4話
「なにしてるんだろ、私」
ファーナスは我に返った。その装備は常連さんと同じ手法、手間がかけられている。もちろん、上級の探検者はダンジョンで得たレア素材を使うため質の違いは歴然だ。しかしつぎ込んだ技術は上級者のそれと全く遜色ない。
ファーナスは優秀な探検者のための鍛冶屋になりたいと思っている。あんな弱っちい男のためではなく。
「いい仕事だ」
いつの間にか父も一階に降りてきていた。
「ごめん、勝手に使って」
節約しろと言われている鉱石を使ってしまったことを謝罪した。
「いや、いい。これを渡すのか?」
ファーナスは首を振った。彼は初心者用防具を買ったわけで、新規装備を注文したわけではない。これは私が勝手に作ったものだ。
「分かんない」
「そうか」
会話はそれきりだった。
もやもやしたまま就業を迎えた。今日はあの男の子以外、お客さんが来店する予定はない。私は父と流れ作業のように蹄鉄を作っていた。ダンジョンのブームによって物資を運ぶ馬の需要が出てきたためだ。型に沿って金属を流し込む作業はファーナスにとって普段は退屈な作業だ。しかし今はそれが彼女にとって心地よかった。余計なことを考えずに済む。
午後になった。約束通り、あの男の子が来た。
「__どうも」
相変わらず馬鹿丁寧で覇気がなく、弱々しい話し方だった。
「調整、終わらせました」
初心者用防具を渡す。本来の注文はこっちなので調整はばっちりだ。
「ありがとうございます」
彼は頭を下げ、それを受け取った。
「ねえ」
私はほぼ無意識に話しかけた。
「なんで、お客さんは探検者になったの?」
男の子はぎょっとしてこちらを見た。数秒思考し彼は答えた。
「お金が必要だからです」
男の子はそういった。
「それは分かるけど、もっと仕事はいっぱいあるでしょ。教師だって農家だって。なんで命の危険を冒して探検者になろうと思ったの?」
見たところ、この男の子は教育されている。頭でも働けるだろう。
「なんででしょうね」
彼は俯いた。煮え切らない男の子の態度にファーナスは語感を強めて尋ねる。
「そんなんじゃあなた、死んじゃうよ?」
ファーナスは意地悪くそう言った。
「それならそれで、いいかもしれません__」
ファーナスは反射的に彼の頬を叩いていた。
「なめたこと言わないでよ!初心者のくせに!」
私は馬乗りになって飛びかかった。男の子は何も抵抗しない。それがまた腹が立った。
丁度その時ツァーリさんが店に入ってきた。
「ちょっとちょっと。どうしたの」
ツァーリさんと父が私を男の子から引きはがした。
「お前みたいなやつのために装備を作りたくない!さっさとそれ持って出てけ!!」
男の子は怯えた顔で逃げるように店を去った。
「ちょっと、どこ行くの」
ツァーリさんは男の子を追いかけて出て言った。
「お客さんに無礼を働くな」
父は窘めるようにファーナスに言う
「あんな奴、客じゃない」
ファーナスは怒りに震える声で返した
死んでもいいだって?どうせモンスターが出てきたら逃げ帰ってくる。あんな貧弱そうなやつが攻略できるほど、ダンジョンは甘くない。
「俺たちには探検者と対話する義務がある。探検者の生還の可能性を上げるのが俺たちの仕事だ。それを怠れば探検者は死ぬかもしれない。お前はそれでいいのか?」
父はそれだけ言い、蹄鉄づくりを再開した。
ファーナスは朝作った装備を見つめていた。