19話
「店番頼む」
父は今日も職人ギルドの集会へと出かける。
「では僕も」
「あれ、ランニング?早いね」
「いや、今日は別です」
ヘルトは歯切れ悪く答える
「なによあんた。はっきりしないわね」
ファーナスは腕を組んで問い詰める。
「パーティーメンバー探しです」
ヘルトの怪我はほとんど回復したと言っていい。
「ああ、そういうこと。なんで言わないのよ」
「いや、誰も見つからなかったら恥ずかしいので」
言うと、ファーナスが笑う。
「あんたダンジョンの最深部目指すんでしょうが。堂々としなさいよ」
そう言いつつ、ファーナスはヘルトに作った装備を持ってくる。
「これ、着けていきなさい」
ファーナスは装備を手渡す。
「いえ、ダンジョンに入るわけでは__」
「見た目って大事なのよ。仲間集めでもいい装備を付けていればそれ相応の人間が寄ってくる。あなたも貴族なら分かるでしょ?」
「ええ__とても」
ヘルトは装備を受け取り、身に付ける。
「いいじゃない、武器は初心者用だけど、防具は一流。さすが私ね」
ファーナスはいつでもダンジョンに入れそうなヘルトを見て言う。ヘルトはスーッと息を吸う。
「なんだか勇気が湧いてきました。じゃあ行ってきます。」
そう言ってヘルトは探検者が集まる集会所へと向かていった。
ファーナスは一人で店番をする。以前は当たり前だったこの時間にファーナスは落ち着かなさを覚えた。何か作業をしている時にはその感情は抑えられていた。しかしファーナスは何度も時計を見る。お客さんが店のドアを開けると少し期待してしまう自分がいることに気づき、ファーナスは首を振る。
いやいや、あいつがちゃんとパーティーメンバーを見つけられているか心配なだけだ、ファーナスはそう自分に言い聞かせ作業を続ける。
店の扉が開く、例のごとくヘルトの帰宅ではないかと期待するファーナスだったが、そこにいたのは見知らぬ男性だった。どこかであったような___。
「いらっしゃいませ」
確信が持てないファーナスは新規のお客さんだと思い、彼に近づく。しかし、ファーナスははその男を見て言葉を止める。
男は初心者用防具を一つ一つじっくりと見ている。自分の身体に合うかどうか、価格はいくらかといった探検者の目線ではない、別の視点から展示される装備を見ている。
ファーナスは確信した。この男は同業者__つまり鍛冶屋だ。
「これはあなたの父が?」
男は尋ねた。
「いえ、私が作りました」
言うと、男はもう一度装備を中腰になってじっと見る。
「規格より__薄く作っているね?」
男は尋ねた。
「はい、鉄の硬度を高めることでより硬く、わずかですが軽く仕上げております」
この男に嘘は通じなさそうだ。ファーナスは端的に述べた。
「ふむ。なぜ手間をかけてわざわざこのようなことを?」
男は質問を繰り返す。
「使用者の生存の確立を少しでも上げるためです」
ファーナスは力強く答えた。男は立ち上がりファーナスの方を向いた。
「装備を作る時に何を考える?」
「使用者に合わせることです。当店はオーダーメイドですので」
男は顎に手を付く。
「作っている最中には何を考える?」
「作っている時は__特に何も」
最近はヘルトがちらつくが、最も集中が必要な時には前と同様、感情は凪となる。
「そうか、ありがとう。時間を使わせてしまった」
それだけ言って、男は立ち去ろうとする。
「待ってください。あなたも鍛冶屋ですよね。お名前を伺っても?」
ファーナスが初心者用防具に凝らしたこだわりを彼は見抜いた。かなりの熟練工のはずだ。
「またいずれ会うことになる」
そう言って彼は立ち去ってしまった。