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3話

 その後、ファーナスは父と夕食を取っていた。

「そうか、ツァーリが来ていたか。顔を出さなかった」

「大丈夫でしょ、事情は知ってるし」

 父は注文された品を作ると、その後は二階の自信の部屋にいることがほとんどだ。

「次来たときは呼んでくれ」

「分かった」



 ファーナスは汁物をすする。そして父が休んでいる時に店に起きたことを思い出す。

「あと一緒に来た男の人が初心者用の装備を買っていった。今日私が作ったやつ」

「そうか、珍しいな、どんな奴だった」



「何も知らなそうなやつだった。調整しなくていいって」

 思い出すと腹が立ってくる。



「初心者ならそんなものだろう。それにもう、うちのような工房の方が珍しい」

 鍛冶屋は技術革新によって同じ型の品を大量に生産できるようになった。加えて、近年の探検者ブームによって鍛冶屋を始めとした探検者関連の業種に巨額の政府資金が投入された。探検者一人一人と対話して、その人に合わせた装備を作る職人は年々減っている。



「だとしても覚悟が足りないのよ。探検者なら道具にはこだわるべきでしょ。ここのお客さんはみんなしっかりしてる、メンテナンスなんか要らないくらいに皆手入れしてるじゃない」

 採寸することは別に気にしていない。しかし今日のあの男の子のように、自分が使う者にこだわりを持てないような探検者を許せない。ファーナスはむっとして答える。

「うちはベテランが多いからな」

「それは関係ない」

 私はぴしゃりと言い放った。ダンジョンは探検者を初心者か否かで区別しない。誰にでも等しく襲い掛かる。見知らぬ人も、大切な人も___。



「今日、モーブさんが装備を新調したいとおっしゃってた。私に作ってほしいって」

「どう答えた」

 父は食べる手を止め、こちらを見て尋ねた。



「いや、別に。考えておいてって。そう言われただけ」

「そうか」

 父は食事を再開した。

「私、やりたい」

「だめだ」

 ファーナスの意を決した発言は、即座に打ち消された。



「なんで!もうお父さんのやっていることは大体できるよ?お客さんの体格や癖だって全部覚えた。何が足りないの?」

 ファーナスは机を叩いて叫んだ。



「それは___」

 言いかけて、父が咳き込んだ。普段ならば気にせず待つが、この時ばかりはファーナスには耐えがたい。椅子の下で小刻みに踵を上下させる。

「すまない、お前にはまだ早い」



「どうして!」

 ファーナスは立ち上がる。

「この話はもう終わりだ」

 父は会話を断ち切った。ファーナスは諦め、椅子に座った。



「父さんだって、いつまでも仕事できるか分からないのに」

 私は呟いた。

「その時は、店をたたむさ」

 父は食べ終えてそう言った。



「とりあえず、お前は明日のお客さんの調整に集中しろ」

「はい」

 納得は出来ないが、ファーナスは引き下がった。



 私は食器を片付け、風呂に入る。

「お母さん」

 湯船に浸かりながら過去のことを思い出していた。顔もおぼろげな、私の母。私の夢を奪った人。



 彼女のことを思い出すと、怒りなのか悲しみなのか、形容しがたい衝動に駆られる。ファーナスは湯船から出て、体を拭き床についた。いつもより2時間も早く。


 睡眠時間はいつもと同じだ。だがあの衝動は消えない。ファーナスは下に降りて炉に火を入れる。そして昨日書いた採寸のメモを見る。そして節約しろと言われている鉄板を炉に入れる。そして待機する。


 出てきた鉄は柔らかい。ファーナスは無心になってそれを叩いていく。すると激情にも近い心が次第に落ち着いていく。何度も、何度もたたく___。





 意識が正常に戻ったとき、彼女の目の前には防具が一式出来上がっていた。あの細い体にぴったりな。


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