彷徨さまよわせる。相手がクラウスだけならこんな顔はしない。

 半泣きになりながら叫んだ。


「七人よ!!!!!」

「は?????????」


 クラウスが硬直した。

 魔法陣が消え、ガチャリと音を立てて扉が開く。



 私はお茶を吹き出しそうになった。


「えっ、おかしくないか? 扉が開いたってことは、七股は真実なのか!?」


 クラウスの顔が青ざめる。


「僕だけを愛しているんじゃないのか!?」


「……顔とか、稼ぎとか、色々と、比較すると、その」


「何なの、その品評会で果物を選ぶみたいな扱い!?」


「だ、だって! みんなお金持ちだしイケメンだし素敵な人たちで、一人に絞れなくて……!」


 クラウスはがっくりと膝をついた。

 部屋から出たあと、セシリアは逃げるようにベルハイト家の侍女を辞めた。


 永遠の愛を教えてやると豪語していたのに。永遠の愛は三時間で終わるのね。永遠って本当に何なのかしら。


「い、イザベラ。やっぱり僕たちの婚約破棄はなかったことに…………」

「なりません」


 クラウス有責でそのまま婚約破棄して、私は父上の部下である騎士様と結婚した。

 これまで付き合った人数はゼロの、真面目で優しい男性だ。

 私も夫ただ一人だけを大事にする。一途って大切だもの。ね。

 



 END



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― 新着の感想 ―
 楽しく読ませていただきました。面白かったです。  いや、情けない。真実の愛と言うならありのままを受け止めれば良いのに。  王子も七股を受け入れればいいし、七股も、心は貴方だけよ、後は趣味よ、とか…
品評会で~の台詞に笑った。無駄に語彙力はあるのに元サヤに戻ろうとするのが考え甘い。ボケなのかツッコミなのかはっきりしろ。 7股かけてバレない侍女は結婚急がずに若い内は酒場か娼館で働いて貢がせた方が稼げ…
確かに「真実の愛」とやらを豪語して家同士の契約である政略結婚の婚約を当人都合で破棄しようというのでしたら、それ相応の心意気や覚悟を示さないと筋が通りませんからね。 しかし、クラウスさんにとっては「真実…
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