表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

6話

 死にたがりの探検者。どうせモンスター相手に逃げ出すと思っていたその男の子。その男の子は包帯を頭に巻き、腕は固定されていた。



「どうも」

 相変わらず愛想がない。しかしファーナスは満身創痍の彼を見て一目散に駆け寄った。

「どうしたのその怪我?」

「油断してしまいました。装備、直して頂けますか?」



 彼は折れていない方の手で装備を引きずりながら持ってきた。ファーナスはそれらを確認する。ひどい損傷だ。大きな衝撃をまともに食らったのだろう。鎧はひび割れている。

「いったいどんな攻撃を受けたの?」



「大きな、金色の猿のような生き物に岩を投げられました」

「え?」

 ファーナスは驚き、止まってしまった。



「そんな奥まで行ったの?この装備で?」

 ファーナスは改めて確認した。

「はい、そうです」


 ダンジョンは大きく3層に分けられる。



 危険が少なく日帰りが可能な層、アラウンド。

 大体2、3日をかける必要がある危険な層、ディープ。

 そして挑戦した探検者を悉く打ち砕く最も危険な層、ドリーム。


 当然危険な層に行くほど得られる成果も増える。



 彼が遭遇したモンスター、おそらく金剛猿(ゴールデン・ゴリラ)はディープの中でもそれなりに危険な部類に入る。つまり彼は一日でディープまで進み、負傷して戻ってきたわけだ。

「馬鹿じゃないの!?初心者でしょ!その装備はアラウンド用よ!生きてるだけで奇跡よ」

 ファーナスはまた殴りたいと思ったが、彼の包帯に巻かれた顔を見てその気が失せた。


「パーティーメンバーは?」

「僕一人です」



「はあー」

 ファーナスは怒る気が失せ、呆れていた。基本的にダンジョンは複数人で回るものだ。アラウンドならともかく、ディープではそれなりに経験を積んだ冒険者が3~4人で徒党を組むのが普通だ。初心者が一人でそこに行くなどまさに自殺行為だ。



「ツァーリさんは?どうしたのよ」

 装備を買ってもらっていたのだ。てっきり彼女のパーティーに参加するものだと思っていた。



「施しを与えてくださった相手に、これ以上お世話になるわけにはいきません」

「施し?」

 ファーナスは自分の耳を疑い、聞き返した。

「ええ、初心者の僕を見て彼女は施しをして下さったのでしょう?これ以上、僕は誰かに借りを作りたくない」



「なんで、ツァーリさんとうちに来たの?」

 聞いたところ、ツァーリさんとこの男の子には親交があるわけではなさそうだ。

「僕がダンジョンに入ろうとしたところ、彼女が『ダンジョンに入る時には装備くらい買いなさい』とおっしゃり、僕を連れてきたためです」

「それが何で施しなのよ?」


 ファーナスは詰め寄った。

「無関係な人間の僕にわざわざ自身のお金で装備を買った。これが慈悲から来る施しでなくて何でしょう」

「施しですって!ふざけないでよ!ツァーリさんは旦那さんをダンジョンで亡くしているの!あの人はダンジョンで人が死んでいくのが嫌なのよ」

 ファーナスは激昂し怒鳴りつけた。



「他人の考えなど僕には分かりません」

 彼は懐からお金を取り出し、ファーナスに渡した。

「なによ。これ」



「この装備の料金と修理代です。料金の方はツァーリさんに渡してください」

「はあ、修理は承りますが__」



 この男、この前は一文無しだっただろうに。

「まさか、ツァーリさんにお金を返すためにディープまで行ったの?」

 ファーナスはまさかと思い尋ねた。ディープの素材なら初心者用防具の費用くらいはすぐに稼げる。

「ええ、僕は誰かに借りを作るのは嫌なのです。そんなことをしている余裕はない。うっ」

 男は頭を押さえてうずくまった。ファーナスは彼に駆け寄った。



「だ、大丈夫?」

 彼の包帯の赤の範囲が増していることに気づいた。

「血が出てる__。病院には行ったんでしょ?」

「いえ、猿から逃げる際素材のほとんどを落としてしまいまして」



「え、行ってないの?」

 彼は自身の怪我よりもツァーリさんへの借金を返すことを優先した。彼女は返さなくていいと言っていたのに__。いったい何が彼をそこまで動かすんだ。



「父さん!」

 ファーナスは大声で父を呼んだ。

「どうした」

 父は二階から駆け下りてきた。

「医者を呼んできて!」

「わかった」



 父は状況を理解し、外へ飛び出していった。ファーナスは店の奥から救急箱を取り出す。

「包帯、外すから」

 男の子のうめき声を聞きながら包帯を外していく。ひどい__。消毒も何もしていない傷口が現れる。応急処置とは名ばかりで、ただ包帯を巻いただけだ。



 ファーナスは消毒液を雑にかけ、傷口に付着する砂などを取り除いた。


 数分後、医者がやってきて、応急処置を施した。幸い、脳への損傷は見られなかったようで。疲労と出血、そしてアドレナリンが切れたことが原因らしい。しかし経緯を見るため2,3日は安静にする必要があるそうだ。


「あんた、家は?」

 ファーナスは男に尋ねる。

「帰る場所なんてありません」



「嘘つきなさい、家族とかいるんでしょ?」

「僕に家族などいない!」


 彼は大声を上げた。ファーナスはたじろいでしまった。それを見た父が告げる。

「うちに泊まっていけ」

「父さん!」


 ファーナスは反対した。自分たちは面倒を見るほど暇ではないし、なにせファーナスはこの男が苦手だった。

「困ったときはお互い様だ」

 父はそれだけ言い、二階へ戻っていった。



「はあ。来て。案内する」

「いや、しかし__」

「もう決まったの!早くして」

 私はいらだって言う。


「はあ、申し訳ございません。出来るだけ早く清算させていただきます」

「そういうの、やめて」

 こういう所が嫌いだ。優しさを借金か何かだと考えている。




 ファーナスは大きくため息をついた。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
誤字報告? 「無関係な人間の僕にわざわざ自身のおかげで装備を買った。これが慈悲から来る施しでなくて何でしょう」 おかげ → お金 でしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ