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2話

 外を見ると西日が通りを照らしていた。店じまいだ。ファーナスは使った道具を定位置に戻し、掃除を始める。鍛冶屋になると父に伝えた際、初めて教えられた仕事だ。細部まで丁寧に掃除をする。すると店の扉がガチャと開く音がした。



「こんなところに防具屋さんがあったんだ」

「そんな品ぞろえないね」

 入ってきたのは若い三人組のパーティーだ。男一人、女二人。いかにも最近の流行に乗った初心者といった印象を持った。



「いらっしゃいませ。ご自由にどうぞ」

 ファーナスは店の奥で掃除をしながらそれだけ言う。



「あっ、初心者用防具あったよ」

 女の一人が指をさす。先ほど作ったものだ。

「げっ、地味だし高え。なんでここのはこんな高いんだ?おい、他の店行こうぜ」

 男は悪態をつき、彼らは店を去っていった。



 いつものことだ。そもそもウチはオーダーメイド専門であり、国が言うから一応規格製品を置いているだけだ。装飾なんてしていない。スターターセットなら廉価な大量生産のものを買えばいい。

 ファーナスは心の中で舌打ちをし、掃除を続けた。




 一通りの業務を終え、店を閉じようとする。するとまた扉が開く音がした。

「ごめんね、閉店間際に」

 そう言ったのは常連のツァーリさんだった。

「いえ、お気になさらずに。そちらの方は?」

 ファーナスは一緒に来店した一人の男の子を見た。後輩だろうか。

「この子は今日初めて会ったの。初心者さんね」



「__どうも」

 男の子が少し不愛想に挨拶をした。それにしても、ちゃんと食ってんのか?そう思うくらいに細い。女の私でもぼこぼこにできそうだ。ファーナスは彼への視線を常連のお客さんに戻した。

「メンテナンスですか?それとも新規に何かご注文ですか。」

 ファーナスはツァーリさんに尋ねた。



「ううん、今日は私のじゃなくてこの子の。初心者用防具って、ブラスト工房でも売ってたわよね?」

「はい、先ほどちょうど一つ作りました」



「じゃあ、それ一つで」

「えっ、うちのは高いですよ」

 ファーナスはつい確認を取ってしまった。この店でわざわざ初心者用防具を買いに来る人など皆無であるためだ。



「うん、ここのがいいな」

 ツァーリさんは笑顔でそう言った。

「はい、では」

 ファーナスは初心者用の防具をせっせと持ってきた。



「とりあえず着けてみてください」

「あっ、はい、失礼します」

 男の子は言われるがまま、鎧を身に付けた。もたもたしているので、ファーナスは手伝った。細いが標準体型なのでサイズは問題なさそうだ。



「軽い」

 男の子はぼそっとそう言った。

「ここのはみんな軽くて動きやすいのよ」

 ツァーリさんは得意げに話す。その姿を見て、ファーナスは気合を入れなおした。



「あとで調整しますので、気になるところがあればおっしゃって下さい」

 男の子に尋ねる。

「えっ、調整するんですか?」



「はい、もちろん」

 大量生産品はしないのかもしれないが、うちでは欠かさない。

「いえ、特には__。ばっちりです」



「そんなことないでしょう」

 彼の身体の線は細い。籠手なんかはぶかぶかだ。



「えっ、大丈夫ですよこれで」

「大丈夫なことないですよ、手を真っすぐにして下に向けてください」

 ファーナスがそう言うと、男の子は素直に従った。すると籠手が彼の腕からするりと滑り落ちていく。



「ほら、大きい」

「ごめんなさい」

 彼は謝った。ファーナスは息を吐いた。自分のものだぞ?ちゃんと向き合いなよ。そう言いたくなる気持ちを抑える。



「はあ、分かりました。私が採寸しますので、いったん装備を外して両手を広げてください」

 らちが明かない。ファーナスは自分で採寸を行うことにした。

「はあ」

 男の子は一旦装備をすべて外し手を広げる。ファーナスは手の長さを計ったり、骨格や肉付きを触って確かめる。そしてそれを逐一メモしていく。

 男の子は確かに細いが、筋肉はあった。栄養が不足しているわけではなさそうだ。



「最後に__」

 私は彼の股間に手を伸ばし、そこについているモノを握る。男の子はきゅっと小さく飛び跳ねた。



「左寄り、と」

 これで採寸のチェック項目は大体済んだ。



「な、なにするんですか。」

 男の子は股間を隠して、後ずさった。

「すいませんね。これも仕事なので。」

 ファーナスは淡々とあしらう。

「では、採寸は以上です。幸いあなたの体型と国が示す規格はかなりの部分で合致しておりますので、あとは細かい修正を加えるだけで大丈夫そうです」



「はあ、ありがとうございます」

 男の子は小さく会釈をした。



「ありがと、料金は私が払うわ」

「すみません、後日必ずお支払いします」


「いいのよ、これはプレゼント。あ、ファーナスさん、調整はどれくらいかかりそうかしら」



「明日の午後にはお渡しできるかと」

「そう、じゃあ明日はこの子が受け取るから。よろしくね」

 そう言うとツァーリさんは料金を置いて出て行ってしまった。



「ちっ、もう。お騒がせしました。また明日取りに参りますので、よろしくお願いします」


 男の子はそそくさと店を出ようとする。

「あのっ、お客様___」

呼び止めの声は届かず、彼は出て行ってしまった。



 ファーナスは名前も知らない男の子の背中を見送った。


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>私は彼の…そこについている…を握る。 この描写に拒否感を覚える女性読者は多いと思います。女性向けのラノベでこのリアリティにこだわるかどうか、作者の判断次第ですが…。読者を選ぶ表現だと思います。ここ…
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