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5話

 その後、ファーナスは父に頭を冷やせと言われ、街を散歩した。活気に満ちている街では至る所にダンジョン関係の店が並んでいる。鍛冶屋、素材を買い取る小商人、ダンジョンに挑む者への保険業の店までもが乱立している。

 保険屋の前を通る際、ファーナスは顔をしかめた。怪我や死亡を前提としている商売であり命を守る防具を作るファーナスの精神と相容れない。



 ファーナスは先ほどの男の子を想起した。死んでもいい、そう彼は言っていた。彼は保険に入っていたのだろうか。入っていたとして、彼の親族はその保険金に喜ぶのだろうか。嫌な考えを流すべく、ファーナスは川のほとりに腰かけた。



「どうした?怖い顔してるぜ?」

 ファーナスの背後から声を掛けたのは、彼女の幼馴染で同じく鍛冶屋のシュトルツ・グロワールだった。彼も親の跡を継がんと腕を磨いている。

「シュトルツ!久しぶりじゃん。お店は?」

「今日は休み。素材切らしちゃってさ」

 シュトルツはファーナスの隣に腰かけた。



「それで、何かあった?」

 幼馴染というありがたい関係はこういう時に隠し事が出来ない。ファーナスは話すべきか迷った。自分の装備を買ってくれた人を悪く言いたくはなかった。ファーナスは横を見た。いつの間にか彼は鍛冶屋らしい腕になってきた。すこし心臓の鼓動が速くなる一方で、彼がファーナスと同じように鍛冶屋として、まさしく鍛錬を重ねていることを思い出した。彼なら大丈夫。ファーナスは話した。



「死にたがりの探検者か」

「ほんっと、あり得ないと思う」

 ファーナスは溜まった熱を吐き出すように、大きく息を吐いた。



「でもさ、俺たちは作るだけでダンジョンには潜らない。俺たちに探検者について言う資格なんてないんじゃないか」

 シュトルツは職人としての意見を述べた。

「分かってるよ。でも私の装備を付けて死なれるのは嫌だ。初心者用だとしても手を抜かずに作ったんだもん」

 どれだけいい装備を作ったとしても、使用者の腕がなければあっさり死んでしまう。ちゃんと使おうとしない探検者には、装備を作るだけ無駄だ。



「ファーナスはすごいなあ」

 シュトルツは感心して言う。

「なんで?」

「俺は使う人のことなんて考えない。ただ最高のものを作ってあとはお任せ。使いこなせなれば、その人のせい。俺に責任なんてない」

「シュトルツは武器が得意だからでしょ」

「そうかもしれない」



 シュトルツは遠くを見ていた。彼の工房は美しく高性能な武器を作る、稀代の天才職人としてもてはやされている。その制作物には有名探検者が高値をつけて買っていく。ファーナスの地味で効率化された防具とは何もかもが正反対だ。

 人に合わせて作るファーナス。最高のものを作る代わりに使用者を選ぶシュトルツ。



「とりあえず、帰って何か作れよ」

 シュトルツはファーナスを見て言う。顔を見て、視線を下げる。シュトルツは川に目線を慌てて戻す。

「そうだね、ありがとう」

 ファーナスは笑顔で返した。そして幼馴染との会話を切り上げ、ファーナスは工房に戻り、蹄鉄を作る。鉄を叩くとき。装備をメンテナンスするとき。私は夢中になれる。職人あるあるかもしれないが、仕事で悩んでいる時はより仕事に集中することでそれを忘れるのだ。



「落ち着いたようだな」

「うん」

 父の方を見ずに返答し、その日はそのまま鉄を叩き続けた。



 翌日、店のドアが開く音がした。そこにはあの男の子がいた。包帯を頭に巻いて。



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