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7話

「風呂があるのですね」

 ファーナスは男の子に家を紹介している。奇麗好きであった母がごねて設置したのだ。鍛冶屋であるので温めるのには困らない。


「そう、珍しいでしょ」

 ファーナスは胸を張って言う。

「ええ、久しぶりに見ました」

 久しぶり、という言葉によりファーナスは胸をひっこめた。



「入る?」

 ファーナスはぶっきらぼうに尋ねる。

「いえ、傷口が開いてしまうので」

「だよね」


 ファーナスは物置となっている部屋に案内した。

「ちょっと散らかってるけど、ここでもいいかな?」

「ええ、わざわざすみません」



 ファーナスは散乱する細々としたものを端に寄せていく。

「この部屋って、どなたか住んでいらしたんですか?」

 男の子は部屋全体を見渡した。

「そう、お母さんの部屋だったの」

「だった?」

 ファーナスは一枚の絵を渡す。そこには若い夫婦と赤ん坊が描かれていた。

「ご家族ですか?」

 ファーナスは頷いた。



「女性には珍しく、探検家だったの。でも私が5歳くらいの時__」

 ファーナスはそこで言葉を止めた。

「申し訳ない、失礼を」

「いいのよ」

 母のことはもう切り替えている。記憶はおぼろげだが、愛情はたくさんもらっていたように思う。だからこそ、彼にこの部屋を貸せたのだ。



「ねえ、君の名前は?」

 家に泊めておいて、名前すら把握していないことに気づき尋ねる。

「ヘルトです」

「そう、私はファーナス。ファーナス・ブラスト。知っての通り女で鍛冶屋よ。よろしくね」

 ファーナスは右手を差し出した。彼も同じように握り返すと思ったが、ヘルトは手の先を優しく握り、片膝をついて手の甲に口づけをした。

「ひやぁっ。ちょっと何するのよ」


 ファーナスはヘルトの手を叩く。そして口づけされたところをさする。

「し、失礼しました。申し訳ありません」

 ヘルトは驚き、すぐさま謝罪した。その表情を見て、ファーナスは彼が変な気を起こしたわけではないと知った。

「ごめんね。初めてされたから」




 気まずい雰囲気を引きずったまま、ファーナスらは食卓を囲んだ。

「おいしいです」

 ヘルトは黙々とパンとシチューを口に運んでいた。よほど空腹だったらしい。



「あなた、ちゃんとご飯食べてるの?」

 ファーナスがそれを見て尋ねる。

「一日ぶりくらいです」

 それを聞いてあきれる。探検者としての意識が低すぎる。



「もう、ちゃんとしてよね。怪我の面倒を見てご飯まで用意してるんだから」

 ファーナスは少し意地悪に言った。どういう返しをするか気になったためだ。

「はい、何から何まで申し訳ありません。必ずお返ししますので」



 またそれか。この男の子は何から何まで損得勘定が働いている。店の収入と支出を計算している時の自分のようだ。

「そういうのいいから。早く怪我を治して」

 ファーナスはパンを大きくちぎって口の中に入れ、スプーンで彼を指しながら言った。

「はい」

 ファーナスの辛辣な態度に、ヘルトはしゅんとしてしまった。



「ふ」

 横にいる父の笑い声が聞こえる。

「何が面白いのよ」

 ファーナスはむすっとして言う。



「いやあ、うちの娘はウェスタリア家の人間をも圧倒するのだと思ってな」

 ヘルトは驚き、むせ返った。

「はあ、なにそれ」

 ファーナスは父の発言を理解できなかった。


「なぜ、それを」

 ヘルトは口元をナプキンで拭き、尋ねた。

「やはりそうか。なに、かまをかけただけだ。話し方や振る舞いが貴族のそれだったからな」

 ヘルトと父はお互いをじっと見つめている。



「ねえ、ウェスタリア家って?」

 話に置いてけぼりのファーナスが尋ねる。ヘルトは父から目線を外し俯いた。ファーナスの質問に答えたのは父だった。

「そうか、お前が生まれた時にはもうダンジョンがあったかなら。知らなくても当然だ。いいか?」

 父はヘルトに説明の許可を求める。彼は頷いた。




「ウェスタリア家はこの国がダンジョンを発見する前に活躍した大貴族だ」


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